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不死なる怪物~中編・その3~(閑話)

なんだか、久し振りに定期時間での更新。

「あた! あ~たたた……」

「っ!」


 程なくして、小太りな中年男性とガタイの良い青年の二人も、同じようにねんどろトワに連行されてきた。

 放り出された彼らは、戸惑いながら周囲を見回して、澤の畔で佇む魔女と僅かに距離を空けた場所にて寄り添う令嬢を見つける。


「なな、何やねん、自分ら! わいを狙っとるんか!」

「…………」


 中年は尻餅を着いた姿勢のまま後退り、青年は覚悟を決めた様な表情で拳を構えている。

 そんな彼らに、永久は手をパンパンと叩いてみせた。


「はいはい、警戒しないでくださいねー。

 敵ではありませんから、大丈夫ですよー」

「し、信じられるかい、そんな事!」

「……ああ。ここでは、皆が敵なのだろう?」

「…………困りましたね」


 警戒心をむき出しにする彼らに、永久は、心から困ったという様子で、指先で髪先を弄っている。


「っ!」


 その無警戒な様子を見て、隙と捉えた青年が、一息に踏み込んだ。

 狙いは、永久の顔の中心。硬く握りしめた拳が、真っ直ぐに撃ち抜く。


「良い動きです。普通の人間なら、一発で殺せますね」

「なにっ!?」


 ネチャリ、という予想外の手応えが返ってきた。

 見れば、手首までが彼女の頭部に埋まっている。

 まるで、柔らかなゼリーの中に手を突き込んだように。


「流石は、総合格闘技界の王者、という所でしょうか」

「! 知っているのか?」


 拳を引けば、問題なく抜けた。

 手指を開閉してみるが、ひとまずは何の問題も無いように感じられる。


 一方で、永久の方はと言えば、穴の開いた頭部が、見る見るうちに修復されて、元通りの綺麗な顔へと修復されていた。


 得体が知れない。


 そう思った青年は、距離を取りながら言葉を交わす。


「ええ、ええ。勿論ですとも。

 ゲームの参加者名簿には、ちゃんと目を通しましたから」


 永久は、平手を向けて青年を指し示し、


「武藤伊織様。

 総合格闘技において、三階級を制覇した絶対王者。

 三年前よりベルトを守り続けている、無魔力下においては最強クラスの戦力ですね。

 素晴らしい事です」


 続けて、後ろの方でそろりそろりと距離を取っている中年を示す。


「三枝亮介様。

 三枝不動産の社長様です。

 グレーゾーンなやり口ではありますが、最近の復興需要にかこつけて随分と荒稼ぎをしておられるようで、大変に結構です」


 そして、最後に傍らの令嬢を示した。


「朝比奈奏様。

 朝比奈貿易会社、社長令嬢。新進気鋭の新興企業ですね。

 お父様の辣腕により、一気に業界トップクラスにまで急成長したようで。

 まぁ、おかげでちょっとばかり厄介な者たちに目を付けられているようですが」


 それぞれが、表舞台で名を上げた者、上げつつある者たちであり、それ故に狙われる理由がある。

 格闘家である武藤伊織は、ゲームを盛り上げる役として、主催者が用意した本命を狩る可能性のある大穴枠として参加させられた。

 阿漕な商売をしていた三枝亮介は、そのやり口故に方々に恨みを買っていた。法律的にはグレーゾーンなのだが、その所為で連れてこられていた。

 社長令嬢の朝比奈奏は、新興企業のトップの娘である。新興ゆえに、既存企業の縄張りを荒らさずにはおられず、その結果、ゲームの主催者側の尻尾を踏んでしまっていた。その為の見せしめの意味を込めて、娘の彼女が囚われていた。


