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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
七章:破滅神話 前編
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こどくのきおく

突発的漢字当てクイズ。

「…………見えた」


 魔力の放出を止めれば、目の前の虚空に巨大な何かが姿を現していた。

 先程までは、何もなかった筈の空間だ。

 とはいえ、それは隠れていただけなのだと分かる。


 なんとなく空を見上げて、なんとなく違和感があったので、なんとなく攻撃を加えてみたのだが、どうやら当たりだったらしい。


 白の始祖精霊――リースリット・ウルザ・ノーリッジは、己の勘の正しさに自慢げに鼻息を漏らしながら、出現したそれを眺める。


 全体的な色合いは、黄金。

 二本の円筒を連結させた物体。

 何よりも、その全長だ。

 山をそのまま持ち上げたかのような、異常な巨大さをしたそれは、一つの星の始まりから見詰めてきた始祖精霊をして、瞠目に値する代物である。


 しかし、最も驚くべきは、それが人工物である事であろう。


 これ程の構造物を、叡知の果ては造り上げられるのだという証明は、彼女の想像の埒外であった。


「…………無傷」


 次いで、観察している内に、その事実に気付いた。


 表面の金属板に欠落やひび割れはあるものの、それが自分の攻撃で発生したものではないと看破する。


 それらは、何が原因かは知らないが、元から付いていた物であり、自分の力は通用していない。


 かなり強めに行ったのに、と思う。


 全力ではない。

 しかし、真面目に放ったし、惑星から離れているこの地ではあれ以上の威力を出すのは中々に難しい。


 つまり、これは始祖精霊である自分を越え得る代物であるという事だ。


 凄い、と思う。

 叡知はここまで至れるのか、と。


 生意気、とも思う。

 そう簡単に越えられて堪るか、と。


 だから、第二撃を放とうとする。

 先程の純粋魔力砲撃ではなく、色々と試してみようと魔力を変換させる。


 しかし、それを放つ事はなかった。


 目にも止まらぬ速度で、細い筋が巨大構造物から一直線にリースリットへと伸びてきたのだ。

 あまりの速度と不意打ちに、彼女は反応し損ねる。


 その筋は、布のような物だったらしく、リースリットをきつく巻き取る。


 なに、と正体を疑問に思う間もない。


 巻き付いたと認識した瞬間には、視界がぶれた。


 振り回されている。


 まるで砲丸投げでもするように、布の根本を起点に回転していた。


 その後に待つ未来は、深く考えずとも分かる。


 三周もして速度が充分に乗った所で、軌道が変わった。


 放り投げられたのだ。


 振り回される速度をしっかりと乗せられたリースリットは、真空の中を減速する事なく突き進み、遠く離れた小惑星に派手に激突する。


「…………おぅ」


 物理的な衝撃で死ぬような命ではない。

 とはいえ、世界に干渉する為に受肉しているので、その肉体は衝撃に軋み、息が詰まる。


 魔力を供給して損傷した肉体を再構築しつつ、小惑星に出来たクレーターの中心から身を起こす。


 その眼前へ。

 ふわりと降り立つ姿があった。


 何処か、リースリット(自分)と似た顔立ちの女性。

 輝く白い衣装と羽衣を纏い、オーロラの様に色を変える髪を靡かせている。

 背には、輝く十枚の光翼。

 頭上には、複雑怪奇な光輪を戴いている。


 見覚えはあった。

 久しく見ていない、己の親にして、己の友でもある始まりの星霊。


「…………ノア?」

「久しいのぅ、リース。

 再び会えるとは思っておらなんだが」


 呼び掛ければ、苦笑を滲ませながら応えがあった。


「…………起きてた?」

「うーむ。その問いは中々に答え辛いのじゃがな。まぁ、あれじゃ」


 ノエリアは、くいっと遠い背後の巨大構造物を背中越しに示しながら、言う。


「あれを壊されるのは困るのじゃ。

 悪戯娘には仕置きしてやるぞい」

「…………よく分からない」


 首を傾げながら、リースリットは確かに答える。


「…………でも、負けてあげない」


 直後。

 二柱の精霊が激突して、足場となった小惑星は砕け散った。


~~~~~~~~~~


 ポテンシャルを比較するのならば、リースリットにはノエリアを上回る部分などない。

 彼女は、ノエリアから別たれた八柱の内の一柱でしかないからだ。

 当然、力の総量も八分の一でしかなく、その差は埋めがたい。


 しかし、どうやら寝起きのせいなのか、ノエリアの力が弱まっているようである。

 全盛期のそれとは比べ物にならない程に小さく、始祖どころか、上位精霊に届くかどうか程度しかない。


 対して、リースリットの力は充実している。

 初撃のせいで少しは消耗しているが、それでも今のノエリアよりは遥かに余裕がある。


 そして、惑星から離れているという条件が同じである以上、力の差はつまり絶対的な力関係の差であり、リースリットに負ける理由は何処にもない。


 それが、精霊の常識である。


 なのに、


「…………おかしい」


 強烈なアッパーカットでぶっ飛ばされながら、リースリットは呟いた。


 何故か知らないが、一方的にボコボコにされている現状が、不思議でならない。


 リースリットは、知らない。


 目の前のノエリアが、己の知る彼女とは違う事を。

 そして、たった二百年という精霊にとってはごく短い時間の中で、地獄のような(世界)の中に生きた事を。


