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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
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始まりの天竜

 災害を纏って加熱し続ける人間国(戦場)

 それが破裂する瞬間は、突然のものだった。


「――――んあっ!?」


 美影が何かに勘づいて空を見上げるのと、暗雲に覆われた空が弾けるのは、同時だ。


 陽の光を遮り、地上を夜へと変えていた分厚い雲が払われ、現れるのは美しき蒼穹と輝く太陽。


(……違うッ!)


 そう、否である。

 あれは、太陽なんかではない。


 そもそも今の時刻は夜中であり、更に言えば惑星ノエリアには三つの太陽がある。


 あんな、単一の光源などあり得ない。


 ならば、ならば夜を昼へと変える程の光を放つそれの正体は――――。


【どれ、〝力〟を見せよ】


 太陽と見紛う光が地上へと降った。


 破砕。


 文字通りに、着弾の衝撃で大地が割れて爆ぜた。


 同時に、光が散る。


 中から姿を現したのは、一頭の竜だ。


 白に近い金色の鱗を持つ飛竜。太い筋肉に支えられた四足の身体。

 皮膜型の大翼にも鉤爪が備えられており、その動きから翼も腕の一種なのだと分かる。

 頭部には五本の角が聳えており、尋常ならざる魔力の鼓動を放っている。


 全長は、100メートルにも満たない。

 竜化した地竜種よりも小さいもの。


 だが、地竜種ではない。

 間違っても。


 これだけの魔力密度を有した存在が、たかが地竜などである筈がない。


 かの竜神の名は、


『アインス様っ!?』


 フォトン=アインス。

 始まりの天竜にして、天竜という種族の象徴である。


 黄金の竜眼が美影を捉える。


「うわ、やばっ……」


 瞬間、彼女は自らの危地を悟る。


 直感に従って身構えるのと同時に、光が如き速度で急接近したアインスが巨腕を振り抜いた。


「…………っ!!?」


 ガードの上から全身を貫く衝撃。

 何気ない一撃でありながら、それは美影に血を吐かせる程のダメージを与える。


 耐えきれない。


 だから、少しでも軽減させるべく美影は流れに逆らう事を止める。


 吹き飛ぶ。


 音速超過で弾き飛ばされた彼女は、大気を貫き、山脈を打ち砕き、地平線の彼方に一瞬にして消えてしまう。


【……この程度か】


 アインスは、期待が外れたとでも言うように呟く。


 もっと歯応えがあると思っていた。

 だが、実際には腕の一振で砕けてしまうような儚い存在だった。


 つまらない。

 期待外れである。

 せっかく来たというのに、とんだ骨折り損だ。


 そんな吐息をするが、


【……ぬ?】


 彼の前へと現れる存在があった。


 一人の竜人だ。

 それと、彼に首根っこを捕まれ、両脇に抱えられた天使と悪魔もいる。


「私を巻き込まないで下さいまし!」

「何故ワレまで……」

「せっかくの機会だ。付き合え」


 抗議する天使と悪魔に言い放ちながら、竜人――ゼルヴァーンは、自らの祖であるアインスへと一礼する。


「お初にお目にかかる、我らが祖神よ」

【ほぅ、地竜か……。何用か、と問う必要もないか。その漲る戦意を見れば、目的は明白】


 言葉通りに、ゼルヴァーンは全身に魔力を漲らせ、戦意を明確に顕にしていた。


「失礼は重々承知しております。が、我輩にも譲れぬものがあります故」

【良い。そも、そなたらに義務を課した覚えは無し。好きにするが良い】


 地竜種にとって、アインスはまさに創造主である。

 正しく自分達を創り上げた張本人だ。


 それに逆らう事はタブーと言って良い。


 しかし、地竜としての思想はともかくとして、ゼルヴァーンは()()()()ここに立っている。


 せめて、少しでも娘に安寧の時が続くように。

 地獄の人間国から離れるまでの間は、この身を賭して安全を守ろう。


「貴方様に思うがままに暴れられますと、大変に困るのです。故に……抑えさせて頂きます」

