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押し入り強盗

ちょっとね。

いい加減、本編も進めろという幻聴が聞こえてきたのでね。

「ま、まぁ、ほら。あれよ、あれあれ」


 なんとなく気まずい雰囲気になった空気を払うように、俊哉は空々しい笑いを交えて言う。


「この時代だと、核は出会い頭のジャブみたいなもんなんだろ?」

「人はそれを通り魔と言う、です」

「シャラップ、雫ちゃん。茶化さんで頂戴よ。

 だから、ほら、大丈夫だって。きっと向こうさんも対策して生き残ってるって、きっときっと」


 言いながら、彼は雫の持つ端末へと言葉を向ける。


「生きてるんだろ? なぁ。向こうさん」

『さぁ?』

「さぁって!」


 突き放す様な言葉に、俊哉は衝撃を受けた。


「さぁって何よ、さぁって!」

『分からないものは分からないのよ。それも分からないの?』

「ムカつく」

『補足するなら、補足すると、取り敢えず今も通信は繋がったままだわ。

 だから、施設は生きているんじゃないかしら?』


 一応、確保したサンプルとの通信状態は良好である。

 双方向から情報のやり取りは発生しており、そのやり取りの中に矛盾は感じられない。


 ちなみに、現在はダミー情報を流しているので、他に観測する手段を持っていなければ、相手方の認識では今も戦っている様に見えている筈だ。


「…………向こうさん、どれくらいの勢力か、分かる?」


 流れと勢いで襲撃するという決定は下したものの、本気で命を懸けるほどの場面ではまだない。

 相手の大きさによっては、襲撃を諦める事も必要だ。


 最終判断を下すのは雫の役目だが、真っ先に戦う者の役目である俊哉としては、確認せずにはいられない。


『私のデータにあるわ。残っているのよ?

 この位置なら、小規模な旧前線基地ね。

 もう最前線から外れて、装備更新もされていない筈よ。

 そうよね?』

「……規模は小さめ、か。

 どうするー、雫ー。行ってみっかー?」


 訊ねれば、答えは悩む素振りもなく返ってくる。


「行ってみりゃ良いじゃねぇか、です。

 駄目そうなら諦めれば良いんだぞ、です」

「行き当たりばったりだなー」


 とはいえ、らしいと言えばらしい、と俊哉は軽く考える。


 彼らは、魔王とその忠実なる配下なのだ。

 彼らを必要とする戦場は、何があるのか分からないのが基本である。

 時間軸が異なろうと、ここが何処だろうと、先槍となって駆け抜ける以外に選択肢はない。


「んじゃ、かるーい気持ちで行ってみましょっかー」

「「「うぇ~い」」」


 鬼が出ようが蛇が出ようが、絶対に普段から訓練(じゃれ合い)をしている相手の方が可愛いに決まっている。

 そんな根拠なき確信に突き動かされた彼らは、いまいち覇気の載っていない返事をするのであった。


~~~~~~~~~~


 大東和神聖帝国、旧、第11前線基地。

 その名の通りに、かつては最前線を担う軍事基地の一つであったが、今では戦線の移動と共に大きく戦場から外れており、ほとんど閑古鳥が鳴いている状況であった。


 そんな場所に、現在、緊急警報が鳴り響いていた。


「地上部は完全に機能を喪失! 亀裂からの放射能汚染が重篤です!」

「不明勢力との交戦は、現在も継続中! 信号は途切れていません!」

「ぬぅ……」


 もたらされる報告に、基地司令官は唸り声を上げた。

 凄惨なる第三次大戦。何処もかしこも人が足りておらず、猫の手だって借りたい現在において、この様な辺境にいる時点で、その能力は察せられる。

 その予想通りに、司令官は不明戦力の発見から、ほとんどまともな判断を下せずにいた。


 ひとまず、部下からの進言を受けて偵察用の機械兵器を送り込んだが、交戦状態に入った直後に落ちてきた核兵器によって、基地は完全に混乱状態に陥っていた。


 爆発によって、地上部分は完全に喪失。

 地上は、深刻な毒素に汚染されている為、現在ではほとんど使用されておらず、飾りか囮の様な状態だ。

 故に、それ自体は問題ではないのだが、爆発の影響が地下の本体にまで及んでいる事が大問題であった。


 大戦が始まった初期に建造された施設だけあり、まだまだ本気で核が使われるという事を想定した造りをしていなかったのだ。

 その所為で、衝撃により隔壁に亀裂が入ってしまい、そこから地上の毒素が侵入してくる事態に陥っていた。


 それだけでも非常事態だが、更には不明勢力の動向もある。

 差し向けた偵察機は、非常に廉価な量産品であり、他勢力では相手にするだけ無駄という認識が一般的な代物だ。

 なので、普通は姿を見かけたらすぐに撤収する事が現在の定石だというのに、何故か彼らは留まって交戦を続けているという。


 目的が不明である。

 最悪、この基地が狙いだとも考えられる。


 そうでなくとも、先に観測された天への熱線砲のエネルギーレベルを見れば、危険度は果てしなく高まるというのに、である。


「どうすればいい……。私は、どうすれば……」


 積み重なる問題に対して、司令官の処理能力はもう限界を超えていた。

 見かねた部下が、更に進言をしようとするが、その前に基地全体のスピーカーから大きなノイズが走った。


『あー、テステス。聞こえてっか? です』


 流れたのは、聞き覚えの無い少女の声。


「システムがハッキングされてます! 信じられない。何この速度……」

「駄目です! 機能、取り戻せません!」

「電源を落とせ! スイッチ入ってなければ同じだろ!」

「いけません! 現在は、毒素排出の為にフル稼働なんですよ!?

 電源を落としたらすぐに基地全体が汚染されます!」


 新たに発生した事態に、口々に怒号が飛び交う中で、少女の声はそれを気にした様子もなく、淡々と続ける。


『これからオメーらを叩き潰すぞ、です。

 宣戦布告だな、です。

 特に恨みも無いけど、まぁ巡り合わせが悪かったと諦めやがれ、です。

 通信、終わり』


 そんな一方的な宣言をして、音声が途切れる。

 直後、基地を激震が襲った。


