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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
七章:破滅神話 前編
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星装《彼方此方》

 暗き夜空を、純白の魔力光が引き裂いて行く。


 大気が震え、大地が揺れ動く。

 余波でさえも、それなのだ。

 本流の破壊力は推して知れるだろう。


「く、うぅ……!」


 その起点となるツムギは、歯を食い縛って呻きを漏らしていた。


 連結陣は、未完成の技なのだ。

 放たれる威力こそ満足の行く物であるが、向上した威力以上の魔力を要求される非効率性をしており、何よりも砲身となる術者に対して多大なる負荷を強いる。


 ツムギは、肉体的に優れた霊鬼種の才媛である。

 その肉体は、間違いなく最高クラスであり、魔力を用いない純粋な身体能力だけで競えば、上位種とされる地竜種にも勝ち得るだろう。


 そんな彼女の左腕から、骨が軋み、肉が千切れるような音が聞こえてきた。


(……これで、だめならー)


 切り札の一つである。

 これで打倒し得ないのならば、いよいよ打つ手が無くなってくるのだが。


 油断もあったおかげで、真正面から打ち据える事が出来た。


 直撃だろう。

 自分でも食らいたくないと思える威力に、果たして相手は無事なのだろうか。


 答えは、すぐに目の前に示された。


 魔力光の奔流が弾け飛ぶ。

 内部から破裂したように光が弾け、それに引きずられるように根本から全てがかき消される。


 星装技《彼岸彼方》。


 破裂の中心には、漆黒の雷を纏う少女の姿が。

 広げた両の腕からは、火花のようにも見える白い燐光が絶え間なく溢れ落ちている。


「ハァ……、ハァ……!」


 美影は顔を俯かせながら呼吸を荒く繰り返していた。


(……危なかった!)


