チェック
難産でした。
どうにもしっくり来ずに何度も書き直す羽目に。
「さて、チェックだ。チェックメイトにはまだ早いがね」
星と半同化したまま、全ての黒幕は独り囁く。
空の彼方より飛来した〝なにか〟。
今はまだ何者でも無い、単なるエネルギーの塊でしかないそれが、惑星ノエリアの全域へと降り注ぐ。
それに、誰もが強い警戒心を抱かない。
当然だ。
現状において、それの自我は希薄極まりない。
何らかの意思に突き動かされていると言うよりも、もはや現象に近い存在である。
だから、精霊たちが張り巡らせている警戒網を、いとも容易く突破して地上へと届いてしまう。
終わりの始まり。
ここからの巻き返しは、不可能とは言うまい。強い痛みを覚悟するならば、原始惑星にまで戻す覚悟があるならば、まだまだ命運は尽きていないと言える。
「尤も、貴様がいなくばどうにもならんだろうがね」
星核の中で、穏やかに眠ったままの星霊へと言葉を残した。
~~~~~~~~~~
それの影響を最初に受けたのは、奇しくも世界の調律者である精霊種であった。
彼女たちの自我の強さは、保有するエネルギー――魔力量にほぼ比例する。
始原星霊や始祖精霊であれば、何万年、何億年という時間さえも耐えきれる強い精神性を持つが、一方で下位精霊ともなると、数十年という一般的な生物が持つ時間にも耐えきれない精神性しか持たない。
そんな希薄な心が、剥き出しの精神生命体である精霊が、天上より降り注ぐ〝意思〟に無警戒に晒されようものならば、容易く汚染されてしまうのは、避けようのない運命と言えるだろう。
~~~~~~~~~~
【――――ぬ?】
詰まらなさそうに暴れ回る魔物たちを潰しているその最中、アインスは何かを感じ取ったように空を見上げた。
何か、何かがやって来た。
それは、単なる勘でしかない。
だが、何か良くない物がやって来たと直感する。
しかし、そこまでだった。
今のそれには、明確な実体が無い。
干渉できる範囲は非常に限定的であり、当然、アインスに直接的な被害を与える事も出来ない。
故に、存在を感じ取りながらも、彼は正体の看破にまでは至らず、つまり効果的な対処をする事も出来なかった。
【――――何が……】
警戒心を強める。
何が起こっても叩き潰せるように。
しかし、次に起こった事は、彼にとっても全くの予想外な出来事だった。
魔物どもが急激に活性化した。
それはどうでもいい。
一が二になった程度では、彼にとっては違いが分かる程ではない。
それ以上の変事が同時に起こる。
アインスの周囲にいた精霊たちの一部が、彼のみならず、同族の精霊たちにまで襲い掛かったのだ。
『なっ、どうしたのだ!!?』
統率していた上位精霊が取り乱す。
しかし、返ってくる意思は、狂化した叫びだけだ。
聞いているだけで正気が失われていくような、そんな精神を揺さぶる悲鳴。
第一波の影響を逃れようとも、同族を通してもたらされる精神波は、数多の精霊たちへと急速に感染していく。
『くっ……!』
暴れ回る同胞は、殺してでも止めねばならない、筈だ。
だが、そうと分かっていても、突然、家族を無慈悲に殺し尽くせる者がどれ程にいるだろうか。
少なくとも、この場にいる精霊たちの中に、その様な者は一柱たりともいなかった。
だから、アインスが泥を引き受ける。
亜光速で振り下ろされた剛腕が、衝撃波込みで精霊を叩き潰す。
『っ……』
上位精霊が、潰されて死んだ同胞の姿に息を呑む。
それを無視して、アインスは嘯く。
【――――成る程。どうやら、悠長にしている猶予が無くなってきたらしいな】
原因は分からない。
だが、何が起きているのかは分かる。
これが1ヶ所だけの事ではない事を、彼は知覚を伸ばして感じ取る。
世界中で、魔物が、生物が、なによりも精霊が、狂い暴れ、死に始めていた。
【――――ノアめ。いい加減に起きてこぬか】
繊細な作業は向かない。
