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嘘八百、あるいは嘘も方便とも

 俊哉らと別れた愛夏は、悠々気ままに単独で飛翔する。

 大概に地球環境の壊れた時代ではあるが、宇宙と大気圏の狭間のような高空には、流石にほとんど汚染が届いていなかった。

 逆に言えば、僅かならば届いているという事でもあるが。


 その中で一番酷いものと言えば、人工隕石が雨のように降ってくる事だろう。

 おそらくは、元は人工衛星の類いだったのだと思われるが、何らかの機械部品の塊がまばらな雨のようにバラバラと宇宙から地表に向けて間断なく降り注いでいる。

 軍事衛星やらスパイ衛星やらをこれでもかと打ち上げ、そしてそれを敵対者が片っ端から破壊していく、という事を繰り返しているのだろう。

 今も猶、現在進行形で。


「…………よくもまぁ、壊しも壊したり」


 ある意味では幻想的に見えなくもないような光景に、時代の凄惨さを再確認して呆れるばかりである。


 ともあれ、お仕事の時間だ。

 予想は正しかったらしく、俊哉らと別れた事で雷裂からの追跡は剥がれていた。

 あるいは、気付いていたけれど、眼中に無しと見逃されただけかもしれないが、結果が同じならばどちらであろうとも愛夏は構わない。

 他の有象無象ならば、舐めるなと憤慨しただろうが、相手は〝あの〟雷裂である。

 むしろ、スルーしてくれる事に感謝感激してしまう。


 彼女は、幻属性魔力を起動させると、同僚たちと連絡を繋ぐ。


「もしもし? こちら、支倉です。応答を」

『おー、愛夏ちゃん。無事だったかー?』

『雫様は無事か!?』

『隊長は……あー、まぁいいか』

『良くないですよ。ちゃんと死にましたか?』

『そっち?』


 元気な反応がそれぞれに返ってくる。

 そこに欠けた声はなく、取り敢えずは皆が無事なようである。


「ひとまず、こちらで判明した事と今後の方針を伝達します」


 旧時代の雷裂が追跡してくる明確な原理と、それによって俊哉と雫が囮となって彼らを引き付けているということ。

 更には、その間に暇潰し依頼を遂行しつつ、未来にいる者たち、特に雷裂の兄妹が興味を惹かれるようなメッセージの内容と伝える方法の模索。


 それが今後の彼らが行うべき事柄である。


「如何でしょうか?」


 何か案はあるか、と問う。


『……ふむ。任務遂行はともかくとして、後者がちと問題ですな』


 雷裂というイレギュラーが無ければ、さほど難しくはない。

 世界中に根を張る大組織とはいえ、所詮は一組織でしかない。

 やろうと思えば、俊哉と雫という彼らの中核を欠いた状態であろうとも、問題なく遂行できるだろう。

 更なるイレギュラーが無ければ、だが。


 問題は、未来へのメッセージだ。


「……彼らの気を惹く、ですか」

『難問ですな』


 雷裂の兄妹は、言ってしまえば自分たちだけで完結してしまっている。

 自分たち以外の何かを必要としていないのだ。

 それが故に、何に反応するのか、いまいち掴めない部分がある。


『ごく普通に、自分たちが過去にいる事を伝えるのは?』

『興味は惹けるだろうな。問題は、助けに来てくれるほどの強さかどうか』

『何か、現代ではロストテクノロジーになっている技術をチラ見せしてみる』

『その断片で完成品を作られたらどうする。雫様の〝技術の大樹〟を見てるだろ。あれの根源だぞ』

『断片からすら完成させられるとか、あの連中の脳味噌はどうなってるんだ……』

「……おもっくそ頭突きしたら中身入れ替わったりしませんかね?」

『良い案ですな。今度試してみなさい。ああ、私は無関係なので』

『副長ー。保身とかカッコ悪いですぜー』

『では、貴様が代わりにやるか?』

『自分は何も聞いておりません』


 成功する未来の見えない適当な作戦に乗る訳にはいかない。

 副長を責めた隊員は、即座に転身して保身を図った。


 口々に意見を交わしているが、いまいち建設的な意見は出てこない。

