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災害一閃

地味にこの空中戦は難産だった……。

 先手を撃ったのは、航空編隊の方だった。


 衝撃指向。


 高速度によって発生したそれを束ね、愛夏を狙い撃った。


「……ふっ!」


 しかし、それは軽やかに躱される。

 僅かな呼気を残して転回した彼女は、下方に落下して事なきを得た。


「反撃を確認。

 排除すべき敵として認定しました。

 これより撃滅します」


 レコードに己の正当性を残す呟きを吹き込んだ後、彼女は置いていかれた航空編隊へと追撃すべく、空を落ちた。

 愛夏の保有魔力属性は、主属性が風属性、そして後天的に発生した副属性として、火、水、土、雷の四属性、計基本五属性がある。


 彼女の飛翔は、この五つの全てを活用した上で成り立っていた。

 火の力と雷の速さで、風の大地を踏みしめ、それを土の重力加速で後押しする。

 溜まっていく疲労を水によって誤魔化して息継ぎをしながら。


「ッ……!」


 0―MAX―0の急加減速に、身体が軋む。

 それを魔力強化によって押し潰しながら、彼女は先を行く飛行編隊を追い始めた。


(……さて、どうしましょうかね)


 そうしながら、愛夏は内心で困っていた。


 相手が頑丈過ぎるのだ。

 最初の一撃は、前面に魔術障壁を多重展開した人間砲弾によって、彼我の相対速度込みで一撃で粉砕する事が出来た。

 その時の感触から、愛夏は相手の強度をおおよそ算出しており、自身の火力では撃破する事が中々に難しいと判断する。

 推進器付近などであれば、強度もたかが知れているのだろうが、それは向こうも承知の筈だ。

 そうそう簡単に狙わせて貰える筈もない。


「こちら、支倉愛夏です。援護の要請を」


 僅かな思考の末、単純明快な増援を仲間に要請する事にした。

 仲間内で戦果争いをしている訳でもないし、そもそも自分たちの碓氷雫直属親衛隊は、全員で一個という扱いである。

 あくまでも魔王の手足である、という形なのだ。


 故に、必要ならば躊躇う理由も無い。


『了解した。どうして欲しい?』


 すぐに、同じく外で警戒に当たっていた同僚からの応答が入る。


「ポイントC-07に誘導します。

 撃ち落としてください。

 強度情報は別途送信します」

『了解。良い戦場を』


 最低限の撃墜の準備は完了した。

 あとは、目標通りに動くだけだ。


 愛夏は、お互いの戦力差を確認する。


 速度の面では、ほぼ互角。

 加減速の鋭さでは、愛夏が上。

 旋回半径も、愛夏の方が上回っている。


 一方で、攻撃力や防御力の面では、相手側に軍配が上がる。

 ピンポイントに集中させた魔力障壁という瞬間的装甲ならばまだしも、全体的な硬さは絶望的な差だ。

 おそらく、愛夏の強度では、先程の衝撃砲弾を一発受けただけでも致命傷になりかねない。


 そして、何よりも相手は複数だ。

 先程の不意打ちで一機を墜としたが、それでも残りは四機もいる。

 連携が上手くなければ烏合の衆であろうが、敵の無能を期待するのは些か楽観が過ぎるというもの。


 厄介な相手と言わざるを得ない。


(……風雲隊長が羨ましいですね)


