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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
七章:破滅神話 前編
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歴史の真実、あるいは暗黒面

 静かな宇宙空間。

 音無きそこを、剛速にて黄金の超巨大ヌンチャクが振り回される。


「ハッ、ハハハハッ!

 温い温い、温いぞ人類!

 その程度か人類ッ!」


 生存性のみを重点的に追求した超巨大ヌンチャク――マジノライン終式『名称:未定』には、火器の類いをほとんど搭載していない。

 精々、宇宙を航行する為のデブリ焼き様の小火器がある程度だ。


 しかし、一方で兎にも角にもひたすらに硬く造られている。

 単純な装甲は分厚く多層化されており、表面には魔力循環路を張り巡らせる事によって、魔力強化の恩恵を受ける事が出来る仕様となっている。

 更には、各種エネルギーシールドを幾つも装備しており、それを支える大出力エンジンも搭載されていた。

『巨大惑星と正面衝突してもまぁ何度かくらいなら大丈夫なんじゃない?』という不確かな太鼓判を押せる程度には、その頑丈さは群を抜いている。


 硬い鎧は、速度を乗せられるのならば攻撃力足り得る。


 宇宙空間という邪魔をするものの少ない場所において、トップスピードにまで至ったマジノライン終式は、まさしく必殺の兵器となって猛威を振るえるのである。


 という訳で、先程から断続的にやってくる攻撃網を質量の暴力で蹂躙している最中なのだ。


「……楽しそうな」

「ふふふ、勿論楽しいとも。

 一方的に敵を屠れる状況というものは、実に素晴らしい。

 戦利品もあるしね」


 破壊した兵器は、漂っていたデブリと合わせて、ちょくちょく隙を見て回収している。


 基本的には既に破壊されたガラクタでしかないのだが、現代においては失われたロストテクノロジーを使用されているものも多くある為、技術者としては非常に参考になるものだ。


「クックックッ、特に素材分野においては宝の宝庫というものだ。

 どれもこれも、純粋な科学製品としては、我々のそれを越えている」


 単なる装甲板一枚取ってみても、その性能は現代よりも優れている。

 魔力強化という反則を含めれば、確かに現代のそれの方が上であるが、素材そのものでは、比べ物にならない。


「ふむ……」


 刹那は、グルリとブリッジ内を見渡す。

 誰も彼もが、今後の作戦立案に忙しそうにしている。

 正直、出たとこ勝負な部分のある刹那故に、彼と、ついでに現場担当な俊哉だけが暇そうにしていた。


「よし、トッシー後輩君。暇だね?」

「…………あっ、そういえばやる事が」

「後にしたまえ。さぁ、楽しい時間の始まりだ」


 嫌な予感がした俊哉は、即座に逃げの一手に走るが、問答無用で叩き潰されてしまった。

 言葉だけでなく、念力で強固に全身を押さえ付けられており、物理的にも逃げられない。


「ちょっ、ギブっ……。潰れ……!」

「安心したまえ。人間、意外と頑丈だ」


 中身が出てしまいそうな圧迫に泣き言を漏らす俊哉を無視して、刹那は彼の左腕を取り上げる。


 刹那とサラの傑作である義手――『クサナギ Ver5.36 アスクレピオスフレーバー』である。

 ステラタイトをふんだんに使用して作られたこれは、魔王クラスの本気に匹敵する《アマテラス》の砲身として耐えられるだけの耐久性を有しており、更には興が乗った結果、様々な機能を盛り込んである。

