道中記~天城の場合~
邪神巫女の名前を、「のーねーむ」から「トクメイ=キボウ」に変更しました。
ほら、名無しだと名前被りですし。
本人たちの関係的に、嫌がりそうですし。
別の名前が思い付いたので、こちらに。
終式内部、格納庫。
そこに、巨大な金属塊が鎮座していた。
金属塊の正体は、マジノライン四式《ルシフェル》である。
本来、終式は脱出艇としての役割のみを持たされた代物だ。
故に、簡単な工作室くらいならともかく、巨大兵器の建造及び整備をする為の施設は存在しない。
その為、少なくとも固定装置――コンテナ用ではあるが――くらいならば設置されている格納庫に置いているのだ。
「ふーむ。成る程、成る程。なぁーるほどねぇ」
「何を一人で頷いているのよ、弟君」
その足元で、四本腕のロボットが作業していた。
ロボットらしいロボットと言えば良いだろうか。
大きさは二メートル弱ほど。
鉄色の装甲を持っているが、かなり適当な配置であり、中の配線が見え隠れしている。
四本腕をしているが、きちんと指が付いている物は左上の一本だけ。
残る腕は、先端がバーナーであったりハンマーであったりドリルであったりと、作業機械らしい姿となっていた。
頭部には、古めかしい分厚いモニターが据えられており、刹那の顔が表示されている。
触手ボディが損壊してしまった為に、新しく用意したボディである。
もはや有機物ですら無くなっているが、彼であれば大して奇妙でも無い様な気もする。
美雲も、もはや何も言及しない。
最近は特に人の形に拘らなくなっているので、割りと見慣れたものだ。
機械人形形態自体は初めて見たが。
姉の声に反応した刹那は、モニターの頭部のみをグルリと回して、彼女と視線を合わせた。
キモい。
「おや、賢姉様。ご機嫌麗しく」
「んー、あんまり麗しくはないわね」
彼女は、困ったように微笑みながら、自身の肩へと手を置いて言う。
「やっぱり物理法則の異なる空間は息が詰まるわ。
ストレスで肩が凝って仕方ないのよ」
「おや、それはいけないね。
後程、私が肩を揉んで差し上げよう」
「ありがと。それで? 何をしているの?」
「ふふっ、見ての通り、《ルシフェル》の改装をしているのだよ」
「……完成させたんじゃなかったっかしら?」
美雲の記憶が正しければ、現代での準備期間中に終式を建造する横で、ついでに造り上げていた筈である。
なにせ、急遽、終式二番艦を建造する事になったのだが、既にある物のコピーの為に、付きっきりで面倒を見る必要がない。
おかげで、時間と手に余裕が空いてしまったのだ。
なので、その余った余裕を有効に活用して《ルシフェル》を完成させていたのである。
何があるか分からないのだから、出来る準備はしておくに限るのだから。
しかし、ここに来ての更なる改装に、美雲が首を傾げていると、刹那は首を横に振ってみせた。
「いや、いや、賢姉様。あれは、妥協作品なのだよ」
「そうなんだ」
「そうなのだよ。
理想とする完成形には程遠くてね。
まぁ、最低限の性能は確保できたので、一応は完成と銘打っていたのだが」
技術的に越えられないハードルが多く、現在の技術ではとても理想形には届かない代物であった。
だが、過去に遡る事でそれらの問題の幾つかが突発的に解決する事となったのだ。
「いやはや、流石は科学全盛の時代と言うべきか。
我々が構想段階でしかなかった技術が、ナチュラルにスクラップとして捨て置かれているとはね。
クククッ、これは組み込んでやらねば失礼というものだよ」
「……ふぅん。まぁ、好きにすれば良いけど」
己に害がある訳ではないので、美雲は放任する事とする。
自分の武器がパワーアップするのだから、止める理由もない。
むしろ、積極的にGOサインを出したい所だ。
調子に乗りかねないので口に出したりはしないが。
「どんな改造をしているのかしら?」
武器が強くなっても、十全に扱えなければ、何の意味もない。
当初のスペックシートとマニュアルは頭に入っているが、刹那の熱の入り具合からして、改装前後では別物となっている事は間違いなかった。
「こちらに用意しているとも」
