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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
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最初の犠牲者()

だって、殺すって約束してたし(全て既定路線)

「オハナシはぁ、終わったであるデスカネ~?」


 ゆらり、と、ゼルヴァーンの背後で風景が揺らぎ、一人のピエロが姿を表す。


「ひっ……」

「チッ……」


 妖魔の王位――スピリである。

 彼女の出現に、父娘は対照的な反応を見せた。


 ゼルヴァーン()は嫌悪を隠さずに舌打ちを行い、プラム()は悪名高い悪魔に恐怖を抱く。


「おやおや、オヤオヤ~。怖がらなくてもヨイであるデスヨ~? ネェー、カワイコチャン~?」

「娘に近寄るでないわ」


 顔を寄せるスピリを遮るように、ゼルヴァーンが大剣を間に差し込む。

 娘を守る父、という一般的な姿に、スピリは腹を抱えて笑う。


「フヒヒャハハハ! これは傑作であるデスネ! たった今、親子の縁を切ったばかりだというのに!」

「目の前で貴様が近付けば、娘でなかろうと助ける。それが人道というものだ」

「ホウホウ、それはケッコーであるデスネ。アッチも助けるであるデスカ?」

「……この場でだけは、助けよう。殺す気はないと言ったしな」


 倒れるギリムたちを示してからかうように言えば、ゼルヴァーンは顔をしかめつつ肯定する。


「フゥーン? ワレは殺す気があるのデスガネ」


 ピリッ、と、空気が軋む。


 片や地竜種の精兵、片や妖魔種の王位。

 始祖精霊や天竜という神としても語られる者たちを除けば、間違いなく世界最強に名を挙げられる者たちが、魔力を高めて相対する。


 それは、正しく絶望であった。


 憎しみを込めて睨み付けていたギリムさえも、本能的な恐怖を覚えて顔を青褪めさせていた。


 それは恥ずかしい事ではない。

 どんな者であろうと、きっと納得し、同情してくれるだろう。

 それは、生物が持つ感覚としてとても正しく真っ当なのだから。


「らしくないであるデスネ~。仮にも刃を向けるモノを、守ろうなどとは」

「……そういう貴様こそ、らしくないのではないか? 恨みと憎しみで遊ばないなど」


 ギリムらへと殺意を載せた魔力を伸ばすスピリと、彼らを守るように魔力で包み込むゼルヴァーンが、表面上は穏やかに、しかし水面下では熾烈に、攻防を繰り広げる。


 実力そのものは、互角。

 決してどちらかが劣る事は無い。


 しかし。


 互いが納める技能には、越えがたい大きな差が横たわっていた。


 ゼルヴァーンが正面からの直接的な戦闘技能に卓越しているのに対して、スピリは裏側から他者をおちょくる事に特化した能力を伸ばしている。


 まともにぶつかれば、ゼルヴァーンの方が圧倒的に有利であろう。


 だが、この場においては。

 力無き者を守れるか否かを問う場では。


 駆け引きにおいて勝るスピリに軍配が上がる。


「隙あり、デスネ」

「…………」


 ゼルヴァーンの防術を抜けて、スピリが1本のナイフを投げ放った。


 それが向かう先は、ギリムである。

 ゼルヴァーンは、それを助けない。助けられない。


 叩き落とす事は不可能ではない。

 今からでも間に合うだろう。


 しかし、それをすれば別の穴が開く。


 彼の優先順位として、第一にプラムが置かれている。

 彼女を守る事を最優先に置いており、それ以外はついでだ。


 故に、その穴がプラムの護衛に向かっている以上、彼は動けなかった。


 それを、彼は悔しいとも何とも思わない。


 これがギリムの天命だったのだろう、と、軽く諦めるだけだ。


 具体的な事は知らないが、スピリや異星人たちの策謀の中心にいたというのに、この場で殺されようとしている。

 という事は、彼は邪魔になったか用済みになったのだろう。


 そんな事を思うだけだった。


 故に、続く動きには、流石に目を見張った。


「あ、ぶっ……ない!」


 動けなかっただろう筈のツムギが力を振り絞って起き上がると、ナイフの前へと身を踊らせたのだ。

 彼女の胸に、深々と凶刃が突き刺さる。


「オヤオヤ~。これは予想外であるデスネ~。ツムギ嬢が、そこまでイカれていたなんてネェー?」


 ケラケラ、と、スピリは笑う。


 ツムギは、小さく血を吐き出して崩れ落ちる。


 ゼルヴァーンに殴り倒された時点で限界だったのに、そこから無理してスピリのナイフを受けたのだ。

 まず助からないだろう。


 その証拠に、ジワリと、傷口を中心として真白の痣が広がっていく。


 石毒。

