開演
ちょい短め。
名前考えるのが本当に面倒臭い。
設定晒したら誰か考えてくれないだろうか、とか思います。
高天原主要港に横付けされた豪華客船《イストワール号》。
その足元には、大勢の人々が集っていた。
その集団は、客船への搭乗を望む客ではない。
彼らの目的は、これから《イストワール号》から降りてくる人物の見物だ。
天帝。そして、その護衛として《六天魔軍》が二名。
帝国民として、魔術師を目指す者として、興味を抱かずにはいられない存在達だ。
レッドカーペットの敷かれた道へ、三人の人間が下りてくる。
先頭を行くのは、柔和な笑みを浮かべた小柄な老人。
老齢から来る総白髪を綺麗に整えた好々爺然とした雰囲気を纏う人物。
天帝だ。
その後ろに付くのは、一組の男女。
一人は、老齢の男性。
背筋を伸ばした長身を、ゆったりとした袴姿に包んでいる。
腰には太刀と脇差を一組差している。
《六天魔軍》第一席、《千斬》山田〝真龍斎〟五郎。
もう一人は、妙齢の女性。
姿勢を正した長身、銀色の髪を長く伸ばし、項の辺りで一本に括っている。
黒い軍服に黒いマント、黒い軍帽を被った、黒い女性だ。
《六天魔軍》第三席、《怪人》ナナシ。
間違いなく、この日本帝国の頂点にいる人間たちである。
熱狂。
興奮した民衆の叫びが上がる。
天帝と真龍斎は、声援に応えて手を振り返す。
しかし、ナナシだけはそれをせず、
「……暑苦しくて眩暈がしそうでありますな」
「お前はそう言うと思っていた所だ」
鬱陶しそうに呟き、隣の真龍斎にツッコミを入れられる。
「《六天魔軍》は見られる事も仕事の内だ。諦めろ」
理解されている様な言葉に舌打ちするナナシだが、すぐに良い事を思いついたとばかりに前を行く天帝に話しかける。
「陛下陛下。自分は危険の有無を確認する為、先行しようと思うであります。
よろしいでありますか?」
「ナナシさんのお願いは聞いてあげたいのですが、それは許可できません」
「何故、でありますか?」
「必要がないからに決まっているだろう。
前を見ろ」
真龍斎の言葉に、ナナシは正面を向く。
そこには、いつの間にか、一人の少女が跪いていた。
服装を見るに、高天原学園の生徒なのだろう。
首を垂れ、顔を俯かせている為、その正体は判然としない。
いつの間にか、周囲の喧騒は止んでいる。
突然現れた少女に不審を抱いたからだ。
警備をしていた者たちは、遅れて動き出そうとする。
だが、何らかの通信が入ったらしく、その動きを止められる。
ナナシは、いつでも抜き放てるようにデバイスに手をかけながら、鋭い殺気を飛ばす。
少女は、微動だにしない。
その時点で、ナナシは彼女の正体に気付く。
「誰かと思えば、ちんちくりんの《黒龍》殿ではありませんか」
ビキッ、と。
世界に亀裂が入る様な怒気が、一瞬、ナナシを襲う。
だが、それもすぐに霧散し、
「《六天魔軍》第五席、《黒龍》雷裂 美影。御身の前に」
彼女の名乗りが聞こえた観衆に衝撃が奔る。
今、この少女は何と言った?
《六天魔軍》は第四席まででは?
