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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
七章:破滅神話 前編
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機械仕掛けの天使

若き日の無知を晒します。


自分、詳細を調べるまでは『ムカデ砲』ってこういうものだと思ってたんです。

 (おお)きい。

 高く、広く、なによりも長い。

 ただただひたすらに巨大なそれが、大地を突き破って地上へと現出した。


 透き通る様な構造体。

 おそらくは氷なのだろうが、しかしあまりに美しい透明度に、月明かりを反射し、精巧な水晶細工の如き美麗さを醸し出している。

 放たれる冷気が周囲の水気を凝結させ、薄靄となって纏わり付いている為、芸術品の完成度は更に上がるだろう。


 しかして、その幻想的とさえ評せる情景とは裏腹に、本体となるそれは、ある種の禍々しさを抱いていた。


 ムカデ。

 無数の甲殻が連なり、それと同じだけの鋭い脚部が連結されている姿は、まさしくムカデのそれである。

 そして、単純にムカデとしてはあり得ない部位として、その背には筒状の巨大な突起物が大量に背負われていた。


 八番目の天竜、アハトフリーレン。


 太古より生きる真の最強種の登場であった。


【――身の程を弁え、地の端にでも引き籠もってさえいれば、見逃す事もあっただろうに。

 愚か。実に愚かな害虫どもよ】


 彼が、脳内に直接響くような特殊な発声法にて、言葉を放つ。


 向かう先には、一体の蟲がいる。

 数多の蟲のパーツを無作為に抽出して重ね合わせたような、異形の合成蟲である。


 左右のカマキリの腕に、小柄な少女二人を引っ掻けて翔ぶ彼は、告げられた言葉に不敵に返す。


「ふっ、メソメソと泣き寝入りして生きろと?

 クククッ、それこそ愚か者の所業よ。

 もがき足掻く事こそ生命の本質。

 頭を抑え付けられた程度で、この私が歩みを止めると思うなよ、駄竜風情が」


 何の話をしているのか、よく理解していないというのに取り敢えず喧嘩を売るのは、刹那の悪い癖だろう。


【――よくぞ吐いた、その暴言】


 魔力が高ぶる。

 元より滅ぼすつもりだったが、今の言葉で一切の葛藤も消えた。


 やはり、怪蟲種は滅ぼすべき害虫だと再確認出来たので、アハトはその力を解放せんとする。


 かつてと同じように、天地を引っくり返してでも最後の一匹まで見つけ出さねば、と、ある種の片手間で、目の前の小さな小さな虫ケラを屠るつもりであった。


 まさかそれが、異なる摂理の中で生まれた始原星霊と同じものであるなどとは、思いもせずに。


「ふっ、重ねて愚かと言おうか。既に先手は貰っているのだよ!」


 戦闘態勢(ファイティングポーズ)

