暇さ故に
随分と間が空いてしまって申し訳ありません。
前回から今日まで、休みが無かったのです。orz
告げられた言葉を咀嚼する数瞬の空白。
俊哉は、それを最初に破った。
「……まぁ、あれだ。取り敢えず、前向きに検討はしてみるか」
『おや。おやおや、意外な言葉ね。ええ、意外よ』
ステラは、素直な感想を言う。
彼らと彼女は、今も敵対関係である。
積極的に潰し合う理由が消えただけで、決して和解した訳ではない。
現状は、休戦状態と言えるだろう。
故に、少しばかりの恩を差し出した程度では動かない、と思っていたのだ。
だが、俊哉は頭から否定はしなかった。不思議な事に。
「不思議そうだな、です」
『いえ……。ええ、そうね。そうなの。とても不可思議よ。
どういう思考なのかしら?』
何らかの裏があるのでは、と勘繰ってしまう。
その疑問には、雫が答えた。
「だって暇だからな、です」
『…………』
「…………」
『…………え? それだけ? そんな理由なの?』
端的に過ぎる、あまりにもあんまりな言葉に、ステラは驚愕を禁じ得ない。
色々な意味で察しの良すぎる雷裂との付き合いが長いせいだろう。
言葉が足りなかった事に気付いた雫は、続いて語り始めた。
「ウチらの目的は、無事に未来へと帰り付く事だぞ、です。
この時代の戦争にも、お前の事情にも本質的には興味がねぇんだぞ、です」
『そうね。その筈よ』
「そしてその目的はもう九割がた達成されてんだ、です」
未来に帰るだけならば、実は簡単な事である。
適当にコールドスリープしても良いし、暇潰しに宇宙を遠回りに観光していても良い。
宇宙から見れば、二百年など誤差レベルである。程好い重力圏に捕まって時間の流れを調整していれば、辻褄を合わせる事は難しくはない。
まぁ、後者はぶっつけ本番となる為に最終手段となるのだが、前者であれば必要なのは安全に自分達を安置しておける拠点や物資である。
そして、それは現時点で基地を占拠した事でほぼ達成している。
再奪取の為の戦力や、敵勢力から武力侵攻も有り得るが、それはその都度に排除すれば良い事である。
よって、もう積極的に何かをする必要性が雫らにはないのだ。
彼女たちは、放っておけば戦争が終わる事を知っているのだから。
「でも、そうなると暇じゃねぇか、です」
『そういう問題? そんな問題なの?』
「やる事があるってのは大切な事だぞ、です」
大人しくしていられない性質は、間違いなく近くにいる連中からの伝染だ。
もう手遅れなまでに進行している彼女たちとしては、野次馬根性であちこちに首を突っ込む事に躊躇いなど微塵も存在しない。
名目があるのならば、猶更である。
なので、ステラの依頼という言い訳があるのだから、ひとまず前向きに考える事くらいはする。
してしまう。あっさりと。
「一番初めに考えるべきは、そもそもしても良いのか、って話だよな」
俊哉の言葉に、皆が頷く。
単純に、時代として二百年が経過すれば良い、という話ではない。
〝彼らの知る二百年後〟に戻る事が大前提である。
「そもそもとして、なんだが、〝今〟は俺たちのいた世界だと思うか?」
「あー、隊長殿。それは、並行世界とかそういうお話ですかな?」
「そうそう。このまま何もせずに流れに身を任せていれば、俺たちの未来に辿り着くと思うか?」
「分かりません」
即答で全く頼りにならない答えが返ってきた。
それに対して、ジットリとした責める様な視線をくれるが、すぐに嘆息と共に逸らした。
「だよなぁー。分かんねぇよなぁー」
彼らは、兵士であって、学者ではない。
明確な違いがあるのならばまだしも、一見すると何の違いも見受けられない状況では、何を以て違うとすれば良いのかも判断が付けられない。
というか、そもそもとしてこの時代における記録自体が曖昧である為、たとえ高名な学者先生であろうともはっきりと断定する事は出来ない。
となれば、彼らの選択肢は自ずと決まる。
「分からんものは分からん! ので、好きにするべし!」
「ははは、雷裂の思考回路が移っていますぞ、隊長殿」
「……嫌な事言うなよ。本気で凹むぜ、それ」
行動しない方が良いのか。行動した方が良いのか。
どちらの選択肢が正しいのか、その判断が付かない以上、魂の赴くままに好き勝手にやる以外にない。
その結果が望まざる物であったとしても、己らは自らの魂に殉じたのである。
本望と笑う事だって出来るだろう。
猶、周囲の人間が被る迷惑は考慮しないものとする。
「じゃあ、やるとするか。暇だし」
「それがよろしいでしょう。暇ですし」
軽く、本当に軽く次なる方針が決定される。
膝を叩いて笑った俊哉は、グリッと首を回して笑顔のままステラを振り返った。
常人とは思えない角度に、思わずステラはビクリと震える。
「という訳で、ステラちゃんよぉ! 何をどうすれば良いのか、立案頼むわー!」
『軽い! 軽過ぎよ! 私が計画立てても良いの?』
敵である自分を信用するのか、という問いに、俊哉は親指を立てて言い返す。
「不可能を可能にするのが魔王とその下僕の仕事だぜ!?」
続けて、
「まぁ、無理なものは無理だから無理な作戦は、当たり前に却下させて貰うけどな?」
情けない事も言う。この辺りが、本物の魔王との差であろう。
『それは仕方がないわ? 当たり前よ? じゃあ、任せて貰うわ』
「うむ。頼んだぞ。とっても大変な作戦を立ててやれよな、です」
「雫ちゃーん!? もうちょっと、手加減お願いしますよー!?」
「ウチの男なら余裕見せやがれ、です」
「難しい事を仰る……」
そんな漫才をしていると、外で警戒をしていた者たちから通信が入った。
『ご歓談中、申し訳ありません。ただいま、よろしいでしょうか?』
「おー、良いぞー。なんだ、報復部隊でも来たかー?」
口調こそふざけた物だが、俊哉は瞬時に纏う雰囲気を戦士のそれへと変えていた。
『はい。いいえ。おそらく報復部隊、という訳ではないかと』
「どういう事よ?」
『若干、蛇行しつつこちらへと近付いている気配があります。
真っ直ぐに向かってこない所を見るに、この組織の敵対勢力ではないかと』
「場所がはっきり分かっていないか。目標地点が複数あるか」
『おそらくは。私たちで対処しますか?』
「んー、出来そう?」
『支障なく』
「じゃー、お願いするわ」
にわかに騒がしくなり始めた。
正午にもう一話、更新します。
本編ではなく年末特別版ですけども。