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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
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捨てる神あり

 氷と雷の領域。

 その中に、人と鬼と獣、そして骨が集まっていた。


「さて、諸君、この邪神会議によくぞ集まってくれた」

「……いや、その前によぅ。お前、ダイエットしたのかぁ?」


 言葉の先には、刹那とかいう名前の骨がいる。

 見る度に姿が違うのだが、そういう生き物なのだろう。

 自分(獣魔種)たちにだって、姿を変える術はあるのだ。

 珍しくもない。

 人間種にそんな機能があるという話を、とんと聞いた事がないだけで。


 それはともあれ、そいつが骨だけの姿をしている事は不思議ではない。

 先日は、精霊と天竜を相手に邪神姿を見せていたのだから。


 しかし、今、目の前にいるのは、あのような醜悪な姿ではなく、全く変な所のないただの白骨だ。

 構成している部品は、人間のそれと変わらず、ともすればみすぼらしいと表現出来てしまう様なものであった。


「うむ、その通り。少々、過激な運動をしたら痩せ細ってしまってね」

「そんなばかなー」

「さて、話を戻すが。……お礼と言ってはなんだが、私の絞り汁でも振る舞わせて貰おう」

「いらねぇ! すっげぇいらねぇ!」

「僕は欲しいー! 飲んじゃうよ! お腹が破裂するまで飲んじゃうよ!」

「んー、アタシもちょーっときょうみがないことも、ないような、そんなきぶんにも……」

「では、どうぞ」

「わぁい!」

「うわ、どくどくしい」


 集まった面々の中で、少女組二人だけが所望した為に、ガラスコップに注がれた謎の液体が差し出される。


 見ているだけで何故か目眩がする、暗黒色の物体である。

 間違っても口の中に入れたいと思えない代物だ。


 怖いもの見たさに望んだが、早くも後悔しつつあるツムギとは反対に、嬉々として受け取った美影は、腰に手を当てて斜め上を向きながら豪快に飲み干した。


「ぷはあー! ああ、お兄のドロッとした体液が僕の身体に染み渡るっ!」

「……言葉の表面だけを聞きゃあ、淫靡なんだがなぁ」

「なかみをかんがえるとー、そんなの、かけらもないんだけどねー」


 色々と考えると、受け取った液体を飲みたいとは全く思えなくなってしまうのだが、自分で言って手に入れたものなのだ。

 捨ててしまうのもどうかと思う。


 なので、意を決して、ツムギは目を固く閉じながら喉の奥へと流し込む。


 見た目通りにドロッとした食感。飲み物と言うよりも、ゼリーに近いかもしれない。

 口や喉からはピリピリとした刺激がある。炭酸だ。決して毒物の痛みではない。

 そして、重要な味わいだが、実にサッパリとした風味である。果実のような自然な甘味があり、食感を除けば大変に美味しいと思えた。


 見た目と食感が全てを台無しにしているのだが。


 微妙な顔をするツムギを横目に、先んじた美影は原材料()へと話し掛けていた。


「お兄直搾りにしてはまろやかだね」

「うむ。これから取り込もうという者を、初手で毒殺してしまう訳にもいかないのでね。果汁1%くらいだろう。毒素を濾してかさ増しした結果、そうなってしまった」

「それ、九分九厘くらい、お兄が毒物の塊って事だよね?」

「廃棄領域出身ならば、珍しくない生態だぞ」

「僕も適応してるんだけどなー」


 同じく、廃棄領域の環境に慣れた美影であるが、刹那が毒物を取り込み同化した場合と異なり、彼女の場合は異常な新陳代謝の速度によって、毒素が身体に影響を及ぼす前に体外へと排出するという形を取っている。

