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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
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神の方舟

「さてさて、程好く歓談した事で友好を築けただろう。では、早速に話を始めよう」

「溝が深まった、の間違いでは御座いませんか?」


 ラヴィリアの振るう真実の剣は無視された。


「私は以心伝心という言葉が嫌いでね。冗長で迂遠な表現は排して、単刀直入に本題へと入らせて貰う」


 そう言って、刹那は端的に全ての根幹となる最終目標を語る。


「我々が異星人だという事は、確か聞いていた筈だね。では、何故やって来たのか。君たちの星を、惑星ノエリアを滅ぼす為だ。その為に、私たちはやってきた」

「「「っ!!?」」」


 その言葉に、緊張感が一気に高まった。

 誰もが自らの武器に手を置いて魔力を高めており、いつでも刹那を殺せる体勢へと移行する。

 その反応は予想の範疇内だし、その反応の速さは、そうでなければ話を持ち掛ける価値もないと満足の行くものであった。


 だから、彼はそれを気にしない。

 むしろ好ましく思っていると、殺意を秘めた強張った声が先を促す。


「……話を聞かせて貰おうではないか。次第によっては……」

「刺し違えてでも、か。フッ、良い覚悟だ。モルモット風情よりも、よほど好ましい」


 命を賭してでも、守るべき物の為に外敵を排除する。


 その確かな覚悟を秘めた声に、彼は敬意を払う。

 彼とて、同じだ。

 その守るべき対象が雷裂の姉妹に限定されているだけで、同じように脅威が迫れば、彼もまた命を投げ捨てて挑むだろう。


 良い。大変に素晴らしい。


 全てを他人の所為にして、自助努力の欠片も見受けられない無能に比べれば、いや比べ物にならない程に高潔な魂である。


「うむ、言葉が通じる程度には理性的で嬉しいよ。たとえ、言葉で何も解決できなくともね」

「御託は必要御座いません。本題を」

「ああ、そうだったね。そうだ、そうだとも。私たちは、目的あって君たちの星を滅ぼしに来た」

「怨恨……という風ではないであるデスネ」

「そうとも。君たちに恨みはない。憎しみもね。むしろ、好意的に思っている。しかし、滅ぼす。そうでなければ、我々の未来が消えてしまうからだ」

「? どういう事に御座いますか?」


 資源などを狙って植民地化を目指す、と言うのならば理解も出来る。

 だが、刹那はあくまでも星を滅ぼす事をこそ目指しているらしい。

 それでは奪うべき何かも消えてしまうだろう。


 あるいは、将来的に惑星同士の衝突でも起こるというのだろうか。

 しかし、それ程の近所に居住可能な惑星があるという話は、寡聞にして耳にしていない。

 遠い遠い未来にそういう運命があるのかもしれないが、しかしそれ程に遠い話ならば、まだ歩み寄り、相互の努力で回避しうる可能性もある。


 それらを無視して、いきなり破壊滅亡へと繋がるのは、短絡的に過ぎる。


 様々な可能性が脳裏に過り、理解が追い付かなかった面々は、一様に首を傾げてしまう。


「ああ、認識の違いがある事は理解している。その根本の原因を、正しておこう」


 刹那は、疑問の理由を理解している。

 相互理解の最も手っ取り早い手段は、言葉を惜しまない事と、言葉を飾らない事だ。

 だから、彼は率直に言う。


「私たちは、異星人であり、そして未来人なのだよ」

「…………なに?」

「おおよそ二百年後。その未来からやって来たのだよ」


 異星人にして、未来人とは。

 SF要素を詰め込み過ぎではなかろうか、と聞いている者たちは混乱しつつ思う。


 だがしかし、そうだとするならば、確かに理解に及ぶ。


「……つまり、二百年の未来では、我々の星は滅んでいると言うので御座いますか?」

「その通りだ。現時点において、我らが故郷である地球と、君たちの惑星ノエリアは、何の関係も無い。遠い銀河の果てどころか、所属する銀河系すらも異なるのだからね。関係のしようがない」


 一応、ここからでも地球は観測できるのだが、離れている距離が距離であるが故に、見える姿はいまだ生命の発祥していない原始惑星としての姿である。

 それくらいに離れている。


「簡潔に言おう。我々の歴史では、惑星ノエリアはこの時代、この時において滅んでいた。そして、その生存者が地球へと逃れてくる事で、新たな文明が花開くという流れを取っている」

「……滅んで貰わなくては、困るという事であるデスネ」

「そう、その通り。我々が過去に落ちてきた事態は偶然だが、そこでとてもではないが、惑星ノエリアがすぐさまに滅んでしまう状況ではないと知ってしまった。それは、我々の歴史を覆してしまう大問題である。理解できるね?」

