道中記~黒雷の場合~
千文字くらいで収めるつもりだった。
しかし、現実は二千字を超えてしまった。
バカなんじゃねーの?
日付が日付だけど、エイプリルフールネタじゃないですからね?
普通に本編をどうぞ。
音が弾ける。
連なる音は帯となり、切れ目無く響き渡る。
そこは、マジノライン終式内部。
レクリエーション用の開けた空間だ。
そこでは、無数の光閃が駆け抜けている。
その隙間を、美影が舞い踊っていた。
彼女は、幾条もの光閃の狭間にあって、その全てを躱しながら、両の手で叩き落としていく。
軽やかで華やかな、光と戯れるかのような舞いは、神に捧げる舞踏のようにも見え、とても神秘的な美しさを秘めていた。
光閃の正体は、ノエリアの魔力弾であり、つまりは攻撃である。
無数と言って差し支えない光球を配置し、動き回るそれらから更に多くの弾を放っている。
それらは、速度もタイミングも、威力さえもまちまちであり、一定の法則性はない。
隙間無く敷き詰められた攻撃網は、敵を叩きのめす事を徹底したものだ。
まともな戦士であれば、あっという間にヒットしてしまい、そこから生じる隙に付け入られて滅多打ちにされてやられてしまうだろう。
しかし、美影は華麗に舞い踊っている。
やられるどころか、余裕を残して動いていた。
無論、ノエリアとて無策で攻撃している訳ではない。
彼女の動きを予測し、叩きのめしてやらんと試行錯誤している。
人間の大きさ程もあれば、その逃げ道を塞いでやる事は難しくはない。
ノエリアは、美影を確実に包囲して光閃を放つ。
「ふっ……!」
鋭い呼気を一つ。
美影が瞬発する。
前後左右、上下に至るまで、全方向から殺到する光の攻撃を両手だけで撃ち落としてゆく。
その際に、先程から連続して響く破裂音が高く鳴った。
「ほいっ、これでラストォー!」
攻撃の起点となっていた光球の最後の一つを掌底で砕いて、美影は天に向けてピースサインを掲げて勝ち誇る。
結局、一発も当てられなかったノエリアは、その姿に舌打ちせずにはいられない。
「チッ、器用な奴じゃ」
「ふっふーん。まっ、これくらいのハンデなんてチョロいチョロい」
忌々しそうな様子に、美影は更に胸を反らせて機嫌を良くした。
彼女に設けられた縛り。
それは、攻撃を両手だけで捌き落とすというものである。
より正確に言えば、両腕に巻いている漆黒の中に白の筋を含んだ拳帯のみを用いて、だ。
美影は、基本的にデバイスを持たない。
使用したとしても、完全に一発限りの使い捨てである。
理由は簡単で、彼女の魔力に耐えられる物が無いからである。
連弾という技術を用いる美影は、瞬間的な火力がまともな魔王と比べても頭抜けて高い。
当然、比例して負荷も大きくなり、最高級のデバイスであっても朽ちてしまう為である。
この漆黒のセスタスは、そんな彼女の為に作られた専用デバイスであった。
【彼方此方】。
それが名である。
一般的なデバイスとしての機能はなく、たった一つのとある特性のみを搭載しており、使い勝手にクセはあるものの、少なくとも美影の全力を受け止めても綻び一つしない代物だ。
彼女は、ガツンと拳を打ち合わせると、一息吐きながら、悔しそうなノエリアへと訊ねる。
「それにしても、どういう風の吹きまわしなの?」
「あ? 何がじゃ?」
「こんなものを作って、何をしたいのかって訊いてんの」
今まで、どんな素材――あるいはステラタイトならば可能だったかもしれないが――を用いようとも耐えられなかった美影の全力。
現在進行形で成長しているそれが、ぽっと出の品に耐えられる訳がない。
ならば、何を使ったのか。
答えは目の前にある。
不思議な色合いをしたデブ猫が身に纏う、白き羽衣こそがその素材であった。
此方彼方は、ノエリアの羽衣の端を千切って作られたのである。
