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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
七章:破滅神話 前編
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プロローグ:破滅の足音

くっそ、地味にモチベーションの下がる話を!

いや、こうしようと思ったのは自分なのだけれど!

つまり、自業自得!


あー、ムカつく!

 惑星ノエリアには、魔物が存在する。

 より具体的には、異常魔力を持った知恵無き動植物を指す。


 通常以上に魔力を持っているそれらは、危険をばら蒔く害獣であると共に、魔力によって発展してきた文明においては、非常に有用な資源でもある。

 魔物が造り出す特殊な寝床は、天然の魔力生産工場であり、その有用性によっては暴走の危険を考慮しても、管理・存続させる事もあった。


 そこも、そんな領域の一つであった。


 十人組のチームが、大地に造り出された迷宮が如き魔物領域に潜る。

 誰一人として同じ種族の者はおらず、精霊種と天龍種を除いた、全ての種族が対等な一つのチームとなっているのだ。


 魔物領域探索組合・特別編成チーム『崩壁の誓い』。

 種族間に横たわる隔意を取り除き、皆が平等である事を目指して作られたチームである。


 元々、そういうコンセプトのチームは幾らかあったものの、そこに人間種が大手を振って編入している事は、ほぼ初めての事であった。


「うわっ!?」


 暗い洞窟型の魔物領域。

 夜目も効かず、不安定な体幹しか持たない人間種には、非常に辛い道程である。


 年若い少年――ギリムにとっても、それは例外ではない。

 岩の隙間に足を取られてバランスを崩してしまう。


 しかし、完全に転んでしまう前に、彼を支える手があった。


「おい、大丈夫かよ」


 獣魔種の青年だ。

 危険地域である為、臨戦態勢を取っており、その見た目は二足歩行する濃紺色の狼である。


 太い筋肉と硬い毛皮に包まれた豪腕と、指先からは鉄をも引き裂く鋭い爪が生えている。

 柔い身体しか持たない人間種など、魔力強化をするまでもなく軽々と肉塊へと変えてしまう凶器の腕だが、今、ギリムの腕を取る力は、とても優しい。


「す、すみません」


 迷惑をかけてしまった、と、身に付いた癖で反射的に謝罪する。

 狼の青年――ガルドルフは、彼をしっかりと助け起こした後に言う。


「謝ってんじゃねぇ。俺たちは、チームだろうが」

「す、すみま……いえ、有り難う、御座います」


 助け合うのが当たり前だと、ぶっきらぼうに言うガルドルフに、ギリムは再度頭を下げそうになって思い止まり、今度は感謝を告げる。


「……ったく」


 狼の顔ゆえに分かりづらいが、何処か困ったような仕草で、ガルドルフは頬をかきながらそっぽを向いてしまった。

 照れたのだろう、と、ギリムは見て取り、笑みを浮かべる。


(……僕も、役に立たないと!)


 少し前であれば、こんな優しさは有り得なかった。


 今と同じ状況となれば、最低でも舌打ちと文句が放たれ、悪ければぶん殴られ、最悪だとそのまま殺されていただろう。

 そもそも、対等な同じチームで働く、という事自体が有り得なかった。

 それ程に、人間種の地位は低かったのだ。


 仕方のない事だとも理解している。

 人間種は、生物的に非力で、魔力的にも劣っている。

 文明の発展を支える叡知でも、取り立てて功績がない。


 それ故に、話が出来るくらいの知性があるとして、一応、知的生命体として数えられているが、ほとんど扱いとしては魔物と変わらなかった。


 それが変わってきている。

 それを実感して、彼は奮起せずにはいられなかった。


「ふふっ、ほらー。がんばれがんばれー」


 頑張るとは言っても、やはり限界もある。

 足場が悪い上に、急勾配、更には視界も悪いと、人間種が歩むにはまるで適さない道のりなのだ。

 ヒーヒー言いながら付いていくギリムだが、どうしても徐々に距離を離されてしまう。


 これまでであれば、無視して置いていかれるか、あるいは首に縄をかけて引き摺られるか、そのどちらかだったろうが、ここではそんな事はない。

 メンバーたちは、少し先で待っていてくれるし、彼と足取りを合わせるように霊鬼種の少女――ツムギが並んでいる。


「あっ、ここはすべるよー。ほら、きをつけてー」


 はい、と明るい笑顔で手を差し伸べられる。

 もはや何かの罠かと思わんばかりの優しさだ。

 ちょっと前なら、本当にそうと疑っていただろう。


 しかし、今は違う。

 少なくとも、この仲間たちは信じられる。


「あ、ありがとう」

「…………うん」


 手を取ったその瞬間、彼女の笑顔が歪んだように見えた。

 しかし、それも一瞬のこと。

 ぐいっ、と一息に引き寄せられた。


 左右の額から角が生えている以外は、ツムギは小柄で華奢な少女である。

 だが、彼女は霊鬼種の出身だ。

 人間種とは根本的に異なる膂力は、仮にも調査に耐えられるように真面目に鍛えているギリムであっても、比べ物にならない程に強力なものである。


「わっ……」


 引き寄せられる動きが力強すぎて、着地の際にバランスを崩してしまう。

 ぐらついた拍子に、ツムギへと倒れかかってしまう。


「ーーっ!?」


 その時に、顔に柔らかな感触が当たった。

 鼻からは、何処か本能を刺激するような魅力的な香りが感じられる。


 慎ましくも確かな柔らかさで彼を受け止めるもの。

 その正体は、ツムギの胸部であった。


 気付いた途端、ギリムは顔を赤くしながら飛び退いた。


「ご、ごめん!」


 口から出た謝罪に、ツムギはぶつかった拍子に少しだけ崩れた服を直してから、笑みで応えた。


「だいじょぶだよー。ふかこうりょく、ふかこうりょくー。じこってもんよー」

「う、うん。有り難う。……ごめん」

「いいって、いいってー」


 ヒラヒラ、と気にしていない様に手を振るツムギ。


「おい! 早く来いよ!」


 流石に待たせ過ぎたらしく、催促の声が届いた。


「ご、ごめん! すぐに行くから!」


 ギリムは、慌てて先で待っているメンバーたちの元へと駆け寄っていく。


(……や、柔らかかったな。良い匂いも、したし)


 足元に気を付けながら小走りに駆けながら、ギリムは先の感触を思い出していた。


 ツムギは、とても可愛らしい少女である。

 こんな荒くれな現場では、中々見られない美少女だ。

 もっと子供の頃からこの世界に飛び込んでいたギリムにとっては、関わった事の無い類いの存在である。

 しかも、彼女は霊鬼種であり、雲の上の存在でもある。

 そんな娘に優しく接して貰える上に、偶然とはいえ、その女の子らしい感触に触れられたのだ。


 年頃の少年としては、舞い上がらずにはいられないというものである。


 だから、想像だにしていない。

 その後ろでは、ツムギが不快な顔を隠す事なく、彼が顔を埋めた胸元を、念入りに叩いていた事など。


 まるで、穢らわしいゴミ虫にでも集られてしまったとでも言うように。


 念入りに、念入りに。

えー、これは間違いなく本作の話となります。

決して何かの新作を間違って投稿している訳ではありません。


もうちょっとだけ、我慢して付き合って下さい。


あー、本当の主人公勢が来て欲しい。(切実)

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