 生体を石灰化させ、最期には粉々に砕け散らせてしまう死毒である。

 肉も骨も、何も残らない外法だ。


 スピリの好んで使う毒物である。

 毒を受けてからの解毒法は、未だに発見されていない。


「ツムギっ!」


 崩れ落ちたツムギへと、根性で動いたギリムが這い寄る。


 抱き起こすが、彼女の反応は薄い。

 急速に広がる白痣は、既に彼女の顔にまで到達しており、中心点に至ってはひび割れを起こして崩れ始めていた。


「フホホホ! 意外な結末であるデスガ、ワレは満足であるデスネ! 力で奪った人形に涙するとは、実に滑稽! 最高に嗤えるであるデスヨ!」


 腹を抱えて笑ったスピリは、視線をゼルヴァーンへと向ける。


「デハデハ、満足したのでワレはこれにて……オサラバ♪」


 ふっと、現れた時と同じように揺らいで消え去る。


「……何処までがシナリオなのか」


 あのツムギの正体を知っているが故に、ゼルヴァーンは苦々しく呟く。


「御父……ゼルヴァーン様、ツムギ様を助けられませんか?」


 おずおず、と、プラムが訊ねる。

 その問いに、ギリムや他の者たちも顔を上げる。

 その顔には何処か期待があった。


 だが、ゼルヴァーンは首を横に振る。


「その死毒に解毒法はない。安らかに看取ってやるが良い。仲間、なのであろう?」


 それだけを言って、ゼルヴァーンもその場から立ち去るのであった。


~~~~~~~~~~


「ギリ、ム……くん……」


 残された面々に絶望が広がる中で、ツムギは血反吐を溢しながら、言葉を紡ぐ。


「ツムギ! おい、何も言うな! 助けてやるから!」


 ギリムは、簒奪の力を発揮する。

 出来る、出来る筈なのだ。

 何もかもを奪い尽くすこの力ならば、死毒であろうと飲み込めるに違いない。


 傷口に手を当てて、簒奪を行う。

 その予想は正しく、毒を飲み込み始めた。


 だが、それは間に合わない。

 あまりにも石毒の回りが速過ぎ、込められていた毒の量も多すぎた。


 どうあっても助からない。


 それを悟っているツムギは、最後の力を振り絞り、ギリムの頬に手を添える。


「いい、んだよー。あたしはー、もう……」

「おい! 諦めるな! 諦めるなよ! お前は俺のものなんだ! 勝手に死んで良いなんて言ってねぇぞ!」

「あっ、ははー……。ごめん……ねー」


 力なく微笑みながら、彼女は最後の言葉を残す。


「ねぇー、ギリム、くん……。たのしかった、よー。あんなはじまり……だったけど……きみと、きみたちと……たびしたのー。ほんとに、たのしかったんだー」

「言うな。そんな事、言ってんじゃねぇよ……」


 憎い相手の筈だ。

 己を裏切った女。

 己を奪った男。

 自分達は、決して心許した関係ではない筈なのだ。


 なのに、何でこんなにも、胸が引き裂かれそうなのだ。


 ギリムは、奥底から溢れる感情に涙を流す。

 その雫を掬いながら、ツムギは言う。


「つよく、なりなよー……。こんどは、みんなをー……まもれるように、ねー」

「……当たり前だ。俺は、世界最強にまで」

「なれるよー、きみなら……さー……」


 彼を撫でていた腕にまで毒が回る。

 石化した腕は、自重に耐えきれずに折れてしまう。


「ばいばい、ギリムくん……」


 それを最後に、ツムギの全てが石となった。


 脆く儚い石像。

 自身の重さに耐えられない程に。


 ひびが入り、ボロボロと崩れていく。

 ギリムの腕の中で、ツムギだった物が白い砂礫へと変わってしまう。


 それは、やがて風に吹かれて消えてしまった。


「くそ……くそ……くそがっ……」


 ギリムは、悔しさに地面を何度も殴り付ける。


「マスター……」

「ご主人様……」

「旦那様……」


 彼の女たちは、痛ましい彼の姿に、そっと寄り添う事しか出来なかった。

鬼「やったー! やっとおわったー! あー、きもかったー!」

獣「おぅ、お疲れさん」

鬼「ねぇねぇ、ガルドくんー? あたしって、うわきしょうだよねー? そうだよねー? あんなこと、いっちゃうんだしさー?」

獣「……まぁ、そう取れなくはねぇなぁ」

鬼「じゃあじゃあ、にげないようにしっかりとしつけとかないとねー! きょうは、とくべつにあたしをおかしていいよー!?」

獣「いつも通りにしようぜぇ? そいつは、俺様が実力で勝ち取りたいもんだからぁよぅ」

鬼「んふふー。ガルドくんのそーゆーとこ、あたしはだいすきだよー?」


終わった後の宇宙での一幕。

知らぬが仏よ。

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[一言] ただ一言。 ひでぇ、ひどすぎる。
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