起立するフラグ
宣伝を見てると、ムクムクとモンハンやりたい欲が溢れてくる。
やっぱり宣伝効果ってあるんやなぁ、とシミジミ。
でも、Switch持ってないし。
PCだとスペックが足りるか怪しいし。
悩ましい。
「おぅい、こっちだぁ。こっちを向けよぅ」
恐れ、叫んでいる事務員に手を振って存在を示せば、彼女は一目散にガルドルフへと駆け寄って泣き付いた。
「ガルドルフさん! 何ですか何ですかあれ!?
ひっ!? こっち見てるぅ!」
「…………あー、まぁー、なんだぁ。
俺様もよく分かんねぇんだがよぅ。
とりあえず刺激しなけりゃ害はないからよぅ」
多分、と付け足したい気持ちを飲み込んで断言しておく。
少なくとも誰彼構わずに襲い掛かる気は無いように思えた。
実際に、自分を含めて、刹那や美影へと害意を示さなかった者たちに対しては、彼は一切の危害を加えていない。
いや、害意と言うよりも、現実に刃を抜いたかどうかが判断基準となるのだろうか。
不快感から来る悪意の類いもあっただろうが、戦士ではないが故に静観していた職員らにも、手出しはしていない様である。
「そう、って事で良いんだよなぁ?」
「まぁ、良いんじゃない?
弱いものいじめは楽しいけど、弱過ぎてもつまんないし」
烏合の衆を相手に無双する事は爽快感のある行いではあるが、それは群衆という力を伴っているからこそ、強烈な個による蹂躙を楽しめるのだ。
怯えて震えているだけの虫けら以下を凪ぎ払う事に快感を覚えるほど、美影も刹那もサディストを極めてはいなかった。
「ふっふっふっ、安心したまえ。殺してはいないさ」
展開していた蜘蛛の巣が溶けるように崩れ去る。
それに合わせて、繭のようにされて飾られていた者たちが床に落とされた。
中々に容赦の無い落ち方をしていたが、まぁ覆っている繭が緩衝材にもなるし、戦闘態勢に移行していた事も合わせれば、頭から落ちたとしても死ぬような事はないだろう。
「ひぃっ!?」
軽やかに隣に降り立った怪蟲に、事務員は短く悲鳴を上げるが、刹那は眼球の一つで一瞥しただけでそれ以上の反応はしなかった。
「…………あー、取り敢えず、あれだぁ。
こいつらぁ、重要人物であり危険人物って認識をしといてくれやぁ。
下手に絡むと、こうなるってよぅ」
「え、えと、あ、は、はい! 確実に通達しておきます!」
「おう、頼むぜぇ。
……それでよぅ、頼んどいた件はどうだぁ?」
「あっ、こ、こちらに」
ガルドルフが催促すれば、事務員は抱えていた書類の束を寄越してくる。
彼女の独断で選別した調査を必要とする魔物領域のリストとその簡易的な情報である。
一級のガルドルフに回す案件となるので、どれも一筋縄ではいかない難関な場所ばかりとなっており、重要人物を伴って入るには適さない。
人間種に対する殺意満点で選び出した為、再度の選出が必要かとも思い直していたが、ガルドルフはそんな事を言い出す事はなく、一枚の書類で手を止めた。
「…………こいつぁ」
「なになに? 何か面白そうな場所あった?」
美影が無邪気に横から覗き込んで内容を読み取っていく。
それは、新規に発見された魔物領域の調査要請であった。
場所は、シャルジャールから程近いポイント、大渓谷の畔である。
どうやら、谷底で眠っている天竜種が身動ぎした事で漏れだした魔力に当てられて、つい数時間前に発生が確認されたばかりとの事だ。
まだ内部状況は一切不明という状態だが、外部からエネルギー量の観測を行った限りでは、特級――最高クラスに分類されるだけの数値が確認されていた。
魔力採取源として有望、であると同時に、大変に危険を孕んでいる可能性が高いポイントと言えた。
「……へぇ、天竜か」
美影の目が、剣呑に細められる。
興味があった。
果たして、原種の最強はどれ程のものなのか、と。
地球に落ちてきたのは、言うなれば搾りカスである。
星の獣に喰い尽くされた残りであり、本来の力を発揮できていないものなのだと、ノエリアは語っていた。
だからこそ、魔王たちが力を合わせて迎撃するという、ただそれだけの事で、ほとんどの被害を出さずに打倒し得たのだと。
ならば、本来の姿であれば、どうなのか。
ノエリア曰く、ほとんどの魔王たちが命を落としていただろう、と。
それでも猶、倒せたかどうかは分からない、と。
それ程の者だという。
興味深い。
是非とも喧嘩してみたい。
そう思うのは、雷裂としての本能のようなものだろう。
「良いね。うん、とっても良い。
ここに行こう。ここが良い」
会える、とは限らない。
あくまでも残滓がこびりついただけの場所だから。
しかし、もしかしたら何かしらのチャンスがあるかもしれない。
であるならば、行かないという選択はなかった。
「……まぁ、良いけどよぅ」
