表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
346/417

腐り神

正解は巨神兵。

 夜が戻ってくる。

 アインスは、陽光が如き輝きを収め、僅かな燐光のみを纏って、一人、空に佇んでいた。


 力尽きている、という訳ではない。

 意図的に光量を抑えているのだ。


 彼の権能を発動してしまうと、彼が彼であるというだけで周囲を破壊し尽くしてしまう。

 なにせ、〝光〟の化身である。

 発光している状態が当たり前なのだから、〝光が力を持つ〟世界では破壊神もかくやという有り様になりかねない。


 敵を悉く殺し尽くすには的確だが、状況の確認にはまるで向いていないのである。


【――――成る程。諦めという思考の持ち合わせは無いらしいな】

「……っ!」


 光の嵐によって一時的に空白となってしまった場を埋めるように、周囲から暴風となって大気が押し寄せる。


 その中で、風に乗って小さな人影がアインスへと急接近してきていた。


 美影である。

 全く衰えていない眼光にて、一心にアインスを睨み付けながら、彼女は再度の相対に向かっていた。


 しかし、その姿は五体満足からは程遠い。

 左腕は上腕から先が千切れており、左脚もほとんどが炭化しており、焼け落ちた肉の隙間からは黒い骨が顔を覗かせている。

 顔もまた、左半分は潰れていて、無惨な爛れを見せていた。


 服はほとんど焦げ落ち、生身が見えているが、そこに官能的な様子はない。

 なにせ、服の下にあったものは、綺麗な素肌などではなく、炭化した肉や爛れた肌ばかりなのだから。


 瀕死だ。誰の目にも明らかな。


 だが、美影の気迫には些かの衰えも無い。


 戦士なのだから、当たり前である。

 戦場では殺し殺されが当然であり、いつ何時、ゴミの様に屍を晒してもおかしくはない。


 そうと教育されている。

 その覚悟を持っていろ、と。


 だから、美影に恐怖も怯えも無い。

 命尽きるその瞬間まで、倒すべき敵へと立ち向かうだけである。


 血霧を纏い、流血の線を空に描きながら、肉薄する。


 雷は纏っていない。

 今は、纏う雷が放つ雷光が、自らを傷付ける刃となってしまうから。


 最低限の身体強化のみであり、傷付いている事もあって、先程までの速度はまるで出ていない。


 アインスは、残念だと思った。

 つい楽しくなって権能を発動させてしまったが、失敗だったと。


 せっかく面白い相手だったのだから、もう少し手加減しておくべきだった。


 見る影もなくなった動きをしている美影を、虫を払うように軽く打ち払う。


 美影に躱すだけの力はない。

 だが、来ると分かっている攻撃に耐えられる様に、身を固める事は出来る。


【――――ぬ?】


 振るった腕の上に、美影が張り付いていた。

 衝撃に内臓のどれかが損傷したらしく、口からは血の塊を吐いているが、彼女はそれを気にした様子はない。


 爛々としている片目でアインスを睨み付けると、彼の腕を足場に飛び上がってくる。


 既に死に体。

 おそらく殴られてもダメージはないだろうが、しかしわざわざ殴られてあげる理由もない。


 向かってくる美影に合わせて、もう片方の腕で掴もうとする。


 しかし、それが空振った。


【――――ほぅ、面白い芸だな】


 美影の姿が増える。


 幻術、ではない。

 魔力は感じられない。

 アインスが知る由も無いが、美影には幻属性の魔力も超力も無いので、それは当然だ。


 これは単純な体術による分身だ。

 感覚の錯覚を利用した技術である。


 とはいえ、それは()()()()()()でしかなかった。


 アインスを完全に騙すにはまるで足りない。

 人間どころか生物ですらないアインスの感覚には、綻びがよくよく感じられていた。


 正解を叩く事は簡単だ。

 しかし、それではつまらない。


 先程、安易な行動をして後悔したばかりなのだ。

 遊んでいれば、また楽しい事をしてくるかもしれない。


 そう思った彼は、美影に合わせてみる事にする。


【――――ふむ、これでどうだ?】


 増えた美影に合わせて、アインスも増えてみせる。


 美影の分身はただの錯覚であり、実体は無いのだが、しかしアインスの分身は違う。


 やっている事は、光の屈折によるものでしかない。

 しかし、現在の〝光が力を持って〟いる世界においては、光で出来た分身は、確かな実体を得てしまう。


 袋叩きにする。


 全てのアインスが、美影を囲んで殺到した。


【――――本当に頑丈な輩だな】


 分身体が砕ける勢いで激突したと言うのに、美影はまだ原型を留めていた。


 しかし、それが精一杯だったらしい。

 落ちていく姿に力はなく、限界にある事は見て取れた。


 海面に突き出していた岩場へと落ちる。


 ボロ切れの様な姿は、それ以上動く様子は何処にもない。


【――――見逃す事は出来ぬのでな】


 少し消化不良ではあるが、充分に楽しめた。

 だから、普段であれば、その努力に免じて見逃してやっても良かった。


 しかし、今回は星を害そうという明確な敵だ。


 見逃してしまう訳にはいかない。


 アインスが口を開き、喉に光を溜める。

 せめて一息に殺してやろうと、強烈な一撃を解き放った。


 一直線に撃ち下ろされる光線。


 当たる直前で、岩場の美影へと高波が覆い被さった。

 その程度、障壁にもならない。

 地殻さえもぶち抜く威力は、少しばかりの海水など容易く蒸発せしめる。


 その筈だった。


【――――む?】


 だと言うのに、光線が弾き飛ばされる。

 粘性を帯びた海水に当たると拡散され、周辺を薙ぎ払うが、肝心の美影には届いていない。


 何が、と思うが、その答えはすぐに顔を出した。


 海が持ち上がる。

 粘性が上がり、ドロドロになった海水が、なんとなく巨大な人間のような形を取り始めていた。


『グロロロロロ……』


 それが不気味な呻き声を上げる。

 顔らしき部位には、岩を使って作られた牙が乱雑に生えており、目は何もなく暗い穴が空いている。


【――――ふははは、これも人間というか! 生物の可能性とは凄まじいものだな!】


 それが新たな敵であると理解したアインスは、テンション高く笑う。

 さて、今度はどんな芸を見せてくれるのか、と、心から楽しんでいた。


~~~~~~~~~~


 美影は、粘性巨人――刹那の中からぼんやりと外を見ながら、その姿に記憶を漁っていた。


(……んー、昔のアニメ映画にこんなのがいたような気がするなー)


 なんだったか、と頭を捻る。


(……えーっと、名前は確か、そう!)

「ポ○ョだ!」

『違うわ。ト○ロよ』

「えー、それは違うでしょー」


 美雲からの声が届き、美影の身体が刹那の中から引きずり出された。

 軌道上からの力場に捕らわれた彼女は、そのまま空へと運ばれていく。


「アーブ、ダーク、ショーン」

『意外と余裕ね』

「死んでなければ大体オッケーなのが僕だし?」


 眼下では、粘性巨人 vs 光竜の戦いが始まり、初手で頭を粉砕される巨人の姿が展開されていた。


「よっわ」

『まぁ、色々と無理してるみたいだし』

「でも、そんなお兄もカワイイ」

『……脳ミソ、沸いてないかしら?』

「今更何を」


 いつも通りである。

いや、ほら、こいつらって時代設定的に二百年後の人間ですからね。


そこら辺はもう古典作品なのよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