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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
七章:破滅神話 前編
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怪物の威を借る

話が!

進まない!

「…………ほあー」


 リースリットが、口を半開きにしたアホ面を晒しながら、感嘆の吐息を漏らす。

 彼女は、ノエリアに連れられて、終式の内部を移動しているのだが、道中に見られるあまりにも故郷の常識から駆け離れた光景に、その様な反応しか出てこないのだ。


 ノエリアとしては、精霊らしく物質化を解いて、外壁を無視して直接ブリッジまで乗り込んでも良かった。

 だが、そんな事をすれば問答無用の銃撃しか歓迎してくれないと予想できたので、大人しくハッチから出入りし、内部構造に沿って移動していた。


(……あの娘は、あれで短気じゃものなぁ)


 美雲は美雲で、弟妹とは違う雰囲気の短気さを持つ。

 下二人が単純に短気ならば、彼女は自身の価値基準を明確にしているが故の短気とでも言おうか。

 こういう言動を前にすれば、例外なく撃つ、と最初から決めており、そこに迷う余地はない。


 それらを全て網羅している訳ではないが、それなりに付き合いも長くなりつつあるノエリアには、おおよその線引きは出来ていた。

 当の美雲の弟と妹が率先してそのラインを飛び越えているが為に、判断する為のサンプルも豊富にあるのだし。


 まぁ良いか、と、ゆっくりと移動しながらノエリアは考える。


 こうして実際の見学を挟めば、自分の説明に対する疑いも幾分か省けるだろう。

 それに、リースリットはこういうの(文明的)が好きな性格だ。

 惑星ノエリアとは根本的に異なる叡知の結晶を見せつける事は、彼女の機嫌を好意的に傾ける事に寄与する筈である。


 実際に、今もガラス窓から工作室を覗き込んで目を輝かせているのだから、それは間違いではないだろう。

 配線等が剥き出しのマシンアームが自動で機械を組み立てている様は、二百年も経過したノエリアから見ても奇妙に感じられるのだから、初めて触れるリースリットにはもっともっと衝撃的な筈だ。


