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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
八章:破滅神話 後編
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プロローグ:摩訶不思議の扉

どうでもいい事ですが、登場している天翼種の名前を〝リーリン〟から〝ラヴィリア〟に変更しております。

意味はありません。

なんか、しっくり来ないから変更しただけです。

 チーム『崩壁の誓い』は、ごく短い準備時間を挟んだ後、件の魔物領域の入り口に集合していた。


「……お前らよぅ。一応、時間取ったんだからギリギリまでちゃんと準備しようぜぇ?」


 全員がほぼ直にやって来た為に、設定していた集合時間よりも物凄く早くに全員がやって来ていた。

 その事に、ガルドルフは呆れの苦言を漏らすが、愉悦の仮面を付けたスピリが、表情に合った笑い声で掃いて捨ててしまう。


「あはー♪ 面白いジョークであるデスネ~。

 何の消耗もしていないのに、何の準備が必要であるデスカァ?」

「……ムッカツクなぁ、お前はよぅ」


 とはいえ、本当の事だから仕方ない。

 僅かに離れて行動した事で遅れてきた面子も、小腹が空いたので適当な食事処で腹拵えをしていただけであり、何らかの装備の補充等をしていた訳ではない。


 そんなもの、ガルドルフが代表して協会に報告を上げている内に必要な者は済ませていた。

 流石に、フリーレンアハトの残滓に、無防備に突っ込むのは自殺行為なので。


 ともあれ、メンバー全員が揃ったのであれば、わざわざ時間まで待つ必要はない。

 調査員稼業は、割りと行き当たりばったりなのだ。

 なにせ、何が起こるのか分からないから、そうならざるを得ない。


 という訳で、早速、魔物領域へと再侵入を開始する。


「ところで、メンバーに加えたいという人間種の方は、どちらに?」


 ラヴィリアが移動しながら周囲を見回して訊ねる。

 それに対して、ガルドルフは分かりやすく顰め面を見せながら答えた。


「あぁ? あのアホなら、中にいるぜぇ」

「……一人で、か? ハゲ猿が?」

「一人じゃあねぇがぁ、まぁ一人でも余裕だろうなぁ」


 脳みそのネジが八艘跳びでもしているのでは、と思える三姉弟を思い浮かべながら、ガルドルフは言う。


 一番マシな長姉でさえ、大抵の事はなんとかなる強度を持っている。

 本人は謙遜するだろうが、装備を整えていれば天竜と渡り合えるのだ。

 嫌みな謙遜である。

 弟と妹の方は、もはや語るまでもない。

 地獄の業火の中に放り込んでも笑って生きていそうである。

 そして、復讐に来そうでもある。

 人間ではなく、怪獣の間違いかもしれない。


「…………ハゲ猿がお一人様とはー、自殺志願であるデスカ~?」

「いやぁ、あれにそんな殊勝な心なんざねぇよぅ」


 ノエリアの常識に照らし合わせれば、間違いなく死んでいるだろう状況であり、この場にいる誰もが死んでいると思っているのだが、案内しているガルドルフは全くその様子を見せない。

 素知らぬ顔をしているが、ツムギも内心ではまるで心配などしていないが。


(……このあたりがダイジョーブなじてんで、ねぇ~)