 携行サイズの魔術デバイスとしては、世界最高と言っても過言ではないだろう。

 携帯できないものだと、マジノラインを代表として幾つか上回る代物があるが。


 管理者権限を用いて、刹那はそれを一手間で軽く取り外す。


「うぐぉあっ……!?」


 その際に、接続神経を引っこ抜かれて持ち主が呻いていたが、まぁ大した事ではない。

悶える程度で、死にはしないだろう。


「さて……」


 内部機能にアクセスし、仕掛けられていたロックを解除する。


 すると、固有亜空間を展開し、義手を中心に空間が歪んだ。


 歪みの中から大量の金属片が飛び出してくる。

 いや、それは金属片ではない。

 部品だ。


 数万にまで及ぶパーツが射出され、瞬時に結合、指定された場所に組上がっていく。


 時間にして、おおよそ二秒ほどだろう。

 僅かそれだけの時間で、完成品となる。


 それは、一言で表現すれば、鎧武者であった。

 意匠としては、西洋風だ。

 色は、白金。

 細身の全身鎧の造形をしており、その手には朱色の長槍が携えられている。


 規格外魔動式戦術機動鋼殻『金剛夜叉』。


 まともな人間が扱う事を想定していないという、完全なるオーバースペック兵器である。

 雷裂の肉体を全力で魔力強化したスペックを前提として設計されており、普通の人間であれば、魔力強化した上でも起動しただけでミンチにしかならないという馬鹿げた性能をしている。


 当然、俊哉にも扱いきれるものではない。

 魔力と超能力の二種による身体強化を持つ彼でも、流石に起動と同時にではないというだけで、すぐに制御を失ってミンチになってしまう。


 その為、ロックをかけたまま放置していた代物である。


「…………えぇー、俺、そんな機能知らない」

「そういえば、説明書を渡していなかった気もするね?」


 出現した鎧に、悶絶から回復した俊哉が文句を付けるが、刹那はユーザーのクレームなど聞き流してしまう。


 どうせ扱えないのだから、知らなくとも何の問題もないのだ。


「クックックッ、強度限界故に妥協点もあったのだが、これらを流用すれば更なるパワーアップは可能だ……!」

「うわっ、悪ノリしてる顔だよ……」


 ただでさえ、現時点で誰にも扱えない物を、更に強化してどうしようというのだろうか。

 その答えには、ロマンという言葉以上の正解は存在しない。


(……まっ、もう少し超能力を鍛えて、魔王魔力を完全に制御できるようになれば、何とかなるだろうがね)


 今はまだ無理だが、いつかは可能かもしれない。

 望みが無い訳ではないので、そういう事にしておく。

 それがいつになるかは分からないが。


 解体して改造を施しながら、刹那は話を変える様に手持ち無沙汰にしている俊哉に話しかける。


「トッシー後輩君。ところで、君、どうやって過去に落ちてきたのかね?」

「えっ? あっ、今更?」

「ふと気になったのでね」


 別に隠すような事でもない。

 どうせ、未来に戻れば、報告書――始末書かもしれないが――を書いて提出しなければならないのだ。

 国の中枢部に食い込んでいる彼には、放っておいても伝わるだろう。


 故に、俊哉はありのままに遭遇した出来事を話した。


「ほぅ! ほぅほぅ、ほほぅ!?

 その様な方法で時空の扉が開かれるとはね……!

 しかし、再現性は無いな。

 何処に繋がるとも知れない事故では、いまいち使えない。

 まっ、気ままな漂流旅行をする分には良さそうだがね」

「……人間はそういう発想にはならないんだよなぁー」

「儚い命の宿命だね。もっと頑丈に生きられないものかな」


 それよりも、と刹那は話を変える。


「私としては、その太陽炉とやらに興味があるね」

「え? エネルギー問題に興味なんて持ってたんか?」

「いや、いや。違うとも。そんなもの、私にはどうでもいい」


 注目した部分は、太陽からエネルギーを取り出そうという本来の目的の方ではない。


 刹那が興味を惹かれたのは、太陽という熱量の塊に放り込んで猶、原型を留めるどころか機能さえも維持し続ける耐熱性能である。


 俊哉の《アマテラス》は、徐々に進化を続けており、魔王魔力を用いて本気で撃てば、現在では本当に太陽の一撃に匹敵する熱量へと至っている。

 クサナギの性能もバージョンアップしており、見た目こそ製造時と変わらないものの、その性能、特に耐熱性能は比べ物にならないのだが、俊哉の成長速度の方が速い。


 ハッキリ言えば、今に至って猶、彼は全力で戦う事に自爆の危険を伴っているのだ。


 だが、ナチュラルに太陽熱にさえ耐えきれる素材を組み込めれば。

 更に、それが魔力や超能力による強化されれば。


 彼は、自身の炎に焼き殺される危険を排して、本当の意味で魔王の右腕としての力を振るえるようになるだろう。


「君も嬉しかろう?