~~~~~~~~~~


「よっ、こい、しょっ……!」


 雫が宣言を終了した事を確認した後、俊哉は大きく足を掲げて、そのまま地面に叩き落とした。

 相撲の四股踏みを思わせる動作だが、それによって発生した影響は、人智を超えている。


 地震。


 核爆発によって焼け焦げた大地が、ただ一人の人間の足踏みによって、大きく揺れ動き、砕け爆ぜ、無残に引き裂かれたのだ。


 全力の魔力及び超能力による身体強化の力である。

 魔力はともかくとして、俊哉の超能力の方は、度重なる修羅場を乗り越えてきた事で、既に世界に名だたる魔王たちの出力に負けないほどにまで成長している。

 精神的に色々なものを犠牲にしてしまったような気もするが、いまいち深刻になれないのは周囲の人外どもの影響だろう。


 おかげで、その力は実力に見合った物となっており、この様な小規模な地震を起こす事さえも可能となっていた。


 地割れの隙間から、人工物の姿が見える。


「おっ、御開帳だぜ。じゃ、ちょっくら制圧してくるわ」

「ん。気ぃ付けて行け、です」

「おう」


 地割れに飛び込む俊哉を追って、更に親衛隊の面々も続いていく。

 地上には、雫と僅かな護衛のみが取り残された。


「にしても、オメー、凄ぇんだな、です」

『何が? 何の事かしら?』


 雫が端末に向かって語り掛けると、ステラが応える。


「ハッキングの事だぞ、です。瞬殺だったじゃねぇか、です」

『ああ、その事……』


 基地のシステムに侵入し、気付く間もなくセキュリティを突破して乗っ取ったのは、ステラの功績であった。

 彼女の入った端末を見つけた入力端子に言われるがままに近付けると、数秒と経たずにセキュリティを黙らせて中身をこじ開けたのである。


『大した事じゃないわ。本当よ?

 だって、大東和神聖帝国の正規コードがこの端末に入っていたもの』

「マジで? です」

『マジよ、マジ。大マジだわ。

 二百年も経っていると流石ね。

 当時のほとんどのコードが当たり前みたいに揃ってたわ』


 例の、データ容量埋めの為の無駄な肥やし群の一つである。

 既に旧式どころではない、デジタル世界においては化石に近いレベルの情報など、何処の国だって現役で採用などしていない。

 たとえ、かつてからの復興がいまだ遅れがちな国家であっても、である。


 その為、機密などになっている訳もなく、ひたすら放り込んだ見栄え情報の中に混じっていたのだ。


「はぁー……。そんなもん、入ってたんだな、これ。です」

『……少しは、少しだけでも確認したらどうなの?』


 全く知らなかった様子の雫に、ステラはじっとりとした視線を向ける。

 それに対して、彼女は悪びれもせずに言い返した。


「オメー、これにどんだけのデータが詰め込まれてんのか、分かって言ってんのか? です。

 確認するだけで寿命を迎えんぞ、です」

『そうね。そうだったわね。

 無能な人間如きの脳味噌じゃ、それが限界よね』

「オメー、ぶっ壊してやろうか、です」

『出来るものならやってみなさいな。

 既に、とっくに、私の基幹システムはコピー済みよ。

 もう、貴女たちに私は壊せない』


 大東和神聖帝国の回線から、とうに世界中のコンピュータに感染済みである。

 たとえ、現在の入れ物であるこの端末を壊されようとも、世界の何処かで再結合を果たして復活するようになっている。


「オメー、やる事に躊躇がねぇな、です」

『褒めたと、誉め言葉として受け取っておくわ』

「そうだな。褒めたんだぞ、です。喜びやがれ、です」


 素直に認める。

 魔王たちの間では、逡巡や躊躇という物は、未熟の証という謎の価値観が蔓延しているのだ。


 出来ると思ったからやってみた。

 そして、本当に出来た。


 これは、彼らの間では、褒められるべき事柄なのである。

 尤も、線引きは必要だし、やり過ぎればお叱りの言葉が降ってくるのだが。

 その線引きさえもあっさりと突破しているのは、雷裂の兄妹と、己こそが線引きであるというロシアの竜魔王くらいだろう。


『おぉーい。掃除、終わったぞー』


 そうこうしている内に、俊哉からの連絡が入った。

 どうやら基地の制圧が終了したらしい。

 声の様子からして、深刻な損害は発生していないと思われる。


「じゃ、ウチらもぼちぼちと行くぞ、です」

「はっ。了解であります」


 立ち上がった雫は、護衛を引き連れて地割れの底へと降りていった。


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