 あれらとて、不死身な化け物という訳ではない。

 一応、自称ではそうなっている。


 だから、殺せばちゃんと死ぬのだろうが、強度が高過ぎる為に生半可な事ではどうにもならない。


 少なくとも、この魔物領域を造り出した戦闘でもどうにもならなかったのだから、それこそ星を砕く威力が必要となるだろう。

 ならば、天変地異が襲い掛かっていない現状で、彼らを脅かせる事態は起きていないと、はっきりと断言できた。


 そんな事を考えている内に、ツムギは一行から置いていかれていた。


 ぞろぞろと奥へと進もうとしている仲間(暫定)たちに、彼女は声をかける。


「うぉーい、どーこいくのー?」


 背後からの声に、一行が振り返る。


 不思議そうな顔をしている。

 何処と言われても、魔物領域の奥としか言えないのだから、その顔は当然だ。

 ガルドルフだけが、嫌そうに顔をしかめている様子が印象的だが。


「何処、と言われましても。調査しつつ、件の人間種と合流を目指すのですけれど?」


 ラヴィリアが、首を傾げながら答えれば、ツムギは一つ頷く。


「なら、こっちのほうがはやいよー」


 言って、すぐ近くの岩壁を殴り付けた。


 霊鬼の才媛である彼女の膂力だ。

 魔力で強化していない素の筋力でも、岩など砕け散る。その筈だ。


 だが、その予想を裏切って、破片が飛び散るような事はなかった。


 代わりに、縦長の長方形に火花が散った。

 そして、奥側へと壁が一塊のまま倒れていく。


 まるで、そこに扉があったかのように。


 倒れながら岩壁が消える。

 そこにあるのは、金属の板だった。

 明らかな人工物である。


 その事実に、一行は目を丸くしている。


 未調査の魔物領域に人工物があった事、ではない。

 それも驚く事だが、絶対にない訳でもない事だから、それ程の驚愕には繋がらない。


 彼らが絶句している理由。

 それは、この場にいる誰もがそれに気付いていなかった、という事にある。


 全種族のあらゆる感覚器とベテランの経験則から逃れる隠蔽術には、驚愕と警戒心を抱かずにはいられなかったのだ。


「……あー、ツムギちゃんよぅ」

「なーにー? ガルドくん」

「それ、使っちゃう?」

「こっちのほうが、はやいじゃん。メンドーはとっととかたづけようよー」


 二人の会話に、残る者たちは胡乱な視線を向ける。


「うぬらは、知っていたのか?」


 やや警戒を滲ませながら、ゼルヴァーンが背中の大剣に手を置きつつ訊ねる。

 ここまで来れば、もはや隠す理由もないので、二人は一瞬だけ視線を合わせた後に素直に頷いた。


「うん。まぁねー」

「つーか、俺様たちは、とっくにこの領域を踏破してるからよぅ」

「……ほぅ」


 出来てすぐに、と言うか、出来たその瞬間に、最深部にいたのだから、そもそも踏破しなければ出てくる事すら出来ない状況だった。


 そんなどうでもいい事はともかくとして、素直に答えたと言うのに、警戒心はより高まってしまう。


「ほっほーう? つまりつまり、最初から全てが企みの内、という訳であるデスカ~?」

「否定はしねぇよぅ」

「ねぇねぇー、はなしてないで、はやくいこうよー」


 やや離れた所から、ツムギの声が届く。

 見れば、悠長に話している皆を放って、彼女は一人で通路の奥へと入り込んでいた。


 これには、最前列で警戒していた上位種三名が更なる驚愕を覚えてしまう。


(……いつの間に!?)


 警戒していた。なのに、見逃していた。

 あまりにも自然に、意識から抜け落ちていた。


 何が起きたのか、と思う。


「おいおい! 待てよ、気が早ぇなぁ!」


 未だ警戒を解いていない仲間を置いて、ガルドルフが彼女の後を追って通路へと入っていく。


「来るなら来いよぅ! 将来はともかく、今はまだ悪いようにはしねぇからよぅ!」


 そんな言葉を残して。


 残された者たちは、どうすべきか、と顔を見合わせる。


 最初に沈黙を破り、意思表明をしたのは、コミカルな動きで身を捻ったスピリであった。


「コレは、行くであるデスヨ~」

「罠やも知れぬぞ」

「であれば! 食い破って身の程を教えるまで、であるデスネ!」


 キヒヒ、と笑いながら、スピリは軽い足取りで通路へと入っていった。


 嘆息は、誰のものか。


 妖魔種ならば、そうしない方がおかしい。

 種族全体が快楽主義なのだから、この様な不思議なイベントが目の前にあれば、迷いなく食いつくに決まっていた。

 たとえ、その結果として死んだとしても、彼らは本望だと笑って死ぬだろう。

 それが妖魔種という連中である。


「……仕方あるまい」

「ですね」


 ゼルヴァーンとラヴィリアも、溜め息一つで足を動かし始めた。


 ここで退けば、臆病者の誹りは免れないだろう。

 他のどの種族に言われたとしても気にしないが、妖魔種に言われる事だけは腹立たしい。

 あの連中は、百年でも千年でも、延々と飽きずに煽りに来るのだ。

 弱みを見せる訳にはいかない。


 それに、彼女の言にも一理ある。


 罠があるのならば、力ずくで食い破ればそれで良いのだ。

 それが出来ずして、何が上位種なのか。


 三名の上位種が先陣を切った事で、残る者たちも覚悟が出来たのか、後を追っていく。


 何があるかは分からないが、自分達ならば逃げるくらいの事は出来るだろうと、種族を代表する最高峰だという矜持が、彼らの行動を後押ししていた。

 自分達が逃げられないのであれば、もはやどうしようもない、という諦めも含めて。


 摩訶不思議の扉は、何者をも拒まない。

 意思ある全てを受け入れる。


 但し、待ち受ける未来は、それこそ入った者の意思に左右されるのだが。

前回だけ、いいねが普段の2倍くらい付きました。

本文そのものは特に評価されそうな内容でもないので、これは最終話分込みなんじゃろうな、という事で。


どれだけの方が活動報告まで見に行ったのかは分かりません(だって、本文と違って閲覧者数なんて見れないし)が、楽しんでいただけたなら幸いです。

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