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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
二章:最後の魔王編
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イチャイチャ

そろそろ再開しましょうかね。


《サンダーフェロウ》第一研究所。


 数ある雷裂家所有の施設の中で、最もセキュリティレベルの高い場所である。

 フルスペック版の《サウザンドアイズ》が常時稼働し、練度も士気も高く、装備も最上位の物を用意された無数の警備員が二四時間体制で動き回り、更には念力式千里眼による警備もされている。


 ここを正面から打ち破るならともかく、一切誰にも気取られる事なく侵入するという事は、まず不可能と言って良い。

 但し、その内部構造や警備体制の全てを知っていれば、話は別だが。


「……こっそーり」


 通風孔のパイプの中を、黒髪の少女――雷裂 美影が音を一切立てずに移動する。


 第一研究所に犯罪者よろしく侵入中である。


 何故、こんな事をしているのか。

 その答えは実に簡単だ。

 兄、刹那の寝込みを襲う為である。


 ここ最近の刹那は、この研究所に籠って先日入手した謎金属――《ステラタイト(仮)》の特性実験に没頭している。

 美影の予測では、今は力尽きて寝入っている時間帯である。


 その証拠に、念力式千里眼は消えていた。


《サウザンドアイズ》の死角を突く事は出来る。

 警備員の巡回ルートの穴を突く事も出来る。

 自分の権限を使えば、研究所内の他のセキュリティも無効化できる。


 だが、刹那の念力式千里眼だけは誤魔化す術を持たない。


 この一瞬だけがチャンスなのだ。


「今日こそは……!」


 刹那の子種を戴く! と気合を入れる。

 三年後にはくれると約束してもらっているが、正直、待ちきれない。

 今すぐにでも兄の子種で孕んで、生み落とし、愛しい子供をこの腕に抱きたい。


 だから、こうして隙を見ては夜這いをしている。


 現状、戦績は全敗だが。


 戦力差は圧倒的である。

 それは諦める理由にならないけれど。


 全力で隠密に徹しながら、彼女は通風孔の終点に到達する。


 金属の格子越しに中を覗き見れば、そこは刹那専用の実験室だ。

 何に使うのか分からない機械類やその部品から、読む事も難しい言語を走り書きされては投げ捨てられた研究資料の書類まで、所狭しと散らばっている。


 その端には、場違いなベッドが置かれているのが見える。

 三人くらいなら並んで寝られそうな大きなそれの中心部には、スーツ姿の青年が転がって目を閉じている。


 雷裂 刹那だ。


 その姿を認めて、確かに寝入っていると確信した美影は、口を三日月の形に歪める。

 それは、獲物を見つけた肉食獣の笑み。

 生物に刻まれた原初の欲望を抱いた猛獣は、鉄格子を取り外し、音も無く降り立つ。


 気配を極限まで押し殺した彼女は、遂にベッドの縁にまで辿り着く。


 瞬間。


「貰ったぁー!!」


 一息に襲い掛かる。


 抱き着き、匂いを堪能し、その下半身に手を伸ばそうとして、違和感を覚える。


 あまりに反応が薄い。

 というか、皆無だ。


 転がして顔を見ると、口が開かれてデロリと舌が垂れる。

 そこには、〝ハズレ〟と冗談の様に書かれていた。


「……バレてたみたい。

 でも、出来は良いね。匂いも感触もお兄にそっくり。

 持って帰って抱き枕にして良いかな?」

「その前にお仕置きだ」


 背後に忍び寄っていた刹那が、無警戒だった美影に圧し掛かる。


「ぐえ。お兄、おーもーいー」


 ぱたぱたと手足をばたつかせるが、上に乗っかった刹那は微動だにしない。

 少しして美影が抵抗を諦めた所で、刹那はベッドの上に座る様に姿勢を変え、その膝の上に義妹を載せる。


「あと三年待てというに。堪え性のない娘だなー」


 そう言いながら、彼女の脇腹に魔の手を伸ばす。


「アッハハハハハハハハハハハ! お、お兄! くすぐ、くすぐったいよぉ! アハハハ!」


 大笑する美影。


 脇腹をくすぐる事に満足した刹那は、次なる標的として彼女の顔へと手を伸ばした。

 柔らかい頬を両側から挟み込んでもみくちゃにしたり、犬にする様な手つきで頭を撫でたりとやりたい放題だ。


 しかし、美影もやられてばかりではない。


 隙を見て刹那の手を取ると、かぷっと噛み付く。


「いて」


 獲物の反撃に、魔の手が引いていく。

 美影は勝ち誇った顔を見せると、我が物顔で義兄の膝の上で転がって、その感触を堪能する。


 だが、一度は引いた魔手がそれで諦める筈がない。


 彼女がうつ伏せの態勢になった瞬間、後ろから伸ばされた手が両側から頭を包み込み、その口の端に指を引っ掛けて引っ張り始めた。


「うみー!」


 面白いくらいに伸びる頬に興が乗った刹那は、そのまま上に下に、右に左にと動かして楽しむ。

 やがて頭を振って振り解いた美影は、身体の下にバネでも仕込んでいたように飛び上がると、先とは逆に刹那を倒してその上に圧し掛かった。