【委細構わぬ。が、しかし、我はもう帰る。期待外れだったからな】


 地竜の信仰は、強制していない。

 アインスは、彼らの営みに興味がない。


 だから、どうしようと、牙を剥こうとも好きにしてくれて構わない。


 とはいえ、勘違いされて喧嘩を売られても困る。

 それが、つまらない相手ならば当然だ。


 地竜に、天使に、悪魔。

 どれも、それぞれの種族の中でも精鋭と言える高みにいる者たちだ。


 だが、その三人が力を合わせて立ち向かっても、アインスの敵ではない。


 ただでさえ、期待をすかされたばかりである。

 これ以上の面白味もない事に付き合いたくもない。


 そう思って身を翻す彼に対して、ゼルヴァーンの言葉が届く。


「あの者らを、舐めてかからない事です」


 頭上、無限の蒼穹が、雷鳴轟く暗雲によって塞ぎ込まれた。


~~~~~~~~~~


「~~~~、効いたぁ……」


 海を越えて吹き飛ばされた美影は、地面に埋まっていた。

 砕けた破片が雪崩となって降り注ぎ、深く生き埋めとなってしまったのだ。


 どろり、と、額から温かな液体が流れ落ちる感覚がある。

 口許まで届いたそれを舐めとれば、鉄の味が口腔に広がった。


「思いっきりぶん殴られるなんて、久し振りだよ」


 直近でツムギにも殴られたりしたが、それでも反応もろくに出来ずに直撃したのは、随分と覚えがない。

 記憶を遡れば、刹那との初邂逅時以来だと思い出す。


 つまりは、それだけの相手という事だ。


「アインス、アインス……一番(アインス)ね」


 殴られる直前、上位精霊が悲鳴のようにそう呼んでいた事を思い返す。

 それが、正しければ、あれこそが原初の天竜という事なのだろう。


「いいね。大物だ」


 やられっぱなしは性に合わない。

 きちんとお礼参りしてやらねば雷裂の名が廃るというもの。


 黒雷が迸る。


 彼女を埋め尽くす大地の破片が、解放された威に曝されて更に粉砕され、弾き飛ばされる。


「ぶっ飛ばしてやる……!」


 クレーターの中心から、美影は雷の速度で弾け飛んだ。

 その足跡に、分厚い雷雲を残しながら。


~~~~~~~~~~


 魔力超力混合・雷裂流体術【天降龍神】。


 空から一条の、しかし極大の漆黒の雷が降った。


 それは一直線にアインスの頭蓋を撃ち抜き、かの者の巨軀を大地に平伏せさせた。


「くぉら、クソ駄竜ッ! よくもやってくれたな……!」


 反動で飛び上がった下手人……美影は、離れた場所に着地しながら毒を吐く。


【ほぅ! 生きていたか! うむ、良し。大変に良し】


 起き上がったアインスは、喜色を浮かべて頷く。


「ちぇっ。全然効いてないね」


 かなり本気で殴った。不意も打てていたと思う。

 だというのに、アインスにはろくにダメージが入った気配がない。


 割りとショックな事だ。


【いや、そうでもない。良い攻撃だったぞ。劣等生物にしてはな】

「上から目線で語りやがって。むかつく。ぶっ殺してやる」


 美影が手を掲げる。


 その手に、雷が落ちた。

 天を覆い尽くす雷雲が剣となって収められる。


 彼女は、その切っ先を向け、アインスの足下でこそこそしてる奴を認めつつ、宣言する。


「人間舐めてると、痛い目見るぞっ!」

【ふん。では、見せて貰おうか……あッ!?】


 彼の意識が美影へと向かったその瞬間を狙いすまして、巨体を足下からかち上げる衝撃が撃ち抜いた。


 完成形連結陣撃術【神薙】。


 神を薙ぐ鬼の拳がアインスを穿ち仰け反らせ、


「隙あり! くたばれえええぇぇぇぇぇ!!」


 神を裂く人の刃が襲い掛かった。

フォトン=アインスの造形イメージは、シャガルマガラです。

好きよ、あの金ぴか。



次回は、四月一日じゃないかな、多分。


丁度良いから、前々からやりたかった事をしようかな、と。

但し、ジョークだから許されるだろう内容なので期待はしないで下さい。


本編では出来ないような事です、間違っても。

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