何処か危うい狂気を感じながらも、反対する理由もない事からガルドルフは了承する。
「んじゃあ、こいつに一当てしてくるよぅ。手続き、頼んだぜぇ?」
「は、はぁ。その、よろしいのですか?」
未知数の危険が蔓延っている場所に、要人を連れ込んでも良いのかという問いに、ガルドルフは肩を竦めて答える。
「良いも何も、本人たちがやる気なんだぁ。
別に構わねぇだろぉ」
破壊力は示して見せた。
あとは、直接的な危険とは別種の突発的事態への対応力だが、そもそも本人たちが訳の分からない厄災の塊である。
思考停止する事に決めたガルドルフは、乾いた笑いを溢すのだった。
もう自棄である。
~~~~~~~~~~
一方、その頃。
地上へと降りてきた美雲とノエリアは、見つけた細い道路に沿いながら、刹那と美影の反応へと真っ直ぐに向かっていた。
徒歩ではない。
マジノライン四式……の圧縮形態となる超大型トラックだ。
圧縮形態であっても、何処の鉱山で使うんだという巨体なのだから、展開した場合の元の大きさを思うと、目眩がしそうになる。
重低音の爆音を響かせて疾走するそれは、空中を滑走する魔法の絨毯式か、見窄らしい人力車の極端な二択しか無いノエリア文明においては、大変に異様な代物であった。
単に巨大な地を走る乗り物というだけでなく、その見た目も派手な装飾の施されたデコレーショントラックとなっているのだから、余計に人目を惹く。
当然、未舗装である事はともかくとして、道標としての役目しか期待されていない細い街道の上を走る事は出来ないので、その脇を並走してタイヤを転がしていた。
「~~~~♪」
美雲は、そんな化け物トラックの運転席でハンドルを握りながら、陽気に鼻唄を唄っていた。
「……楽しそうじゃの」
助手席に固定された物体から、何処か批難するようなノエリアの声がもたらされる。
「あら、〝そう〟じゃないわよ? 楽しんでるの」
ただただ、だだっ広い土地。
そんな場所を、速度制限もなく自由に豪快に走らせるのは、中々出来ない体験だ。
特に、山やら何やらの多い瑞穂の土地では、まず望めないシチュエーションである。
故に、美雲は初めての経験に浮かれていた。
「こうしてると、暴走族って連中が絶えないのも分かるわね」
実際に楽しいのだから、その魅力に惹かれる者がいるのも仕方ないと思えた。
そんなどうでも良い事を考えつつ走らせていると、遠目に地面の亀裂が見えてくる。
大地に開いた傷痕。
ぽっかりと口を開いたそれは、あまりにも巨大で、向こう岸は霞んでおり、両端は地平線の向こうにまで消えていた。
「地図上では見てたけど、実際に見ると圧倒されるわね」
「…………アハト渓谷、と呼ばれておった筈じゃ、確かの。
谷底に、天竜が一柱、フリーレンアハトの奴が眠っておるからの」
「……ふぅん、天竜」
「興味があるかの?」
「私はあんまり」
妹や弟とは違い、美雲は然したる興味を持っていなかった。
そもそも、彼女は雷裂としては異端なのだ。
強さというものに拘泥していない。
高みを目指さない。
だから、そこに絶対的な強者がいると言われても、どうでもいいとしか答えられない。
絡んで来ないのならば、そこで何をしていようと構わない。
それが美雲のスタンスであった。
「まっ、眠っているのでしょう?
じゃあ、こっちには関わってこないだろうし、スルーしちゃいましょう」
流石に、谷を飛び越えるなどという馬鹿な事は出来ない。
なので、美雲はハンドルを切って、か細い街道沿いにトラックを走らせる。
渓谷を迂回する為に遠回りをする事で、余計に持っていかれてしまう時間を少しでも節約する為に、魔力封入弾を一発だけ解放させ、魔動エンジンに更なる活力を与えながら。
「…………、…………」
ノエリアは、胡乱げな雰囲気を漂わせながらも、何も言わない。
エンジンに叩き込まれた魔力の唸りが、あまりの勢いの為に外部に放散されてしまっている事を。
それが波動となり、谷底に向かって木霊しながら落ちていった事を。
(……まぁ、好カードじゃしのぅ)
面白そうだと思って、何も語らなかった。
馬鹿で愚かで面白半分な地球人に毒されてきている事に、彼女は自覚はない。
まぁー、前々から分かっているかと思われますが、八番目の天竜フリーレンアハト vs ???のプロレスが行われます。
それで、この章は一旦締めようかと。
いや、まだプロローグに届いてねぇじゃねぇか、というご指摘は御尤で平身低頭で謝罪する所存でありますが。
なんとなく閑話を書きたくなってしまいましたので、まぁキリも良い気もするので……。
マッチング相手、???については、もう明らか過ぎる気もしますが――だってプロローグ時点で名前が……――、一応はシークレットという事で。