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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
310/417

フラスコの中の小鬼(爆発物)

この物語の主人公勢は、決して〝正義〟ではありません。

良いですね?


という訳で、微リョナ注意。

描写しないその後を含めると、R18も追加で。

「ああ、そうだ。一つ、訊きたい事があったのだ」

「あぁ? ロクでもねぇ事かぁ?」

「何を言うか。目的の為の大いなる一手だよ」

「……ひていしなかったねー」


 批難の視線を軽くスルーした刹那は、問いを投げ掛ける。


「人間種の国で、とある条件に合致した土地を教えて欲しいのだよ」

「…………条件ってなぁ、一体何だぁ?」


 彼らが、同種族だからと言って無条件に好意的ではない事は、ガルドルフはよく理解している。むしろ、同種族だからこそ、余計に冷酷な対応をしている気配すら感じている。


 そんな奴からの、同種族の土地に関する質問である。

 どんな悪辣な事を企んでいるのかと、警戒せずにはいられない。


「そう警戒しないでくれたまえよ。君たちに被害は及ばない」

「つまりー、ハゲサルにはひがいがでるのかなー?」


 刹那は否定しなかった。

 代わりに、質問の詳細を語る。


「そうだね。程よく孤立しており、程よく寂れており、そう大した自衛能力がなく、まぁ簡潔に言って唐突に地図上から消えても、すぐさまには大騒ぎされないであろう、そんな村なり集落なりの所在を知りたいのだよ」

「あ、ああ? なんだぁ、その条件はよぅ」

「んー、りくのことう、ってかんじなのかなー? まぁ、さがせばどっかにあるとらおもうけど……」


 じとり、と、警戒するような責めるような、そんな視線を向けて、ツムギは問い質した。


「なにをするつもりなのかなー?」


 問われた刹那は、尊大に胸を張ると、我に恥じるもの無し、と言わんばかりに堂々と答える。


「ふっ、なに、簡単なことだとも。我が心の故郷に生まれし生物を解き放つ。それだけだ」


 彼は、何処からともなく、小瓶を取り出した。

 中には、掌に載せられるような小さな小さな緑色の体表を持つ人型生物が詰められている。

 フラスコの中の小人、ならぬ小鬼(爆発物)である。


 それが如何なる存在なのか、現地人組には理解できない。

 しかし、彼らの常識に照らし合わせれば、大した脅威には映らなかった。


 魔力を持っておらず、小瓶一つ割れない力しか持たず、つまり見た目相応の非力な小動物。


 そんなものである。


 だから、彼らは、今までの事に比べればあまりにも穏当に受け入れた。

 理解は追い付いていないが、そう変な事にはならないのではないか、と、甘く見てしまったのだ。


 刹那の背後で、その生物の由来や威力を知る姉妹二人が目を逸らしている姿に気付いていれば、もしかしたら嫌な予感に意地でも止めたかもしれない。


 だが、それはたらればの話であり、そうはならなかった。

 それだけが、非情な現実である。


「クックックッ、さぁ楽しくなってきたぞ。精霊ども、人間の業は何処までも罪深いと知るが良い」


 廃棄領域に生まれし怪物が、解き放たれた。


~~~~~~~~~~


 人間国。

 極圏に程近い過酷な土地の、その中でも更に狭い領域。

 それが、それだけが、全種族中最下位に序列される人間種の国家となる。


 凍土に包まれているか、あるいは不毛に近い荒野、あるいはあまりにも峻険な地形に囲まれており、ろくな発展の望めない土地か、そんな場所ばかりであり、当然、そんな限られた中で上を目指せる余力がある筈もない。

 日々を生き抜く事だけで精一杯な彼らは、周辺国から憐れみという援助を受けつつ、なんとか死なずにいるだけの乞食国家となっていた。


 そこも、そんな貧しい土地の例外に漏れていない場所であった。


 周囲を高い山脈に囲まれた盆地。

 そこだけは標高が低い事もあって永久凍土にはなっておらず、おかげでなんとか植物の育つ土壌があるものの、決して肥沃とは言えず、ごく小さな集落を養う事が限界だ。


 外界と繋がる道は、たったの二つだけ。


 一つは、雪深く峻険かつ強力な魔物の巣食う山脈越えルート。

 他種族の平均的な者でも高い死の危険性があり、当然、実力に劣る人間種では何らかの奇跡を期待しなければまず抜けられない道だ。

 もう一つは、ごく僅かに開いた横穴を拡張した洞窟ルート。

 こちらには明確な危険はないものの、非常に道が狭く、また上下の勾配がきつい為に、魔動車などでの往来は不可能となり、徒歩での移動を要請されるルートだ。


 どちらにせよ、中と外とでは別世界に近く、隔絶された土地であると言えた。


 しかし、そんな土地であっても、人の営みは存在する。

 そんな土地でも利用していかなければ、人間種は生き残れないのである。


