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報復タイムアタック

最近、不定期でごめんなさい。

申し訳ないと思っているのです。

本当です。

「これ、いらねぇからどっかに投げ飛ばしとけ、です」

「お?」


 戦利品となった機械兵器を解体していた雫が、不要になった部品を転がしてくる。


 超小型の融合炉であった。


 核技術が禁忌となった現代では、もはやロストテクノロジーである。

 これ程に小さく出来るものなのだなと感心していると、雫が続けて告げた。


「あと3分で爆発するから何とかしとけよ、です」

「う、うおおおおおぉぉぉぉおおおおおお……!!?」


 本体の制御システムから切り離した核融合炉は、完全なる暴走状態へと陥っていた。

 普通は緊急停止システムが組み込まれているものだが、使用されていた品は自爆させる事が前提の廉価品である。

 そんな上等なものがある筈もなかった。


 このままでは結局は目の前で爆発されてしまうので、俊哉は一抱えもあるそれを全力で遠くの空へと投げ飛ばすのだった。


 丁度、3分後。


 遥か遠くで閃光が奔り、立派なキノコ雲が立ち上る様が見えた。

 やや遅れて、爆音が響き渡り、大地を伝って振動が、大気を伝って突風が届く。


「あ、危ね――――……」


 俊哉は、一瞬で額に浮かんだ冷や汗を拭う。


 目の前で爆発されても、自分や他の面々は大した問題とはしないのだが、一番の重要人物である雫はそうではない。

 自分が背負って守っている状態ではない時に爆発でもされようものならば、命を落とす結果となりかねなかった。


 それ故に、一気に息が荒くなるほどに焦らされてしまった。


「あのー、雫ちゃん?