「……理解はしてやろう。但し、貴様の言葉には証拠がない」


 成程、行動理由は確かに理解できる。

 自分たちにとっては不都合な未来だが、それが理由ならば、恨みも憎しみも無いが滅んで貰わなくてはならないだろう。


 未来からやって来た、という事も決して空想妄想と否定できるものではない。

 少なくとも、精霊種や天竜種の者たちは、その可能性を否定した事が一度も無い。


〝――自分には出来ないが、出来る者もいる〟


 それが、共通した時間移動に対する回答だ。

 ならば、技術の発展によっては可能となる物なのだろう。


 だが、そこまでだ。


 それ以上が無い。

 刹那たちが未来からやって来たという証拠も無ければ、歴史に対する証明も無い。


 信じられない、というのが本音である。


「そうだろうね。故に、君たちの信じられる証人を用意してある」


 言って、刹那は何処からともなく、不細工な造形の猫の置物を取り出してみせた。


「……それが、何だと言うのだ」


 一見して、それが何だと言うのか、ほとんどの者たちが理解できない。


 だが、例外もいる。


 ガタリ、と椅子を蹴飛ばして身を乗り出し、それを凝視する者がいる。


 ラヴィリアと、妖精種の者だ。

 二人は、両者ともに精霊種に近しい種族である。

 天翼種は始祖精霊がその手でデザインして生まれた種族であり、妖精種は親族に精霊を持つ種族なのだ。

 だから、彼女たちには分かる、分かってしまう。


 二人は、信じられないと驚愕に目を見開きながら、震える声でその正体に言及した。


「そ、そんな……まさか……」

「ノ、ノエリア……様に、御座いますか……?」

「「「はっ?」」」


 何言ってんだこいつ、という顔を皆がした。


 それもそうだろう。

 原初星霊ノエリアと言えば、星の名と同じ名前を持っている事からも分かる通り、彼らにとっては実在する神にも等しい存在である。

 精霊種どころか、全ての生命の祖であり、今の繁栄があるのも、全ては彼女の功績と言っても良い精霊だ。


「うむ、その通りじゃ。我こそが、原初の精霊、ノエリアである」

「嘘を! 言うでないわッ! ノエリア様は、星の核にて眠っていると聞いている!」


 当然、名乗った所で信用される訳がない。


 刹那は、役に立たない置物へと、冷ややかな視線を向けた。

 目玉が現在無かったので、わざわざ剥き出しの脳ミソにたくさん生やして、全ての眼球で睨みつけるという芸の細かさである。


「貴様の信用の無さにはガッカリだよ」

「……そうは言うが、唐突に猫の置物になっていては、早々我と断定は出来まい」

「私は、どんな姿になっていようと、名乗れば大体信じて貰えるのだがね」

「いや、貴様のような不定形生物と一緒にされては困るのじゃが……」


 特定の姿を持たない事が、一番の特徴という摩訶不思議な生命体である。

 刹那の事を知っている地球の有力者たちは、その認識をしっかりと持っている為に、よく分からん謎物体が〝刹那である〟と名乗れば、基本的に信じてくれるのだ。

 むしろ、真っ当な人の姿をしている方が胡散臭い目で見られる有様である。


「ええい、口答えをするな。とっとと姿を現すが良い。ここならば、問題は無いのだろうが」

「……仕方ないのぅ」


 このままでは話が進まないし、あくまでもこの話し合いは、種の存続を目的としたものだ。

 故に、ノエリアとしては協力を躊躇する理由も無い。


 猫置物から魔力がゆらりと立ち上る。

 無色だったそれは、徐々に色を帯び、形を成していく。


 そうして出来上がったのは、十枚の光翼を背負い、複雑な形を描く天輪を掲げ、オーロラのような髪を揺らす一柱の精霊だ。


「っ、失礼を……!」


 途端、ノエリア出身の者たちが席を立って跪いた。


 姿だけの話ではない。

 感じられる魔力が、まさしく原初星霊ノエリアの物だった。何処までも穏やかで、全てを包み込むような、絶対の信頼を寄せる母が如き雰囲気を持っており、疑う余地など何処にも無い。


