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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
七章:破滅神話 前編
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エピローグ:運命は均衡を保つ

 獣魔氏族首長会議。


 狼がいる。獅子がいる。鷲がいる。猿がいる。

 狐が、虎が、熊が、鹿が、馬が、その他、あらゆる獣の部位を持つ獣人が集まっていた。


 獣魔種は、祖とする動物の違いによって、氏族という単位で内部が分裂している。

 他種族の者たちに侵略の隙を見せる程ではないが、常に主導権やリソースの奪い合いを演じていた。


 一応は、全氏族の意思統一を行う為の場、首長会議という行事こそ設定されているものの、しかし抗争をし続けている各氏族が、そう簡単に仲良く出来る筈もない。

 首長会議が開催されようとも、大抵は半数近くの氏族は欠席してしまう上に、出席氏族たちの意思統一もままならない。


 だが、しかし、今日に限っては全氏族が欠ける事無く集結している上に、少なくとも議題に対する方針だけは統一されていた。


 すなわち、生き残る為にはどうすべきなのか、ということ。


「…………まさか……まさか、異星人(ビジター)とは」

「……ふん、娯楽物語ではあるまいに」


 霊鬼種との国境線上にて、突如、勃発した天竜種による戦闘は、物理的にも精神的にも激震を以て獣魔国を駆け巡っていた。


 国境に横たわっていた大渓谷は、ただでさえ大自然の威容を見せ付ける巨大さだったというのに、戦闘の影響で更に大きく広がり、その規模は五倍以上となっている。

 そして、周辺はアハトの魔力に侵され、時期外れの雪が降り積もる極寒の地となっていた。

 そのほとんどは暫くすれば自然と消えるだろうが、幾らかは強力な魔物領域として残留するだろう。


 戦災は、国境線を超えて国内にまで及んでいる。

 狼氏族の要塞都市シャルジャールは文字通りに壊滅してしまっており、更に奥の都市にも被害が出ていた。


 唐突に発生した絶望的な状況に、獣魔の各氏族は大混乱に陥っていたが、幸いにも戦闘は一晩で終結し、なんとか国全体が滅びるような事にはならずに済んだ。


 しかし、その後、もたらされた詳細な戦闘状況と、何よりも相手側の正体と目的によって、各氏族の指導者たちは更なる頭痛に悩まされる事となり、緊急的な首長会議が開催される運びとなったのだ。


「信じられない気持ちは分かるがな。

 しかし、確かに彼らの技術体系は、我々とはあまりにも違い過ぎる」

「まぁ、な。こんな形でUFOを見る事になろうとはな」

「ロマンのある宇宙人の正体が、ハゲ猿だなんて……。世も末だ」

「……狼氏族として言わせて貰うが、あれらを同じものだと思わない方が良いぞ?」

「分かっている。分かっているとも。あのような大被害を、ハゲ猿の小物どもにやれるものか」

「姿形が同じだけの、別種族と思った方が良いでしょうね」

「…………ふんっ、完全にハゲ猿に擬態しているのが厄介だな」


 口々に、宇宙からやってきたという客人への感想を述べていく。

 そこには、何処か投げ槍な雰囲気が滲んでいた。


 それもそうだろう。

 天竜と言えば、彼らにとっては絶対的な乱神である。

 災害と言っても良い。


 そんな存在と、真っ向からやり合ってみせたのだ。


 娯楽物語においては、突然やってきた宇宙人に星が壊滅させられる、という類いのストーリーがあるが、それが決して荒唐無稽な非現実的なものではないと証明されてしまったのである。