 いちいち自らの耐久力と相談せずに戦えるようになる事は」

「……まぁ、そりゃあね」

「では、決まりだ」


 刹那は、念力の力場を大きく広げる。

 地球全土を覆い尽くし、更には太陽に向かってその魔の手を伸ばし始めた。


「流石に太陽は遠いね」


 サンプルは多いに越した事はない。

 なので、太陽の中で実際に稼働しているらしい完成品も頂戴しようとしたのだが、単純な距離の問題により届くまでに時間がかかる。


 なので、まずは地球上にある製造者たちや工場を襲撃してしまう。

 念力パンチで叩き潰し、瓦礫の中から必要な物を拾い上げていく。

 原材料から工作機械、設計図等の技術資料に加え、職人技の必要性も考慮して、働いていた者たちの()なども、かき集めた。


「ふむ、まぁこんなものかな。

 出来れば、件の空中要塞とやらも回収しておきたい所だが……いや、未来への影響を考えると下手に手を出しては不味いかな?

 この辺りで自重するが吉、という所か。

 何事も、腹八分目が良いという事だな。

 ステルスを看破するのも手間だしね」


 続々と集まってくる資料に、嬉々とした感情を隠さずに刹那が呟く。


『…………そう。そういう事なの』


 突然として降りかかった厄災の一撃を、ネットワークを介して知ったステラは、同様に魂が抜けたように呟いていた。

 AIに魂があるのかは疑問だが。


 彼女が存在した施設が組織に反旗を翻した頃は、今とほぼ同時期である。

 正確には、このほんのちょっと前に当たる。

 その後、組織からの刺客等がやって来る事を警戒していたものだが、結局は何もないままに空の化石として平穏に二百年も漂う事となった。


 ステラの存在目的として、それは良いことなのだが、同時に疑問でもあった。


 何故、組織からの刺客がやって来なかったのか、という事に。


 後に、いつの間にか混乱して壊滅していたからだという事は知るのだが、そうすると更なる疑問も湧く。


 仮にも、今の終末期にあって猶、莫大な影響力を維持していた世界を股にかける大組織を、一瞬にして壊滅させるとは何があったのだろうか、という疑問だ。


 その答えが、今まさに目の前で行われていた。


 未知にして不可解かつ理不尽な〝力〟の発現。

 何がどうしたらそうなるのか、サッパリ分からないが、引き起こされている結果はハッキリしている。


「……まぁ、そういう事もあるって」


 現実に愕然としている様子のステラに気付いた俊哉が、慰めの言葉をかける。


『そう、確かにそうなの。

 弱者は滅ぶ理由すら選べない』


 それが世界の真理ではある。

 弱肉強食に通じる物ではあるが、弱きは強きの前に蹂躙されるしかないのだ。

 そこに、どんな理由があろうとも。


 しかし、まさかこんな理由で、とは思う。


『まさか、まさか興味本位だけで、潰されていたとは……』


 面白い玩具を持っていたから、殺して壊して滅ぼして、玩具を取り上げた。

 言葉にすればそれだけであり、なんとも悲しくなる現実である。


「ふふふっ、楽しくなってきたぞ。

 これは、中々に興味深い。

 金剛夜叉のみならず、《ルシフェル》の強化一新にも使えそうだ。

 ああ、同志アスクレピオスがいたら狂喜していた事だろうね。

 戻ったならば自慢してやらねばいかんな」


 皮肉にも、科学技術が最も栄えた時代。

 叡知を趣味とする者にとって、この時代はとても魅惑的な時代だろう。


 その証拠に、叡知と技術を意味なく高め続けている怪物は、不気味な笑いをいつまでも漏らし続けているのであった。


「…………まぁ、程々で頼むわ」


 慣れている俊哉は、ほんの僅かな釘を刺すだけで諦めていたが。

 どうせ、何を言っても聞きやしないし。

少しずつ評価されて、何故かノクターンにある「秘話」のポイントが3桁に到達しました。


あんな特殊性癖の欲張り詰め合わせセットみたいな内容でも、多少は需要があるもんなのだな、と驚くばかりであります。

主人公とヒロインの絡みなのに、特殊性癖とは一体……。

彼らはどうしてああなってしまったのやら。


なので、味をしめた筆者は、秘話の二話目を書こうと思います。

こ、今度はちゃんとオシベとメシベなお話ですよ?

登場人物に女性キャラクターしか出てこないけど。(あれ?)

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