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閑話:弾の入っていない、綺麗で最上の砲身

おっかしいなー。

これ、ここ最近の二話分の文量があるぞ。

 瑞穂統一国、機密諜報機関。

 近年ではその存在自体が、とある理由から有名にはなったものの、内部状況に関しては今も変わらず深い闇の中に沈んでいる。


 なにせ、機関施設の場所が分からないだけでなく、何処の誰が所属しているのかでさえも、ただ一人を除いて不明なのだから。

 その徹底ぶりは、頭がおかしいレベルであり、他国からのスパイたちからはリアル忍者の巣窟として、心底怖れられていた。


 そんな秘密組織が保有する施設にて、現在、地獄の惨状が繰り広げられていた。


「こちら、〝は〟の5,000番台! 駄目です!」

「〝に〟の1,000番台にもありません!」

「〝ほ〟の段に取り掛かります!」


 積み上がるは、書類の山、山、山。

 一部の頭の固い御役所仕事を除けば、ほとんどが電子化されている現代において、これ程の書類が発生する事はまずない。


 ならば、これの正体は何かと言えば、頭の固い御役所仕事の結果である。


 もう少し詳細に説明するならば、瑞穂統一国建国以来の、全国民の魔力適性診断書となる。


 三次大戦終結後、国を軌道に乗せる為の一貫として国民の戸籍を作り直す作業が行われた。

 その作業は、当初は紙の書類で行われていた。

 なにせ、当時は文明が相当に崩壊しており、機能する機械類も限られていたからだ。


 とはいえ、それも一時的なものであり、文明が回復して余裕が生まれると同時に、戸籍情報の電子化も進められたのだが、唯一、魔力適性情報だけは紙面上でのみ管理される事となった。