 もーちょっと、色々と気にしてくれると護衛的には助かるんですけどー?」


 一応、文句は告げるのだが、当の本人は何処吹く風と目も向けずに言葉を返す。


「別に、あれくらいのエネルギーなら転移できるから守る必要もねぇぞ? です」

「んー、こう言っちゃ何だけど、俺、雫のそれがどの程度の性能なのか、いまいち分かんねぇんだよね」


 空間系超能力を活用したエネルギー転移式防御。

 魔力にさえ適用可能な、矢鱈と強力な能力ではあるが、決して無敵の防壁という訳ではない。

 瞬間的に転移できるエネルギーの量には限界があるし、常時、張り巡らせている訳ではないので雫の認識外からの攻撃には無力なのである。


 加えて、元々の空間系超能力が限定的であるが故か、大変に不安定であり、彼女の精神状態にその性能が大きく左右される。

 しかも、それを把握できる者が本人の感覚だけなので、外部からは何処まで無効化できるのか、把握する手段が無いときていた。


 なので、それは最後の気休め程度の保険であり、護衛の目からすれば、あまり当てにしたくない代物と言えるのである。


「そういうもんか、です」

「そういうもんなんです。まぁ、それは良いとして……」


 俊哉は話を切り替えて、遠くの空に立ち上るキノコ雲を見やる。

 既に光が消えて闇に近い光量となっている為、うっすらとしか分からないが、しかしそこにある事は確かに分かる。

 彼は吐息した。


「……まーた一歩、地球の汚染が進んだな」


 まさかこの様な形で、廃棄領域形成の後押しをする事になるとは、夢にも思わなかった。

 地味にショックな事である。


「気にすんな、です。

 どうせすぐに、ノエの化け猫が来やがる、です」

「……んー、まぁー、そうなんだけどなー」


 彼らは、未来を知っている。


 この戦争がどのようにして終わるのか。

 そして、その後の人類生存圏がどのようにして形成されるのか。

 その答えを既に持っている。


 だから、多少の事をしても問題は起きないと、どうにでもなると、分かってはいた。


 とはいえ、それは理屈である。

 心情として、完全に割り切れるものでもない。


 そんな気持ちで肩を落としている内に、雫の作業が終わる。


「うっし、出来たぞ、です」

「早いね」


 会話をしている間にも、作業が終わったらしい。

 雫は、特に自慢するでもなく言う。


「繋ぎ直すだけだったからな、です。

 それに、こいつ、自爆する前提だからなのか、ダミー回路とか全然ねぇんだもん、です」

「そうなんか」

「セツとか、サラとか、あの辺りが造るのなんて、ダミー多すぎてやってられないかんな? です。

 ナチュラルに万単位で罠が仕掛けられてるし」

「いや、あの辺りはもう普通の範疇に含めてないし」


 ダミーがあるだけならばまだしも、下手に間違って繋ぎ直すと、連鎖的に他の部分が破壊されていくという組み方をしている為、彼らの作品の攻略難易度は、基本的に高い。

 それで練習している雫にとっては、ろくにセキュリティを取られていないこれを無事に組み換える事など、造作もない事であった。


「そんで、どうだ? です。

 ちゃんと逆探知できんだろうな、です」

『慌てないの。慌ててはいけないわ? 今、やっている所よ』


 二機の情報送受信システムに接続したステラは、プロテクトを突破して裏に潜んでいる操者の下へとアクセスする。

 流石に偵察用という意識はあったらしく、幾つもの中継点やダミー回線などを介しており、本体のハード部分よりは面倒な中身をしていた。

 しかし、それは比較的でしかない。

 電子の権化であるステラならば、問題なく正解へと辿り着ける代物である。

 しかも、サンプルは二つもある。

 両者の情報を擦り合わせれば、どれがダミーでどれが正解か、判別する事は容易であった。


 下手に気付かれて切断されても困るので、少しばかり丁寧に行っている為、やや時間はかかっているが、それだけである。


 まだ暫し時間を要すると見た俊哉は、副官に今更のように訊ねる。


「そういや、流れで聞いてなかったんだけどよ。

 探索の成果はどんなもんだったんだ?

 まぁ、大した成果はなかったんだろうが」

「まさにその通りです、隊長殿」


 困ったような表情で、彼は答えた。


「まず、第一目標である安全な食料ですが……ほぼ入手できませんました。

 僅かな苔と木の根くらいですな。

 それも充分とは言い難い量です」

「……優先は雫だ。

 俺らの携行食料は、全部あいつに回すしかなさそうだな」

「それがよろしいかと」


 否という言葉はなく、代わりに是の言葉が即座に返る。


 彼らは、サバイバル訓練も受けている。

 流石に廃棄領域での活動は想定されていなかったが、大抵の環境ならば無事に生きていける練度はあるつもりだ。

 無論、その為、多少の毒素は自力で何とかする術も持っている。


 故に、経験者である俊哉の知恵を借り、比較的弱い毒のみの品を選べば、食うに困る事はないだろうと判断していた。

 腹を抱えてのたうち回る羽目にはなると思われるが。


 しかし、雫は別だ。

 彼女は元々虚弱体質である。

 いよいよ何も無くなれば腹を括らざるを得ないのだが、基本的に身体の弱い彼女では、弱い毒素と言えど、受け入れるべきではない。

 コロッと死なれてはならないのだから。

 彼らの中で、彼女が死ぬ順番は最後でなければならないのだから。


 故に、現代から僅かに持ち込めた携行食料は、全て彼女に回すのである。

 護衛者として、当たり前の判断であった。


「地下一万メートル程掘れば、まぁ汚染はかなり緩和されておりましたな。

 まぁ、そこまで行くと今度は食物自体が無いのですが。

 栽培くらいならば出来るのではないのですかな?」

「無事な種とかがあればな」

「無い物ねだりはいけませんなぁ~」

「お前が振った話だろうが」


 俊哉は、深々と溜め息を吐き出す。


 本当に死の蔓延した環境である。

 よくもまぁこの様な環境下で、自分たちの先祖は魔術の助けもなく生き残ったものだと感心せずにはいられない。


 そんな事を思っていると、ピー、という安っぽい電子音が響いた。


『出来たわ。完了したのよ。

 黒幕は、現在地点から北北西に約30km弱の地点にいるわ』

「「「…………んあー」」」


 どや顔で報告するステラの言葉に、雫も俊哉も、更には副官までもが微妙な顔をして、その方角を見詰めた。


「……あれ、どれくらいに見えるか?」

「ハッハッハッ、それは投げた隊長殿が一番理解しているのではないのですかな?」

「空間把握に自信のあるウチの見立てだと、しっかり30kmちょいくらいだぞ、です」


 北北西の方向には、綺麗なキノコ雲が立ち上っている姿があった。


 期せずして、報復を成し遂げていたのである。

 偶然とは恐ろしい、と意見が一致した瞬間であった。

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