プロローグ:補充人材
唐突な性癖暴露。
ピエロ系ヒロインって好きなんですよね。
一般作品だとまず見ないですけど。
何でじゃろ。
書きにくいからでしょうか?
「つー訳で、だぁ。ハゲ猿……じゃあねぇやな。人間のアホが死んだから、規定に則って一度帰還したんだぁ」
「分かりました。……残念なことです」
「あー、そうだぁなぁ。残念だぁ」
全く心の籠っていない、虚ろな言葉をお互いに囁き、ガルドルフと職員の二人は吐息する。
まぁ、予想通りの結果と言えば、確かに予想通りに過ぎる。
強いて予想外な事を挙げるとするならば、予想以上に持ったな、というくらいだろう。
職員の予想ではもっと早くに殺処分されると思っていたのだから。
裏に隠した思惑の為に頑張って延命させたガルドルフは、そんな内心を察しつつも無視して、話を変える。
「で、まぁ、それはそれとして、消耗もしてないからよぅ。もう一度、打ち合わせしたらまた潜るから、よろしく頼むぜぇ」
「はい、承知しました。……今度はもっと先に進めそうですね」
「だろうなぁ」
手を振って別れて、彼は仲間たちの待つ会議室へと向かう。
「おーう。待たせたなぁ」
ガルドルフが入れば、各々が書き留めた記録を突き合わせている頼もしい仲間(推定)たちの姿があった。
(……引き込めるかねぇ)
理解を得られると良いと思う。
積極的に協力してくれずとも良い。
せめて、理解して、邪魔をしてくれないだけで良い。
どうなるかな、と、行く先の見えない将来に内心で首を傾げながら、空いている席へと座る。
「あー、注目ぅ」
「ぬっ。なんだ、ガルドルフ殿」
銀色の鱗を持つ竜人が反応する。
尊大な地竜種ではあるが、一方で認めるべきは認める、という価値観も持っている。
おかげで、なんとか意志疎通をして協力関係を築くぐらいの事は出来ていた。
彼の名を、ゼルヴァーンという。
「ゼルヴァーンの旦那。いやぁ、これから再突入するにあたってよぅ。改めて計画を立てようって話をしようと思ってなぁ」
「それならば、状況に応じて臨機応変に柔軟な対応を心掛けた作戦行動、で良いのではありませんか?」
言葉を返すのは、天翼種の女性。
黒い翼を持つ、黒翼派の者だ。
こっちはこっちで上位種としての意識が強く、会話は出来るが鉄火場での協力関係は中々築き辛い相手である。
彼女の名を、ラヴィリアと言った。
「……ラヴィリアさんよぅ。それを世界は行き当たりばったりって言うんだがなぁ」
「何か問題が?」
「一応は、特級の危険領域なんで、ちっとは緊張感を持って欲しいわけだぁなぁ」
「参考にはしておきましょう」
「……実践もして欲しいんだがなぁ」
面倒な連中に、思わず嘆息が出る。
ともあれ、話を中断してこちらへと皆が意識を向けている。
なので、用意していた適当な話をする。
本当にこれで釣れるのかと思わなくもないが、失敗してもあんまり問題ないので、話をするだけしておく。
「あぁー、ひとまずお疲れさん。面倒なハゲ猿の面倒で、余計に疲れただろうよぅ」
「全くです。人間種と組んだのは初めてですが、あそこまで使えないとは思っていませんでした」
ラヴィリアが同意する。
それに頷き返しながら、ガルドルフは続ける。
「とはいえ、だぁ。一応、崩壁の誓いは精霊と天竜を除いた全種族の協調を目指す、ってぇ趣旨だからよぅ。種族が欠けるのはちょっと外聞が悪いんだぁなぁ」
「意図は理解しよう。しかし、仮にも我らは各種族の最高位として集められたのだ。その結果があれでは、人間種に期待するだけ無駄ではないか?」
ゼルヴァーンの率直な意見に、チラホラと同意の声が上がった。
最高位であれなのでは、もはや入れる意味がないどころか、調査活動としてはマイナスだと皆が思っていた。
外聞も大事だろうが、それで本業の調査が進まないのであれば、本末転倒だろうという声が上がる。
「いやいや、分かるぜぇ。だけどよぅ、あれは単なる見本だぁ。オメーらにハゲ猿と人間種は違うんだってぇ、分からせる為のなぁ」
「ぬっ?」
「近頃の獣魔と霊鬼じゃあよぅ。人間侮り難し、って意見が出てるんだぁなぁ。その根拠になってる奴を、代わりに入れようと思ってんだがよぅ。認めてくれるかぁ?」
「……ふむ」
僅かに思考の沈黙が流れる。
確かに、そういう意見が出ているという噂は聞いている。
