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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
七章:破滅神話 前編
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守りたいもの

「まずは、状況の共有を行おうか」


 そう言って、刹那はコンソールを操作する。

 メインスクリーンに映し出されるのは、美しい星の海である。


「観測した限り、周辺宙域に空間擾乱は存在しない。

 重要参考人の話によると、救世主気取りは意図していない空間擾乱を通ってきた結果、地球圏に辿り着いたとの事だというのに。

 ……そうだな? 怪猫よ」

「にゃー、その筈だにゃー」


 触手の枝に吊り下げられたデブ猫が、他人事のようにふざけた調子で証言した。

 うむ、と頷いた彼は、続けて天体観測の結果を表示しながら言う。


「現在時刻とそこの怪猫が出現するまでに、おおよそ約二年程の猶予があると、記録を照らし合わせた事で判明した」


 しかし、と続ける。


「残念ながら、現在の空間状態では、おそらくたったの二年で銀河を越える程の巨大な空間擾乱は発生しない。

 天然ではね」


 二年と聞けば、僅か百年程度の時間しか持っていない人間の尺度では、それなりに長い時間であろう。

 しかし、億万年単位で動いている宇宙世界においては、僅か一瞬の事でしかない。

 たったそれだけの時間では、大した現象など起きやしないのが普通である。


「って事は、人為的な人工物だったって事かね?」


 俊哉の指摘に、頷く。


「そう、おそらくはそうだ。

 この観測結果を見た事で、私は確信した。

 運命は、我々ありきで推移していたのだ、と」


 卵が先か鶏が先か、という問題ではないが、彼等が知る歴史の全ては、未来からやって来た彼等があってこそ紡がれる代物だったのだと判断する。


「…………」


 火星にて、生き延びていた同胞から、真相の断片を知らされていたノエリアは、何も言わない。

 元々、彼女は情報だけ搾り取られた後は、そのまま現代の地球に残してくる予定であった。


 何故ならば、ノエリアには変えたいと願う過去がある。

 衝動的な行動で、下手に干渉されても困ると思われたのだ。


 それでも、着いてきたのは、彼女が滅びの真実を知りたいと願ったからであり、その条件として手出ししない事を誓わされている。


 何らかの制約がある訳ではないが、せっかくなので訊かれもしない事には黙っていようという子供っぽい嫌がらせを行っているのである。


「まぁ、それ故に、我々が終戦を行う為には、惑星ノエリアにまで赴かねばならない、という事になる。

 全く、厄介な事だね」

「ふむ。一つ良いかの、婿殿」

「何かね、翁」


 言葉を挟んだのは、この場で唯一の現実時間にいる御劔である。

 彼は、詳しい説明を何一つとして受けていないというのに、泰然とした様子を崩さぬままに言葉を紡ぐ。


「おぬしらが、今よりも遥か未来より来訪した事は理解しておる」

「聡明だね。説明もしていないというのに」

「御影を見れば分かる事よ。

 この娘の完成度は、明らかに〝今〟では有り得ぬからのぅ。

 千年万年後から来たと言われても、儂は信じるぞい」

「ふむ、成程」


 褒められて自慢げに胸を張る美影。

 年頃の娘としては悲しい程に平たいそれを可愛いと見返して頷きながら、刹那は返した。


「より具体的に言えば、約二百年の後だね」

「ほっ! 僅かそれだけで、そこまで至ったのかいのぅ! それはそれは……」

「それで? 何を訊きたいのかね?」

「あー、うむ。そうじゃったのぅ」


 気を取り直すように咳払いを一つ挟み、御劔は問い掛ける。


「おぬしらは、戦争を終わらせようとしておるのじゃろ?」

「その通りだね。反対なのかね?」

「いや、この戦も大分煮詰まっておる。

 そろそろ幕を引く頃合いと思っておった故、終戦自体は別に構わぬ」


 ただ、


「どうも小細工をしようとしておるようじゃからのぅ」

「ふむ」

「おぬしらだけでも、終戦は可能であろう?

 必要であるのならば、神裂の一門も手を貸すぞい?

