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至宝にして至高

一章の頃に比べると、ヒロインの人外化が大分進んで……。


主人公?

あっちは元からだし。

 美影は、先祖と向かい合いながら、意図的に力を半分だけ抑える。

 具体的には、超能力をオフにしたのだ。

 更には、雷という力を使わないと自らの手札を縛る。


 全力で戦うのならば、これは失礼極まりない行為であろう。


 しかし、相手は滅ぼすべき敵ではない。

 これから行われるのは、あくまでも試合なのだ。

 殺意が含まれている事は見なかった事にするが。

 まぁ、雷裂では珍しくはない。


 ならば、なるべく同条件にすべきと思ったのだ。

 生まれ持った肉体と力、そして何よりも磨いてきた技だけで。

 先祖とは相対すべきだと。


 だから、超能力は封じる。

 潜在能力が開花しただけだとはいえ、彼女にとっては、それは刹那から与えられた力だという意識の方が強いから。


 元を辿れば、魔力もノエリア(化け猫)から与えられた物だが、もう二百年前の事であるし、生まれた時から持っていたという意味ではこちらの方が馴染んでいるので、例外とした。


「さって、ご先祖様。ガッカリはさせないでよね」


 魔力を高めながら見る先では、超能力の輝きを身に纏う過去の超人がいた。


~~~~~~~~~~


 向かい合う、二人の超人。

 緊張感は静けさとなり、彼我の間に張りつめていく。


 しかし、張りつめている様に見えるのは、周囲を囲む者たちだけであり、当の二人は、傍目にはリラックスしているようにも見える。


「おいっちに、さんし」

「ふぁ~……」


 適当な準備運動をする美影と、そっぽを向いて欠伸をする御剣。

 いまいち戦意が感じられないが、それは偽装でしかない。


 裏では、お互いが隙を探り合い、妙手を打ち合う駆け引きが行われていた。


 停滞。


 それを破らんと、先に行動を起こしたのは、御剣であった。

 彼は、ふと思い出したという様な調子で、美影へと質問を投げかける。


「〝神裂〟を名乗り、〝御〟を戴く。

 その意味を、理解しておらぬ訳はないのじゃろうのぅ?」


〝御〟は、神裂の本流、最も優れた血筋にのみ許された名である。

 資格もなく、それを名乗る事は、万死にも値する大罪だ。


 それを知らぬ訳でもあるまい、という問いかけに、美影は不敵な笑みを返した。


「じゃあ、試してみなよ。相応しいかどうかを」


 来い、とばかりに、手招きにて挑発する。


 瞬間。


 二人が消え、周囲の大地に無数の破砕痕が穿たれる。


「あはっ♪ 流石だね、御剣翁!」

「ふはっ、それはこちらの台詞じゃわいのぅ、小娘!」


 目にも止まらぬ。

 まさにその言葉が相応しい激突にて、彼らはその被害を撒き散らしたのだ。


 間隙。


 攻防の切れ目に、出来上がったクレーターの一つに、美影が着地する。


 その周囲を、無数の御剣が取り囲んだ。


 神崎流体技《陰陽万華鏡》。


 目の錯覚や、音の反響などを利用し、何よりも足捌き、体捌きの速度を要求される、ただの歩法。

 大道芸レベルではあるが、相手の不意を突くにはそれなりに重宝する。


「ふぅーん。じゃあ、こっちも増えてみたり」


 なので、美影も同じ事をやり返した。

 同じように増えた相対者に、御劔は笑みを深くする。


「ほっ、やりおるわい!」


 数多の美影と数多の御剣が入り交じる。

 お互いが何処にいるのか、どれが本物なのか、刻一刻と移り変わる答えを、見出さんと探り合いが発生した。


 稲光。


 黒雷によって払われた暗雲は、しかし隙間を埋めるように再び空に蓋をしていた。

 そこからは、自然の雷が自らの存在を誇張する光と音が発生している。


 如何にカンザキと言えど、光ほどは速くはない。


 雷光によって、影が作られる。

 突発的な強い光に晒され、偽物は薄れ、確かな本物を浮き彫りにした。


「「しっ!!」」


 瞬間、両者は再度の衝突を行う。


 先手を取ったのは美影だ。

 一直線に突っ走った彼女は、何の捻りもない拳打を放つ。

 狙いは顔面であり、当たれば頭部を砕いてしまえる程の勢いがあった。

 当たりさえすれば、だが。


 御劔は、瞬き一つせずにそれを見切る。

 素早い反射によって、突き出された美影の細腕を握り止めた。


「良き踏み込みじゃわいのぅ!」

「まだだよ、翁」


 細い外見からは想像も付かない程の高い身体能力。

 神裂の血と肉を確かに受け継いでいる証明に、御劔は嬉しくなる。


 その称賛を受けながら、美影は動きを止めない。

 更なる踏み込み。

 しかし、それは正面ではなく、上方へと向かう物だった。


