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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
七章:破滅神話 前編
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Q:異星人がやって来て現地生物にする事と言えば?

こいつら、こんなんでも主人公とヒロインなんだぜ?

 黒き虚空。

 星の光さえも陰るそこに、唐突に光が生まれた。


 渦を巻く空間の歪み。


 それは徐々に大きくなり、そして遂に内部の物を吐き出す。


 黄金の色をした金属の構造体である。

 先端が尖っており、削ったばかりの鉛筆のようにも見えるそれは、勢いよく歪みの中から宇宙へと自身をさらけ出していく。


 やがて、全貌が通常空間へと復帰し、背後では役目を終えた空間歪曲が自然の圧力によって、霧散して消えようとしていた。


「ドライブアウト、終了。全艦、通常空間への復帰を確認」

「中々にスリリングな体験だったね。ふふっ、あちこちがガタガタだ」

「まぁ、ろくに修正もしないで連続航行したしねー。さもありなん、って所じゃない?」


 出現した巨大構造物――マジノライン終式は、あまりの巨大さ故に一目では分かり辛いが、よくよく見ると、あちらこちらから火花を散らしており、表面の装甲も凹みや破損、更には剥がれ落ちている箇所が散見される惨状となっていた。

 理論上でしか無かった恒星間航法を無理やり実用化しての強行軍なのだ。

 当然、あちこちに未解決の致命的な問題が残っている。


 生存性特化である終式でなければ、何処かの時点で完全に破損し、爆発四散する運命を辿っていた事だろう。


「応急修理を繰り返しながら、騙し騙しの旅だったものねぇ」

「うむ。しかし、見たまえ。

 しっかりと目的地に到着したとも。

 無事に、五体満足で」


 ロボット形態の刹那が指し示すメインスクリーンには、望遠撮影された惑星ノエリアの姿が映し出されていた。


 まだ滅びていない。

 まだ、生命の輝きが確かにある星の姿。


「――――」


 二度と見る事は叶わないと諦めていた、記憶にあるそれと一致する姿に、ノエリアはそれだけで涙がこぼれ落ちんばかりの衝撃を受けていた。


「何も、するのではないよ?」


 刹那が、小さく釘を刺しておく。


 衝動的に何を仕出かすか分からない以上、こうしてしつこいくらいに言い聞かせておかねばならない。


 ノエリアは、首を振って昂る感情を飲み込むと、素知らぬ顔で返す。


「はて? 何の話かえ?」

「ふっ、分からないのならば構わないとも」


 言葉にも行動にも出していない事まで、口煩く言うつもりはない。


 刹那は、薄く笑いながら話題を流した。


「あれが……。重連太陽系、第四惑星、ノエリア……」

「ホンットに太陽が二つあるし。ついでに、衛星()は四つもある」


 データとしては知らされていた。

 しかし、初めて直に見る、知的生命体を発祥させた他の惑星の姿は、雷裂の姉妹をして感じ入る所があった。


 本物の猫のように顔を洗って、薄く浮かんでいた涙を誤魔化したノエリアが、彼女たちの呟きに補足を入れる。


「……正確には、一個の太陽と直近を回っている燃える惑星じゃの。

 ノエリアから見れば、大きさも届く熱量もさして変わらぬ故、長く太陽が二つあると思われておった」

「ふぅーん、そう」

「月もそうじゃの。

 青と赤、それに白の月は目に見えるからの。

 分かり易いのじゃが、問題は黒き影の月じゃな。

 なにせ、常に宇宙の闇に溶け込むようにあるが故に、地上からは見えん。

 それ故、月も長く三つしかないと思われていた」

「それ、お前ら精霊も知らなかったの?」


 精霊種は、エネルギー生命体であるが故に、宇宙空間だろうと平気で生きていられる。

 その特性上、生まれ故郷から離れようとしないとはいえ、少しばかり周りを散策するくらいはしてもおかしくはない。

 そして、見て回ったのならば、件の黒の月とやらも見つけて然るべきである。


 美影からの問いに、ノエリアは至極あっさりと頷く。


「無論、知っておるとも。

 まぁ、我らがわざわざ世俗に教える事もなかったのじゃがな」

