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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
七章:破滅神話 前編
241/417

プロローグ:仕込まれる悪意

ちょっとした思い付きで差し込み。


本当は、短く済ませるつもりだったのですが、長くなったので一話として独立させます。

 惑星ノエリア。

 この星には、数多の知的生命体が存在する。


 精霊種、天龍種、天翼種、妖魔種、妖精種、地竜種、森精種、鉱精種、海魔種、霊鬼種、獣魔種、そして人間種。


 これらの種族がそれぞれに独立国家を形成しており、つまる所、大雑把に12の国家が存在している事となる。

 尤も、主義主張の違いにより、その中で更に細かく分かれており、規模を問わなければ勢力の総数は千をも越えると言われている。


 自由な知性あらば、当然、そこに争いは生まれる。

 惑星ノエリアの歴史もまた、果てしない闘争の歴史を辿ってきた。

 現在でこそ大きな衝突はないものの、今を以てしても、全ての種族が手を取り合って仲良く、等という事は全く無い。


 仮にも知的生命体として認識され、独立国を築いている種族であっても、他種族の国では奴隷扱い、悪ければ家畜扱いという場合も多くある。


 そんな下等種族として扱われる事の最も多い種族は、と言えば、人間種であった。


 種族的特徴として、肉体的に優れている訳ではなく、また保有魔力量も比較すると少なく、そして文化・文明的にも後進国なのだ。

 低く見られない理由がなく、他の種族からは惑星ノエリアの恥晒しだとまで言われる程に低く見られている事が多い。


 しかし、直近ではそこに少しばかりの変化が起きていた。


 人間侮りがたし、という空気が流れており、もう少し扱いを見直すべきでは、という意見が出始めているのだ。

 特に、個人の武勇という点において絶大な価値を置く霊鬼種と獣魔種では、その風潮が強い。


 曰く、黒き稲妻に魅せられたのだ、と。


 それだけでは、何が原因かは不明だ。

 だが、追い風には違いない。


 この機を逃す事なく利用し、人間種の地位を向上させるべく、人間の国は積極的に外へと出ていくのだった。


~~~~~~~~~~



 とある大地に刻まれた亀裂の淵にて。

 そこに築かれた調査拠点の一つに、彼らは集まっていた。


 魔物領域調査特別編成チーム『崩壁の誓い』。

 精霊種と天竜種を除いた、全10種族から一人ずつ集まって結成された10人組のチームだ。

 それぞれが各種族内でも最高峰の実力と実績を持つベテランであり、これから侵入する魔物領域の予想危険度からして、彼らこそが適任と言える。


「……さて、定刻だぁ。最終確認すんぞぉ」


 会議室を一つ占拠している彼らに向けて、一人の男が宣言する。


 美丈夫な青年だ。

 浅黒い肌をした、よく鍛えられ引き締められた長身を持っている。

 縦に割れた鋭い獣眼は、黄金の色をしており、灰色の髪はザンバラに整えられていて、彼のワイルドさを醸し出している。

 髪色と同じ狼の耳と尻尾を生やしており、彼の野生を示している。


 獣魔種の英雄、名をガルドルフという。


 そして、何故かこのチームのリーダーをしている。

 もっと上位と位置付けられている種族の者もいるのだが、面倒臭い、という一言でお鉢が彼まで回ってきたせいである。

 ()()()()()()なので引き受けたが、内心では彼も面倒だとは思っている。


 ともあれ、これからは仕事の時間だ。

 意識を切り替えて真面目に挑む。


「目標は、ここ、アハト・マジノ戦争渓谷(ウォーズライン)


 地図を広げ、大地に一直線に走った巨大な谷間、その一点を指し示す。


「その最深部で発見された、新しい魔物領域だぁ」