なので、彼女が訊ねると、すぐにホロウィンドウを目の前に提示される。
設計図からスペック、マニュアルまで詳細に書かれているばかりでなく、以前との差異まで事細かに纏められている。
刹那が几帳面、と言う訳ではない。
本質的にはアバウトな性格な彼は、自分が分かればそれで良いという纏め方をする傾向が強い。
色々と察しが良く、また刹那の善き理解者である美影ならば、適当に書き殴ったメモを一読しただけでおおよそ全てを読み取るだろうが、美雲にはそこまでの芸当は難しい。
本気で解読したならば別だが。
ここまで具体的に記載している理由は、これが美雲にプレゼントする為だからである。
愛しの女に贈るのだから、男として丁寧に見映えよくラッピングするのは、当たり前の見栄の範疇だろう。
中身は物騒な戦略兵器であるが。
彼女は、ウィンドウを切り替えながら、内容を頭に叩き込んでいく。
「…………ふぅん。オプションパーツ《矛盾》、ねぇ?」
「それが一番の目玉機能だろうね。
尤も、回収した資材が足りていないので、完全に構築できた物は一枚のみだが」
無念、と刹那は首を振ってみせる。
「その他は、まぁ多少スペックが向上した程度に過ぎない」
「……レスポンスが桁違いに良くなってるみたいなのは、多少の範疇?」
「程好い伝達機構があってね。
ちょっと取り付けてみたのだよ。
とはいえ、賢姉様が扱う分には然程の違いはないだろうね」
「……だいぶ違うと思うけど」
各部の反応速度が文字通りに桁違いに速くなっている。
あまりの向上具合に、操作性に慣れるまでに相当な習熟が必要になる程に。
二、三度も起動させれば修正できるだろうが。
これならば、相当な高速戦闘にも耐え得るだろう。
なんならば、一昔前の美影くらいならば、ナチュラルに狙い撃てただろう程だ。
今の美影だと不可能だが。
元より最速を冠していたというのに、更に速くなっているのだから。
「備えあれば憂いなし。良い言葉だと私は思うよ」
「…………この備えは、必要と思う?」
「ふっふっ、勿論だとも」
刹那は、惑星ノエリアを、星を一つ滅ぼすという事を、甘く見てはいない。
死を目前とした生命の足掻きというものを、彼は幼き頃に嫌という程に見てきた。
彼自身もまた、そんな藻掻き足掻く執念によって生き残ってきたのだ。
その言葉は、とても重い。
惑星ノエリアに住まう生物たちは、死を前にして、滅びを素直に受け入れるのか。
否だ。断じて否である。
ノエリアを見れば分かりきっている。
彼女は、今もまだ執念に囚われている。
星の同胞を救いたいと、同胞たちの無念を晴らしたいと、今も願っている。
ノエリアが星の集大成である以上、それが惑星ノエリアの本質であるとも言えた。
だから、分かる。
彼らは、足掻くに決まっている。
異物に対して、断固として抵抗する筈だ。
故にこそ、様々な手段を用意せねばならない。
場合によっては、未来が多少なりとも変わる事を看過してでも、直接的に滅ぼしにかからねばならないかもしれない。
その時には、きっと今の準備をしていて良かったと思えるだろう。
「……弟君。考え過ぎてバカになってない?
もうちょっと楽観的に生きなさいな。
美影ちゃんみたいに」
「そうかもしれないね。
しかし、愚妹があれなので、私は悲観的に生きるのだよ」
「……まっ、釣り合いは取れてるのかしら」
「そして、賢姉様が中庸にいると、更にバランスが良いというものだね」
どちらかに傾いても、美雲が崩れないように支えてくれる。
何の根拠もないそんな信頼を、刹那は姉へと向けていた。
ある意味、世界の命運を肩に乗せられた美雲は、深く嘆息する。
「そんなに過大評価されてもねぇ」
「ふっふっ、過大などではないとも」
平穏な準備期間は過ぎ行く。
暫しの時を経て、彼らは遥かな宇宙を越えて辿り着いた。
異なる法則を元に生きてきた者たちの故郷。
惑星ノエリアへと。
ここ最近、何故か評価ポイントが増える……。
二週間で大体200ポイントくらい。
いや、本当に何でだ。
そんなポイント入れたくなるような話、この辺りでしてないと思うのですけども。