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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
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コイバナ=パジャマパーティ(前編)

 程好く時間も経過し、惑星ノエリアにおける標準時刻において夜間と言える時間帯となる。


 宇宙空間故に日の光など、時間経過という点において何の役にも立たない上に、そもそも集まっている面々は世界中ありとあらゆる地域からやって来ているのだ。

 各々が基準とする時刻も違えば、そもそも夜行性だという者もいる以上、大した意味の無い話である。


 とはいえ、ここは、マジノライン終式の内部。

 言うなれば、異星の人間種の飛び地とでも言える場所なので、その内部運営に合わせるべきだろう。


 雷裂兄妹たちとて、その気になれば不眠不休で幾日も動き続けられるとはいえ、余裕があるならば眠っておく方がパフォーマンスを高く保ち続けられる事に変わりない。

 特に、美雲は美容を気にする性質なので、緊急時だろうと構わず、割とマイペースに寝てしまうのだ。


 という訳で、夜も更けてきた所で会議そのものはお開きとなり、寝室へと移動していた。


「さぁ、女の子のパジャマパーティだよ! コイバナしよう!」


 個室ではなく、何故か大広間に雑魚寝という対応をされた結果、もう寝ようというのにもかかわらずテンション高く、美影はそんな事をのたまう。


「…………それがしたかったの?」

「うん」


 だから、雑魚寝なのである。

 気分は完全に修学旅行中の女学生であった。


 半目となった姉の視線もスルーして、建前を語る。


「ほらほら、異文化交流による相互理解って奴だよ。僕たちはお互いの事を知らなさ過ぎる感じじゃん? だから、コイバナで交流しよう」


 確かに、種族繁栄に繁殖が不可欠である以上、それは文化様式に大きく関わる要素と言える。

 配偶者に求める物の条件は、時代や文化の価値観を理解する為には、中々に重要なものだ。


 建前としては、存外に真っ当なものである。


 明確な反対の声は上がらない。

 現地人たちはある程度はお互いに知っているが、最も謎なのは人間種にして全くの未知の存在である雷裂の姉妹である。

 異星人である彼女たちは、惑星ノエリアの住民からすれば、理解の外にあると言って良い。

 その謎のベールが僅かなりとも明らかになると言うならば、少しくらい付き合っても良いと思えた。

 仮にも魔物領域調査員という職に就いている者の、職業病でもある。

 深く掘り下げない方が良い事もあるだろうに。


 やや腑に落ちない空気はものの、ある程度の理解を得られた事に満足した美影は、直近で恋愛をやっているツムギへと水をやる。


「ねねっ、鬼ちゃん鬼ちゃん。君、どうして狼君を選んだの?」

「えー、あたしからー?」

「うんうん。だって、僕からすると狼君に魅力感じないし」


 自分と同類だと思えたツムギだが、しかし伴侶として選ぼうとしている男は、美影にとって範疇外極まりない人物である。

 人物としては好ましい方だが、伴侶としては失格判定だ。


 それに文句がある訳ではない。

 自分だって、他人から見ると絶対に御断りされるであろう刹那へと、全力の愛情を傾けているのだ。

 その趣味を他人からどうこう言われる程、煩わしいものだと理解している。


 だから、これはただの興味である。

 何処に惹かれたのか。その情動を知る事こそが、理解への第一歩なのだから。


「まぁー、そうだねー。あたしも、さいしょはあんまりひかれなかったかなー」


 少し考えながら、隠すことでもないとツムギはゆっくりと語り始める。


「っていうかー、そもそもさー、カゲちゃんは〝れいき〟についてどれくらいしってんのー?」


 そもそも、それを知らなければ、何を話せば良いのかも微妙だ。


 他の面子は、自分達の文化様式について、ある程度の理解がある事は確かめずとも分かる。

 それくらいの知識も無ければ、調査員という職業を続けていく事は出来ないのだ。

 トップに立っている面々であるが故に、それくらいは常識として知っているに違いない。


 だが、美影たちは違う。

 ツムギらの要請によって、調査員としての実績を積んであるのだが、やっていたのは塩漬けに近い形で放置されていた領域を、片っ端から踏破していただけだ。

 全くの未踏に近かったが故に、内部情報を生きて持ち帰るだけで十分な実績となり、本人の知識量などは、あまり関係ない。


 その為、どれくらいの知識があるのか、まるで分からない。


 問われた美影は、軽く記憶を漁って答える。


「んー、恐竜から進化したとか、それくらいかな? あとは、肉体派閥と魔法派閥に分かれてるとか、それくらい?」

「そんなもんかー。じゃあー、〝けっこん〟と〝こづくり〟がべつわく、ってことはしらないかなー?」

「そうなの?」


 地球人にとって、結婚と繁殖はセットである。

 例外的な事例は多々あるが、基本的にはそのプロセスを経て行われるものだ。


 だから、別物だと言うのが、いきなり予想外であった。


「れいきはねー、こづくりじたいがこくさくなんだよねー」


 曰く、霊鬼種においては、新時代の担い手を創出する為に、全国民の遺伝子データを政府が保存し、差異的な組み合わせを上から命じているのだという。


「れんあいはじゆーだし、けっこんもいいんだけど、めいれいがあったら、どんなあいてだろうと、こどもをつくらないといけないんだよねー」