「ぬ?」


 手首を掴まれている状態でのそれは、回転運動となり、前転となる。


 神裂流体技《斬獲・鎌刃脚》。


 切断力とは、究極的には圧力と摩擦によって為される。

 故に、刃物としての薄さは必ずしも必要ではない。


 尋常ならざる速度を叩き出した足刀による踵落としは、死神の鎌となって命を刈り取らんとした。


「甘いわッ!」


 神裂流体技《波流無衝》。


 御劔は、迫る死の刃を、無防備に頭で受けた。

 傍目からは、その様に見えただろう。


 しかし、実態は違う。

 受けた衝撃を受け流す為に、受けた方向と同じ向きに身体を引く小技がある。

 素人であろうとも、無意識的にしている事だ。


 これは、それをひたすらに極めただけの物である。


 完璧なタイミングで、一切の過不足無く。


 それを為したならば。


 見た目には無防備に受けたように見せながら、全ての衝撃を無効化させる事が出来る。

 出来てしまう。


 運動エネルギーを全て吸い取られた美影は、宙に浮いた姿勢で僅かに停滞する。

 それは、一瞬に満たない程の時間だが、その隙だけで攻勢に出るには充分であった。


 頭に載った足を滑らせ、肩に落とした御劔は、そのまま首だけで挟み止めると、身体を回す。


 投げ。


 手を使わない異形の投げ技であった。


「雷裂に対して投げ技とはっ!」


 愚かなり、と美影が叫ぶ。

 振り回される身体を入れ替え、爪先で逆に御劔を引っ掻ける。


 神裂流体技《無限輪廻返し》。


 宙に浮かんだまま、投げ返した。


 パターン化である。

 人の身体など、誰であろうとおおよその構造は変わらない。

 であるならば、そこから放てる動きの種類には、当然、限界がある。


 その全てを網羅する事で、あらゆる姿勢からの反撃を可能とする馬鹿の極み。

 特に、それは技を掛けられてから多生の時間を必要とする投げに対して、驚異的な威力を発する。


 しかし、それは相手も同じこと。


「儂を舐めるでないわい!」


 御劔が、更に美影を掴んで投げ返した。


「なんのぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「ぬっはぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 お互いがお互いを掴み合い、投げ返し続ける。

 最適パターンを見誤った側が負ける千日手の様相となった。


 しかし、永遠と続く訳ではない。


 宙を絡み合いながら舞っていた二人だが、数秒で弾けて地面へと叩きつけられる。


「うーん、ちょっと修行不足だったかな?」


 ダメージをほとんど受けていないのであろう。

 両者ともに間を空けずに起き上がる。


 だが、その中で美影は頬を軽く擦っていた。

 擦過痕。

 彼女の頬には、確かに殴られたかのような痕が残っており、それを証明するように口の端から細い血が垂れていた。


《輪廻返し》の最中に殴られたのだ。

 つい投げ返す事に夢中になって打撃という選択肢を外してしまった。


 その隙を突かれたのだ。

 まさしく修行不足であろう。


「ほっほっ、そうそう若いのに負けてもおられぬでのぅ!」


 言いながら、突撃する。

 連打される砲撃が如き拳を、美影は的確に捌いていく。


(……クッカカカッ! 軽く躱しよるわい!)


 実に楽しい。

 御劔は、心からこの時間を楽しんでいた。


 これ程に魅力的な女、いや人間など見たことが無い。


 力と経験では、己が勝っている。

 しかし、こと速度という点では美影の方が圧倒的であった。


 更には、技では互角という。


 凄まじい事だ。

 これ程の血族が隠れていたなど、信じがたい。


「ふはははっ! 久しく燻っておった血が騒ぐわいのぅ!!」

「そう? 実は僕も楽しんでるけどね」


 美影もまた、この相対に充実感を得ていた。


 刹那のようなビックリ箱の強さとは違う。

 同僚である《千斬》や《流転》との他流試合とも違う。

 純粋な同門同士の鍔迫り合いである。


 才人であるが故に、彼女にとっては、遠い過去に置き去りとなった経験であった。


 祖父は、既に老齢の衰えが大きい。

 父は、色々と頭がおかしい。

 遊びとロマンばかりというか、邪道ばかりというか。

 姉は、そもそも興味がない。


 だから、同門で互角に競り合うなど、まだ学び始めた時期の、本当に幼い頃以来の事だった。


 楽しい。


 兄との邂逅で実感した事ではあるが、先祖との相対は、美影の世界をまた別の色に塗り替えていた。


「さぁ、存分にやろう!」

「応! 尽き果てるまでやろうぞ!」


 人の至れる限界点。

 最果てへと至った激突は加速していく。


 そして。


