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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
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竜姫の覚悟

別にラブを主題とした話じゃない筈なのに、割と判断基準がラブになってる気がする。


メインヒロインのせいかな?

 人間国の外れ。

 とある事情により、比較的被害の少なくなっている地域にて。

 一つの邂逅が為されていた。


~~~~~~~~~~


 それは前兆の無い、突然の事だった。

 荒れた街道を歩いていたギリム一行の前で、空間が唐突に歪んだのである。


「っ……!」


 放射される魔力反応から、それが人為的な空間歪曲だと分かる。


 急速に大きくなっていく歪み。

 彼らが武器を抜いて警戒するのと、歪みが臨界に達するのは、ほぼ同時であった。


 深淵へと繋がるような空間の穴が開く。

 奥から出てきたのは、鈍色の鱗を有した竜人、ゼルヴァーンであった。


「ゼルッ、ヴァーン……!」


 憎い仇の一人。

 己を陥れた悪逆非道の輩。


 その姿に、ギリムの視界は赤く染まる。


 堪えきれない怒りが心を燃やす。

 同時に、恐怖も。


 彼は、獣魔(ガルドルフ)霊鬼(ツムギ)とは違う。

 地竜種。

 歴とした上位種である。

 更に言えば、その中でも最精鋭と言える実力者だ。


 ギリムは、強くなった。

 少し前までと比べれば、まさに比べ物にならない程に。


 しかし、それでも。


 勝てるとは、間違っても断言できない明確な実力差が彼我の間には横たわっているのだ。


 冷や汗が流れ、恐怖に身が竦む。


 戦いの場、という観点で見れば、まさしく隙だらけだろう。

 ゼルヴァーン程の実力者ならば煮るも焼くも如何様にも出来た筈だ。


 だが、彼はギリムを一瞥しただけで、それ以上の事をしなかった。

 攻撃しないどころか、言葉を投げ掛けるでもなく、ただ無視した。


 眼中に無し。


 分かりやすく態度に示された事で、ギリムの身を固めていた恐怖が、怒りにより振り払われた。


「う、うぅおおおおおおおお……!!」


 恐怖を振り払い、自身を鼓舞するように雄叫びを上げながら、ギリムは突撃していく。


 勝ち目は薄い。

 だが、無いとは間違っても思っていない。


 あるいは、自分一人なら無理だったかもしれない。

 しかし、今の自分には、本当に心を繋いだ仲間たちがいる。


 彼女たちと力を合わせれば、きっと届く筈だ。

 届かない訳が無い。


 そうと信じて、剣を振りかぶる。

 仲間たちも、何も言わずともそれに続く。


(……これが、この絆が! 俺たちの力だ……!)


 上部だけのお前らとは違うと、心で叫ぶ。

 対して、ゼルヴァーンは、と言えば。


「ハァ……」


 溜め息。


 下らないとでも言うように、疲れた吐息を漏らし、ゆっくりと腕を動かした。


 一閃。


 構えから、攻撃を放つまでの動きが、まるで見えなかった。

 だが、しかし、何が起きたのか、その答えは明白だ。


「ご、ばっ……!」


 ギリムの口から、大量の血が吐き出される。


 見れば、腹の肉が大きく裂かれている。

 内臓(なかみ)が溢れ出し、致命傷だと一見して分かる。


 一瞬にして、たったの一撃。


 戦闘云々ではない。

 もはや、戦いになっていない。


「安心せよ。殺す気はない。今のところは、だが」


 自分たちの中心が、あっさりとやられてしまった。

 その光景に固まってしまった続く仲間たちも、ゼルヴァーンによって順番に叩き伏せられる。


 人形(アルファ)は拳で殴り倒され顔面が半分砕けている。

 獣魔(イリーナ)は踏み潰されて血反吐を吐いて動かなくなった。


「……お前は」


 霊鬼(ツムギ)に対してだけ、一瞬、何かを迷うような動きを見せたが、結局は爪刃で切り裂いて倒す。


 それで、終わりだ。

 ギリム一行は、瞬く間に壊滅してしまった。


「ぐ、ぁ……。お、前ぇ……!」


 憎しみの籠った呻きを放つが、ゼルヴァーンはもはや視線すらくれない。

 ただ、最後尾にいた娘――地竜の姫であるプラムへと、一心に視線を向けていた。


「迎えにきました。さぁ、帰りましょうぞ」


 優しい声音。紳士的にエスコートするように、手を差し伸べる。


 プラムは、その手を見、次いでゼルヴァーンの顔へと視線を移した後、ゆるゆると頭を横に振った。


「……いいえ、私は戻りません」


 小さく、蚊の泣くような声で、しかしハッキリと拒絶の意思を伝える。

 ゼルヴァーンは、告げられた言葉に、僅かに眉を跳ねさせ、困った顔で返す。


「我が儘を仰いますな。外の世界は危険です。充分に理解したでしょう」

「はい……」


 籠の鳥でいる事が嫌で、家出した。


 外の世界は、とても刺激的で籠の中では体験できない事がたくさんあった。


 そして、同時に危険も。


 ほとんどの者は、地竜の姫が如何なる存在かを理解している。

 だから、警戒心もなく歩いていようと、間違っても手を出しはしない。


 しかし、何処にでもバカはいるもので、そんな目に見えた破滅を無視して、目先の快楽を求めて手を出す者がいるものだ。


 それが、今回は人間種だったと、それだけのこと。


 捕らわれてからは、想像した事もない恐ろしい体験をした。

 甘く優しい世界しか知らない姫には、あまりにも辛すぎる世界を見せ付けられた。

