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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
七章:破滅神話 前編
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「ところで、君の職業は何なのかね?」

「んー、来たのは都市の外からだったね。何かあったかな? あの辺り」


 ガルドルフの反応が発生したのは、シャルジャールの外部からであったし、実際にやって来た方向も同様であった。


 美影は、脳裏に周辺図を思い浮かべながら、彼のやって来た地点の情報を浚うが、何かしらの施設なり何なりがあったという記憶は出てこない。


 しかし、だからと言って絶対に何もないと言いきれるのかと言えば、そんな事はない。

 何故ならば、近辺の地図は、事前に脳内に入れてあるが、それは宇宙からの望遠撮影によって作られた非常に大雑把な代物でしかないからだ。


 取り零しがあって然るべき精度である為、素直に訊ねる方が手っ取り早いというものである。


「…………魔物領域の調査員だぁなぁ」

「魔物領域……」


 一応、そういうものがあるとはノエリアから聞いてはいる。

 野生生物が魔力を獲得し、そうした生物――魔物が縄張りを形成した場所を指すという話だ。

 基本的に危険な土地なのだが、一方で魔力は資源でもあるので、魔力が豊富に存在するそこは地球で言う油田のような扱いをされるのだそうだ。

 故に、魔力の質や量、棲息する魔物の性質や危険度を調査し、さっさと殲滅するか存続させて利用するか、決定する為の組織や基準などが何処にでもあるらしい。


 話には聞いているが、しかし兄妹にとっては実感の薄い話でもある。


 なにせ、地球にはそんなものはないのだから。


「……廃棄領域のような認識で良いのだろうか」

「いやー、あれと一緒にするのはなぁー」


 ありとあらゆる物が尋常ならざる毒素に汚染され、ただ足を踏み入れる事でさえも常人には致命的だと言うのに、更にはそんな環境に適応した超生物たちがこぞって襲い掛かってくる、地球最大の危険地帯である。


 一応、確かに中身を利用できないかという研究は世界各地で行われているものの、刻一刻と進化というか変貌というかを繰り返す内部状況に、不毛感を募らせている気分が蔓延している分野なのだ。


 それと一緒にするのは、流石にどうかと思われる。


 なにせ、研究者連中が舌打ちしかしない廃棄領域と比べれば、魔物領域は少なくともちゃんとした利用方法が確立されているのだから。


「……テメェらよぅ。どんな田舎から出て来やがったんだぁ?

 魔物領域なんざ、何処にだってあるだろうがよぅ」

「ふっ、田舎の定義にも依るのだがね」

「僕たちは星の海を越えて、遥か彼方から遥々やって来たんだよ!」


 ビシリ、と二人は空の一辺を指差す。

 そこには僅かな雲があるだけで、それ以外の何も見えない。

 故に、夢見がちな妄想の類いだと、ガルドルフは大して気にも留めずにスルーした。


 まさか、その指の先、遠い宇宙を越えた場所に、まさかまさか生命生存圏を備えたもう一つの奇跡の星があるなどとは、夢にも思わない。


 当たり前である。


 地球文明においても、異星人は夢物語でしかない。

 二百年後の未来であっても、宇宙の何処かにいてもおかしくはないが、存在する証拠は何処にもないというレベルなのだ。


 ノエリアの民にとっても、同レベルの認識である。


 だから、まさか目の前に素知らぬ顔をして未知の宇宙人が降臨しているなんて、常識的に考えて思い至る訳がないのだ。


「……まぁ良いんだがよぅ。本当に付いてくんのかぁ?」


 仕事場、つまりは調査を必要とする状況にある魔物領域に連れていく事自体には、何の問題もない。

 それこそ、社会科見学のようなものだ。

 本来は免許がなければ魔物領域への侵入は許されないが、各種免許を持ち実績も充分なガルドルフが付き添うのだから、よっぽどの場所でもなければ許可は出るだろう。


 加えて言えば、彼らが自称人間種というのも、この場合はプラスに働く。

 死んでくれても構わないというか、むしろ死ね、という期待を込めて、相当に危険な領域でも、それこそトップクラスの戦力を持つガルドルフが派遣されなければならない場所であっても、色々な事に目を瞑って許可が出るに違いない。