 かしこまる者たちに、ノエリアは鷹揚に言葉を贈る。


「礼を示さずとも好い。我は、敗残者に過ぎぬからの」

「で、では、まさか、その者らの星へと落ち延びた生存者と言うのは……」

「我の事じゃ。汝らには何の事か分からぬじゃろうが、謝らせておくれ」


 言って、彼女は深々と頭を下げる。


「情けない守護者で、すまなかった。力及ばず、そなたらの運命を救えなかった。誠に申し訳ない」


 神に等しき者が、足元にも及ばない者たちへと、真摯に謝罪する。


 それが、どれ程の事なのか。

 ノエリア本人の性格は知らずとも、始祖精霊や天竜たちを知っている彼らは、よくよく理解できる。


 つまりは、それ程の惨劇が起きたという事だ。


「…………ノエリア様、教えていただきたい。何があったので御座いますか。何故、我らの星は滅んだのですか」


 ラヴィリアは、天翼種――始祖精霊に創られた者である。

 だから、精霊への敬意は、どの種族よりも高く深い。


 彼女は、厳しい視線を刹那たち、地球人へと向ける。


「その者らが、貴女様のお顔を曇らせているので御座いましょうか」

「……こやつらを責めてくれるな。遠因ではあるが、しかし直接的な原因ではない」


 滅ぼしたのは、あくまでも〝星を喰らう獣〟である。

 刹那たちは、その背を押して、いつか訪れる未来を速めただけに過ぎない。


 だから、ノエリアは一応は彼らを庇う。


「……そう、ですか。ならば……良いのです」

「では、何があったのか。話していただきたい。滅びを回避する手段はあるのですか?」

「……すまぬ。それは詳しく語れぬ」

「何故であるデスカ?」

「こやつらとの契約じゃ。我は傍観者でいる事。それを条件に、この〝方舟〟を用意して貰ったのじゃ」

「そういう事だ。悪いが、その辺りの事は遠慮して貰おう。私たちの事情を理解してくれれば、それで良い」

「…………納得はいかんが、無理に聞き出せる訳も無し、か」


 実力として、それが難しい事は分かり切っている。

 ノエリアに対しては敬意もあるので、そういう事はしたくないし、地球人組に対してそれが出来るならば、わざわざそんな面倒な事はせずにさっさと殺してしまった方が早いのだから。


 だから、語る気がないと言うのならば、諦めるしかない。


「それで、つまりはこの場は宣戦布告のつもりなのか?」

「それもある。しかし、それだけではない」


 宣戦布告(それ)自体は、もう精霊と天竜を相手にしている。

 とうに戦争は始まっているのだ。


 これは、当事者にもかかわらず、蚊帳の外に置かれてしまっているその他の種族への配慮なのだ。

 正確には、様々な恩恵をもたらしているノエリアへの配慮だが。


「我々は、君たちの星を滅ぼす。これは決定事項だ。精霊や天竜、君たちも含めて抵抗はするだろうが、しかしその運命を覆す事は不可能だ。何故ならば、歴史は私たちの味方だからね」

「…………」


 既に、答えを知っているのだ。

 それが、未来人である事のアドバンテージである。

 もはや、何をどうした所で止められるようなものではない。


「だが、先ほども言ったように、私たちは、君たちに対して恨みも憎しみも持っていない。むしろ好意的に見ている。故に、諸共に滅ぼしてしまうには惜しいと思っている」

「……慈悲、という事であるデスカ?」

「私たちではなく、君たちの神の慈悲だがね」


 そういう事にしておいた方が、乗り易いだろう。

 実際にそういう面もあるのだから。

 地球人的には、知的異種族の確保がしたいという、好奇心の思惑が主であり、素直に言えば反感を買うのは目に見えているのだし。


「この〝方舟〟は、恒星間移民船だ。世代さえも超えて星々の海を渡り行く為の船だよ。その目的は、まさに星からの脱出だ」


 言って、手を差し出す。


「君たちに進呈しよう。それが、この妖怪猫との契約故に」

「…………無条件って訳じゃあ、ないであるデスネ?」


 不審げに、スピリが訊ねる。

 ノエリアの契約と言っているというのに、それをまともに信じていない問いかけである。


「全く、疑り深いピエロだね。無償だよ、当然」

「……信用なりませんね」

「ふむ、まぁ、恩を感じてくれているのならば、少しばかり協力が欲しいとは思うがね」

「星の滅亡に、手は貸さんぞ」

「そんな事、望まないよ」


 そこまでの譲歩は求めていない。どうせ無理だろうと分かっている。

 だから、もう少しばかり、譲歩できる提案をする。


「私たちに喧嘩を売ってこないで欲しい。ただ、それだけだ」

「……それだけか?」

「それだけだ。なにせ、これから精霊と天竜どもを相手にしなければならないのでね。君たちまで相手にしている余裕がない。既に仕込みは済んでいるので、今更私たちを排除した所で滅亡は止められないのだが、しかし私たちも死にたくはないのだよ」

「……フム。それ以外では、好きにしてイイと?」

「構わない。滅亡の後押しをしようと、抵抗しようと、それとも最初から諦めて傍観していようと、全て好きにして良い」

「悪い話では……ないな。すぐに返答出来るものではないが」

「無論、自国へと持ち帰って話し合ってくれて構わないよ。君たちを絶滅させたくないという気持ちは本心なのでね。協力できる部分では、私たちからも歩み寄ろうではないか」


 余裕があるのならば、それをするに吝かではない。

 出来れば、全種族コンプリートしたい所である。

17時にもう一話投下しまーす。


鑑賞会まで行けなかったので、鑑賞会まで行きます。

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