 というのも、魔術文明の発展と共に優秀な才を持つ個人の存在が重要視されるようになった為である。

 国民の魔力適性情報を掠め取り、他国に属する高い適性者の拉致が世界的な問題となっていたのだ。


 いち早く復興を進め、魔道先進国となっていた瑞穂は特に狙われており、情報の管理が問題となっていた。

 その為、ハッキングの恐れの多い電子情報での管理を諦め、紙での書類による管理をしておこう、という判断がされたのである。

 ハッキング対策を取るのが面倒臭いという老害の判断とも言う。


 おかげで二百年の中で生まれて死んでいった全国民の情報が、諜報部の倉庫に雑多に積み上げられている。


「……いやー、怠慢でありますなぁー」


 阿鼻叫喚となっている現場を見ながら、諜報部でただ一人、名前(偽名)の知られているナナシが剣呑に呟く。


 必要がなかったが為に、倉庫の中に記録を放り込むだけ放り込んでろくに整理もされていなかったのだ。

 おかげで、現在生きている国民の情報を引っ張り出したいだけだと言うのに、こうして関係のない過去の記録までも掘り返す羽目となっていた。


「いやはや、返す言葉もありません」


 管理責任を担っていた男が素直に頭を下げる。


 言い訳はある。

 あくまでも守る為であり、使い道の無い書類の整理など、後回しになるに決まっているだろう、と。

 最優先である守護はちゃんとやっていただろう、と。


 とはいえ、それはそれである。

 いつか使う日が来るかもしれないから保管されているのだ。

 本当に、完全無欠に使い道が無いのであれば、そんなもの、燃やしてしまう方が良いに決まっている。


 故に、突っ込むだけ突っ込んで整理されていない状態は、怠慢の謗りを受けても仕方ないと言えた。


「まぁ、今は良いでありますよ。

 切迫している訳ではないでありますからな。

 ……おそらくは」

「……最善を尽くします」


 おそらくは。

 その言葉を外す事は出来ない。


 表面上、瑞穂、ひいては地球は、平穏を保っている。

 しかし、それは薄氷の上での平穏に過ぎない。


 昨年にもたらされた厄災、異界からの侵略者は、撃退こそ成功したが、決して完全に払い除けられたものではないのだ。

 いつまた、世界の殻が破られて厄災が落ちてくるとも分からない。


 故に、人類はその時を怖れて、その時に備えねばならないのだ。


 各国とも、その結論へと達してそれぞれに軍備の増強に励んでいた。

 中には、国家間で協力し合って進めているプロジェクトもある程である。


 そして、今現在、過去の記録に埋もれてしまった輝石の原石を探しているのも、そうした増強計画の一端であった。


 技術は日進月歩に進化する。

 かつては、使えないと捨てられたものであっても、今ならば、違うかもしれない。


 原石に、まだ輝く意思が燻っているのならば、適した研磨を施す事も出来るだろう。


「あ、ありました……! 〝い〟の23,736番! 福原千秋!」

「やれやれ。ようやくでありますな」


 肩を竦めながら、黒マントの魔王は掲げられた書類を取り上げる。


 福原千秋。満29歳の女性。

 魔力適性検査での結果は、F(マイナス)(s)。


 評価としては、最低ランクのF。

 しかも、マイナスが付属するという、まさに才能なしの烙印。

 しかし、更に付属する(s)という表記が、今ならば意味を持ってくれる。


「ふむふむ。確かに、これならば任せられそうでありますな」


 ナナシは、満足げに頷くと、まるで全てが幻だったかのように、宙に溶けて消えてしまう。


 瑞穂の魔王、《六天魔軍》には空席が出来ている。

 ニ席にいた《金剛》香織が先の戦闘で脱落してしまったからだ。

 命に別状はないが、魔力流路が損傷してしまい、現役復帰は難しいだろうとされている。


 現在、瑞穂には他にSランクの魔術師はいない。魔王の席を埋める事は出来ない。


 ならば、紛い物で穴を塞ごう。


 単独では魔王足り得ずとも、条件次第で魔王に比肩し得るのならば、それは充分に信頼に足るのだから。


 戦時体制の今ならば、特に。


~~~~~~~~~~


 福原千秋。満29歳の独身女性。

 最近、友人知人が次々と結婚から出産までしているという現実と、アラサーにして恋人も無しという中々に悲惨な自身と比べて焦りを覚えつつあるお年頃である。


「はぁ……」


 仕事を終えて、夕暮れの帰路を歩く。


 仕事に不満はない。

 つまらないOLだが、生活に困らない給金は貰っている。

 程よく忙しく、程よく気楽な仕事だ。


『続いてのニュースです。

 本日、高天原魔導学園にて、リネット・アーカート氏による対魔王特別訓練が実施されました。