 シャコの両腕は、アハトが姿を見せた時点でいつでも放てるように構えられ、照準も合わせられていた。


 後は、放つだけである。


 なので、撃った。


 秘拳・シャコ式念力マッハパンチ。


 マッハとは名ばかりの亜光速の念力弾が二連撃にて放たれる。

 不可視にして、彼らにとっては不可知でもあるそれは、虫ケラと油断していた巨大ムカデの顔面にクリーンヒットし、その長大な体躯を仰け反らせて吹き飛ばす。


 砕けた氷片を撒き散らしながら、背後に倒れ込んだアハトは、自らの寝床であった谷間へと一時姿を消した。


「フハハハッ! 見たかね、愚妹! 無様に吹っ飛んでいったぞ!」

「……いやー、お兄ってホントにここだと理不尽だよね」


 真正面から堂々と不意打ちが出来る。

 その卑怯くさい特性に、右のカマに引っ掛けられて吊るされている美影は、ほとほと呆れたと言う。


 彼女の目には、シャコ腕に堂々と念力が込められていた様が見えていた。

 隠す気の一切ないそれは、テレフォンパンチと変わり無く、最速の美影と言わずとも、俊哉や久遠を通り越して、身体能力の低い雫であっても、悠々と躱す事が出来ただろう。


 分かってさえ、いたならば。


 惑星ノエリアの住人には、分からないのだからどうしようもない。

 たとえ、目の前で拳を構えられ、振りかぶられていても、彼らには一切気付けないのだから、これを卑怯と言わずしてなんと言うのか。


 実際に、左のカマに吊るされているツムギは、起きた事が理解できずに目を丸くしている。


「え、えぇー? なぁにがおきたのー?」


 天竜が現れ攻撃してこようとしたら、逆に吹っ飛んでいった。

 彼女の目にはその様にしか映らないのだ。


「っていうかー、きみ、だれー?」

「私かね? 私はしがない全宇宙の支配者だとも」

「僕の自慢のお兄ちゃんだよ! そして、僕に種を蒔いて良い唯一の男でもあるね!

 むしろそっちが重要だね!」

「ん、んぅー……」


 反応に困る。

 状況の変化に着いていけない。

 スペック的に周囲を振り回すばかりであったツムギにとって、これはこれで初めての体験だった。


「で、どうすんの? お兄がやんの? 僕がやっても良いよ?」

「いやいや、愚妹に無理はさせられないよ。

 この小娘との小競り合いで、少なからず疲弊しているだろう?」

「こむすめ……」

「んー、僕はまだまだ行けるんだけどなー」


 嘘でも強がりでもない。

 連弾の残弾はまだ余裕があるし、更なる切り札も残っている。

 最強種と謳われる天竜に興味もあるので、殴り合ってみたいというモチベーションもあった。


「そう言うものではないよ。

 それに、愚妹よりも先にやる気を出しているお方がいてね。

 早い者勝ちだよ」

「というと……」


 先約がある。

 刹那が、美影を窘めてでも順番を譲るような人物など、一人しかいない。


 先制パンチで谷底へと落ちたアハトが復活するのと、地上から圧縮解除された大量の金属パーツが射出されるのは同時だった。


「ククククッ、超自然の申し子よ!

 刮目するが良い!

 これこそが叡知の最果て! 知性の結晶! 文明が辿り着きし傑作だッ!!」


 天空城塞・マジノライン四式《ルシフェル》。


 遥かなる星の海を越えてやって来た、超文明の産物が顕現する。


~~~~~~~~~~


「ふぅ、壊れてはいないみたいね。良かった良かった」


 横転し、更には瓦礫の中に埋まってしまっていたデコトラを(刹那が)掘り起こし、各部のチェックを終わらせた美雲は、ひとまず何処にも異常がない事に安堵する。


 圧縮状態では物質としての密度が高いので、非常に頑丈である事がデフォルトだが、なにせ晒されていたのは二人の才人が遠慮なく殴り合う現場である。

 余波を受けただけでそこらの生物は死滅してしまうし、実際にこの辺りの大地は、隣接していた魔物領域も含めて滅茶苦茶になっている。

 その中でも無事に切り抜けた事は、それなりに評価に値する奇跡だろう。


「さてと……」


 美雲は、運転席を開いて座ると、キー……ではなく、一発の弾丸を取り出した。


「なぁにをしようってんだぁ?」


 助手席に座らされていたガルドルフが訊ねる。

 刹那が置いていった獣の部位を持つ人間である。

 不思議な気分だが、廃棄領域の怪奇生物に比べればマシだし、もっと言えば不思議度合いでは弟の方がよほどアレなので、美雲は軽くスルーしておく。


 彼女は、ハンドルを取り外し、その内側に隠されていた弾倉に、取り出した弾丸をセットしながら答える。


「デモンストレーション、かしらね」

「あぁ?」

「私ね、上から目線で舐められるのが嫌いなの」


 美影や刹那程の才気は持たない。

 そんな事は分かっている。


 だが、そんな程々の能力も含めて、彼女は自分が好きだ。


 綺麗な自分が好き。

 賢い自分が好き。

 お金持ちな自分が好き。

 皆に優しい自分が好き。

 実妹と義弟に好かれる自分が好き。

 人の域をはみ出さない、程好い才能しか持たない自分が、大好き。


 だから、そんな自分を馬鹿にする奴が大嫌いである。


 実のところ、美雲は腹を立てていたのだ。

 ツムギが、自分に対して落胆してくれやがった事に。


 見下されたならば、見返してやらねばならない。


「さぁ、いきましょう。四式ルシフェル、全展開……!」


 セットした弾丸――魔力超力混合封入弾の尻を、美雲は思いっきりぶっ叩くのだった。