「…………ノア、ノア。あれは、何?」

「我が知るか。まぁ、見た目からして、ゴーレムのような物ではないかの?」


 工作室で組み上げられている物は、まだまだ未完成だが、基礎フレームの形からして人型になると予想できる。

 となれば、何らかの作業用機械人形の類いだろう。

 何の用途があって組み立てているのかは知らないが。

 終式の中では、今のところ、一度も動いている姿を見ていなかったというのに、今更、何のつもりで作っているかなど、ノエリアに分かる訳がなかった。


「…………ゴーレム? でも、魔力がない?」

「これを造った文明は、元々は魔力文明を持たぬからのぅ」


 人造人形(ゴーレム)は、無機物に魔力を通してなんとなく人の形を作り、操者の意思に従って動かすものである。

 少なくとも、惑星ノエリアではそうだった。


 だが、組み上がるそれはそうではない。

 万を越えようかという緻密な部品を組み合わせて、魔力に依らない動力で動くようにデザインされている。


 リースリットの興味を惹くには、充分に過ぎる光景だった。

 基本的に、文明そのものにしか興味を持たず、造った何某はどうでもいい彼女をして、誰が、という興味を抱かせる程に。


「ほれ、見学は後から幾らでも出来るであろう。とっとと行くぞ」

「…………あーうー」


 ガラス窓にへばり着いて離れないリースリットの首を羽衣で掴んで、ノエリアは引きずっていく。


 余程名残惜しいのだろう。

 抵抗する素振りは見せないものの、自分で動こうという素振りもなく、リースリットは文字通りに引きずられていくのだった。


~~~~~~~~~~


 そんな事を道々で繰り返しながらも、ようやくブリッジにまで辿り着いた。


「入るぞ」

『どうぞ』


 一応、声をかければ間髪入れずに応えが返ってくる。


 ここまで何の邪魔も入らず、隔壁の一つも閉まっていなかった様子から分かっていたが、ちゃんと歓迎する気はあるらしい。


 分厚い金属壁を越えて入室すれば、終式の心臓部――操艦ブリッジとなる。

 球体状の空間で、中心にホログラムディスプレイ用の空白を置き、そこを囲むように幾つもの席が設置されていた。

 人工重力はこれまでとは違って一方向に向かっておらず、球体の内壁を這うように作用しており、歩く時には微妙にコツがいる。


 正面、他の席よりも一段突っ張り、目立つ様に設置されている船長席には、美雲が穏やかな様子で座っており、微笑みと共に二柱の精霊を出迎えてくれる。


「おかえりなさい、ノエリアさん。

 そして、はじめまして、リースリット様。

 ようこそ、マジノライン終式へ。

 艦長代理として、歓迎いたします」

「…………人間?」


 美雲を見て、その種族を判別し、リースリットは首を傾げた。


 彼女の常識では、あり得ない話なのだ。

 人間種如きがこれ程の文明を造り出すなど。


 故に、取りあえず攻撃してみた。


 溜め無しの魔力弾を無言かつ無動作で撃ち放つ。

 大した威力も無いが、人間種相手ならば一発で粉砕できる程度には強い。


「あっ、バカ……」


 その油断し過ぎた行動に、ノエリアは呆れて頭を抱える。


 美雲へと向かった魔力弾は、その途上で弾けて消える。


 リースリットは、驚きに目を見開いた。


 ノエリアが守ったのならば意外性も何もないのだが、現実は違う。

 微笑みを絶やさぬ美雲が、その手に不思議な金属塊を展開し、そこから射出された魔力の込められた一発が見事に空中で迎撃したのだ。


 反射速度といい、射撃精度といい、あるいは仮にも始祖精霊を前にした上での胆力といい、とても人間種とは思えなかった。


 そして、続く行動もまた、予想外だった。


「封絶――鎖縛」


 美雲が片手で刀印を立てて振れば、輝く鎖が出現し、リースリットを縛り上げる。

 ついでにノエリアにも向かったが、こちらは早々に退避していて捕らえられなかった。


「…………っ!? な、めるなっ!」


 縛られると同時に、力が抜けるような感覚があり、思わず膝を付きそうになる。

 しかし、そこまでの醜態を晒せない。

 それくらいのプライドはあったリースリットは、強引に魔力を高めて鎖を引きちぎる。


 その眉間に、銃弾が撃ち込まれた。


「…………あう!?」


 まさかの追撃に、思わず青天井に転がってしまった。


「……容赦ないのぅ」

「あら、いきなり攻撃されたのはこっちよ? 正当防衛だわ」


 着弾と同時に雷撃が弾けたが、それ自体にダメージはない。

 それよりも、精神的ショックの方が大きいリースリットは、額を擦りながら身を起こす。


 彼女の視界では、ノエリアが、原初たる星霊が、ハゲ猿とまで貶められている人間種の少女と気安く言葉を交わす光景が映っていた。


「それにしても、よくもリースの動きを一瞬とはいえ封じられたのぅ」

「解析する時間はあったもの。

 これを予想して私に準備させる為に、ノエリアさんもわざわざ遠回りして来たんじゃないのかしら?」

「…………実はそんな事は考えておらなんだ」

「買い被りだったみたいね。ハッ」

「鼻で笑うでないわっ!」

「あら、失礼。正直な性質(たち)なもので」


 会話が途切れた所で、目を白黒させていたリースリットへと、改めて美雲は向き合う。


「さてと。

 リースリット、リースリット・ウルザ・ノーリッジ様?

 いきなりの試験でしたが、私は合格ですか?」


 にこやかに、しかし挑発的に、彼女は言葉を放つ。

 その耳元へ、ノエリアが囁いた。


「分かっておるとは思うが、ここでもリースは魔王くらいには強いのじゃぞ?

 よくも挑発できるのぅ?」

「あら、いやだわ。私が何の保険もかけていないとでも?」


 言葉を返しながら、美雲は近くの床を指差した。


 そこには、小さなブリキ人形が立っている。

 瑞穂の伝統風の、湯呑みをお盆に載せたお茶汲み人形だ。

 表情に不気味さが滲み出している。


 その口が、キリキリキリ、という軋むような音を立てて開かれ、勢いよく記号の書かれた紙が吐き出された。


『(´◉ω◉` )』

「……奇っ怪な造形とこの無言の一言で、大体分かるのがなんとも」


 どうやら遠い地上の刹那と感覚が繋がっているらしい。

 それならば、確かに強気にも出られるというものだろう。


 リースリットが癇癪を起こして暴れても、美雲どころかこの終式に一切のダメージを与える事なく、鎮圧できるに違いない。


 状況としては、完全に虎の威の何とやらであるが。

覚えてます?

美雲お姉さまの超能力が封印系だったの。


作中で二回くらいしか使っていないので、忘れ去っているのではないかと思いつつ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新感謝
[気になる点] リース的には井の中の蛙大海を知らず故蛇の口に飛び込むですな
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