 軍関係者によると、これは大変に異例な催しであると同時に、次世代の若き魔術師にとって貴重な経験であると……』


 道すがら聞こえてくるニュースに、千秋は僅かに表情を曇らせる。


 とっくに割り切っている事だ。

 若い、と言うよりも幼い頃の夢の事など。


 福原千秋は、戦闘魔術師として国を守る者たちに憧れていた。

 過去に故郷が隣国との小競り合いで戦火に見舞われ、彼女自身も巻き込まれて死にかけていた時に、颯爽と駆け付けて助けてくれた、名も知らぬ彼らに憧れたのだ。

 幼くして心に焼き付いた情景は、彼女に強い夢を抱かせるには充分過ぎる程に強烈で、しかし現実がその行く手を閉ざしてしまっていた。


 魔力適性、F- 。


 これが、千秋が持つ才能の限界だった。

 魔力は、努力や鍛練で成長しない。残酷なまでの、生まれ持った才能の世界である。


 別に、魔術師だけが世界の全てではない。

 魔術の才能が無くても、生きていくには何の不都合もない。

 むしろ、必要の無い世界の方が多くあるだろう。


 しかし、その才能がない事で、確かに進める道が消えてしまうのだ。

 まだまだ世界の事なんて知らなくて、世界は自分に優しい筈だと、根拠無く思える幼い子供に突き付けられた厳しい現実は、その子供の心に棘を残すには充分な苦い思い出となった。


 最近は、特に思う。


 昨年は激動の年だった。

 二回にも渡る異界との戦闘、更には第四次世界大戦まで起きていた。

 それに伴い、ニュースでは連日名のある戦闘魔術師たちの活躍が取り沙汰されて、華々しい姿が誰の目にも映っていた。


 勿論、それが全ての姿ではないという事くらいは分かる。


 きっと、戦争の中で死んでいった者たちがいただろう。

 苦痛や恐怖に、今も苛まれている者たちもいるだろう。


 戦争は、決して綺麗な世界ではない。

 きっと泥臭くて、きっと血生臭くて、きっと凄惨な世界である。


 それくらいは、千秋にだって分かっている。


 しかし、である。

 しかし、それは抱いた憧れと同じように、彼女の想像でしかない。


 彼女は、入り口に立つ事さえも、許されなかったのだから。

 夢に挑み、挫折すら出来なかった。


 それ故に、心が燻る。

 燃え尽きる事も出来なかった夢が、ジリジリと心の中に残り続けていた。


「……はぁ」


 吐息する。

 我ながらあまりにも女々しいと思いながら。


 トボトボとした足取りで、家路を辿る。


 逢魔が刻。


 茜色に染まる世界は、何処か不気味さを孕んでいた。

「…………」

「…………」


 何かの当て付けか、軍服を纏った者と擦れ違った。

 会釈をされたので、千秋も軽く会釈を返す。


 黒い軍服に、黒い外套、黒い軍帽の黒い人間であった。

 体格からして女性のようにも見えたが、マントに隠されている上に深く被った帽子により顔も見えなかったので、ハッキリとは分からない。


 あとほんの少しばかりの才能があれば、あれが自分の姿だったかもしれない。


 先程まで考えていた影響か、そんな事を未練がましく思ってしまう。

 湧いて出た憂鬱な心境を反映しているのだろうか。

 足が先よりも重くなったように感じた。


「…………、…………え?」


 異変に気付いたのは、暫し経ってからの事だった。


 道が、消えた。


 いや、道はある。目の前にある。

 だが、いつまでも進めない。

 同じ場所をグルグルと回っているような、そんな気持ちが何処かにあった。


 そんな筈はない、と理性は言う。

 何らかの魔術なのだとしても、自分を嵌める理由など何処にも無いから。


 その通りだ、と直感が囁く。

 自分は確かな異常事態に踏み込んでしまっていると、ハッキリと言う。


 分からない。

 何が正しくて、何が間違っているのか。


 ……はて、何を考えていた?


 パンッ、と、千秋は自分の頬を張り飛ばす。


「おかしい。いや、うん。……おかしい、よね?」


 頭にかかっていた靄が、痛みに僅かに晴れた、ような気がした。

 プラシーボ効果の類いかもしれないが。


 ――――勘は良さそうでありますな。


 何かが囁いた声が聞こえた気がしたが、内容までは彼女の耳は捉えられなかった。


 千秋は、訳も分からず走り出す。

 最初は小走りで、徐々に速く、縺れそうになる足を必死に動かして、遂には久しく出していない全力疾走となる。


 そして、確信する。

 やはり、何かを間違えさせられていると。


 本来なら、もう家に着いている筈だ。

 住宅街に入って、徒歩で10分もかからない位置にある。

 走れば、所要時間は半分以下になる筈だ。


 だというのに、いくら走っても、息が切れて足が止まっても、まるで辿り着かない。


 いや、そもそも人がいない。

 住宅街なのだ。決して寂れてなどいない。