「…………何度見ても、天竜種の破壊力には寒気を覚えますね」

「まぁなぁ」


 地図を見て誰もが抱いている想いを、誰かが呟いた。


 アハト・マジノ戦争渓谷。

 全長5,000km弱、最大幅400km強、最大深度約12km、という現実離れした大渓谷だ。

 獣魔国と霊鬼国の国境に走る渓谷であり、つい先日、たったの一日で出来上がった驚くべき地形である。


「フリーレンアハト様は、どんな怒り方をしたのやら」

「……まぁ、ちょっとうざったい侵入者がいたんだぁなぁ」


 国境が、何故、そこにあったのか。

 答えは簡単で、天竜種の一柱がその場を縄張りとしていたからだ。


 フリーレンアハト。

 その名で呼ばれる天竜種である。

 彼の者がその身を横たえている為、獣魔国も霊鬼国も、そこを境に拡大が出来なくなったのだ。


「ガルドルフ殿は、詳しく知っているのかの?」

「まっ、お隣だからなぁ」


 ガルドルフは、緊急で呼び出されて様子を見に行った際の記憶を思い出して、ぶるりと身震いした。


 大地を引き裂く、神の如き巨大な天竜種。

 そして、それを天から見下ろす機械仕掛けの怪物。


 その大戦争は、この世の終わりを予感させる物であり、卑小な身では割り込む事さえ許されない神話の体現であった。

 ギリギリ見えるかどうかという距離を取っていたというのに、死を連想させた程だ。


「参考までにお訊きしますが、アハト様は何と戦っていたので?」

「そうさなぁ……」


 どう表現したものか、とガルドルフは少しだけ悩む。


 正体をそのまま伝えても、理解できないだろう。

 正直、知っている今でも、信じられない気持ちが心にあるのだから、知らない彼らでは余計に信じられる筈がない。


 結局、かなりぼかした曖昧な答えを出す。


「……空飛ぶ、ばかでけぇタコって感じかねぇ」

「えー、どっちかっていうと、イカじゃないかなー?」


 それに異を唱えたのは、霊鬼種の少女であった。


 長い艶やかな黒髪をツーサイドアップに纏めている。

 肌は透き通るように白く、紫紺の瞳は、黎明の空を思わせる。

 小柄で華奢な体躯を赤い前袷の着物で包んでおり、左右の額からは小さくとも鋭い角が顔を覗かせている。


 霊鬼種の才女。名をツムギといった。


 彼女も、隣近所ということで現場を見ていた一人であり、故にガルドルフの言に否と言ったのだ。


 彼は、冷めた視線を返しながら、断言する。


「……タコだろぉ。足、8本だったしよぉ」

「でもでもー、ほんたいは、ほそながかったしー。イカのほうが、しっくりくるってー」


 途端に流れる剣呑な空気。

 他種族同士が、いきなり仲良く手を取り合って、など無理な事だ。

 どんな些細な事でぶつかり合うか、分かった物ではない。


 一触即発の空気に割って入ったのは、一人の少年だった。


「あ、あの! 話が逸れてます! その、調査の話をしましょう!」


 人間種の少年――ギリムだ。

 この場において、本来であれば最も発言力のない出自の彼である。

 いつもであれば、無視されるか、殴って黙らせられるか、そのどちらかだっただろう。


 しかし『崩壁の誓い』では誰もが平等としている。


 それ故に、火花を散らしていた二人は、舌打ちしつつも彼の意見を受けて矛を収める。


「……しゃーねぇ。この話はまた今度だぁ」


 気を取り直したガルドルフは、今度こそ仕事の話を始める。


「フリーレンアハト様が暴れた事で、この辺りは馬鹿みたいな魔力溜まりになったぁ。

 特に、俺様たちが潜る場所は、最後の衝突をした地点であり、大気中魔力濃度は異常の一言だぁ」

「……それはまた」

「居着いた魔物も、まぁ比例して大概に危険だぁなぁ。

 なもんだから、俺様たちが召集された訳だぁ」


 危険度が予測できない程に未知数であり、また特濃の魔力を受けてどんなヘンテコな事になっているのかも予想できない。