 準魔王級とは言うが、その能力はピンキリだ。


 美雲が良い例である。

 彼女は、専用デバイスを用いる場合において、下手な魔王よりも強力な打撃力を誇っている。

 単純に、デバイスを用いない場合は、それなりに優秀な魔術師、という程度である為に、準魔王級に収まっているのだ。


 俊哉も、今ではピンの側だ。

 度重なる修羅場と、何故かそれ以上に過酷な訓練を潜り抜けてきた事でその能力は洗練されており、直撃さえすれば魔王さえも打ち倒す攻撃力を持っている。

 他の面では些か劣る為に準魔王級であるが、充分に魔王たちを相手に勝算を持つ存在なのだ。


 そして、愛夏はキリである。

 速度という点において、彼女は美影を除いて全魔王及び準魔王の中で最速である。

 一部、速度の判定が非常に難しい者もいるが。

 しかし、現在の困窮のように、致命的なまでに打撃力に欠けている。

 最大速度での吶喊が彼女の最強の攻撃手段であるが、完全な無防備状態で当てなければ、まず通用しない。

 少しでも反応されると、まず間違いなく対処できてしまうのが魔王という連中である。


 上を見上げるとキリがない世界。

 冗長できよう筈もない。


「行きましょう」


 速度を上げる。

 一気に最大速に至った愛夏は、編隊へと肉薄した。


 しかし、近付かせたくない航空機は、加速しつつ四方に散開してしまう。

 愛夏は天頂方向へと逃げた機体を追う。


「あっ、やば」


 危機を感じ取り、急回転して軌道を変える。

 その直後、今までの場に衝撃波が駆け抜ける。


「背後にも放てるのですね」


 どうやらほぼ全方位に放てるようである。

 しかも、ほとんど前兆らしきものが無い為、勘で避けるしかないという仕様だ。

 何とも面倒な兵器である。


 四方八方を囲まれて滅多打ちにされると非常に不味い。

 なので、こちらの手札を切る。


「ふっ!」


 飛翔翼をはためかせ、その羽から色とりどりの光線を無数にばらまく。

 ごく基本的な各属性の攻撃魔法である。

 飛翔に大きく力を割いている現状でのばら撒きだ。

 その威力はお察し程度のもの。

 当然、直撃した所で、航空機が持つシールドに遮られ、装甲にすら届かないだろう。


 しかし、航空機たちは、警戒して大きく回避する。


 未知。

 これが武器だ。


 この時代において、魔術は未知のエネルギーによって成り立つ、未知の技術体系である。

 畢竟、解析しようとしてもそもそも観測方法が間違っている為に、全くその中身を見通せない。

 故に、たとえそれがどんな小規模なものであろうとも、彼らは回避せざるを得ない。

 そこにどんな特性が秘められているのか、まるで分からないのだから。


 乱れた連携の隙を突いて、彼女は前方の一機へと距離を詰める。


「どっ、こいっ、しょっ!」


 そして、パントマイムのように何かを掴む仕草をすると、そのまま旋回する。


 颶風。


 まさにそうとしか呼べない強烈な風が吹き荒れた。


 風属性魔術《嵐龍結界》。


 天地を繋ぐ巨大な竜巻が顕現する。

 空を行く者にとって、風というものは、時として頼もしき味方であり、時として大いなる敵である。

 それを自在に操る事の出来る優れた風属性魔術師ーー愛夏は、この戦闘においてかなりのアドバンテージを持つ。


 既存の物理法則を無視した気流に拐われ、航空機群は大きく失速し、その体勢を崩した。

 それで墜ちてくれれば手間がかからないのだが、そこまでは甘くないらしい。

 すぐに対応し、立て直そうとしている動きが見られた。


 させはしない。


 愛夏は、直近の機体へと近付くと、張り巡らされたシールドごと、思いっきりそれを蹴り飛ばす。


 錐揉みしながら吹き飛ぶ機体。

 彼我の重量差を考えれば、常識が崩れ去るような結果である。

 更に駄目押しとばかりに突風を吹かせて、もう一押しすると、それで仕事は終わりとばかりに愛夏は羽撃いて離脱する。


 直後、押し込まれた機体が、地上から撃ち上げられた謎の一閃に貫かれて爆散した。


 要請通りに、地上の仲間が撃ち抜いたのだ。


 視界の端で瞬く閃光を感じながら次なる獲物を狙おうとする愛夏。