 なのに、誰とも擦れ違わない。

 静まり返った深夜でもないのに。


「はっ……! はっ……! なに? …………何なのよ!?」


 途方に暮れると同時に、心の奥から得体の知れない恐怖心が湧き上がってきた。


 訳も分からず、右に左にと視線を巡らせて、怖気に震えそうな体を抱く。


 ――――思いきりは、いまいち、と。まぁ、チンチクリンがおかしいだけでありますかな。


 やはり、何かの声が聞こえる。

 こちらを見て、観察しているような気がする。


「誰……? 誰なのよ!? 何が目的よ!?」


 恐怖を振り払うように叫びながら、彼女はバックの中に手を入れる。


 取り出されるのは、護身用の短杖。

 最低限の魔術を使う為の、小さな武器だ。


 魔道先進国に生きる者として、義務教育の中で魔術を使う術は教え込まれている。

 実際に使った事など、ほぼ無いに等しいが、暴漢に対する気休め程度の備えにはなる。


 千秋は、それを振り回して周囲を見渡していく。


 自分の無いに等しい魔力では、大した事は出来ないけれど、しかしせめて一矢くらいは報いてやる、と覚悟を瞳に宿しながら。


 すると、まるで彼女を馬鹿にするかのように、世界が溶けた。

 まるで絵画にあるように、確固たる筈の建物が、道路が、何もかもが、ドロドロと柔らかくなって崩れていく。


 ――――さぁ、世界が崩れるでありますよ?


「うっ……!」


 不気味な様に怯む千秋の耳に、スルリと囁きが入ってくる。


 ――――無様に死にたくないのであれば、世界を破るしかないであります。渾身の力でもって。


 楽しむような、悪魔の囁き。

 それは、恐怖や覚悟や、様々な感情が綯交ぜとなった千秋の心の引き金を引かせるのに、充分な力が宿っていた。


 魔力を振り絞る。


 日常生活を送る上で、全力で魔力を、魔術を使う事などまずない。

 義務教育の中でも、実際に攻撃魔術を撃つ事はない。


 だから、これが入り口にすら立てなかった千秋の、初めての攻撃魔術となる。


 F-という最低評価を押された、乏しい魔力だけを使った、小さな小さな、そして極大の。


 ギュゴッ、という異様な勢いで大気が逆巻いた。


 起点は、千秋の持つ短杖の先端。

 そこに、漆黒の、何もかもを吸い込んでしまう渦が生まれていた。


 土属性魔術【加重】。


 ごく初歩的な護身魔術。

 ()()()()()が全力で使っても、数十キロの加重にしかならない魔術だが、千秋の明かされざる本当の評価、(s)という部分がそれを極大にまで高めてしまう。


 魔力評価は、おおよそ二つの要素で行われる。


 一つは、魔力保有量。

 その名の示す通り、どれ程の魔力を保有しているのか、という評価。

 もう一つは、魔力効果。

 これは、同量の魔力で、どれ程の規模の効果を及ぼせるのか、という評価。


 この二つは、通常、連動している。

 魔力が多い者ほど、より効果も大きくなる物である。


 しかし、時折、そのバランスが大きく違う者がいる。


 強大な魔力を有しているにも関わらず、極小の効果にしか至らない者がいれば、その逆も然り。


 千秋の魔力効果は、(s)。

 この意味は、魔力効果においてのみ、Sランク魔術師に匹敵するという意味に他ならない。


「あああああああああああああ…………!!」


 ちょっと重さを与えるだけの魔術が、魔王へと至る魔力の後押しを得て、ブラックホールが如き〝重さ〟へと変質した。


 何もかもが吸い寄せられ、圧縮、崩壊していく。


 それは、当の術者でさえも例外ではない。


 千秋の足が浮かび、黒い玉の中へと引き寄せられた。


「あっ……」


 死を予感した。


 瞬間。


「合格、でありまぁす」


 ナナシオリジナル・魔王級幻属性魔術【夢幻回帰(オールフィクション)】。


 事象も物質も、何もかもを無かった事にする幻の妙技が、世界を晴らした。

 溶け落ちる世界も、圧縮崩壊する重力球も、何もかもが消え去り、平穏な住宅街が戻ってくる。


「は、へぇ……?」


 ペタリ、と座り込んでしまった千秋は、目を白黒させて困惑の声を漏らした。

 そんな彼女の前に、黒い怪人がいつの間にか現れていた。


 黒い軍服を纏った人物。

 先程も見た立ち姿。


 しかし、先とは違う部分もある。


 厳重に着込まれていたマントが開かれ、中身を見せており、深く被られていた帽子が上げられ、顔立ちが顕になっていた。


「あっ、あっ……、う、うそ……」


 その顔を、千秋は知っている。

 この国に生きる者で、知らない者は誰一人としていないだろう。


《六天魔軍》第四席、闇に巣食う怪人、ナナシ。


 天上の魔王その人であった。


「ふっふっふっ、危うい世界を経験した感想は、如何でありますかな?」