 可愛い末裔の事じゃからなぁ」

「わぁい、僕、かわいい~」


 祖父バカが炸裂したように、胡座をかいた膝の上に美影を置いて、その頭を優しく撫で回す御劔である。


 その言葉通り、本当に可愛くて可愛くて仕方ないのだろう。

 神裂の価値観を思えば、完成形と満足してしまいかねない美影は、まさにお姫様であり、最高の宝そのものである。

 蝶よ花よ、と可愛がりたくなるのも頷ける。


 それはともかくとして、確かにその通りでもある。

 新旧カンザキに、最高級補給線たる雫とオプションパーツである俊哉、その他愉快な親衛隊もいる。

 かつて、敗残兵であるノエリア一人で成し遂げた事を思えば、終戦させるには充分どころか過剰に過ぎる戦力だろう。


 しかし、と刹那は答える。


「それでは、駄目なのだよ。

 私たちがやっては、意味がないのだよ、翁」

「ほぅ?」


 どういう事か、と視線で訊ねれば、彼は滔々と語る。


「ああ、簡単だろうとも。

 戦を終わらせる。

 実に容易い。

 全てを叩き潰してしまえば、戦は終わるのだから」


 だが、


「しかし、それでは、私たちの未来に辿り着かない」


 それが絶対の理由である。


 ノエリアがやって来て、彼女が始祖と崇められる未来の歴史。


 これが発生しない事は、大きくその後の歴史を変えてしまう事は想像するまでもない。

 こここそが、地球人類史の転換点と言っても良いのだから。


 あるいは、然程は変わらないかもしれない。魔力が超能力へと取って変わるだけで、未来の形はほとんど同一となるのかもしれない。


 だが、そこに刹那(星の守護者)はいない。

 彼は、ノエリアが望み、画策した事で現代に生まれた存在なのだ。

 彼女が手を加えねば、もっと遥かな未来にまで、彼の誕生は先延ばしになっていただろう。


 それが、何を意味するのか。


 簡単な事だ。

 刹那が、愛しの雷裂姉妹と出会わないという事である。


 断じて認められる事ではない。


 刹那は、自らの生きる意味を彼女たちの存在に集約している。

 自らの全ては、彼女たちと共に在る為にこそあるのだと確信している。


 それが覆される?