 積み重ねてきた経験値が、圧倒的な差となって襲い掛かってきているのだと。


「…………現実が嘘をついてる」

「戸惑いこそが生きるという事じゃぞ、リースよ」


 四方八方から追撃に放たれた落雷を受け止めてかき消す。

 体勢を回復させたリースリットは、ノエリアへと向けて魔力砲撃を行う。


 タイミングとして、そして範囲的にも、避けられない筈だ。

 ノエリアもそう判断したのだろう。

 回避する素振りも見せず、迎撃に動く。


 しかし、それはあまりにもリースリットの想定とは違う方法によって、である。


 千斬流刀法・見様見真似|《二刀十字開門斬り》。


 羽衣を真っ直ぐに伸ばして刃に見立てて、ノエリアは魔力砲撃を、文字通りに十文字に斬り開く。

 そのまま、僅かに出来た隙間に身体を滑り込ませて、リースリットへと肉薄する。


「…………そんなの、知らない」

「じゃろうな。遠き星の剣士が発祥じゃもの」


 瑞穂の魔王が使う技を再現した回避兼接近法だ。

 魔術を斬って開くという、思い付いて実際に編み出すだけ馬鹿馬鹿しい技だが、出来るのならばこれ程に魔力を節約するのに役立つものも珍しい。


 ノエリアは、五指を開いて、爪で引っ掻くように腕を凪ぐ。


 そこに含まれる魔力は、如何にも少なく、リースリットは防御するまでもないと思う。


 しかし、先程、接近を許した時も同じ判断をして、予想に反して防御を抜かれて傷つけられた。

 なので、今度はしっかりと障壁を張り巡らせて防御を固める。


 それを、ノエリアの手は容易く貫き、リースリットの身体をも引き裂いた。


 流転式合気術・見様見真似|《栄枯盛衰》。


 相対者の魔力と同調し、その魔力を自身の物として取り込む事で、防御を崩すと同時に己の攻撃の破壊力を高める、という反則技。

 技術だけで魔王と戦えると言われた者の技であり、扱いは難しいのだが、ある意味では同一存在である始祖精霊相手ならば、充分に実践できる。


「…………うゅ」


 身体の再構築を後回しにして、せめて一矢とリースリットは即座に攻撃に転じた。

 魔力を込めた手は、眼前のノエリアを貫こうとして、しかしすり抜ける。


「…………消えた?」

「消えてはおらぬ」


 すり抜けるどころか、残像が消える様にノエリアの姿が揺らいで見えなくなった。


 受肉を解いたのかと周囲に感覚を伸ばすが、彼女の魔力は何処にも感じられない。

 まるで夢幻でも見ていたかのように、全くの痕跡を残していない。

 あるいは、本当に幻術に嵌められたのかと精神を疑うが、やはりその気配もない。


 どういう事か、と首を傾げるリースリットには、認識できない。

 自らの隣に、特に身を隠している様な様子もなく、平然と浮かぶノエリアの姿が。


 雷裂流逃走術・見様見真似|《白夢》。


 相手の感覚の隙間に入り込む事で、相手の認識の一切から溢れてしまう、逃げる為に編み出された体技だ。

 本来は逃走の為の技だが、攻防に組み込むと、これ程に鬱陶しくなる。

 編み出した連中は、気付かれないまま一方的に殴るだけなど詰まらない、と、今では埃を被らせている技法だが。


 警戒しているにもかかわらず無防備なリースリットへと、四人に分身したノエリアは掌底を叩き込む。


 仙人式幻術・見様見真似|《夢幻人柱》。

 及び

 仙人式浸透法・見様見真似|《無限連衝》。


 実体を持つ幻、という矛盾の塊を実現する魔術に、内側まで深く刺さり芯にて爆発する打撃をお見舞いした。

 気付かぬ内に諸に受けたリースリットの身は、ひしゃげて、膨れて、崩れて、内部からの衝撃に破裂する。


「強き者への反抗の歴史、厄介なものじゃろう?」


 惑星ノエリアの歴史は、血に濡れているようでいて、しかし一方ではとても紳士的で平穏とも言える。


 何故ならば、原点にして頂点に精霊種と天竜種が君臨しているから。


 彼ら彼女らが、あるいは暴虐な支配者であったならば違ったのだろうが、しかし彼ら彼女らはある程度成熟した理性を持って生まれてくる。

 過ぎた争いは不毛だと考える程度には。

 頂点である者たちがそうであるが為に、惑星ノエリアでは、細々とした闘争こそ絶え間なく行われてきたが、破滅的な生存競争はほとんど存在してこなかった。


 しかし、地球は違う。


 地球には、突出した絶対者がいない。

 誰もが平等に空白の玉座へと至る可能性を秘めていた。

 だからこそ、磨かれるものがある。


 弱きが強きを引きずり落とす手法だ。


 命を、種の存続さえも賭けて、上から見下ろす者たちを引きずり倒す、破滅的闘争がずっと続けられてきた。


 より強き者を、より効率的に。


 そうして磨かれた技は、惑星ノエリアにおいて異端に等しく、そして大変に有効に作用する。


 特に、力をそのまま振るうだけで済む精霊種には。


「鎖された星の中で、寝ても覚めても延々と殺し合いを続けて来た馬鹿者どもの技じゃ。

 ククッ、凄まじきものじゃろう?」


 蠱毒の集大成であった。

 星という鎖された世界で殺し合い、喰らい合ってきたのならば、爪も牙も持たぬハゲ猿とて、百獣の王たる獅子にまで進化しようというものである。


 ノエリアは、拡散し、しかし再構成しつつあるリースリットへと、楽しげにそう語りかけるのであった。

地球を作った奴は、絶対に蠱毒をやっているに違いない。

脱出不可能な柵(宇宙)で囲って、誰が管理するでもなく、ひたすら喰い合い殺し合いをさせているのだから。


そんな呪いを作って、何に使うんでしょうね?



どうでもいいですが、箱根スカイラインをバイクで走ってきました。

あの道、超怖い。

斜度10%の下り坂を10kmとか、頭おかしいんじゃないですかね。

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