 彼の胸元に顔を寄せ、その温度と匂いに満足げな顔をする美影。


 刹那は、そんな彼女の頭を優しく撫でる。


 偉大にして愛しい守護者に抱き止められている。

 そんな安心感に包まれた美影は、いつしか眠気を覚え、彼の腕の中で寝入ってしまうのだった。


~~~~~~~~~~


「……寝たか」


 己を布団代わりにしながら穏やかな寝息を立てる美影を、刹那は壊れ物を扱うようにとても優しく撫でる。

 念力で毛布を引き寄せ、彼女を包み込んであげる。


 じゃれ合いの中で触診してみた所、黒雷による細胞断裂症状は既に完治しているようだ。

 だが、闘病生活の所為で体力が落ちているらしい。

 この程度で疲労感を覚えて寝てしまうなど、今までの美影ではあり得なかった。


「いや、体力……ではないか」


 じっと見つめる。

 見通す視線が焦点を合わせるのは、彼女の肉体ではなく、それを動かす魂魄。


 弾けんばかりに活動していた以前のそれとは比べるまでもない程に、今の美影の魂魄は弱っている。

 これも時間と共に回復はしているのだが、肉体の損傷に比べてどうにも治癒が遅い。

 この分だと、しばらくは疲れ易く病弱な調子が続くだろう。


「可愛い愚妹の為だ。仕方ない」


 言って、自身との霊的なラインを繋げる。

 そこから自分の魂魄エネルギーを注ぎ込み、美影のそれを賦活させる。


 超能力的な意味合いで親子であり、また美影が刹那に対して一切の拒絶を抱いていないからこそ出来る裏技だ。

 ゆっくりと、優しく、労わる様に、負荷がかからないように少しずつ注入していく。

 徐々に元の力を取り戻していく美影の魂魄。


 十分に元気を取り戻した所でラインを切断した刹那は、満足げに微笑むと、彼もまた消費した魂魄エネルギーを回復させるように眠りに落ちていった。


~~~~~~~~~~


「ふ、あ~~~……」


 欠伸をして、固まった身体を伸ばして解しながら、美影は起き上がる。


 なんとなく調子が良い気がする。

 ちょっとぶりに全身から疲労感が抜け、気分爽快元気溌剌な気分だ。


「……お兄と寝たからかな?」


 であれば、これからは毎日でも兄と一緒に寝よう、などと思いつつ、周囲を見回す。


 ベッドの中には、既に刹那の姿はない。

 どうやら一足早く起床したらしい。


 寝ぼけ眼で周囲を探っていると、デスクライトのみを頼りに何やら書き物をしている刹那を見つける。

 美影を起こさないよう注意したのだろう。


 彼女は、小さく電撃を飛ばして、遠隔で電灯のスイッチを入れる。


 室内が明るくなった事で、美影の起床に気付いたのだろう。

 刹那は書き物の手を止め、ベッドの上に顔を向ける。


「ふむ。起きたようだね。調子はどうかな?」

「ばっちぐー。久し振りに爽快な気分だね」


 答えながら、刹那の傍に寄る美影。

 手の届く距離まで来た所で刹那に捕獲され、彼の膝の上に載せられる。


「ドーナツがあるが、食べるか?」


 何処からともなく出現したドーナツを掲げる刹那。


「食べるー」


 ひな鳥の様に口を開けて待つ美影に、彼は一つ取って食べさせる。

 むぐむぐ、と咀嚼しつつ、刹那が作業していた机の上を見る。


 周囲の室内と同じく、雑多に物が積み重ねられた空間。

 だが、その中で一際目立つ物が中心に浮かんでいる。


 それは、一個のインゴット。

 不思議な光沢を持つそれの正体は、《ステラタイト(仮)》だ。


「……で、どうなの、これ?」

「分からん事ばかりだが、取り敢えず強度は馬鹿みたいに高いぞ」

「どのくらい?」

「俺が本気出しても一ミリも曲げられないくらい」


 その答えに、美影は目を丸くする。

 刹那の本気が、地球を余裕で爆砕するレベルだと知っている身としては、信じられない様な話だ。


「……ちょっと試していい?」

「構わないぞ」


 許可が出たので、インゴットを取り上げる。


 魔力が属性に関わらず身体強化術式を使えるように、超能力にもデフォルトで肉体活性の特典がある。

 鍛えれば鍛えるほどにその上限は上がっていき、今の美影ならば山河を砕くほどの剛力を発揮できる。


「ふん! ぐぎぎぎぎ!」


 その剛力を以て、《ステラタイト(仮)》を捻じ曲げようとする。

 しかし、びくともしない。

 もう少しでなんとかなりそう、とか、そんな事すら思えない程に硬い。


「駄目。全然、手応え無し」


 魔力も解放して、二つの身体強化を行ったとしても歯が立ちそうもない気配がする。


 机の上にインゴットを投げ出す美影。


「何これ。ほんとに」

「俺も分からんのだよな。

 熱しても殴っても、まるで変形しないから加工が大変で大変で」

「どうやってんの?」

「こうやって……」


 刹那がインゴットに触れると、その指が金属の中に沈みこんだ。

 いや、正確には沈んだのではなく、同化した、という言葉が正しい。


「変身能力で同化してな。

 直接形を整えては切断する、という事を繰り返しているのだよ」

「面倒なのか、逆に手っ取り早いのか……」


 悩むところである。


でも、週一にペースは落とすからな!

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