「世捨て人かよ」

「精霊種は元よりそういうものよ。

 自然の中から唐突に生まれる種族なのでな。

 文明の中は中々に生き辛いのじゃ」

「あっそ……」


 会話をしながらも終式は、徐々に惑星ノエリアへと近付いていく。

 重連太陽系から僅かに離れた位置に出現したそれは、流星や小惑星を隠れ蓑にしつつ、内部へと侵入し、惑星ノエリア近郊に至ろうとしていた。

 気分はスニーキングミッションである。

 終式の巨大さを思えば、大分、アバウトな隠密行動だが。


「と、この辺りが限界かな」

「で、あるな。これ以上近付けば、この巨体では興味を持たれるであろう」


 惑星ノエリアの衛星軌道よりも、更に外側に存在するアステロイド群に身を潜めて、終式は停止する。

 ここから先には、隠れ蓑に出来そうな何かは存在しないし、四つの月に近付けば、そこにいるというご当地精霊に気付かれてしまう。


 なので、終式での旅はここで終わりだ。


「まっ、ひとまずは情報収集といこうかね」

「オッケー。じゃ、ドローン各機、射出するよー」


 終式の巨体では無理だが、拳サイズの物なら、幾らでも誤魔化しようはあった。

 千個単位で打ち出されたドローンは、デブリに紛れて地表へと落下していく。


 山に、海に、野に、川に、そして町に。


 それぞれに滑り込んだドローン群は、終式へと収集した音や光景を終式へと送ってきた。


 だが、


『――――』《――――》【――――】〈――――〉〖――――〗〘――――〙﴾――――﴿❲――――❳❴――――❵[――――]

「うむ、さっぱり分からないね」

「まぁー、他の星だしねー」


 如何なる地球言語とも全く一致しない、未知の言語が送られてきたおかげで、遠い目をせずにはいられなかった。


「どうするの?」

「…………」


 ノエリアは、口出ししない。

 この地で生きてきた彼女であれば、現在使用されている言語から既に廃れた古代語に至るまで、全てを網羅している。

 しかし、こいつらがどんな結論を出すのかと、興味をそそられた為に気配を消して静観していた。

 無論、訊かれたならば、正直に誠実に解読もするし、教えもするのだが。


 美雲の問いに、美影は舌打ちしながら答える。


「チッ、仕方ないね。

 ここは、お兄の猿言語さえ解読してみせた僕の出番だよ」


 かつて、完全に野生化していた刹那は、人間の言葉を喪失して、代わりに猿どもの言葉を習得していた。

 それを解読する事で、人里へと連れ出すよう説得せしめたのは、美影の自慢話の一つである。


 当時程のやる気は出ないが、これも未来で刹那と出会う為の一手だと思えば、最低限のモチベーションは出てくる。


 早速に未知言語の解読という、本来であれば人生を賭して行う様な作業に入ろうとする彼女だったが、しかしそこに待ったの声がかかった。


「いや、待ちたまえよ」

「うん?」


 刹那である。

 彼は、至極納得したという風情で頷きを繰り返しており、何か重大な事に気が付いた様子だ。


「うむ、うむ。成る程。いや、確かにその通りだ」

「弟君? 何処かから電波でも受信してるの?」

「私は受信する側ではなく、発信する側なのだがね。

 いつでも、愛しき姉妹にラブ電波を発信しているとも!」

「私には届いてないわねぇ、それ」

「僕には届いてるよ!

 いつでもお兄の愛で濡れ濡れだからね!

 責任取って僕の火照りを慰めるべきじゃないかな!?」

「単なる痴女じゃないのかしらね」

「愚妹には後で水風呂の手配をしておこう。

 ……さて、本題だが」


 一拍置いて、彼は姉妹へと問いを投げ掛ける。


「ふふふっ、ここで問題だ。

 異星人(ビジター)がやって来て現地生物に行う事と言えば、それは一体何かな?」


 その質問への答えは、常識人(美雲)狂人(美影)で大きく分かれた。


「……んー」


 なんとなく予想は付いたが、倫理や道徳的観点から言葉を濁した美雲。


「はい! アブダクションからのキャトルミューティレーションのコンボだと思います!」


 はっきりきっぱりと躊躇なく言ってしまう美影。

 当然、狂人サイドに位置する刹那が出す正答など、もはや語るまでもないだろう。


「愚妹よ、正解だ」

「わぁい! ご褒美が欲しいなー?