アインスに限らず、天竜種は皆が大雑把な破壊力の化身である。
だから、正常な者と狂った者を切り分けて、後者のみを滅ぼすという事は出来ない。
全てを破壊するか、全てを無視するか、その二択だけなのだ。
今の一撃にしても、少なからず狂化していない精霊を巻き込んで潰している事からも、それが分かるだろう。
そういう繊細な作業は、始祖や始原の役目である。
そして、この段に至っては、厄災が全世界規模となった今、始祖精霊だけでは処理が追い付かない可能性が高い。
始原の、星霊ノエリアの力が必要だ。
【――――奴はどうなっている】
『……はっ、始祖の方々が起こしに向かっていると』
【――――面倒な。あれなど殴り倒してしまえば良いものを】
どうせ、本気でぶん殴っても死にはしないのだ。
最古の相棒であるアインスだからこそ、星霊への敬意や容赦を持たない。
気安く、同格として、いつまでも寝惚けている阿呆を張り倒せる。
【――――よかろう。我輩が行こう】
彼は、翼を広げて飛び立つ。
向かう先は星核。
危機が迫っているというのに、寝こけたままの馬鹿を殴り起こす為に。
【――――暫し、場を持たせておけ】
言葉を残し、星の息吹が吹き出す場所――火山口へと飛ぶのだった。
~~~~~~~~~~
影響は、別の場所においても、小さく、しかし確実に及んでいた。
完膚なきまでに負けて、しかし再起を誓ったギリムたちは、人間国から脱して次なる場所へと向かっていた。
力が、守る為に、維持する為に、我を通す為に、何よりも力が必要だ。
それを、仲間の死という形で突き付けられた彼らは、消沈しつつも立ち上がろうとしている。
そんな一行に、狂暴化した魔物が襲い掛かった。
中には、魔物ではない知的生物や、信じられない事に精霊すら混じっていた。
困惑はあれど、しかし襲い掛かられては仕方ない。
自らを、そして仲間を守る為に、ギリムたちは一団を殲滅する。
その時、今までに無い程にギリムの力が強化された。
「こ、これは……」
今までも簒奪の力で自身を強くしてきたが、しかし今回はこれまでに無い程の強化率を誇っていた。
まるで、全ての力が統合されたかのような、そんな感覚である。
『マスター、それが貴方様の力です』
戸惑うギリムの背を、そっと仕込まれた悪意が押す。
機械人形のアルファは、自身の中に元々からあった知識を彼に語った。
『邪神様より授かった力は、世界を救う最終装置なのです』
「……邪神、だぞ?」
『Yes。しかし、破壊と再生は表裏一体。破壊の側面の強い邪神は、それ故に封印されただけであり、決して邪悪故ではありません』
そういう設定だ。
真実からは程遠い。
だが、そうと仕込まれているアルファは、疑問に思う事もなく、機械的に知識を披露する。
『おそらくは、邪神様の活動が活発化しました理由も、今にあるのでしょう』
危機が迫っているからこそ、防衛装置が動き始めたのだと、迫真の表情で謳う。
彼女自身に悪意はない。
ただ、彼女を作った者に悪意があるだけである。
「俺が、俺が、救世主……」
『貴方様は選ばれたのです。さぁ、今こそ世界を救いましょう……!』
悪魔は、厳しい言葉を掛ける者ではない。
優しく、甘い言葉を囁く者こそが、悪魔なのだ。
~~~~~~~~~~
「ふっふっふっ、さて、こちらはそろそろフィナーレと行こうか。派手な最期をプレゼントしてやらねば」
これまでの貢献に報いて。
そろそろDieジェストも終わらせよう。
描写する気はないけど、早々に閉じようとし始めた理由。
風炎「あのー、せっちゃんセンパイ? そろそろ来ていただけるとー」
せっちゃん「もっと場繋ぎを頑張りたまえよ」
風炎「いやいや、そろそろ限界だから。もう自棄になって地球自爆させようとしてる連中ばっかりだから」
せっちゃん「全く、堪え性の無い。人間とはつくづく阿呆ばかりだね」
そんな通信が銀河を越えて届いたとかなんとか。