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閑話:最上級食肉・合成人間

微グロ注意。


直接的な表現はないけど、詳しく想像するとあれな感じな内容です。

タイトルで分かると思いますけども。

「あぁ~」

「うぅぅぅ……」


 独特なすえた匂いの充満した屋内に、人の声が重なって木霊する。

 そこに知性の色はなく、何の意味も為さない、ただの鳴き声となっている。


「んー、家畜の匂い」

「まぁ、実際その通りに家畜小屋故な」


 美影と刹那は、ツムギに招かれる形で霊鬼国へと入っていた。

 その目的は、社会科見学であり、場所は家畜牧場となる。

 霊鬼国では一般的な、人間種の牧場だが。


「なんというかー、ぜんっぜんっ、どうじてないねー」


 飄々とした様子の兄妹に、ツムギは呆れたように呟く。


 仮にも人間種である二人なのだから、同族が家畜として飼育され、屠殺されていく現場には、少なからず嫌悪感を抱く……と、ツムギは思っていたのだが、この二人は飼われている同族に対して、全く同情するような感情を見せていない。

 冷酷な視線は、自分達のそれと変わらず、相手を同格とはまるで見ていなかった。


「すこしはー、どうじょうとかー、しないのー?」

「ん? んー、まぁね」


 ストレートな質問に、美影はあっさりと肯定を返す。


「ふむ、質問の意図が分からないのだが、何故、我々がこいつらに同情してやらねばならないのかね?」


 刹那は、柵の中で四つん這いに並べられている人間種たちを指差して、逆に問いかける。


 衣服も与えられず、言葉も修めておらず、更には食肉用の区画である為に、ブクブクと太らされている様は、同族ならば少しは揺らぐものだろう。


 ツムギの常識ではそうだ。

 少なくとも、他国で霊鬼が同じ扱いをされていれば、大抵の霊鬼は激怒するだろう。


 にもかかわらず、そうなる事が不思議だ、と、問い返されるのは、あまりにも想定外であった。


「いやー、あのねー? ふつー、どうぞくがかいころされてたら、きぶんわるくないー?」

「ふむ、ふむ。……ああ、成る程。我々とこれらが同じ枠組みである、と、そう言いたいのだね?」

「うんうん、理解理解。でもねー、僕たちにそれは無いかなー」


 ツムギと、自分達との差異を理解して、二人は納得の頷きを入れる。


 枠の大きさが、両者の間では違うのだ。


 ツムギは、種族単位で物事を見ている。

 霊鬼は何処にいようとどんな相手だろうと、それは霊鬼だし、人間は全て人間なのだ。

 だから、兄妹と家畜も、同じ枠組みとして見ていた。


 それは、きっと数多の種族がいるノエリアだからこその価値観だろう。

 種族自体が一種の国家であり、種族単位で基本的には対立して、壁を築いてきたからこそ、培われた視点であった。


 しかし、地球は違う。

 人間しかいなかった。


 対立は常に同じ人間同士で行われてきた。

 人間同士で競い合い、争い合い、そして殺し合ってきたのだ。


 だから、種族単位での纏まりは、無いに等しい。

 小さい単位でのコミュニティだけでしか仲間意識を保つ事はなく、精々で国家が最大規模の〝仲間〟であろう。


 兄妹の所属は、地球の瑞穂統一国。

 そこまでが、彼らが一応は仲間として見れる最大範囲であり、その外側はどれだけの利用価値があるのか、という視点しか持たない、持てないのだ。


 人類皆兄弟? 鼻で笑える。


 そんな価値観しかない為に、同国人どころか、同じ惑星出身ですらない、異星の人間など、どの様に扱われていようとも痛む心はないのだ。


「まっ、簡単に言えば身内じゃないからさ。好きな様にしてちょうだいな、って事で」

「奴隷にしようと肉にしようと、我らは関知せぬ。存分にやりたまえ」


 というか、むしろ協力だってするだろう。


「つめたいれんちゅうだねー」

「心は消費物だよ。誰にでも気前よく支払えるほど、私の心は豊かではないのだ」


 ともあれ、見るべきは目の前の家畜たちである。


「うーうー」

「おー、よしよし。んー、興味深いね」

「ふっ、そうだね。こういう方向性は、雷裂には無いだろう」


 肥え太った人間は、一般的な人間に比べて歪な形をしている。

 太ってはいるが胴体は通常と変わらないのに、手足は妙に短く、四足歩行に適した長さとなっているのだ。


 所謂、奇形に分類される造形をしている。

 ここでは、意図的に生み出された結果だが。


 猪が豚へと変わったように、ここでは人が人ならざる家畜へと堕ちているのだ。


 兄妹は、この変化を興味深いと見る。


 彼らは、雷裂である。

 人の血統調整は、伝統の御家芸だ。

 たとえ身内意識が無かろうとも、ある種の禁忌的な忌避感を覚える行為を前にしても、眉一つ動かさないくらいには、彼らの価値観は人道から外れているのだ。

 尤も、人類の究極を目指す雷裂と、飼い主の都合の良い変異を目指す家畜とでは、方向性が真逆というものだが。


 それでも、応用できる部分はある。

 八割方ただの興味だが、一応は協力者への利益供与の面もあってやって来たのだ。


「これは……抵抗力を削ぐ為に手足を整えているのかな?」

「うんー、そうだねー。

 あとは、にくづきをよくしたりー、ちえをみにつけないようにのうをいしゅくさせたりー、そんなかんじかなー?」

「……ふむ、理想は確かにそうだが……些か一足飛びに欲張り過ぎだね」

「進化は簡単には起きないからねー。まっ、現象的には退化だけど。配合表、見せてくれる?」

「ほいさー」