 白くて粘ついたイカ臭い感じの液体だと嬉しいよ?」

「ヨーグルトをご所望かね。

 確か、先日、我が社からイカ味のヨーグルトが発売されていた筈だ」

「……何処狙いの商品なのかしら」

「それは祖父殿に訊いてくれたまえ」


 さておいて。


「そう、その通り。正解。イグザクトリィ。

 何故にそんな事をするのかと思っていたが、つまりそういう事だったのだよ」


 刹那は四本の腕を広げて、大きく断言する。


「脳を開いて直に知識を吸い出せば!

 ご当地の言語のみならず常識的知識をも取得できる!

 お手軽学習法だね!」

「さっすがお兄! それで行こう!」

「弩阿呆どもがッ!!」


 ここで遂に、黙って聞いていたノエリアが吠えた。


「黙って聞いておれば、貴様ら、何を考えておるのじゃッ!

 阿呆か! 阿呆じゃったな!!」

「何を怒っているのかね。

 別に片っ端からやろうと言っている訳ではないぞ」


 刹那は、そう言って指折り数える。


「各種族の知識層、中流層、下層から、まぁ三人程度のサンプルとして、精霊種と天竜種を除いた十種族。

 つまりは、大体、100人程度の犠牲で済む。

 安いではないか」

「そういう問題ではないわ、ボケナスがッ!!」

「えぇー、不満なの?」

「不満以外の言葉があるとでも思うておるのか?」


 憤怒に震えながらの言葉に、しかし刹那は言う。


「怪猫よ、分かっているであろう?

 ()()()()()()()のだぞ?」

「…………そんな事は分かっておるわ。

 しかし、だからと言って今を失わせる事を容認は出来ぬ」


 深々と、それはもう深く深く吐息したノエリアは、彼らに言う。


「言葉くらい、我が教えてくれるわ。

 故に、無用の犠牲者を出そうとするでない」


 本当であれば、彼らから言い出さなければしなかった提案を、彼女自ら行う。

 そうでなければ、愛する民が無用に廃人にされてしまうだろうから仕方ない。


 だと言うのに、


「えぇー……」

「ぬぅ……」

「何じゃ、その顔はぁぁぁ……!!」


 とても不満そうな顔をされるのであった。


「待ちたまえ。これには理由があるのだよ」

「ほほう? 納得できる話なのであろうな」

「いやなに、簡単な話なのだがね」

「お前に借りを作りたくない」


 刹那の言葉を引き継いで、美影が端的に答えた。

 ノエリアは、自らの堪忍袋が爆散する音を確かに聞いた。


「そこに直れい! 成敗してくれるわ、悪鬼どもがッ!!」

「ふはははっ、よかろう! 相手をしてやろうぞ、妖怪猫めが!」

「ふっふっふっ、悪鬼なんて言ったんだ。まさか、二対一でも文句はないだろうね?」


 特に意味のない人外戦争が勃発するのであった。

 果たして、ノエリアは悪鬼たちから無辜の命を守れるのであろうか。

どうでもいい設定。


精霊種と天竜種は、特定の言語という物を持たない種族です。

彼らは、エネルギー生命体であり、話す言葉も直接的な意思を発信するという形になります。

なので、受信する側、聞く側にとって最も誤解が生まれない言語に自動的に変換されます。

逆に聞く場合でも、言葉に乗っている意思そのものを解読する為、如何なる言語であろうとも、たとえそれが自分一人しか知らない厨二的オリジナル言語などであっても、精霊種と天竜種には通じます。

暗号キラーでしょう。意味があるだけで解読できるのですから。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 果たして、ノエリアは悪鬼たちから無辜の命を守れるのであろうか。 悲しい事に未来は確定してるんだよなぁ
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