~~~~~~~~~~


 リリムという名の少女がいる。

 彼女は、この閉ざされた盆地に存在する集落、総人口100人を割る限界集落に唯一いる若者だ。


 生まれつき豊富な魔力を持っており、同時にそれを上手く使う操作センスも持ち合わせた、辺境の田舎に出現した紛う事なき〝神童〟である。

 それは世界を知らない田舎村の評価ではなく、客観的に見た価値であり、もしも他種族の国に移住して適切な訓練を積めば、人間種への評価を見直すキッカケになり得ただろう程だ。


 だが、世界は彼女の成長を待ってはくれない。


 幼いリリムの実力はまだまだであり、そして偶然にもこの地は目を付けられてしまった。

 世界を滅ぼす邪悪の御使いに。


 だから、彼女の運命はここで終わる。

 何も為せないまま。何の希望もないまま。


~~~~~~~~~~


 リリムは、一人、森の中にいる。

 森と言っても、枯れ森に近い。厳寒の土地故に雪が積もっており、立ち並ぶ木々に葉はほとんど着いておらず、何よりもその密度が疎らとなっている。

 おかげで、森と言うには見通しが非常に良く、強力な魔物がいない事も含めて、子供一人で散策しても心配する事は無いだろう。


 尤も、彼女は既に大人顔負けの実力を才覚だけで身に付けているので、村の誰も心配などしていないのだが。


「……全く、もう! 目を離すとすぐに増えるんだから!」


 リリムは、悪態を吐きながら魔力を練り上げる。

 体外に飛び出したそれは、氷の槍衾となって周囲へと勢いよく放たれた。


 物騒な音を立てて木々の隙間を貫いていく。

 その中には、肉を貫く重く鈍い音が混じっており、併せて濁った断末魔の叫びが木霊した。


 見れば、たくさんのゴブリンたちが氷に貫かれて死んでいた。

 この盆地に唯一出没する魔物であり、村の人間たちと生存競争をする相手だ。


 何処から流れてくるのか、どれだけ潰しても、少し放置している内にいつの間にか増えており、こうして定期的に駆除しなければならない。


 よくよく目を凝らせば、木々に隠れるように、あるいは雪に隠れるように、あちらこちらにその姿が見受けられる。


「ギイッ!」

「ギャギャ!」


 仲間たちがやられた事に怒ったゴブリンたちが、リリムへと次々に殺到していく。


「あー、もう、鬱陶しい!」


 しかし、彼女には届かない。

 まだ卵とはいえ、優れた魔法使いの片鱗を見せているリリムにとって、ゴブリンなど脅威足りえないのだ。

 それこそ、津波のようにやってこない限り、群れた所で雑魚と変わりはない。


 殺戮である。

 作業のように淡々と殺し尽くしていく。


 やがて、周囲が赤く染まり切り、動く者がいなくなったところで、彼女は小さく息を吐いた。


「こんなものかしらね」


 増援が来なくなった事で、おそらくは成体のゴブリンは全て駆除できたのだろう。

 あとは、何処かにある巣穴を見つけて、子供に至るまで殺せば終わりである。


 こんな土地だ。

 巣に適しているような場所など限られている。

 リリムは、記憶を頼りに雪をかき分けていく。


「シャアッ!」


 一つ目の候補地へと近付くと、成体の半分程度の大きさしかない、薄い色合いのゴブリンが飛び出してきた。

 どうやら一発目で当たりを引いたらしい。


 運が良いと思いながら、彼女は迎撃する。


 気配を隠す事が上手い個体だったらしく、思いのほか距離が近かったが、何の問題もない。

 充分に間に合う位置だ。


 即座に氷の槍を作り出し、親たちと同じように一撃で絶命させる。


 物心付いた頃からやってきた、簡単な作業である。

 だからこそ、次の瞬間に起きた事が理解できなかった。


 心臓を貫かれた子ゴブリン。

