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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
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ガラス玉の瞳

本当は、前置き程度で、あっちサイドの前哨戦まで書くつもりだった。


しかし、いつもの何故か長くなってしまう病が発症してしまったので、一話として独立させます。

 異形の化け物に飲み込まれた一人と三人の他、仕掛人二人組を除いた五人もまた、別の場所へと転移させられていた。


 洞窟のような岩肌は変わらない。

 足場だけが異様に整えられている以外は、壁も天井も天然の岩肌だ。


 だが、一方で明らかに違う点がある。


 明かりだ。

 真昼のように明るく照らし出されており、周囲を把握する事に不都合の無いようにされていた。


「な、なんじゃあ……!?」


 乱暴に放り出された彼らは、それでも超一流に属する者たちである。

 戸惑いながらもしっかりと着地して、各々が自らの武器を構え、言葉を交わさずとも別々の方向にバラけて警戒を飛ばしていた。


 その警戒が、即座にそこにいる人物を見つけ出す。

 というか、隠れてすらいないので、警戒するまでもなく周囲を見れば見つけられただろうが。


 金色に一筋の銀が混じった女性。

 整った顔立ちに柔和な笑みを浮かべているそれは、何かが化けているのでもなければ、間違いなく人間種であった。


「突然の送迎、深くお詫びします。ようこそ、私たちの秘密基地へ。歓迎いたします」

「ゴッブ、ゴッブ」

「「「…………」」」


 取り敢えず、彼女の隣でコミカルに存在をアピールしているゴブリンが気になる。


 薄汚さは無い。

 身綺麗にしており、身に纏う衣もボロではなく、しっかりとした仕立ての衣装だ。

 衣装だけを切り取れば、執事か何かのように見えるだろう。

 中身が紛う事なきゴブリンな為に、どうにも現実感が薄いが。


「跳ねてないで、お客様のおもてなしをしなさいねー」

「ゴブッ!?」


 強烈なビンタがゴブリンの横面に炸裂した。トリプルアクセルを決めながら吹き飛んだ彼だったが、しかし回転の勢いを上手く殺した華麗な着地を見せて、女性へと得意気にニヤリと笑う。


 無言の銃撃。


「ゴブーッ!?」


 足元を狙ったそれを跳ねて躱したゴブリンは、一目散に退散していった。


「えっと……」

「あ、申し遅れました。私、ミクモと申します。見ての通りにごく普通の人間種ですよ。皆さんが目撃した輩どもと違って」


 置いてけぼりにされている面々を、当たり前のように無視して為される自己紹介に、ようやく思考が追い付いてきた彼らは、警戒心から不審感、あるいは普通の姿への安堵感など、様々な感情を心に抱きつつ、問いかける。


「そんじゃあ、おぬしがガルドルフやツムギの言うとった()()()、という事でええんかのぅ?」


 挑発的に蔑称を強調して言うが、美雲に特に気にした様子はなく、頬に手を当てて吐息するだけだった。


「ええ、そうですね。私はオマケですけれど。本命は、皆さまがご覧になられた、ちょっと特殊な形をした者と、雷を宿した娘です」

「……ちょっと?」

「ええ、ちょっと」


 あの怪物の姿を〝ちょっと〟で押し通す美雲。

 きちんと確認した訳ではないが、本人の申告では人間が所有するパーツだけを用いて構成されているらしいので、もうそれで良いのだ。

 美雲は困らないし。


「……成程、…………成程」


 受け答えしながら、彼らはある種の納得を得ていた。


 自分たちの知る人間種とは違う、と。


 それは、先の怪物や、上位種の精鋭にも全く引けを取らない娘だけではない。

 目の前の人間種の女も、確かに違う。


 何が違うのか。

 それは、目が違う。


 美雲は微笑んでいる。

 とても美しく、愛嬌を感じさせる笑みだ。

 一見すれば、友好的な笑みだと大多数の者が心を緩めるだろう。


 だが、この場にいる者たちは、数多の経験値を持つ歴戦の調査員たちである。

 様々なモノを見てきた彼らの目には、その笑みが表面上の物であり、彼女の目に浮かんでいる物こそが、美雲という女の本質なのだと見抜いていた。


 その本質とは、即ち、無関心。


 友好はない。嫌悪もない。尊敬はない。侮蔑もない。

 優越感もなければ、劣等感さえもない。


 彼女の目は、こちらの何も映していなかった。


 ガラス玉のような目とは、成程、こういうものを言うのだな、と妙な感心を抱いてしまう程だ。


 最下位の劣等種として、長く貶められてきた人間種が、他種族に向ける感情としては有り得ないものである。

 ガルドルフとツムギの言っていた、エイリアンであるという言葉が、真実味を帯びて彼らの心に落ち着いてくる。


「ゴブーッ」


 その様な問答をしていると、何処かへと走り去っていったゴブリンが戻って来た。

 その手には、大きなお盆を持っており、様々な茶器を載せている。


「さて、皆さま。本日、お呼びしたのは、我々のデモンストレーションの為で御座います」

「デモンストレーション……?」

「ええ、狼君や鬼ちゃんの言う事には、まずは実力を認めさせないと話にならない、という事でしたので……」


 人間種が劣等種である、という認識は根強い。ガルドルフやツムギが、違う連中がいる、と言っても、そうすんなりと認められるものではないのだ。


 ならば、どうするのか。


 実際に、見て貰い、体験して貰うしかない。


 美雲が手元の端末を操作すると、正面の岩壁をスクリーンに、いくつもの映像が映し出された。


 前後左右、上下に至るまでが人骨で埋め尽くされた地獄のようなコロシアム。

 その中で舞い踊る、天使と悪魔と竜人、そして人間。


 彼らが戦い合う様を、いくつもの角度から撮影した、リアルタイム配信である。


「上映会です。我々の破壊力、とくとご覧あれ」


 あまりにも現実離れした光景に、彼らは口を半開きにしたまま見入ってしまった。

 三人の上位種の精鋭を相手に、たった一人の人間が一歩も引かずに渡り合うなどという事は、常識では有り得ないのだから。


 だから、だろう。


「ゴブッ」

「あ、ども」


 近付いてきたゴブリンが差し出してきた湯飲みとお菓子を、つい、無警戒に受け取ってしまったのだった。

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