 嫌気の一つも沸いてくるだろう。


 そして、悲しい事に、彼らは決して仲良くなりに来たのではないという現実がのし掛かっている。


 ――――星を滅ぼしに来た。


 異星からの使者は、確かにそう言った。


 それだけならば、変に考える余地はない。

 故郷を奪おうという外敵なのだ。

 抗い、撃滅するだけの事だ。

 たとえ、それが天竜に匹敵する化け物であっても、だ。


 だが、彼らの目的は、あくまでも〝星〟を滅ぼす事が目的なのだと言う。

 その地に生きる民を、殺したいのではないと言う。


 だから、移民船の用意がある、という話が、事をややこしくしていた。


 彼らの星に受け入れる余地はあると言う。

 だが、席には限りがあるとも。


 それが、本当に慈悲なのか。

 それとも、奴隷でも求めているのか。


 何を目的としての提案なのか、判然としなかった。

 何かを隠している様子が見え隠れしている事も、判断を迷わせる材料の一つとなっていた。


 比較的大人しい性質の氏族は、命を懸けての抵抗よりも移民に同意すべきだと言う。

 勝てる可能性が見えない戦に身を投じるよりも、確実に生きられる道を選ぶべきだと。


 血の気の多い性質の氏族は、不透明な移民よりも命を懸けて抗うべきだと言う。

 父祖より受け継ぎ守り通してきた故郷を、ただ捨ててしまうような恥知らずな真似は出来ない。

 たとえ、死ぬのだとしても、胸を張って誇りを抱きながら死ぬべきだと。


 どちらにも頷ける。

 命か、誇りか。

 どちらも、満足して生きていくには大切なものだった。


 だからこそ、会議は白熱しつつも迷走していた。


 時ばかりが無為に過ぎていく。


 そうしながら、いつまでも決定的な意見が出てこず、出席者たちに倦んだ気配が満ちてきた頃に、それはやって来た。


「っ!? 何だッ!!?」


 議場の中央に、七色の光が生まれた。


 突然の出来事に、守護の兵士たちが反応して光を取り囲む。

 見た目の派手さに比べて、感じられる魔力は非常に微小だ。

 それ故に、即座の対処ではなく、事態をひとまずは見守るという動きを見せた。


 何が起きようとも、すぐさま反応できるように警戒心を高めながら待っている内に、光が変化する。


 球状だったそれが、少しずつ形を変えていき、人型を模していく。

 そして、最後には七色の光が弾けた。


 現れたのは、美しい女性だ。

 足元まで届く長髪は、オーロラのように不思議に色を変えて揺らめいており、女性らしい凹凸に富んだ肢体は、清潔さと神秘性を感じさせる白と金を基調とした衣装に包まれていた。

 そして、何よりも、彼女の正体を示す証明として、頭上には複雑怪奇な紋様を描いた光輪を戴いており、背中には始祖を彷彿とさせる八つの色を混ぜた十枚の光翼を背負っていた。


 そう、十枚である。


 精霊種は、存在の格が光輪の複雑さや光翼の枚数に現れる。

 下位精霊は二枚翼、中位精霊は四枚翼、上位精霊は六枚翼、そして始祖精霊で八枚翼となる。


 始祖を超えた十枚の翼を許された者は、この世にただ一人しかいない。


 原初の意志。星の全権者。偉大なる女神。


 星霊ノエリアだけである。


「「「!!!??」」」


 その正体に思い至った瞬間、議場の誰もが絶句し、我に返った時には膝を着いて頭を垂れていた。


「せ、星霊……ノエリア様……っ! お目にかかれて光栄に御座いますっ!」


 最も前列にいた獅子の獣魔が、代表して挨拶を述べる。

 ノエリアは、それに頷きを返すと、静かに口を開いた。


「うむ。会えて幸いじゃ」


 凛と響く声に、獣魔の者たちは天啓を受けたように歓喜の念を覚える。


 ノエリアは、まさに女神なのだ。

 全ての始まりである彼女は、唯一、天竜たちをも従える存在であり、あらゆる種族に母神として崇拝されている。

 長く、それはもう永く眠りに付いていた彼女は、寿命ある種族にとっては伝説に近い存在であり、生涯の中で出会える事は望外の幸運なのだ。


「さて、出来ればゆっくりと話をしたい所なのじゃが、あまり時間も無いのでな。

 手短に伝えようぞ」


 その言葉通り、ノエリアの姿が揺らいで薄れる様を時折見せている。


「そ、そんなっ! 獣魔の総力で歓待致しますものを!」


 母なる星霊に、自分たちの発展を見て貰いたいと、そんな子供じみた想いから言うが、しかしノエリアは微笑んで首を横に振る。


「すまぬな。その気持ちは嬉しく思う。

 しかし、今日のところはお忍びなのじゃ。

 我の事を知られては動き辛い」

「……そうで御座いますか」


 残念そうに肩を落とす。


 獣魔の者たちは、始祖精霊に知られずに動いているのだろうと思った。

 あるいは、天竜かとも。

 彼女が上から言い聞かせれば、始祖や天竜と言えども否と言えないが、そういう言動を良しとしない性格と伝え聞いている。


 だからこそ、こうしてこっそりと動いているのだろうと。


 しかし、話は思わぬ方向へと転がる。


「あのアホな異星人どもの話じゃ」

「……知っておられましたか」

「まぁの。あれらがやって来た原因は我にあるからの」

「っ!? なんと!?」


 思わぬ発言に目を見張る。


「少しは、未来の道標になるかと思っての。その話をしに来たのじゃ」

「…………詳しく聞かせて貰えますか?」


 …………。

 ……………………。

 ………………………………。


 その後、獣魔種は移民船――マジノライン終式に各氏族の子供たちを乗せ、地球における生存権の約束を条件に、侵略者への協力を決定するのだった。

この章は、これで一度終わりです。


ちなみに、このノエリアは未来の方のノエリアです。

過去のノエリアはまだ寝ています。リースが叩き起こそうとしている最中です。


自己申告の通り、刹那たちには秘密で動いています。


これは、刹那たちが間抜けなのではなく、ノエリアの隠密技能が無駄に高度なだけです。

二百年間、地球で暗躍し続けてきた経験値ですね。

本気を出せば、彼らの目を誤魔化す事も出来るのです。

タイミングを見計らう必要もありますし、言葉と姿を僅かに送る程度で精一杯ですが。

変に力を発揮し過ぎると、刹那たちにバレかねない上に、過去の自分と混線してしまうので。

どうしてもそれが限界。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] となると、実はこの後に例の鬼っ娘とハッスル!(意味深)してた狼君もこの協定の事は知っていた、って事なんで?
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