 その矮躯が、突然、大きく風船のように膨れ上がったのだ。


「え?」


 意味が分からない。

 困惑を覚えるのも束の間、彼女の理解を置き去りにして事態は動き続ける。


 限界まで膨らんだ子ゴブリンが、内部から炎熱を以て弾け飛ぶ。

 それは衝撃を伴った派手な爆発であり、至近距離で受けたリリムを巻き込んで森を揺らした。


 何も分からないままに吹き飛ばされた彼女は、土砂と雪に塗れながら地に落ちる。


()っ……!? な、なに!?」


 致命傷ではないが、しかし無傷でもない。

 衝撃が内臓を揺らしたのか、腹の底からこみ上げる気持ち悪さがある。

 服はボロボロになり、肌には火傷の痕が付いていた。


 何が起きたのか。


 必死に答えを求める。

 だが、納得できる答えを見つける前に、絶望はやって来る。


 隠されていない足音が、無数に連なる。


 音に顔を上げれば、大量の子ゴブリンがリリムを取り囲んでいた。

 その数は、先の大人たちの数倍にもなるだろう。


 リリムの頬が引き攣る。


 通常のゴブリンならば、それが大人であろうとも、物の数ではない。

 だが、もしもあれら全てが先の子ゴブリンと同じであれば。

 殺した瞬間に爆発するのであれば。


 とても相手になどしていられない。


「くっ……!」


 反射的に身を翻して逃げようとするが、退路には既に子ゴブリンが壁となっており、背中からは若いメスを手に入れようと襲い来る者たちがいる。


「この……!」


 何がトリガーかは分からない。だが、少なくとも殺せば爆発する。

 なので、リリムは殺さずに、四肢を凍り付かせる事で拘束し、無力化させる。


 それが功を奏し、上手く数を減らせていく。


(……これなら!)


 行ける、そう思った瞬間の事だった。


 四肢を凍らされて転がっていた子ゴブリンの頭を、突撃してきた別の子ゴブリンが踏み潰してしまった。


 あっ、と思った時にはもう遅い。


 踏み潰された子ゴブリンが爆発する。

 そして、それに巻き込まれた他の子ゴブリンもまた、連鎖して爆発していった。


「キャァ――――ッッ!!?」


 連鎖する事でより強烈になった爆発力は、リリムを飲み込み、森の一角を大きく吹き飛ばしてしまう。


 あとには、クレーターが残るのみ。


 巻き上げられた土砂が、周囲へと降り注ぐ。

 それに混じって、リリムが落ちてきた。


 その姿は、あまりにも無残なものとなっていた。

 四肢は焼け焦げて炭屑のようになっており、胴体にも火傷痕や衝撃で飛んできた破片が突き刺さっていたりと、酷い有様である。

 なんとかガードを固めたのだが、それでも未熟な彼女では、ギリギリで命を繋ぐ事で精一杯だったのだ。


 痛みが全身を苛む。

 痛みで気絶できないだけだが、確かな意識はある。

 だが、立ち上がれない、動けない。


 泣きたい気持ちで一杯だ。


 だが、悲劇はこれで終わりなどではない。

 ここからが始まりである。


「ギギッ」

「ギャッ、ギャッ」


 ゴブリンの泣き声が、微かに聞こえた。

 爆発音で耳が遠くなっているが、それは聞こえた。


 そして、それは徐々に近付いてきて、遂にすぐ側にまで辿り着いた。


 黒く焦げた腕が掴まれるが、それは途中で崩れて千切れてしまう。

 代わりに、リリムの髪を掴んで持ち上げられた。


 リリムは、痛みを感じながらも、それに抗うだけの余力を持っていなかった。


 ゴブリンたちが、戦利品の獲得に歓喜の叫びを上げていく。

 才気溢れる少女は、彼らの巣穴へと連れ去られていった。


 他種族であろうと繁殖できるゴブリンの特性を脳裏に浮かべ、自身に待ち受ける運命に絶望を抱きながら。