「ふへ? あの、一体、何が……」


 ナナシに差し伸べられた手を取りながら、千秋はいまだ困惑の中にいた。


「サプライズでありますよ。サ・プ・ラ・イ・ズ。

 楽しんでいただけたでありますかな?」

「サプライズって……。こ、怖かったんですよ!?」

「で、ありますか。とはいえ、貴女が望んだ世界でありますよ?」

「……え、え?」

「戦闘魔術師に、なりたかったのでありましょう?」


 感情を読ませない、不気味な微笑みを浮かべながら、ナナシは言う。


「実は、最近の情勢として、軍部は人手不足でありましてな。

 スカウトしに来たのであります」

「私、を……? で、でも、私、F-ですよ?」

「ああ、これでありますかな?」


 ナナシは、一枚の書類を取り出す。

 福原千秋と書かれたそれは、彼女の魔力適性を評価したものであった。

 F-(s)と書かれている。


「まぁ、今までは意味の無いものでありましたが、世界は変わっていくものでありますよ」

「えと……」

「純粋魔力化理論」


 ナナシは、千秋の理解を待たず、歌うように自分勝手に言う。


「抽出された魔力から、個人の特性を抜いて純粋なエネルギーへと変換する技術が、実用化されてあります。

 ご存知でありますかな?」

「は、はい……」


 知っている。ニュースで何度もやっていた。

 これにより、戦闘魔術師への門戸が少しは広がるだろうとか、魔力の強さに胡座をかいていた八魔家が失墜するだろうとか、そういう話をされていた。


「貴女の魔力適性は、魔力量では確かにF-ランクでありますが……」


 ナナシは、書類の一点、(s)を指し示す。


「魔力効果においては、なんと! Sランクに匹敵するのであります!

 パンパカパーン!

 おめでとう! おめでとう!

 技術の進歩が、貴女の才に道を照らし出したのでありますよ! 諸手を上げて喜ぶであります!」


 それだけを言われて、ようやく理解が追い付いてくる。


「つ、つまり、魔力を補充する術が出来たから、私にもチャンスが……?」

「はいであります。

 幸いにも、Sランク用の魔力を大量に余らせている方もおられますからな。

 砲身として、活躍できましょう」


 主に雫とか。

 日常生活を送るだけで、やたらと余らせているものである。


「しかし、戦闘魔術師の世界は厳しいものであります。

 理不尽な目にも当たり前のように遭遇しましょう。

 そこで、まずは体験して貰ったのであります。

 これから、身を浸す世界というものを」


 現在の戦場では、先のような事が当たり前のように起こり得る。

 もっと摩訶不思議で、もっともっと酷い光景だって、たくさん起こる。


 それで心が折れてしまうようであれば、いくら能力があろうとも、戦場においては邪魔でしかない。


 生き残り、活路を切り開くのは、いつだって折れぬ意思のある者なのだから。


 ナナシは、手を差し出す。

 千秋を誘うように、千秋を迎えるように。


「福原千秋殿、貴女は、まだ戦闘魔術師になりたいでありますかな?」

「…………」


 この手を取れば、諦めていた夢の世界へと踏み込める。

 後戻りは、きっと出来ないのだろう。


 わざわざ魔王が出向いているのだ。

 ある種の脅しも含めた片道切符なのだと、彼女は察した。


 先の光景を、恐怖を、思い出す。


 数瞬、千秋は目を固く瞑る。


 そして、もう一度開いた時には、燃えるような強い意思が瞳に宿っていた。


「よろしく、お願いします」

「ふっふっふっ、歓迎するでありますよ、新たな同志」


 後に、準魔王級、【小さくて大きな力】と呼ばれる事となる砲撃の名手。

 その誕生の瞬間であった。

という訳で、本日の設定公開&ガバ要素謝罪のコーナー。


Q:千秋は魔王になるの?

A:いいえ、なりません。扱いとしては、準魔王止まりです。なので、所属も《六天魔軍》ではなく、国軍になります。


Q:じゃあ、何でナナシが迎えに来てんの?

A:ほら、自爆しかけたように、Sランクの魔力って扱いが難しいのよ。なので、暫くは先輩魔王たちの下で訓練期間です。充分な力量に達したら、国軍に配置されます。



こっからガバ謝罪。


Q:そんな歩く爆弾みたいなの、何の枷も付けずに巷に放置してたわけ?

A:ほ、ほら、危険度で言ったら、どんな物だって凶器になり得る訳ですし? 普通人だって本気で攻撃魔術使ったら危険度抜群な訳ですし? だから、道徳教育とか倫理教育とか、そんな感じな本人の良心を信じてたんですよ、きっときっと。(目反らし)


はい、ごめんなさい。

作者の人、そんな事まで考えてないだけです。

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