 その為、異常な環境に適応するという結果は同じでも、肉体には大きな差があるのだ。


「……なんかスゲー事言ってんぞぉ?」

「にんげんしゅってー、そーゆーせいたいだったっけー?」

「あの子たちと一緒にしないでちょうだい」


 一般人(当社比)代表の美雲が、困った表情で抗議する。無理もないが。


 何はともあれ、和やかな触れ合いにより親愛――あるいは溝かもしれない――が深まった所で、本題へと入る。


「さてさて、では現地民の君たちに訊きたい事があってね」

「……おう、なんだあ?」

「他でもない他種族の勧誘に関して、だ」


 現在、獣魔種と霊鬼種とは一応は協力関係にある。

 だが、それでは足りない。満足できない。

 他にいるという、あらゆる種族を持ち帰りたい。


「君たち以外の種族にも、話を通しておきたい。どれくらい協力的かは分からないがね」

「……そんなのよぉ、ウチにカチコミしたみてぇにすりゃいいじゃねぇかよぅ」

「時間がない」


 端的に刹那は言う。


「制限時間は、精霊と天竜の機嫌次第だ。

 我々に決められない以上、早急に事を運ばねばならない。

 ……何か良い知恵はないかね?」

「…………あー」


 ガルドルフとツムギは、揃って視線を横にずらした。

 そこには、岩場に挟んで固定されている不細工な猫の置物がある。


「そいつ……そのお方に訊きゃあ良いんじゃぁねぇかねぇ?」

「無駄だ。こやつはただの観客故な。舞台に上がる役者ではない」

「うむ、我は手出しせぬ故、皆で頑張ってたもう」

「……そっかー」


 それが建前なのか本気なのか、いまいち判断がつかないが、この場ではそれで通すつもりらしい。


「せーふのほうから、はなしをしてもねー。じかんはかかるよー?」

「特に上位種は、そうなるだろうよぅ」


 各種族は、潜在的な敵同士なのだ。

 利害の一致などで表面上は仲良く手を繋いでいるが、隙があれば蹴落としてやろうと裏で狙っている。

 よって、政治方向から話を持っていっても、基本的に情報の精査や対応方針の決定などで、大きく時間を取られてしまうのだ。


「ふむ、政治は駄目か……」

「やるなら、力のある民間人、だろうなあ」

「アタシたちみたいなねー」


 彼らは、実力がある為に一目置かれているが、政治的な権力は一切持たない。

 だからこそ、無警戒に話を持っていける可能性がある。


「となりゃあ、俺様たちと繋がりがある相手は、やっぱ調査員連中だあなぁ」

「うん、そだねー。そこいがいだと、ちょーっとむずかしいかなー?」


 魔物領域の調査は重要な仕事であり、その性質上、実力のある調査員は政府上層部と繋がりのある者が多い。

 流石に、信頼する自種族の調査員から報告を貰えば、他国からの嘘か信かも分からない情報よりは、重要視してくれるに違いない。


 今回の目的にはピッタリの人材だろう。


「各種族、集める事は出来るかね?」

「無理とは言わねぇよぅ。多少、時間はかかるがよぅ」

「構わん。それで間に合わなければ、まぁ、アドリブで回すとも」


 話は決まった。


「そんじゃ、よっろしくぅ! 地竜種(ドラゴノイド)天翼種(エンジェル)妖魔種(デーモン)森精種(エルフ)鉱精種(ドワーフ)海精種(マーマン)! 出来るだけ全員集めてねー!」

「りょーかい!」

「あいよぉ」


 美影の締めの言葉に、現地人二人は了承の言葉を返す。

 と、そこで、ふと彼女の言葉に違和を覚えた。


「……あのー、ハゲサルはー?」


 挙げられた種族たちの中に、抜けがあったのだ。


 精霊種と天竜種が含まれていないのは分かる。

 彼らは、現状で完全に敵対しているのだから。

 自分たちの法理だけで生きているので、話が通じる相手でもない。


 獣魔種と霊鬼種が無いのも分かる。

 既に話をしており、暫定的に味方となっているのだから、改めて挙げる必要もない。


 問題は、人間種だ。


「……いらないのー?」

「…………いる?」

「必要かね?」

「……鬼かよぅ」

「こんなのといっしょにしないでー」


 鬼娘は、名誉毀損で訴えたのだった。

拾う神、ドコ……ドコォ……?(;´Д`)

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