 しかし、利害は一致せず。


 残る航空機三機は、崩されていた体勢を取り戻すと、即座に機首を翻して離脱する方向へと舵を切った。


 逃走である。

 まだ向こうにも充分な勝算はあるだろうに、地上にも未知の敵がいると見て即座に情報と戦力を確実に持ち帰る方向に切り替えたのだ。


「潔し! 腹が立ちますね!」


 素直に称賛しつつ、その後を追う。


 こちらの戦力は限られている。

 頼りになる強力な仲間たちだが、限界というものだってあるのだ。

 物量という絶対的な力で攻め立てられれば、いつかは喰い尽くされるだろう。


 だから、削れる戦力は削り取り、秘密に出来る情報は秘しておくべきである。


 だが、お互いの最高速はほぼ互角。

 加えて、本職ではないが故に、疲労軽減の水属性は未熟である。

 飛来した方向と撤退する方向を見るに、向こうは海を越えてきたと思われる。

 飛距離では相手側に分があると見た方が良いだろう。

 仲間たちの射程も考慮して、撃墜できてあと一機が限界だと悔しげに歯噛みする。


 そこに脳裏に響く通信が入った。


『躱せ』


 端的なそれに、愛夏は躊躇しない。全力で身を翻して、空域から最速で離脱する。


 極大の閃熱が迸った。


 魔力超能力混合術式《アマテラス・サタンエディション》。


 単なるアマテラスではない。

 雫の魔王魔力を供給された上での代物だ。


 それは、周辺空域を丸ごと飲み込み、あまねく全てを破壊する。

 してしまう。


 超速の航空機群も例外ではない。

 閃熱に追い付かれた彼らは、飲み込まれると同時にシールドを喰い破られ、装甲から中身に至るまでを一瞬の内に蒸発させてしまう。

 そこに抵抗の余地はない。


 絶対的な災害。

 それが魔王の本質なのだから。


 愛夏は、身震いせずにはいられない。

 これこそが本物の魔王だと思い知らされる。

 そして、更にその頂点付近にいる怪物にも。


(……美影さん、これを弾くんですものね)


 訓練中に隙を見せたので、日頃の恨みを込めて俊哉が撃ち放った時の事である。

 てっきりヒョイと躱して反撃に来ると思っていたのだが、現実はその予想を裏切る。

 まさか、身体強化した蹴りだけで弾いてしまうなど、思ってもみなかった。


 流石の俊哉も信じられないと叫びながら逃走し、その背中を美影が襲撃してタコ殴りにされたものだ。

 ここはいつも通りの光景だったが。


「危ないですね! 巻き込まれる所ですよ!」


 沸き上がる怖気を振り払いながら文句を付けると、陽気な声が返ってくる。


『いやー、すまんすまん。

 お前なら逃げ切れると思ってなー。逃げ切れたろ?』

「……まぁ、逃げましたけども」


 肌に余熱が届いていたが、身体強化の範囲内で耐えられる程度だ。

 それくらいの余裕を持って躱せるタイミングで警告から砲撃までの猶予を置いてあった。


 しっかりと底を見切られているようで腹が立つ。

 いつか度肝を抜いてやる、と上昇志向に火を灯していると、続けて声が届く。


『よぉーっし! じゃー、降りてこいよー!

 これから、旧文明観光巡り作戦を開始するからよー!』

「…………良いんですか、その作戦名で」

『良いんだよ、どうせ暇潰しなんだから』


 適当さ加減に、天を仰ぎたい気持ちになった愛夏であった。

使う機会も無ければ、活用する気も無い、どーでもいい設定。


雫親衛隊の所属と階級は微妙な立ち位置です。

《六天魔軍》は基本的に帝直属で、瑞穂軍とは別系統なのですが、一般戦闘魔術師は瑞穂軍の管轄となっています。

なので、一時出向という形を取っていますが、軍籍が消えた訳でもなく、帝や雫の他に瑞穂軍の方も命令権を持ったままという命令系統がグチャグチャな感じに。これだからお役所仕事というものは。

ちなみに、階級は出向した時点で固定です。

だって、親衛隊として挙げた功績は、あくまでも雫という魔王の手足として、という扱いですから。本人たちの功績にはなっていません。書類上は、ですけども。

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