 なので、多角的な視点と確実な生還能力を期待して、各種族からベテランを集めてチームが編成されたのである。


「まっ、お前らもベテランなんだぁ。

 いちいち(こま)い指示もいらねぇだろぉよぉ」

「ですね」

「って訳だから、まぁそれぞれに必要な準備はしてくれやぁ」

「おう。了解じゃ」


 暫定的にリーダーなんてやっているが、大してやる事もない。


 彼らも場数を踏んでいるのだから、危険な未知の領域に、一番槍となって飛び込む経験も豊富だ。

 だから、その為に必要な用意は分かっている。

 分かっていなければ話にならない。


「なんか、質問はあるかよぉ?」


 一応、見落としがあるやもと訊ねると、ギリムが手を上げた。


「なんだぁ?」

「えっと、アイテムの管理は、どうするんですか?」

「あぁ? アイテムぅ?」


 様々な場面に対応する為に、相応に道具は必要となってくる。

 当然の事だ。


 それについての言及が無かったので、ギリムは指摘したのだ。

 ある程度は各人が持ち歩くものだが、やはり嵩張るので誰か一人、あるいは二人が一手に引き受けた方が、結果的に効率的に探索できるという()()()()に従って。


 少しばかり思考が空転して、困ったように視線を彷徨わせたガルドルフだが、一般的な常識を思い出して納得する。

 そして、彼は答えた。


「あぁー、じゃあ、テメェに任せるぜぇ」

「はい! 任せてください! あっ、あと、調査記録も道々で僕が付けます!」

「…………そうかぁ。まぁ、やるってんなら、やってくれやぁ」


 もう面倒なのでそれで良いや、と投げやりになったガルドルフは、奮起しているギリムにそう言って話を締め括った。


「そんじゃあ、出発は一時間後だぁ。

 遅れるんじゃあねぇぞぉ?」


 会議は終了となり、解散となった。


「……たいへんだねー、ガルドくんもー」

「じゃあ、変わってくれるかぁ? なぁ、ツムギちゃんよぉ」

「えっ、やだ。めんどーだもーん」


 各々に立ち去っていく中で、最後まで残った二人は気楽に言葉を交わす。

 先程は喧嘩しそうになっていたガルドルフとツムギの二人だ。


 だが、今の二人の間に剣呑な空気はなく、むしろ仲の良い雰囲気があった。


 元は、獣魔国と霊鬼国が隣国という事で、お互いへの印象は悪かったが、とある出来事がキッカケで今となっては非常に気安い仲となっているのだ。


 ちょっとした()()()()()を気軽にする位には。


「…………はぁ。あそこまで、とはなぁ」


 ガルドルフは、疲れた吐息を漏らした。

 項垂れる彼の灰色の頭を、ツムギは優しく撫でた。


「がんばったがんばったー。ガルドくんはー、とってもがんばったよー。

 よくなぐらなかったー」

「ああ、俺様も驚いてるぜぇ。俺様って、こんなに我慢強かったんだなぁ」

「そうだねー」


 同情の視線を、ツムギは向けた。


「やっぱり、おねえさまたちとおなじにかんがえたら、だめだよねー」

「やっぱ、姐御たちがおかしいんだよなぁ。

 あいつらぁ、ホントに何なんだろぉなぁ」

「そりゃー、〝人間〟なんだろうねー。あれこそが、そうなんだよー」

「はっ、禿猿と同じにした方が悪いってかぁ? まぁ、そうだわなぁ」


 少なくとも、彼らが知る存在たちが、彼女たちと同じだとはとても思えなかった。

 まず間違いなく、別個の生物である。

 そう思えてしまう。


 憂鬱な気分を軽く笑い飛ばした二人は、ようやく席を立つ。


「そんじゃ、お互いに役目を果たそうぜぇ。

 精々、愛想良くしてやんなぁ」

「……それが、いちばん、たいへんだよねー。こんかいのしごとでー」

「違ぇねぇ」


 思惑は重なり、悪意を以て動き始める。



最新話も本日8時に投稿します。

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