「……それはまた、凄まじいわね」


 ある意味、珍しくもない話だと美雲は思う。

 だが、それは姉妹が〝雷裂〟であり同時に〝八魔〟だからこその感想だ。


 有史以前より原始的な手法によるものだが、意図的な遺伝子交配を続け、より優秀な血統を作ってきた一族であるが故に、それをする事に忌避感はない。

 八魔の他家も、似たような感想を持ってくれるだろう。

 彼らの歴史は、自分達に比べれば浅くはあるが、それでも二百年間、真面目に血統の配合をしてきたのだ。

 遺伝子工学などが発展していたからこそ、その速度は驚く程に早く進化の段階にまで至っている。

 今は刹那の新技術に押されてしまっているが、あと百年も諦めずに続ければ、きっとまた彼らの時代に巡ってくるだろう程だ。


 だから、自分達はその有用性などに納得と理解を示す。


 だが、それは例外的な話であり、全人類には適応されない。

 ほとんどの人間は、自由というものに囚われ、上から強制される事を嫌う。

 特に、それが生殖ともなれば、禁忌にも等しい嫌悪感を表すだろう。


 しかししかし、霊鬼種は全国民に強いており、その上で上手く回しているというのだから、常軌を逸している。


 少なくとも、一般人代表として、美雲はそう思った。


「あたしもー、まぁー、そのうち、どこかのだれかのこどもはうまされるだろうねー」


 ケラケラ、と、それがどうという事でも無いようにツムギは言う。


 その未来は、確定事項だ。

 彼女は、血の重ね合わせの成功例、霊鬼の才媛である。

 様々な突然変異のデータも取る為に、最低でも十人くらいは、別の父親を持つ子供を生産む事になるだろう。

 あるいは、もっともっと多いかもしれない。


 それが常識で普通の中で育ってきたが故に、彼女はそれをどうとも思わないが。

 どうせ、産んだ子供は政府が引き取り、自分が養育する可能性は限りなく低いのだし。


 義務さえ果たすならば、恋愛は自由なのだから、怒る理由もない。


「ふぅーん。まぁ、そういう事もあるのかー」


 美影も、ある程度、理解を示す。


 彼女も、至宝と呼ばれている程の〝血〟を持っている。

 故に、そういう要請は無くもない。

 彼女自身の破壊力が高過ぎるので、誰にも強制できていないだけで。


 尤も、必要は分かるので、己の遺伝子サンプルからクローンを作ったり、人工受精等をする事に関しては見てみぬ振りをするつもりだ。

 きっと、諦めた頃に、本家の古株連中はそんな事をし始めるだろう。


「でー、あたしってさー、そんなののはてにうまれたわけでねー。おかげで、おひめさまみたいにかわいがられてんだよねー」


 現在、唯一の成功例として、とても歓迎されているし、大事にされている。


 それは嬉しい事だ。

 誰も彼もからチヤホヤされて楽しくない理由はない。


 だが、それ故に恋愛感情を抱けないだけだ。


「みんなねー、じぶんとはちがういきものだー、って、そんなめでみるんだよねー」


 あれは成功例だから、あれは才媛だから、あれは才能があるから、だから自分なんかとは違う。

 そういう諦めにも似た感情が、皆の心にはある。


 別にそれは良い。

 実際に、自分と他人を比較すれば、その性能差はそれ程に圧倒的だから。

 間違った所は何処にも無い。


 だが、そんなのに惚れる訳も無い訳で。


 召し使いとしては合格の心情だが、恋人としては落第の心情であろう。


 だから、ツムギは自分は恋愛をしないだろうと、ずっと思っていた。


「なのに、狼君は選んだの?」

「うん、だって、ガルドくん、すっっっごい、こんじょーはいってんじゃんー?」


 ツムギを、美影を、自分よりも強い誰かを、決して諦めの目で見ていない。

 いつか絶対に超えてやる、と、そんなガッツを見せている。


 何度殴り倒されようとも、何度張り倒されようとも、雑草根性で立ち上がっては立ち向かっていくのだ。


 諦めて、最初から追い付こうともしない連中しか見られなかったツムギの目には、そんなガルドルフの姿は輝いて見えたのである。


 だから、彼の修行に親身に付き合う気になったし、そうしている内に自分がゆっくりと恋心を抱いている事にも気付いたのだ。


「カッコいいって、おもったんだー。だから、ガルドくんをえらんだんだよー」

「……ふぅーん、成程ねー」


 ツムギの心の変遷を聞いて、美影は納得顔で頷く。

 実に得心の行く話だった。


(……お兄と出会わなかったら、そうなってた……かな?)


 美影は、追い掛けられるよりも、追い掛ける方が好きだ。

 だから、巨峰の高みにある刹那に、一目惚れに近いレベルで恋をした。


 だが、もしも、刹那と出会う事なく過ごしていたら、どうだっただろうか。


 追い掛ける目標がなく、結果、根性入れて追い掛けてくる誰かを選んだかもしれない。

 妥協の心で。


 嫌な未来だな、と、個人的には思う。


 とはいえ、それは個人的な好みの話。


「むふふ、ガルドくんとのこどもは、きっとつよくなるよー。しん、ぎ、たい、ぜんぶそろったせんしになるよー、きっと」


 本人が幸せそうなのだから、きっとそれは間違った選択肢ではないのだろう。

思っていた以上に長くなった(いつもの事)。

という訳で、前編(霊鬼の恋愛)、後編(天翼の恋愛)、惨劇(人間と妖魔の恋愛)の三本立てでお送りする予定です。


……最後が不穏? だって、人間代表がうちのヒロインよ?

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