 品種改良の為に行っているこれまでの配合の血統を、ツムギは取り出した。

 受け取った美影は、そこに目を通していく。


「では、私も」


 その横で、刹那は家畜たちの組織を採取して、簡易式の遺伝子配列の解析機械へと放り込んでいく。


「い・ち・ぶ、訳分かんない混ぜ方をしてるね~」

「えー? どこどこー?」

「ここ、ここー」


 家畜としての性能を引き上げる為には、微妙な組み合わせが散見された。

 こう非効率だと、変異するには時間がかかるだろう。


 どういう訳か、と訊ねてみれば、ツムギは

すぐに答えた。


「あぁ~、そこか~。それはねー、まりょくをあげようとしたくみあわせだねー」

「魔力……魔力か」


 食肉用、ではあるが、せっかく魔力を持っている生物なのだから、出来れば搾り取りたい。

 魔法文明なのだから、それは当然の発想であった。


 それ故に、その方向性を目指した組合せをしたのだが、それが結果として足を引っ張る事になっている。

 食肉用としての価値が下がっているのだ。

 まぁ、狙い通りに魔力適正は上がっているので、トントンという所ではあるのだが。


「狙いを絞るべきだろう。ひとまず、脳の萎縮については諦めておくべきだ」

「うん、それが良いよ」

「でもー、それじゃあむだなちえをつけないかなー?」


 ハゲ猿に反逆されても問題なく鎮圧する事は出来る。

 それだけの自信がある。


 しかし、プライドや処分費用などの問題で、家畜に反抗されるとマイナスにしかならないのだ。


 それ故の不満を言うが、兄妹は簡潔な解決方法を提示する。


「知恵を付けさせたくないなら、そもそもの脳を機能不全にしてしまえば良いではないか」

「そそっ。死なない程度に、抉っちゃえば良いんだよ」

「……ようしゃないなー」


 同族への躊躇無い悪魔の提案に、ツムギはドン引きである。

 ついで、それを採用できない理由も語る。


「でもー、それはむりかなー」

「何故だね」

「まりょくこうりつがわるすぎるんだよー」

「うん?」

「ちせいと、まりょくは、かなりちかいいちにあるからねー。

 へたにいじると、つられてこわれちゃうんだー」

「ああ、成る程。その事か……」


 知的生命体として認識された者たちが、例外なく高い魔力を持っている事からも明らかだが、知性と魔力は基本的に比例関係にある。

 それ故に、外部からの外科的手法で脳を傷つければ、ほぼ必ず魔力も低下してしまうのだ。

 そのルールを回避すべく、迂遠な方法で知性を損なわせているのだが、いまいち上手くいっていないのが現状だ。

 今は、知性を持てない環境を整える事で何とか取り繕っているが、それは完璧ではなく、不定期に高い知性を獲得して状況からの脱出を試みる家畜が後を断たないという悩みに繋がっていた。


 だが、そこに別の視点、別の技術体系からの手が加わる事で、あっさりとその問題は解決できてしまうのだ。


「そっかー。そこかー。……肉体への理解が足りてないね」

「それならば問題ない。我々は魔力を損なわない形で脳を抉る手法を確立している」

「……へっ?」

「なに、簡単だったよ。雷裂には人の身体を壊す知識が無駄に蓄積されているからね」


 遥か太古の時代から、寝ても覚めても自らを進化させる事と外敵を殺し尽くす事しか考えてこなかった一族だ。

 時代が進み、敵らしい敵が人間しかいなくなったおかげで、その壊し方の研究にも余念がない。


 、どうすれば、何処が、どの程度壊れるのか、よく知っている。


「では、実証だ。一つ試してみよう。頼んだよ、愚妹」

「まっかせて♪」


 そういう繊細な技は、刹那には向かない。

 彼がやるには精密機械が必要になる。

 生身で行うならば、美影が適任だ。


 兄の期待に応えるべく、彼女は意気揚々と一匹の人間へと近付くと、


「ほいっ」


 軽く、側頭部を小突いた。


 途端、グルリと白目を剥いて崩れ落ちた。


「だいじょぶなのー? それー」

「モーマンタイ、モーマンタイだよー」


 一見すると死んだようにしか見えないが、気絶しただけだ。

 すぐに起きるように打っている。


 そして、実際にすぐに起き上がった。


「…………」


 再起動した家畜は、もはや呻き声さえも出さない。

 虚ろな表情のまま、無言で餌を貪り、呆としているだけだ。


「能動的な行動を司る部分を壊してみました!

 今は本能だけだね。

 簡単に言えば、食ってヤって寝るだけ。

 どう?」

「……まりょくてきせいはおちてない。なに、そのかみわざー」

「拷問用かな? ピンポイントで打ち抜かないといけないから、戦闘向きではないね」

「そういうはなしじゃないんだけどなー」

「では、今度は私の番だな。

 少々遺伝子配列を弄くってみよう。

 愉快なクリーチャーを生み出してくれようぞ」

「クリーチャーってさー……」


 新たな叡知を得た事で、人間牧場が急速に進化していく。


 最終的に、『最上級食肉(ハイエンドミート)合成人間(キメラヒューマン)』という高純度魔力を搾取した上で、大変に美味しいという高級肉塊――もはや人間というか生物の原型が無くなった――が誕生する事となる。


 その過程でバイオハザードが起きたりもしたが、ご愛敬の一種だろう。

そろそろ本編を書きたくなってきた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今さらだけど、やべぇな、こいつら。 作者の性癖がモロな気がするぜ…。
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