~~~~~~~~~~


「ふっ……、ふっ……」

「はっ……、はっ……」


 血みどろになりながらの相対は、終焉へとやってきた。


 二人ともに、もはや限界に近い。

 全身のあちらこちらにダメージを受けており、骨も内臓もガタガタである。


「小娘……否、神裂の御影よ」

「うん?」


 確かな名を呼ぶ。

 血族として相応しい、御を戴くに相応しい、と。


「おぬし、力を隠しておるわいのぅ。のぅ?」

「ありゃ、ばれちった。まぁ、バレバレか」


 最初に黒雷を放っている。

 超能力と魔力のハイブリットである力を。


 だというのに、相対では超能力の強化をしていないのだから、不審に思われても仕方ない。


「おぬしの血肉を肌で感じた。

 おぬしは、我らの末裔なのじゃな?」


 引き出される身体能力の完成度から、御劔は美影の素性をしかと看破する。


 彼女という完成品が生まれるには、あとどれ程か。


 百年? 二百年? それとも千年か? あるいは万年かかるか?


 なんにせよ、喜ばしい事である。

 連綿と血は繋がり、そして結晶となる未来を見せ付けてくれたのだから。


 だからこそ、彼は望んだ。


「最後じゃわいのう。是非とも、我らが果てを見せてくれ」

「…………良いよ」


 全力を出してくれ、という願いに美影は応える。


 自らに課した枷を外す。

 最初に感じた、雷雲の気配が彼女の気配から鮮烈に放たれる。


「おお……!」


 御劔は感嘆の声を上げるが、限界はまだまだ上だ。


 雷属性発動。


 単なる強化から、属性を含めた強化へと切り替える。

 瞬発力に特化したそれへと。


 美影の全身が黒い雷を纏う。


 最後に。


「翁。僕のご先祖様。死なないように、しっかりとガードするんだよ?」


 雷裂美影・源流体技《心爪血牙》。


 二百年前に考案され、されど歴代のカンザキの誰もが実現できず、そして美影によってようやく完成された、体術的身体強化法。


 ドクン、と、美影の全身が脈を打った。

 膨張と収縮を繰り返し、やがて赤い煙が立ち上り始める。

 体温が上昇し、血が急激に蒸発しているのだ。


 心臓とは、血を全身に行き渡らせる筋肉の塊である。

 血流の加速は、身体能力の向上に繋がる。


 ならば。


 全身の筋肉を総動員し、全ての筋繊維を利用して心臓の役割を果たしたならば、どうなるのか。


 その答えが、そこにあった。


「…………なんと」


 奇跡の如き身体操法の極致に、御劔は感動のような心と共に絶句する。

 そうか、そうすれば良かったのか、と。


「行くよ」

「来い」


 準備が整った美影が宣言し、御劔が迎える。


 次の瞬間には、決着が付いていた。


 吹き飛ぶ御劔の巨躯。

 遅れて、弾ける大気。

 激音が衝撃となって周辺一帯を綺麗に一掃した。


 美影はその場から動いていない。

 ただ棒立ちのまま、適当にパンチを放っただけだ。


 それだけで、ただそれだけで、神速へと至った拳は、悉くを捩じ伏せてしまったのである。


 血煙と黒雷が消えて、人間らしい姿へと戻る美影。

 彼女は、最後の一撃によって一気に膨らんだ疲労を、長い吐息で吐き出した。


「…………耐えきられちゃったい」


 見る先では、大の字で倒れながらも、しかししっかりと息のある御劔の姿があった。


早い話がギア2ndよ。



例のあの話を書き始める。

官能小説って、普通の小説とはまた違った語彙とか表現が必要で意外と難しい。


……題材が悪いというのもあると思うけど。

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