 まともに受ければ一発KO級の破壊力だったと、今更のように危機に身震いする。

 魔王と言わず、始祖精霊や天竜を飛び越え、なんならば兄やノエリアにさえ通用するレベルであった。


 タイミングも上手い。

 最後の最後まで温存し続け、こちらの僅かな油断を一切見逃さずに的確に狙い撃ってきたのだ。


 まさに必殺。


 それを防ぎきれたのは、装備のおかげだ。


 美影の両腕を包み込む拳帯、星装《彼方此方》。

 元々の色は漆黒だったというのに、今は白い燐光に合わせて一割程が白く染まっていた。


 許容値の一割、というと、そこまででもない気がする。

 だが、《彼方此方》はそもそも星の中心核から削り出された代物なのだ。

 星のエネルギーを受け止める媒体の一割を満たしたのだと言えば、それがどれ程の偉業なのか、分からない事はないだろう。


 ゆっくりと空を踏み降りて、突き出していた岩の先端に降り立つ。


「…………そのつもりはなかったんだけど……でも、謝るよ。ごめん、舐めてた」


 真面目に戦っては、いた。

 それは間違いない。

 しかし、死力を尽くし、全力で戦っていたかと言えば、それは否だ。


 殺す気はなく、試合のような、手合わせのような、そんな心持ちだった事は否めない。


 ツムギの方は、自壊も辞さない手札まで切るほどに本気だと言うのに。


 失礼だったと、強く反省する。


 自らの行動を恥じた美影は、後頭部へと手を回す。

 イメージチェンジの一環で少しずつ伸ばしている、自慢の黒髪。

 それを結い上げる髪紐の端を握り、一息に抜き取った。


 途端、黒雷が弾ける。


「なっ! ん、てぇ……」


 膨れ上がった魔力に、ツムギは目を見開いて絶句した。


 連弾解放。


 コツコツと溜め込んできた莫大な余剰魔力が、美影の髪に宿って解き放たれる。


 彼女の身の丈を数倍する長さとなったそれが、黒雷を纏ってたなびいている。


「構えなよ」

「っ!!」


 これから行く、という宣言に、ツムギは陣術を編み込む。


 連結陣撃術《鬼神一閃迅》。


 先と同じ尋常ならざる一撃を、今度は右腕で放つ。

 穴の空いてある右腕は、その過負荷を受け止めきれずに大きく血を吹き出すが、そんな事に構ってはいられない。

 それ程の脅威を彼女から感じていた。


 迫る彗星に、美影はヒラリと身を翻し、紙一重で躱すと、大気を踏み裂いて瞬発する。


 目にも止まらぬ雷速。


 ツムギの目でも、それは変わらない。


「くぅるなぁーーーーッ!」


 なので、目に頼らず肌で感じる魔力の波動のみを当てにして攻撃を放つ。


 連結陣撃術《鬼神十束首》。


 射程を伸ばす《飛爪》、手数を増やす《乱牙》を組み合わせた陣術を放つ。

 十本の不規則にのたうつ鎌首が顕現した。


 それらは弾幕となりながら、美影へと向かう。


「連弾壊砲……」


 一門《流々転々》。


 相乗効果により、一発一発でさえも《角激》にも匹敵する首たちに、美影は両腕に雷光を宿しながら吶喊していく。


 舞い踊る。クルクルと、ユラユラと。


 手を添えて、流れに逆らわず、ただほんの少しだけその向かう先だけを上書きしていく。

 合気術を基に考案された、対魔術用の受け流し技である。


 一本、二本といなしていき、最後の十本目までの全てを躱しきった美影が、岩場の一つに足を置く。


 一切の傷を追わずに無事に切り抜けていたが、その足下は何処か覚束ない様子となっていた。


「はにゃあ、目が回るるるるぅ~」


 十束首の勢いがあまりに強過ぎたが為に、それを受け流す為にも相応の回転を必要としてしまった。

 おかげで、流石の彼女の三半規管も悲鳴を上げてしまったようである。


 陣撃術《飛爪》。


 その隙を逃さない。

 ツムギは遠方からの打撃で美影の足場を崩す。


 剛体陣術《飛び駆け》。


 宙に放り出される美影に、ツムギは速度に補正を掛ける陣術で自身を強化しながら、自ら接近した。


 美影が空を蹴って跳ぶ事は分かっている。

 だが、あれには実は繊細な力加減が必要な事も見て取れた。

 今の彼女ならば、即座に空を駆ける事は難しい、筈だ。

 そうであれ、と願いながらの行動だった。


(……もう、あんまりまりょくないんだよー)


 非効率的な連結陣をもう三回も使っている。

 残存魔力は、そう多くはない。

 連結陣はあと一回、多めに見積もったとしても、使えてあと二回だけだろう。


 これで決めるつもりで、ツムギは魔力を振り絞った。


 連結陣撃術《鬼神四滅》。


 威力を高める《角激》、手数を増やす《乱牙》の組み合わせ。

 最接近時にのみ可能な、今のツムギに使える最高威力の攻撃であった。


 破滅をもたらす四つの厄災が美影へと放たれる。

 その一発一発が、一閃迅と変わらぬ威力を孕んでいる。

 その全てを喰らえば、美影とて跡形もなく粉砕されるだろう。


 それを見ながら、美影は笑う。


 三半規管がまともに機能し始めた時には、既にそれが間近に迫っていた。

 それでも、彼女の速度ならば回避は間違いなく間に合っていただろう。


 だが、逃げるつもりは更々無かった。


 見れば、それを撃ち放ったツムギの左腕は、遂に負荷に耐えきれずに無惨にひしゃげていた。


 そこまでして己に勝とうとしてくれている。

 戦士の冥利に尽きるというものだ。


 だからこそ、逃げずに立ち向かおうという気になった。


 ガツン、と、美影は両拳を叩き合わせる。

 雷速で打ち付け合う衝撃に、拳帯から白い燐光が散る。

 何度も、何度も、何度も、音が連なり、切れ目が耳に捉えられない程に、一回一回に連弾で尋常ならざるエネルギーを込めながら。


 星装《彼方此方》は、受けたエネルギーを吸収し、蓄積していく性質を持つ。

 許容量を見れば、まだまだ余裕があり、四滅を正面から受け止めて猶余るだろう。


 だが、それは面白くない。


 星装は与えられただけの力だ。

 少なくとも、美影はそういう認識である。


 だから、それをそのまま使っただけの防御力は、彼女の矜持を著しく傷つける。

 だからこそ、先の緊急回避は恥じ入るばかりなのだが。


 よって、機能を利用した攻撃でもって迎撃するつもりだった。


 最後に一発、一際強く打ち合わせた拳を、彼女は掲げる。

 黒き拳帯は、約半分程が白く輝いていた。


「五割だ……! 大奮発だよっ!!」


 星装技《彼岸此方》。


 蓄積された衝撃力を、一気に解き放つ。


 静寂。


 大気が、大地が、物質が、何もかもが押し退けられて、場に無の静寂が満ちる。

 数瞬後、揺り戻しとなって空気や瓦礫、周囲にある何もかもが、空白地帯を埋めようと寄せ集まっていく。


 そこで、ようやく威力が爆音となって響き渡った。


「くぅ、あ……」


 ツムギは、その空間の外を飛んでいた。

 力無く吹き飛ばされながら、長い滞空時間を経て、ようやく地面に落下する。


「はっ……!」


 詰まっていた息を吐き出す。

 そして、よろけながら立ち上がる。


 一瞬にして破壊と再生を行われた大地の中心地。

 未だ轟々と鳴り止まぬ突風の最中で、雷の化身は、悪鬼羅刹の如く無事な立ち姿を見せている。


「こまったなー……」


 ツムギは、途方に暮れるように溢した。


 四滅は、今の彼女の出せる最高威力の攻撃手段であった。

 まさに切り札である。

 それを無事に切り抜けられては、直接的手段での打倒は不可能であるという事に他ならない。


 だらり、と両腕を垂らす。

 右腕からは大量の流血が止まらず、左腕はミンチもかくやという有り様だ。

 その他の部分も、かなりガタガタになっている。

 両腕程ではないが、ここまでの痛みを受けた経験はほとんどない。

 満身創痍と言って良いだろう。


 それでも、ツムギの目はまだ死んでいなかった。


(……あんまりすきじゃないんだけどなー)


 何故ならば、まだ切り札は残っているから。


「…………もう、いきものとしてみてあげないんだからねー」


 対精霊対天竜用の切り札を使って対処する。

 もはや、ツムギは美影を生物として相手にする気持ちは無くなっていた。

次回で決着かな、多分……。


今までの戦闘回で実は一番長いという事実。


あれ? クライマックスは次の天竜戦の筈なんだけどな。

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