他ならぬノエリア自身の手で。
「フンッ。大した理由などない。
単なる……そう、単なる気まぐれじゃ」
「…………ふぅーん?」
美影は、問い詰めるようにじっと見詰めるが、ノエリアの獣面はまるで動じない。
(……そう、大した意味などない)
素知らぬ顔をしながら、ノエリアもまた美影を観察する。
溢れ出さんばかりの、強大な魂の波動。
先日の一件で、彼女の魂には〝人の救世主〟としての霊格が宿っている。
何も解決していない現状では、人々の不安は完全に拭い去る事は出来ず、結果、救いを求める意思が力となって美影の魂へと流れ込んでいた。
常人ならば、その重さに耐えきれずに潰れてしまいかねない筈だが、当の本人はケロッとしている。
というか、そもそも気付いてすらいないという有り様だ。
悪いことではない。
だが、それが妙な方向へと結実しつつあった。
(……やはり、昇華し始めておるな)
古より連面と紡がれ、幾星霜の果てに辿り着いた生物としての極致、雷裂の至宝と謳われる肉体。
そして、魔王とさえ呼ばれる程に大きな魂に、救世主の霊格が宿った事で、頂へと至らんとする強大にして強靭なる霊魂。
心身共に究極の最果てへと至り、存在の全てが天へと昇らんとしている。
理論上の話、だと思っていた。
実証のしようもないし、持たざる者の儚い夢物語の類いだと、ろくに信じてはいなかった。
しかし、こうして目の前に証拠を持ってこられては、諸手を上げて降参するしかない。
雷裂美影という人間は、存在の位階を昇華させて、真なる神の領域へと入ろうとしている。
その兆候が出ていた。
ノエリアとしては、色々と複雑な感情はあるが、一応、歓迎する事だった。
忌々しき怨敵を滅ぼす事を目標の一つとしている彼女にとって、強力な手札が増える事は確かに喜ばしい事なのだから。
だからこそ、その手助けとして羽衣の切れ端を贈ったのである。
白き羽衣の特性上、昇華の課程で起こり得る事態において、それがあるのとないのとでは、大きく結果が変わる筈だ。
実際のところは分からないが。
何分、永き記憶を持つノエリアをして、初めて観測する現象なのだから、これからどうなるのか、予測以上の事が言えないのである。
「精々、無駄にしてくれるでないぞ」
「誰に言ってるんだか。ちゃんと使いこなしてみせるさ
溜め撃ちは僕の十八番だしね」
「……まっ、それも含めて、じゃの」
今のところは、ただの武器として。
いつの日か、神を下界へと結び付ける楔として。
機能してくれれば、それで良い。
肉体的な兆候としては、皮膚下に黒雷が流れていたり、骨が侵食されて烏骨鶏みたいになっていたり、それらが該当します。
猫が読み取ったのは、魂的な兆候ですが。
そういえば書いていなかった気もする設定。
・《星縁ノ羽衣》
ノエリアが身に纏う白き羽衣。
惑星ノエリアの星核を織り込んで作られた品である。
単純に頑丈なだけでなく、伸縮自在であったり、魔法効果の増幅を行ったりと、色々と便利な機能がある。
だが、それは表面上の事に過ぎない。
羽衣の真価は、縁結びの能力にある。
あらゆる概念や相性というものを無視して、羽衣で結び付けた物は、縁が繋がり共に在る事を強制される。
地球人類に本来宿らない筈の魔力を植え付けたのは、ノエリア自身の能力もあるが、羽衣による縁結びが最も強かったりする。
ちなみに、ノエリアがあんまり使わないせいで制御が甘いという面もあったり。
星を喰らう獣が、執拗にノエリアを追って地球までやってこようとしているのは、彼女と獣の縁が結ばれているからでもあったり。
つまり、「大体お前が悪い」の一人です。
他に?
人の形を取らなくなった主人公に決まっていますよ?
あれも元凶の一人。
これから事を起こす。
良いね。
設定考えてる時が、作ってる中で一番楽しいかもしれない。