 同じように捕らわれた誰かが、ゴミのように殺されていく様を見て、いつ自分にそれが降りかかるのかのかと恐怖し続けていた。


 誰か、誰でも良いから、助けてくれと、ひたすらに願い続けた。


 その願いを果たしたのは、奇しくも彼女を傷付けた者と同じ、人間だった。


「私は、彼に救われました。貴方様では、ありません」


 倒れ、動けなくなってしまっている、弱く情けない人間。

 だが、それでも、プラムにとっては誰にも代われない救世主なのだ。


 彼を見捨てて自らだけが救われるなどという恥さらしは、己の誇りにかけて出来はしない。


 姫の覚悟と、それによる拒絶にゼルヴァーンは、苦悶の表情を作る。


 そして、彼は努めて優しく、そして残酷な現実を語った。


「世界は、激動を迎えております。場合によっては、天地が引き裂け、終焉を迎えかねない程の事態です」

「…………っ」


 世界が終わるなど、考えた事もない。

 明日も明後日も、いつまでも変わらずにあると思っていた。


 それを仮にも信じている者から断言されれば、真実味を帯びて心に差し込まれる。


 怯む姫に、ゼルヴァーンは続ける。


「これが、最後の機会なのです。これより先は、助けられないやもしれません」


 言って、背後、倒れたまま、血の混じった荒い息を吐きながらも、憎悪に染まった視線を向けるギリムを見やる。


「あれでは、守りきれません。我輩一人、地竜の一人すらも退けられぬ力では、これから先を乗りきれません」


 それはつまり、死ぬということ。

 雷裂の者たちやスピリの企みを除いたとしても、これから巻き起こる事態の中で間違いなく死ぬだろう。


 ゼルヴァーンは、視線を姫へと戻す。


 伝えるべき事は伝えた。

 その上で、彼は選択を迫る。


「姫よ。それでも猶、あやつに付いていくと? 死が、終わりが見えているというのに」


 プラムは、一瞬、瞑目した後、覚悟を秘めた目を開いて真っ直ぐにゼルヴァーンを見詰める。


「……いつか死ぬというのであれば、誰もが同じことです」


 刃か病か、あるいは時か。

 誰しもが、いつかは死ぬ。


「ならば、私は矜持と愛と共に生きて死にます」

「…………愛、愛か」


 遠い言葉だ。

 親子愛ならば理解できるが、異性愛は、天翼種と同じく地竜種には遠い感情である。


 プラムは、外の世界を生きる事で、それを得たのだと言う。


 理解は出来ない。

 だとしても、彼女が覚悟を持って選択したのだという事だけは分かる。


(……どうしたものか)


 地竜種としての立場で言えば、世迷言としてさっと連れ去るべきだ。

 ただ一時の気の迷いであり、暫くすれば忘れるだろうと思える。


 だが、同時にそうならなかった場合、とも思うのだ。

 恨みを残し、世を憎みながら、自らの命を絶ちかねない。


 いっそ、幻魔法で記憶を取り除いてしまえば、とも思うが、ゼルヴァーン個人としてはなるべくプラムを歪める様な事をしたくはない。


 しかししかし、である。

 彼女の意思を尊重してこのまま残したとして、幸せになれるともまるで思えない。

 なにせ、世界が世界である。

 現在の世界で、ギリムらが生き残れるとは到底思えないし、何よりも彼らは目を付けられている。


 あの異星人どもと妖魔の王位が関わっているのだ。

 絶対に碌な結末にはならないだろう。


 どちらの道を辿ろうと、悲惨な事になりかねない。


 ならば、せめて自らの生きる道を選ばせてやるべきではないだろうか。


「…………何度でも確認しますが、後悔しても遅いのですよ。これが最後の分岐点と覚悟しての事ですね?」

「無論です。冗談などでこの様な事は言いません。貴方様には申し訳なく思いますが、どうかプラムは死んだものと思って下さいませ」

「……承知しました」


 言って、ゼルヴァーンの腕が閃く。


 その鋭利な指先がプラムの頭を掠め、紫水晶のような角の片方を切り飛ばした。


 竜角は、地竜種にとって力の象徴であり、同時に墓に納める遺骨としても使われるものである。


 落ちてきたそれを受け止めた彼は、苦渋の表情で語る。


「……救出に向かったが、時既に遅く身罷っていた。その様に致します」

「ご迷惑をかけます」


 深々とお辞儀して後、プラムは泣きそうな顔に無理に笑顔を浮かべて、別れの言葉を送った。


「これまで有り難う御座いました、御父様。……どうか、健やかに過ごされますよう」

「こちらの台詞です。どうか、どうか後悔無きよう最期の時をお過ごし下さいませ」


 ()()()()()は、短い別れを交わす。


 二人は、悟っている。

 もう二度と会う事は無いだろう、と。

竜人「これが普通の人間の筈だよなー。何であの異星人どもには勝てないんだろう?」

ギリムを見つつ素朴な疑問を実は抱いていたり。




美影的には好ましい人格と選択なんですけどね。


だからこそ、その選択を尊重して変に助ける様な事はしない。


せっちゃん?

あっちは、姉妹以外、至極どうでもいいから。

姉妹≫≫≫≫≫(越えられない壁)≫≫≫≫≫気に入った相手≫≫その他大勢

くらい?


姉も似たようなもの。

見える範囲で助けを求められれば、〝優しい自分〟の為に無理のない範囲で助けます。

ただ、見えない所は知らないし、助けを求められなかったら助けないし、無理を押してでも助けようともしません。



あれ?

美影が一番常識的なのか?

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[一言] でぇじょぶだぁ。 この作品に出てる時点異常だから!
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