~~~~~~~~~~~


「…………」

「…………」


 一部始終を見終えた獣と鬼は、絶句していた。


「いやー、良い感じになったんじゃない? これで、ここは餓鬼どもの楽園だね」

「ふっふっふっ、精霊どもへの良い目晦ましになろう。おっと、土着精霊が離れようとしているな。まだ駄目だよ、君」


 進み始めている悪事に、この地に住んでいた精霊が上位存在へと報告しようと飛び立とうとしたが、すぐさまに察知した刹那が、念力結界を張って阻止する。


 まだ計画は始まったばかりなのだ。

 軌道に乗る前に始祖精霊たちに知られて阻止されては堪らない。

 なので、隔離処置は必要なのだ。


「さて、感想は?」

「……これがチキュウ人のやり方かぁ?」

「そうとも。これが我々のやり方だ」

「こっちに来るなら、覚悟しといてね? 今まで程、人間は甘くないよ?」

「……ねぇーねぇー」

「こっちに話を振らないでちょうだい。これは、ごく一部の例よ」

「一部でも真実の姿なんだよなぁ……」


 最悪の場合、地球へと避難する事としているが、その選択肢を後悔したくなるほどに悪辣な行いであった。

 ガルドルフは、躊躇なく生物兵器を解き放った刹那へと問う。


「オメェらはよぅ、何処まで残酷になれんだぁ?」

「何処までも。歴史が証明している」


 必要とあらば、悪魔にも邪神にもなれる。

 それが人間であり、地球の血塗られた歴史が証明している、厳然たる事実であった。

くっそどうでもいい設定。


・ゴブリン

 緑の肌をした小柄な人型生物。ファンタジー御用達お手軽怪物枠。

 雌雄揃っているが、他種族との交配にも積極的という絶倫生物であり、それに見合うだけの強力な繁殖力も持っている。

 基本的にハーフにはならない。片親が他種族であっても、生まれてくる子供はゴブリンになる。但し、絶対にそうという訳ではなく、まれにハーフになる事もある。しかし、その場合、醜いアヒルの子状態であり、ゴブリンの蛮族的特性上、生まれて間もなくにほぼ確実に殺されてしまう為に、やっぱりハーフは生まれないに等しい。


・餓鬼(爆発物)

 見た目はゴブリンに近いが、体格が更に小柄で掌サイズ。

 その正体は、廃棄領域の中でネズミが進化したネズミ人間。

 あらゆる他種族と交配できる点ではゴブリンと同じだが、異なる点としてハーフが生まれる事が挙げられる。

 親の特性を色濃く引き継ぐ厄介な性質を持っており、今回の例を挙げればゴブリンの異常繁殖力を獲得している。元からある繁殖力の高さとあいまり、現在の増殖速度は異常高値となっている。

 人間と交配した場合? そこそこの知能とある程度の魔力を獲得するんじゃないですかね。

 人為的な遺伝子操作により、自爆機能が搭載されている。本人が〝殺された〟と思う事をトリガーにして命の炎を文字通りに爆発させる。所詮は小物なので一発の威力は大した事はないのだが、連鎖反応を起こすと凄い事になる。

 交配を重ねて命の価値が上がり続けたら? それは勿論、一発の威力も上がるに決まってる。

 無制限解放するとナチュラルに全生物が存亡の危機に陥るヤベー生物。

 安全装置としてボタン一つで全個体を爆発させる機能も付いているが……生き物に突然変異は付き物だから、ね……。

 ちゃんと全個体が起爆するかは未知数。

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