 戦力的には、問題ないだろう。

 ガルドルフ自身の身で経験している。


 しかし、魔物領域は単純に強ければ良いというものでもない。


 なので、一応は常識として勧告するが、


「問題ない」

「だいじょーぶ! 僕たちは頑丈だからね!」


 全く取り合わずに、よく分からない自信を漲らせていた。


 本人たちがそう言うのならば、まぁ構わないと言うものである。

 彼らの底を測る指標の一つにもなるだろうと、ガルドルフは納得して事務所へと向かうのだった。


~~~~~~~~~~


 空に虹のような流星が走る。

 それは一瞬の事であり、ほとんど誰の目にも留まる事はなかった。


「ふむ……」


 しかし、あくまでもほとんどであり、中にはそれを確認する者もいた。

 刹那の頷きに反応するように、美影は端的に問う。


「……来たの?」

「うむ、その通りだね」


 共通の認識がある為に、何処かぼかした様な会話となってしまっていた。

 しかし、本人たちは別に何かを隠したいというつもりはない。

 ごく単純に、遅れていた面子がようやく地上に降下したという、それだけの話である。


「どこら辺かな?」

「私たちの初期地点とそう変わらない場所だよ」

「じゃあ、もうちょっとはかかるかな」

「だろうね。賢姉様は急ぐ性格ではないから」


 最初は歩いていたものだが、途中でカッとなってスピードレースを開催した為に、二人がシャルジャールに到着するまでの時間はかなりの短縮がされている。

 その分を差し引いて、常識的な移動速度を維持した場合の到着時間を割り出すと、今暫くの猶予があった。


 具体的には、魔物領域とかいうダンジョンで遊んでいるくらいの時間はあるだろう。


「なぁに、賢姉様は私の座標を目指して来るだろうからね。

 少しばかり時間を忘れても大丈夫であろう」

「それもそうだね。じゃ、遠慮なく遊んでいよっか」


 呑気な事を言う兄妹。


 まだ、彼らは知らない。

 この選択の結果、特に意味のない大戦争が唐突に始まる事を、予想すらしていなかった。


~~~~~~~~~~


 ガルドルフに連れられてやって来たのは、シャルジャールの外縁部に存在する建物であった。


 魔物領域調査は、古くから続く重要な仕事であり、当然、発生する金銭の額も大きくなる。

 流れ込む資金を活用すれば、大都市の中心部にだって豪邸を建てられる程の資産を保有しているのは当たり前の結果であるが、にもかかわらず大抵は寂れた外縁付近に居を構えていた。


 理由は二つ。


 一つは、職務上、所属する調査員には荒くれ者が多くなってしまう為だ。

 魔物領域は繊細な場所であり、重機を伴った大規模な侵入を果たせば、たちまちに暴走して魔物災害を引き起こしてしまう。

 その為、ごく少数がチームを組んで生身に近い装備で突入する事となっているが、そうなると安全の担保が本人の戦闘力に依存してしまう。

 おかげで、どうしても血の気の多い連中ばかりが生き残り、暴力沙汰の絶えない集団となるのだ。

 なので、目に見えた騒動を回避する為に、自ら中心街から離れているのである。


 そして、もう一つは更に単純に、利便性故だ。

 魔物領域は、当然、都市の外部に存在する物である。

 まぁ、中には都市の内部に発生する事もあるが、その場合は調査云々をすっ飛ばして即座に殲滅になるので、調査員ではなく軍隊の出番となる。

 その為、都市の内外を行き来する事が当たり前の日常となるので、中心街にまで出向くのは些か手間がかかるのだ。

 結果、面倒を嫌ってわざわざ外縁部に陣取る事となるのである。


 有り余る資産を用いて安い土地を買い占め、無駄に豪華に装飾された建物こそ、魔物領域調査協会シャルジャール支部の本拠となる。


 ガルドルフが勝手知ったると躊躇なく中へ踏み込めば、ここでも注目が集まる。


 彼が英雄として謳われる所以の場所である為、知名度はそこらの巷よりも高いのだ。

 それ故に、続いて入ってきた人間種の小娘と魔力を感じないくせに矢鱈と危険そうな見た目の怪蟲に、疑念が湧き出した。


「おや、ガルドさん。おはようございます。本日は非番では?」


 ガルドルフの存在に気付いた事務員の一人が気さくに話し掛ける。

 元々は仕事の予定だったが、急遽、重大な用件が割り込まれた為に、こちらの方は休日を取っていたのだ。


 それを知るために、何故いるのか、と疑問に思う事務員に、彼は肩を竦めて答える。


「護衛中の要人が、どうやら一度死んでみたいってんでなぁ。手頃な場所を探しに来たんだぁ」

「よっろしくぅ!」


 背後を指し示す仕草に反応して、美影があざとくウィンクしてみせた。


 途端、事務員の視線が厳しくなる。


 彼女は声を潜め、ガルドルフにのみ聞こえる音量で囁く。

 尤も、美影にも刹那にも聞こえているが。

 耳が良いのだよ。


「……ハゲ猿の、護衛を? 隙を見て暗殺でも?」

「そりゃあ、是非ともしたい所だがなぁ。

 まっ、そう言うんじゃあねぇよぅ。

 ごく普通の見学だぁ。

 ……適当に見繕ってくれるかぁ?」

「はぁ……。承りました。ちなみに、御条件の方は?」

「危険度は気にしなくて良いぞぉ。

 いつも通りに、俺様に回す案件で構わねぇからよぅ」

「…………やはり暗殺なのでは」

「だから違ぇってよぅ」


 最高位に位置するガルドルフの案件と言えば、危険度も段違いであり、一般的な常識の中にいる人間種など、ほぼ瞬殺で消し炭になる。


 そんな認識を元に考えると、何らかの要人なのだろうが、ハゲ猿を相手に頭を下げて付き合うのが嫌になって、適当に始末しようとしているのだと思い至るのは自然であった。


 ガルドルフの否定も、あくまでも建前上はそう言わなければならないのだろう、と変に気を回した事務員は、訳知り顔で頷く。


「では、少々お待ちください」


 一言告げて、奥へと引っ込む事務員。


 なんとなく誤解されている雰囲気は感じ取っていたが、別に不都合はないと放置したガルドルフは、やや手持ち無沙汰となり背後へと振り返る。


「おう、ハゲ猿が。ここはお前みたいな雑魚の来るような所じゃねぇぞ」


 そこでは、ナチュラルに絡まれている美影の姿があった。

 ガルドルフは、どうしたものかと頭を抱える羽目になった。

何かを言おうと思っていたのに、本文を書いている内に忘れた。


何を書こうとしたんだっけか……。

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