そんな疑問が、彼らの手指を自らの携帯端末へと伸ばさせた。
高速で動き、ネットの中から情報を検索し、そして見つける。
《六天魔軍》の五番目、《黒龍》の字で登録されている〝雷裂 美影〟という名を。
「顔を上げて下さい、美影さん」
「はい」
天帝の言葉に、俯かせていた顔を上げる。
それは確かに、自分たちが〝落ちこぼれ〟と陰で呼んでいた雷裂 美影の物だった。
「天帝陛下、ようこそ御出で下さいました。
高天原は私が守護する地、我が名に誓って御身の安全を約束いたします」
「お願いしますね」
芝居がかった言葉に、にこやかな応じる天帝。
無言の真龍斎。
はっ、と鼻で笑うナナシ。
「自分の邪魔をして楽しいでありますか?」
「YES! とても楽しいね」
「やる気でありますか?」
「やって欲しいの?」
互いに殺気を飛ばし合う。
外に漏れないように、きっちりとお互いにだけだ。
表面上はにこやかな辺り、二人の演技能力は中々の物と言えよう。
「ナナシさんはともかく、美影さんが暴れると冗談ではなくなりますから、その辺りで矛を収めてください」
「「はっ」」
冗談であり、挨拶の様な物だと分かっていても、戯れで刃を交えかねない所のある二人である為、天帝が直にそれを止める。
対人特化であるナナシはともかく、広範囲殲滅能力のある美影が暴れれば、最低でこの場にいる観衆は皆殺しになるのだ。
それをしないだろうとは思えても、万が一を考えれば当然の事だ。
やはりというか、本気で喧嘩をする気のなかった二人は、制止に素直に従う。
「では、美影さん。案内をお願いしますね」
「承知しました」
美影の先導に従って、天帝と二人の魔王が行く。
その姿はマスコミのカメラに収められ、一面記事のネタの候補として扱われるのだった。
~~~~~~~~~~
天帝一行の消えた後、天帝が目当てだった者たちはその場を離れていくが、大多数は未だその場に留まっていた。
魔術師にとっての大イベントは、まだあるのだ。
客船から、再び三人の人間が姿を見せる。
先頭を行くのは、金髪の初老の男性。
スーツの上に白衣を重ねており、目元にはサングラスをかけた男だ。
男性の名は、スティーヴン・クールソン。
紛う事なき、現アメリカ合衆国大統領である。
その後ろに付くには、二人の男性。
一人は、灰色の髪に緑の混じった特徴的な髪をオールバックに撫でつけた、中年の白人男性。
《ゾディアック》筆頭、《射手座》ジャック・ストーン。
もう一人は、黒い髪を持つ細身の黒人男性。
《ゾディアック》の一人、《牡牛座》ランディ・オズボーン。
《六天魔軍》と同じく、魔道の頂点にいる魔術師だ。
歓声が上がる中、大統領スティーヴンが不満そうに眉を顰める。
「……テメェらの方が人気みてぇだなぁ、おい。
オレ、いなくても良いんじゃねぇか? なぁ、おい」
「大統領、不貞腐れないでください」
「大の男が拗ねてみせても可愛くもないな。うぜぇだけだ」
「……テメェら、もうちょっと上司を敬えよ、おい」
まぁ良い、と肩を竦める。
「さてと、舞台にようやく上がる訳だが……テメェらにはどう見えてんだ?
素直に答えてみろよ、おい」
「……どうやら向こうも隠す気はないようですな」
「ああ、こんな魔力は初めて見る。
成程、面白い事が起きるというのは、本当らしいな」
高天原全体に、隠しているようで隠していない魔力が充満している事を、《ゾディアック》の二人は感じ取っていた。
常人レベルの魔術師では感じ取れない気配だろう。
現に、政治家であり魔術師ではない大統領には、まるで分からない。
だが、超越者ならば感じ取れる。
おそらく先に出ている《六天魔軍》の二人も感じ取っている事だろう。
実は、ナナシがピリピリしていたのもそれが理由だ。
尤も、美影とは相性が悪いのもいつもの事であるが。
「そうか。なら、良いさ。
あのクソガキに乗せられてやるんだ。
それに見合うだけの成果が得られるんなら、それで良いってもんよ。なぁ、おい」
「同意します」
「俺は、件の少年の方にこそ興味があるんだがな」
「クソ生意気なクソガキだ。
知らない方が良いぞ、おい」
「礼儀と常識を何処かに置き忘れてきた阿呆です。
関わらない方が良いですね」
「酷いな、お前ら」
口を揃えて悪口を言う上司と同僚に、ランディは頬をひくつかせるのだった。
~~~~~~~~~~
「――さぁ! 役者は揃うた!」
高らかに。
「今こそ幕を上げる時ぞ!」
軽やかに。
「刮目せよ! 地球人類よ!」
愉悦を込めて。
「目覚めよ! 終末の息吹よ!」
悪意を込めて。
「さぁ! 開演じゃ!」
謳い上げる。
ここから一気に一章完結まで動く……筈。
適当人の宣言を信じるな。