とはいえ、どういう思考の結果なのか分からないし、根拠の実物も見ていないので、この場で判断する事も出来ない。
そういう思いを抱いている中で、ゆらりと動く者がいた。
妖魔種の者、紫を貴重とした奇抜な衣服を纏ったその人物は、素顔を晒さない。
幾つもの仮面を携えており、状況というか、自らの感情によって仮面をいつの間にか付け替えているのだ。
ぶっちゃけピエロっぽい。
彼女の名は、スピリといった。
今は、不審さを表した仮面を装着しており、その仮面から間近でガルドルフを覗き込む。
「くんくんくん、策謀の匂いがするであるデスネ~」
その言葉に、ザワリ、と皆の間に警戒が走る。
大体全ての騒動の原因、とまで言われる妖魔種は、そうした裏側を察知する嗅覚に優れている。
その嗅覚が、ガルドルフが隠している何かに引っ掛かっていた。
指摘に、彼は逡巡もなく、明確に頷いた。
「まぁよぅ、企みならあるぜぇ?」
「ほうほう。潔いであるデスネ~。では、中身を聞かせてくれるデスネ?」
「馬鹿やろうがぁ。それを言っちゃ面白くねぇだろうがよぅ」
「面白い、であるデスカ?」
クネリ、と、不安を覚える動きで体勢を変えるスピリに、ガルドルフははっきりと告げる。
「応、そうだぁ。俺様はこの関係で色々とダメージを負ったんだぁ。精神的に。オメーらも味わってくれなきゃあ、俺様が楽しめねぇ」
「……ガルドルフさん? 御自分が最低な事を言っている自覚がおありで?」
ラヴィリアからの指摘に、彼は深々と、それはもう心の奥底から絞り出すかのような嘆息を吐き出して答える。
「…………やさぐれる位じゃねぇと、あの連中とは付き合えねぇんだぁ。だから、オメーらも堕ちようぜぇ? 精神的に。俺様たち、仲間だろうよぅ?」
「……チームを解消したくなってきたのじゃが」
ポツリと溢された言葉に、ほとんどが頷くが、しかしそうではない者もいた。
スピリである。
不審の仮面から愉悦の仮面へと切り替えた彼女は、笑い声を上げながら参加を表明する。
「あはー♪ それは面白そうであるデスネ~。ハゲ猿と人間種の違い、是非とも見せていただくであるデスヨ」
「……乗るのか?」
地竜と天翼、そして妖魔は、三竦みに近い関係だ。
それ故に、ゼルヴァーンはスピリの意見を軽く見ない。
「そうであるデスネ~。悪意はあるようであるデスガ、害意はないようであるデスヨ。なので、まぁ死ぬ様な事はなさそうであるデスカラ~」
ならば、ピエロらしく踊ってやるのも一興だろう。
代わりに、あまりにも詰まらない企みであれば、参加賞としてガルドルフの命が危なくなるが。
それが妖魔との付き合いというものである。
その覚悟があるか、という視線に、彼は肩を竦めるだけで、特に何も言わない。
よほど楽しませる自信があるのだろう。
ならば、やはり参加しない理由は、スピリにはなかった。
ライバル関係にある種族が参加するのであれば、地竜として、天翼として、臆する訳にはいかない。
「よかろう。実物を見せて貰おう」
「ええ。是非とも、本物の人間種というものをご教授下さい」
話は決まりだ。
「うっし。そうこなくっちゃなぁ! んじゃあ、出発しようぜぇ!」
「紹介して下さるのでは?」
ラヴィリアが訊ねれば、皮肉じみた言葉が返ってくる。
「あの野郎共、現地にいるんだよぅ。だから、臨機応変に柔軟な感じで行こうぜぇ? 俺様たちなら余裕だろう?」
「……先程の御自分の言葉を思い出してみては如何ですか?」
イェーイ!
皆様の応援で、遂に当作品のイイネポイントが四桁になりましたよ!
読者サイドからだと、ポイントが見えてないでしょうけど!(そっち側からの見方が分かんねぇ)
なので、記念というか感謝の気持ちというか、そんな感じで特別に活動報告の方に一話ほど掲載しておきます。
前々からチマチマと書いていた物を急いで書き上げまして、
本編最終話『新章:創星神話 プロローグ:本気になった天才の所業』
です。
えー、枕に付いている言葉で分かると思いますが、ガチでネタバレです。
なので、気にしない、何処を目指しているのか知りたい、って人だけ覗いて下さい。
ライブ感による多少の変更はあるかもしれませんが、大筋としての最終話はこちらになります。
一章の頃から決めていたラストです。
という訳で、これからもどうぞよろしくお願いします。