 にこり、と微笑みながらの解説に、青年――伊織は眉を顰めた。


「……つまり、お前は主催者の側の人間という事か」

「んー……」


 確認に、永久は間を空けて答える。


「プレイヤー側か主催者側か、と問われれば、まぁ主催者サイドに近いですかね」

「あ、あんたらは、何がしたいんや! こんな、こんなイカレタ事しよって!」


 彼女の答えに、一瞬にして頭に血が上ったのだろう。

 逃げ腰だった中年――亮介が、永久に向かって吠え立てた。


「何って、趣味? でしょうか」

「しゅ、趣味て……。そんな理由で……。

 ひ、人の命をなんやと思うとるんや!」

「そんな事を私に言われましても」


 亮介の叫びに対して、熱の無い永久の返答。

 その温度差に、彼の怒りは更に盛り上がるが、それが爆発する前に割って入る声があった。


「お、お待ちください!」


 永久の側にいた令嬢である。

 彼女は永久の前に出ると、声を張り上げる。


「この方は敵ではありません!」

「なんや、お嬢ちゃん。こないな人間のクズを庇うんか」

「ク、クズではありません! こちらの方は、私たちを助けに来てくれたのです!」


 僅かばかり早くに確保されていた令嬢――奏は、永久の素性やその目的を一足先に聞いていた。

 だからこそ、彼女は仲間割れを防がんと身体を張る。


「なんやと……?」


 ピクリ、と反応を示す。

 そこで、黙って見ていた伊織が誰何した。


「……お前。お前は、誰だ?」

「ああ、そういえばまだ名乗っておりませんでしたね。これは失敬」


 立ち上がった永久が、わざとらしく大仰な仕草でお辞儀をして、自らの名を名乗った。


「私、炎城永久と申します」

「なっ……!?」

「ウソやろ!?」


 予想外に過ぎる名前……特に姓の部分に、二人はあんぐりと口を開いて驚いていた。


 瑞穂における武力の頂点、《六天魔軍》と並ぶ《八魔家》の一角である。

 その名は、一般的な世界に生きる者たちからすれば、ある種、伝説的な存在であり、雲の上の存在だ。


「何で八魔がここにおるんや!? まさか、こいつに関わっとるんか!?」

「ええ、まぁ。ぶっ潰す方向にですけども」

「どういう事だ?」


 疑問が次々と浮かぶのだろう。

 それぞれに問いを投げかけてくる。


 それを手で制しながら、永久は言う。


「まぁまぁ。落ち着いて下さいな。

 一から十まで説明して差し上げますから」


 特に隠すような事でもない。

 言葉だけで協力的になってくれるのであれば、それに越した事は無い。

 恩を売るという副の目的もある。

 出来れば手荒な事はしたくない。


 なので、ひとまずこれまでの経緯を説明する。


 かくかくしかじか。まるまるうまうま。

 なんたらかんたら、てけり・り。


 全てを語り終えると、痛い程の沈黙がその場に満たされていた。

 平静を保っているのは、永久と、先に話を聞いていた奏の二人だけである。


「そ、それ、ホンマなんか?

 ハハッ、そんな、そんな遊び半分でこんなイカレタ事を……」

「…………」


 嘘だと信じたい亮介は、乾いた笑いを振り絞りながら言う。

 だが、すぐに気を取り直す。

 希望を見つけたように。


「い、いや、そうや。

 炎城はんが助けてくれるんやろ? 助けられるんやろな!?」

「そうですね。まぁ、余裕です」

「証拠を……見せて貰いたい」


 考え込んでいた伊織が、言葉を紡ぐ。


「証拠を?」

「この……」


 彼は、首輪に指をかけて引っ張って示す。


「この首輪には、魔力を阻害する機能がある」

「はい。まさに」


 他二人も頷く。


 彼らも、一応は魔術大国の民なのだ。

 最低限程度の心得は、必修教科として幼い頃から仕込まれている。

 尤も、それはいざという時に逃げる為のものであり、戦闘に耐えうる程の技量ではないだ。


 ともあれ、こんな状況では少しでも生存率を上げる為に、事前に無理だと解説されていてもなんとか使えないかと試していた。

 しかし、結果は酷い物だった。

 首輪に締め付けられるような感覚と共に邪魔をされ、とてもではないが使えなかった。


「おそらくは、犯罪者向けの阻害機能だろうが、君が本当に八魔ならば……。

 この阻害を突破して魔術が使える筈だ」

「そ、そんなこと、出来るんか?

 犯罪者向けやろ? 普通に阻害されるんと……」

「いや、出来る。出来る筈だ。

 俺が聞いた限りの話だがな」

「ふふっ」


 永久は微笑む。


「よくご存知ですね。

 それも、格闘技に必要な知識ですか?」

「……色々とエンターテインメントにはあるのだ。

 魔力強化をした戦士に立ち向かえ、とかな」

「それはまぁ、なんとも無謀な」


 ナチュラルにそんな事が出来るのは、本当に人間なのか怪しい雷裂の連中くらいなものだ。

 いや、魔力強化の練度次第な部分もあるのだが。


 戦闘系魔術師の脅威をよくよく理解している永久としては、その企画の阿呆さ加減に呆れずにはいられなかった。


「それで、どうなんだ?

 それが出来るのならば、俺は少なくともお前が八魔の者だと信じよう」

「連鎖的に他も信じていただけると?」

「……頭から否定はしないでやる」

「承知しました。では、早速に」


 それだけで良いのならば、全く構わない。

 魔術は使わない、というルールではあるが、戦闘には使わないのだから良いだろう、と自己弁護をした永久は、軽く魔力を練り上げて見せる。


 そして、手を広げれば、


「……っ!」「ごっついなぁ」「わぁ!」


 立ち上る大きな炎。

 それが、ただの魔術の炎ではないという事は、一目瞭然であった。


 明らかに大魔力が込められている。

 自分たち、魔術師を目指そうとは間違っても思わない程度の保有量しか持たない自分たちでは、何十人集まっても太刀打ちできない程の大魔力の発動に、彼らは茫然とした。


「まさか、Sランクという奴か?」

「非公式ですが。ええ、確かに私は〝魔王〟の一人です」


 二つ名が付いている訳ではないし、発生の過程が過程なので、今の今に至るまで未だ正式な認定をされている訳ではないが、実力の上では確かに名だたる魔王たちにも匹敵する。


 Sランクではなく、更にその上の魔王という名乗り。

 その意味が分からない筈がない。

 魔王保有国の民として、常識と言っても良い知識だ。


 知られざる七人目の名乗り上げに、彼らの目には、本当の意味で希望の光が戻ってきた。


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