 絶望以外の何物でもない。


 だから、彼は断固たる意思を持って突き動いていく。

 余所の星を滅ぼす事に荷担するし、故郷の星に厄災を招く事さえも是とする。


 全ては、姉妹と出会い、共に在る為に。


 その想いを、多大なる情熱を込めて語る。


 美雲は深々と吐息した。仕方の無いアホな弟だと。

 美影は諸手を上げて喜んだ。己も愛しているよと。

 御劔は満足げに頷いた。我が血族にそれ程に惹かれるのも当然と。

 雫と俊哉は呆れと諦めの境地に至った。どうせ何を言っても止まらないだろうと。

 ノエリアは、複雑な心境であった。そんな事で、と叫びたい気持ちを飲み込む。


「理解して貰えたようだね」

「うむ。しかと。であるならば、仕方なかろうて」

「では、簡単に作戦を立てよう」


 コンソールを再度叩いて、表示を切り替える。


 それは、二種類の地球地図である。


 一つは、今現在、この瞬間の地球上の様子である。

 飽きもせずに殺し合いに興じており、刻一刻と変化している。


 もう一つは、ノエリアがやって来た瞬間の地球の勢力図である。

 それなりの変化が見られ、先の一枚に比べればかなり簡略化された勢力図が見て取れた。

 ノエリアの朧気な記憶を吐き出させた上で、美影が持ってきた資料を繋ぎ合わせて作り上げた歴史のカンニングペーパーである。


「です子にトッシー後輩、そして翁よ。

 君たちは地球上に残り、この資料通りになるように舞台を整えてくれたまえ」

「…………また大変そうな」

「です子に訊きたまえよ。そちらは得意だろう?」

「うぃ、です。答えが分かってんなら、逆算すんのも楽だぞ、です」


 嫌そうにする俊哉だが、彼は兵士で前に出る事が役目である。

 頭脳担当は後ろで暇をしている雫に任せておけば良い。


 その横で、新旧カンザキは、資料のやり取りをしていた。


「ほい、爺様」

「何かの?」


 美影がタブレットを取り出して、背もたれにしている御劔へと手渡した。

 それには、雷裂本家の中に眠っていた、戦争当時の日誌が詰め込まれていた。


「僕たちの答え。

 いや、几帳面だよね。

 何処で何をしていたのか、うちの記録だけは矢鱈と詳細に残ってるんだもん」


 まぁ、ここで接触した事を想えば、さもありなんという所だろう。

 元より真面目に記録していたが、未来から過去へと渡ってくると分かっているならば、更に厳重に、間違っても失われない様に保管しているに決まっている。


 どうして、こんなにも固く封印されているのかと、美影は倉を漁っていた当時は思ったものだが、当たり前の帰結であったのだと今なら理解できた。


「ほほぅ、楽なものじゃのぅ。

 儂らの標的は、全て分かっておるという事かいのぅ」

「タイミングは合わせないと駄目だよ?」

「分かっておるわいのぅ。

 ちゃーんと、御影の未来へと繋げるからのぅ」


 ダダ甘である。

 俊哉を追い掛けていた狂戦士が如き雰囲気はもはやなく、完全に孫娘を可愛がる好好爺となっていた。


「そして、我々は惑星ノエリアへと向かい、軽く滅ぼしてくる」

「おい」

「怪猫よ。事実ではないか。私がそうすると理解した上で、邪魔はしないからと着いてきたのだろう?」


 ノエリアが、身も蓋もない言い様に文句を付けるが、刹那は悪びれた様子もなく言い返した。


 彼女は、猫顔でも分かる程に苦虫を噛み潰した表情をしたが、一拍で呑み込んで吐息する。


「…………分かっているのじゃ。

 我はただ、我が星の命運の全てを知りたいだけじゃ。

 故に、汝らにも協力しよう」


 本音を押し隠して、自らに言い聞かせる様に彼女は呟いた。

 そして、それを踏まえて、刹那へと言葉を送った。


「しかし、約定は守って貰うのじゃ。

 違えば、分かっているじゃろうな?」

「無論。全て了解している。

 その為に、わざわざ終式を二連結にして持ってきたのだからね」


 素直に全面的に協力する。

 その代わりに、ノエリアは一つの要求をしていた。


 刹那は、その契約を違えるつもりはない。

 ノエリアが誓約を守る限り、彼もまた誠実に向かい合う。


 大切なものを守りたいと願う彼女の気持ちも、よくよく理解できるから。


 二人は、同じ守護者という立場だけあり、なんだかんだで似た者同士なのだ。

 その違いは、守るべき対象の大きさでしかない。


 刹那は雷裂の姉妹だけを想い、ノエリアは星の全てを想った。

 それだけだ。


 だから、分かる。


 彼女がどれ程に苦悩しているのかを。

 過去を変える機会があるならば、どれ程に縋り付きたいのかを。

 そして、それらを苦渋に押し隠し、敗北と滅亡の過去を認め、その中でのせめてもの救済を模索する覚悟を。


 並大抵の意思ではないと、刹那は知る。


 だから、誠実に真摯に、それと向かい合ってやろうという気にもなった。

 姉妹以外の全てが究極的にはどうでもいい彼であるが、焼き焦がすような魂の熱量に敬意を表して、ちょっとした気まぐれを起こしたのである。


「では、各々、準備に取り掛かりたまえ。

 程なく、本船は惑星ノエリアへの航海に出発する」


 滅びの運命を紡ぐ為に。

本編「信じていた仲間たちに裏切られて危険度SSSランクのダンジョンに捨てられたけど、封印されていた邪神と契約してチートスキルを得られたので、復讐ザマァしながら無双ハーレム作ります~傀儡道化人形を眺めながら嗤う舞台裏の愉悦~」


に辿り着きたくて頑張る心境。


ひっでぇタイトルだな。

間違えずに同じタイトルを付けられる自信がない。

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