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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
七章:破滅神話 前編
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如何にして、大破炎上するに至ったのか

ちと短め。

 時はやや遡る。

 美影は、森を迂回する道を駆け抜けながら、眉をひそめていた。


「……チッ、やっぱり先行されてるか」


 巨大な渓谷が見える位置にまでやって来た彼女は、その畔に残っている砂塵の跡を見て、相手に先を行かれている事を確信した。


 相手の姿形は何処にもない。

 相当に先行されているのだろう。


 彼女は砂塵の舞い方から、どれだけの遅れを取っているかを算出する。


 そして、そこから普通に追い掛けて勝てるのかも、合わせて。


 答えは、すぐに出る。


 追い付けない。

 間違いなく。


「チィィィィィッッッ!!」


 あまりの屈辱に、特にスピード勝負という負けた事の無い分野での敗北に、美影は血の涙を流さんばかりの形相で唇を噛み締めた。


 どうするか。

 どうすれば良いか、と考えた彼女は、大きく口を開いている谷間を見る。


 あの谷底には、天竜種がいる為に禁足地となっているらしい。

 現地民にとっては、神にも等しい存在の領域には、例え命知らずのバカでも飛び込まないのだと。


 それは、ノエリアからの事前講義で聞いている。


 だから、おそらくは相手は谷を回っていくルートを取るだろう。

 その証拠に、舞う砂塵は谷に沿って存在していた。


「ふっ、上等……!」


 狙い目は、ここにしかない。

 美影は舵を切って、谷間へと向かう。


 あるいは、天竜種の怒りを買うかもしれないが、所詮は一種族の一個体に過ぎない。

 向こうが天竜ならば、こちらは魔王である。

 恐れるに足りない。


 美影に脅威を与えたいならば、せめて守護者クラスでなければならないのだ。


「程好い地形発見!」


 ジャンプ台にするに丁度良く、ゴール方向の斜め上方へと突き出した岩場を目敏く見付ける。

 彼女はそちらへと向きを修正しながら、距離の計算を瞬時に行う。


 どうせなら、ゴール前に華麗に降り立った方がカッコいい。

 故に、渓谷を飛び越えれば充分な所を、敢えてもっともっと飛翔距離を稼ごうと、ふと思い立った。


 その為に、美影は魔力の出力を上げる。

 電気へと変わるそれは、エンジンへと供給されて確かな推力となって加速させる。


「速度良し! 侵入角OK!

 行っくよぉー!!」


 アバウトに大丈夫だと判断しながら、彼女はジャンプ台に突撃した。

 エンジンの下面が迫り上がる地面を擦り、敏感なそれが跳ね上がる。


 瞬間、美影は更なる魔力を叩き込んだ。


 応える。


 しっかりとした反応を返したエンジンが莫大な推進力を吐き出し、跳ね上がった向きのまま加速する。


 飛翔。


 宇宙へと飛び立つ出力は、それに恥じない力を発揮して、重力の軛を引きちぎって大空へと舞い上がった。


「ハッハァー! このままゴールしちゃうよぉー!」


 全身を叩く風を受けながら、美影はジャンプの成功に気分良く叫ぶ。

 この調子ならば、追い越せる筈だ、と、勝利を確信しながら。


 そんな上機嫌の彼女が、着地の事を考えていなかったと思い出すまで、あと数分。


~~~~~~~~~~


 遥か地の底。


 大地の亀裂に抱かれながら、心地好い微睡みの中にいたそれは、重く首をもたげた。


 頭上に、奇妙な異変を感じたからだ。


 魔力。

 そう、魔力の発動である。


 それが波動となって、それの下にまで届いた。


 言葉にすれば、ただそれだけの事である。


 大した大きさでも無し。

 普段であれば、気にする程の事でもない。


 しかし、それでも、それが反応したのは、その魔力が感じた事のない異質な物だったからである。


 この星にいる如何なる存在とも、知的種族のみならず、魔物と呼ばれる者たちとさえも違う、全く知らない魔力の発動だ。


 それの興味を惹き、微睡みの中から起こすには、充分な異変であった。


【――新たな種が生まれた、か】


 それは、異変の理由を、そうと理解した。


 時折、ある事だ。

 ある日、唐突に新種族が生まれる事は。


 今回も、きっとそうであるに違いないと、それは自らの経験から結論付ける。


【――願わくば、賢き者たちである事を】


 世界を、星を壊さない程度には、新たな種族たちが知恵を持っている事を、それは願う。


 さもなくば、滅ぼさねばならなくなるから。


 かの邪悪。

 忌々しき毒蟲どものように。


 しかし、今はまだ見守るべき時だ。

 災害たる力を振るう時ではない。


 そうして、それはもたげた首を再度下ろして、再び微睡みに落ちるのだった。


~~~~~~~~~~


「あっ、やっば。着地、考えてなかった」


 ゴールである国境都市の外壁が見えてきた所で、美影はふと我に帰って呟いた。


 このままの勢いだと、まず間違いなく大地に叩き付けられる事になるだろう。

 別にそれで死ぬような柔な身体はしていないが、エンジンの方は違うと思われる。


 どれくらい頑丈なのか、正確な所は分からないが、しかしこれまでの道程で、おおよそのスペックは体感として理解できている。


「んー、壊れるね?」


 このままの勢いで大地に叩き付けられたならば、おそらく、盛大な破損を余儀なくされると思われた。


 少しだけ考えた美影だが、すぐにその問題を無視する事にする。


「まぁ、もうゴールだしね?」


 つまり、もう必要がないという事だ。

 この突発的レース一回に耐えきれれば良いのであり、継続的に使う予定はない。

 なので、大破しようとどうしようと、別に構わないのである。


「もうちょっと飛距離を足して……。まっ、こんなもんかな」


 慣性込みでゴールに駆け込めるように、角度と速度を調整した美影は、あとはもう重力に引かれるままに落下していく。


 その眼下で、競争相手の貨物列車を追い越し返した様が見えた。


 我が勝利。


 それが確たる物となったという、分かりやすい証拠に、美影は顔を綻ばせる。


「イエーイ! 僕の勝ちぃ~!」


 互いの爆音にかき消されて聞こえていない宣言を、敗北者へと送りながら。

 美影は大地に激突し、大破炎上する事となった。

どっかで書いたような気もしますが、地球環境に馴染んだ事で、地球人類の持つ魔力は、元祖魔力から微妙に変質しています。


まぁ、根本的には同じものなんですけど。

外国に行った時に、電気の規格が違う感じですかね?


電気は電気なんだけど、みたいな。

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