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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
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プロジェクト『崩壁の誓い』

あるいは、トラップか……。

「って事で、だぁ。ちと、オメェらにも協力して貰うぜぇ?」


 当面のやる事が決まったガルドルフは、ツムギと話し合った結果、刹那らに助力を要請していた。


「ふむ。こちらからの要請だ。必要ならば聞こう。内容次第だがね」


 美影に投げ飛ばされているガルドルフを愉快と眺めながら、刹那は答える。


「んー、大分良くなってきてるねー」

「素人目には、全くそうは見えないけどね」


 空中で姿勢を入れ替えたガルドルフが足から着地する様を見つつの評価に、美雲はのほほんとした感想を漏らす。


「いや、これ、うちの秘伝なんだから、お姉が素人目じゃ駄目でしょうよ」

「そうは言っても、私、うちの倉に入った事もないし。カビ臭いわ」

「……まぁ、古いものだけどね」


 なんならば、年代物の石板さえもあるのだから、歴史の長さでは地球上のどんな国家、組織よりも深いものだろう。カビの一つや二つも生えようというものだ。


「それで、何に協力して欲しいのかね?」

「あー、それなんだがよぅ。オメェら、魔物領域の調査員として実績を積んでくれねぇかよぅ?」

「ふむ?」

「色々な口実つけて集めようとしても良いんだがよぅ。下手な理由付けると、乗って来ねぇ奴らがいるんだよなぁ」


 妖魔種と妖精種の二種族だ。

 この二つは嘘に異様に鋭い性質をしている。

 妙な策謀を張り巡らせようと、彼らは簡単に見破って好き勝手に滅茶苦茶にしてくる。

 そういう連中である。


 だから、彼らを釣る為には、嘘を吐かないままに誘き出さねばならないという、中々の難易度を要求される。


 政府上層部とコネを持つ実力ある調査員を集める口実としては、最も手っ取り早いものが凶悪な魔物領域の調査での特別チームの編成だ。

 これならば、幾らでも前例もある。


 幸いと言うべきか、それに見合うほどのポテンシャルを秘めた領域もある。

 今まさに、その最深部にいる。

 最強たる天竜種と異星の魔王の魔力で作られた領域は、内包する魔力の濃度で言えば特級品だ。

 もしも魔物が住み着く事となれば、周辺国は最大級の厳戒態勢を要求される危険度に至るだろう。


 だから、スペシャルチームの編成自体は不思議ではない。


 しかし、種族的な垣根を超えて、全種族を集めるとなると中々難しい。


 なにせ、魔物領域とは魔力資源であると同時に、いつ爆発するとも分からない危険な時限爆弾なのだ。

 それの調査に、仮想敵に属する者を使う筈がない。

 普通ならば。


 調査だけの理由であれば、全種族を集める事は疑いばかりを持たれるに違いない。

 実際に後ろ暗い策謀が裏にある身としては、全く否定できない疑いだ。


 なので、もう一押し、何らかの口実が必要となる。


 そうした事情を、ガルドルフは美影に蹴り倒されながら語る。 


「成る程。理解した。

 だが、それと我々に実績を積ませる事に、何の因果関係があるのかね?」

「みんぞくゆうわをー、うたうんだよー」

「なんか、香ばしい単語が入ったね」


 簡潔に纏めると、今までの事は水に流して仲良くしようぜ、という御題目を掲げるらしい。

 何かの怪しい宗教のようだが、今までにも同じような試みは時代時代で行われてきたとの事で、そこまで珍しくもないし、忌避感の様な物は少ないという。


 ああ、またか。


 この一言で片付けられるらしい。

 どうせ無理だと大半は諦めきっており、大真面目に取り組んでいるのは、夢見るアホだけなのだと。


 それはそうだろう、と、地球組は思う。

 同じ生物である人間でさえ、有史以来一つに纏まった事はないのだ。

 あまつさえ、それが生態すら違う別の生き物同士であれば、分かり合うなど夢のまた夢というものだ。

 どう考えても無理ゲーである。


「とはいえ、綺麗な看板には違いないからよぅ。それなりに乗っかる奴もいる訳だぁ」

「でねー、こんかいは、ハゲサルのあつかいをみなおしてみよー、ってかんじでやろうかなってねー」

「ああ、それで私たちに実績を作って欲しい、って事ね」


 何事も、キッカケーー原因は必要だ。


 今回は、人間が意外とやる連中だと、その価値を見直したくなったという理由で企画を立ち上げる。

 その根拠として、なんかスゲー記録を叩き出している人間種という、全く嘘の入っていない実像を用意したい。


 その為に、なんかよく分からんけどヤベー人間種である地球人類に、それをやって欲しいのだ。


 理由を理解した刹那は、一つ頷く。


「うむ。理解した。魔物領域の調査、という実績で良いのだね?」

「……あー、まぁー、一応、調査員繋がりで集めるつもりだから、それで良いんだけどよぅ」


 妙な胸騒ぎのしたガルドルフは、歯切れの悪い言葉を溢す。


「丁度良いな。少々、魔物の多い地に用事があった所でもある」


 しかし、刹那はそれを無視して言質を取ったとばかりに満足げに頷く。

 星を滅ぼす下手人となる苗床に植え付ける、星喰らいの因子が心許ないと思っていた所だったのだ。

 こっそりと侵入して回収していくつもりだったのだが、大手を振って堂々と入れるのならば、それに越したことはない。


 にこやかな笑みを浮かべた彼は、傍らで四式の修理指揮を取っている美雲へと声を掛けた。


「賢姉様、サウザンドアイズは作動するかね?」

「修復率、1%くらいよ?」

「ふっ、それだけあれば充分さ。

 灰狼君、鬼娘君、適当に実績になる領域をピックアップしてくれたまえ。

 機械文明による監視社会の強みを教授してくれよう」

「……なにするきー?」


 刹那は、端的に答える。


「24時間の監視態勢を敷く。なに、廃棄領域の監視よりは容易い事さ」


 超音波だか電磁波だか放射線だか、その他色々な何かを放出して各種センサーをナチュラルに無効化してくる怪生物どもの巣窟よりは、よほど与し易い対象だろう。


 完璧な3Dマップを描き出し、環境や魔物たちの変化を24時間リアルタイムで追っていくくらいの事をすれば、実績としては充分だろう。


「不明領域の調査とはどういう事なのか、骨の髄まで啓蒙してくれるわ……!」

「お兄お兄、それ、どっちかって言うと悪しき文明だと思うよ? ディストピアの遺産だし」

「上手く利用できれば、毒も薬になるのだよ」

「物は言いようねぇ」


 不穏に盛り上がる地球組を眺めつつ、獣と鬼は視線と言葉を交わす。


「……あんなのを紹介しなきゃなんねぇのかぁ?」

「がんばれ、ガルドくんー」

「俺様任せか、テメェ!?」


 プロジェクト『崩壁の誓い』、ここにスタート。

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