 やはり運任せにして祈るしかないのだろうか、とそう諦めかけていると、一つの案が出てきた。


『嘘でも良いのですよね? ならば、三次大戦が終結しない、と銘打つのはどうでしょうか?』

「……来ますかね?」

『来ないに一票』

『右に同じく』

『基本的に、あの方々は人間社会に興味がありませんからなぁ』


 そうなのだ。

 自分たちで完結しているが故に、他の有象無象がどうなろうと気にしない。

 戦争が続くならば続くで、人間の愚かさを嗤って、そんな中で自分たちなりの楽しみを見出して動き出すだけだろう。

 少なくとも、そんな事態を収めようなどとは考えない。

 それは、彼らが持つ雷裂像から離れ過ぎている。


 しかし、提案してきた者は更に続ける。


『いえ、よく考えて戴きたい。確かに雷裂は動かないでしょうが……あの兄妹は動くかと』

『どういう事かな? 説明を』

『はっ。刹那殿と美影殿は、自分たちの関係性に幸福を感じております。美雲殿は分かりかねますが。そして、そこに至るまでの全てに感謝しているのです』

『ふむ……』

『それは、草木の根から生まれ、廃棄領域で育ったという刹那殿の過去や、迸る才気により、灰色の世界を歩んでいた美影殿の過去。それらさえも、必要な事であったのだと考えてしまう程に』

「成程。見えてきましたね」


 そうと考えるならば、分かり易い。


 彼らは自らの〝今〟を守る為に、過去の改変を許さない。

 もしも、過去が変わる可能性を示唆されれば、その可能性を叩き潰す為に全力を尽くすだろう。


 戦争が終わらない、となれば、歴史は大きく変わる。

 バタフライエフェクトだとか面倒な事を考えるまでもなく、地球の歴史は完全に分かたれてしまう。

 彼らの望む〝今〟には、絶対に辿り着けない。


 ならば、やって来るに決まっている。


『良いな。メッセージはその路線で行こう。脚本を考えておいてくれ』

『はっ。承知しました』

『さて、次はメッセージを届ける方法だが……』


 そちらは簡単だ。

 色々と考えられるが、タイムカプセル作戦で充分だろう。


「こちらに、サウザンドアイズの探査範囲があります」

『我々が行方不明となったとしてー……、各所に問い合わせてー……、そして最後に美雲さんにお鉢が回ってくる。……あー、大体30分くらいですかね?』

『設置個所は宇宙が良いかと。当日は、確か軌道ステーションに彼らはいた筈です』

『カプセルの確保しないといけませんね。まぁ、そう珍しい物でもないですし、適当な施設を襲撃すれば見つかるでしょう』

『最悪、自作すれば良いですし』

『発信ピンは五月蠅いくらいで良いでしょうな。美雲殿が見逃すとは思いませんが、そちらの方が優先順位は上がるでしょう』

『仮ですが、軌道計算できましたよー。設置候補地点、幾つかポイントしておきましたー』


 自分たちが現代から消えた時間は把握している。

 そこから、国家が対応していき、彼らの望む相手が動き出すまでの計算は簡単だ。

 彼らもその国家の、ほぼ中枢近くに位置しているのだから。

 それを判断するだけの情報は持っている。


 必要となる物資や情報をリストアップしていき、それぞれに優先順位や担当者を割り振る。

 行き当たりばったりの思い付きで始まった作戦が、具体的な形となり始めた。


『では、これよりタイムカプセル作戦を開始する!』

「副長、分かり易過ぎです」

『分かり易い方が良いだろう。どうせ表に出る事もあるまい』


 作戦、開始。


その頃の……。


「ぎゃー! 何でもう追いついてんだよ!」

「うっそ! フィルタリングしたの!? そんな事、美影さんした事ない!」

「なに!? 変わり身に分身の術!? 忍者か!?」

「ごめんなさいごめんなさい! 許してー!」

「はっはっはっ! 空までは届くまっ――!? 石投げてきやがった! 下手な砲撃よりも速かったぞ、どんな強肩だよ!」

「誰かー! 誰か助けてー!」

 そんな感じで鬼ごっこ継続中――。

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