~~~~~~~~~~


 最初に組み上がったのは、細長いシルエット。

 白を貴重としており、地面に向けた先端は更に細く尖っている。

 サイズ感の狂った文房具のようでもあった。

 逆側には、輝く円形部品を戴いており、天使の輪のようでもあった。


「メイン動力炉、マテリアル・リアクター! 始動ッ!」


 三次大戦中に実用化され、そして人類文明と地球に止めを刺した戦犯級ロストテクノロジーに火を灯す。


 マテリアル・リアクター。

 物体を分解してエネルギーを取り出すという、正気を疑う機関である。

 取り敢えず何かぶち込んでおけば、片っ端から超エネルギーに変換してくれる素敵な機関であり、暴走爆発した際にはちょっと星の輪郭が変わる程の破壊力を叩き出してくれる悪魔の機関でもある。

 戦争中の地球に立ち寄った際に、刹那が回収していたロストテクノロジーの一つだ。


 目に付いた適当な岩塊を放り込んだ事で、唸りをあげ始めたそれは、爆発的なエネルギーを供給し、四式の全体を急速稼働させていく。


「全砲門、解放! 魔力超力封入弾、セット!」


 装甲が開き、無数の砲塔が顔を覗かせる。

 質量弾を射出する筒状の物から、直接的にエネルギーを放つ針状の物まで、多彩なそれらが照準を氷の天竜へと向けられる。


「副動力炉、マギアシステム起動! 特殊装備『矛盾(ソード&シールド)』全八基、展開!」


 本来の主動力機関を、贅沢に流用した八本の剣のような装備が、四式を取り巻くように開かれる。

 黒を基調としながら、散りばめられた駆動光が星明かりの様に瞬いており、まるで夜空を剣の形に押し固めたかのような姿をしている。


【――下らん】


 何を造ろうとも。

 天竜たる我が身に敵う筈もなし。


 その自信を証明せんと、アハトは容赦なく攻撃した。


 背中に背負った大筒――氷の大砲が轟音と共に火を吹く。

 射出されるは、巨大な氷塊。

 だが、単なる氷の質量砲弾と思うなかれ。

 内部には氷属性の魔力が凝縮されており、着弾地点を中心にして凍結現象を周囲に拡散させてしまう。


 この規模ならば、一都市を丸ごと永久凍土に変えてしまうだろう。


「あら、手出しが遅いわ。もう、準備は出来ているのよ」


 展開された八基の黒剣翼が稼働する。

 内部に溢れたエネルギーが全体を駆け回り、やがて周囲へとそれが放出される。

 放出されたエネルギーは指向性を持ち、黒剣翼を互いに連結させていった。


「〝盾〟を作りましょう。

《プロテクト・プロテクション》、展開――!」


 身を守る傘のように、エネルギーシールドが広げられる。


 そこへ、氷塊弾がぶち当たった。

 極寒の冷気が爆散する。

 周囲の何もかもを凍りつかせ、美しくも過酷な氷雪の天幕が空に咲いた。


 だが。


 氷雪を切り裂いて、巨大な機械兵器が飛び出す。

 エネルギーシールドに守られた白の巨塔と黒の八枚翼。

 そこに破損も凍結も何処にも見られず、駆け巡るエネルギーの輝きがその全貌を美しく照らし出していた。


 機械仕掛けの天使が、氷の天竜を睥睨して見下ろすのだった。

一式と二式のモデルは、『スピリット・オブ・マザーウィル』。

三式のモデルは、明言してなかったけど、『グレートウォール』。


ならば、空中要塞である四式のモデルは『アンサラー』……!

と見せかけて、どちらかと言えば人工知能搭載型コロニー『レオパルド』の方が近いんじゃないかな、って。


いや、造形イメージは『アンサラー』で間違いないんですけども。



ちなみに終式のモデルは、世代間宇宙船『クイーン・セレンディピティ』です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 貴公、よもやリンクスであったか?(最近は褪せ人やってる元人類の天敵種)
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