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天体観測

ね、眠かったんです。

起きたら、半日以上寝ていて……。

 グニャグニャ、と。

 ユラユラ、と。

 グルグル、と。


 世界が回る回る。


 重力感覚は曖昧で、前後左右のみならず、天地の方向さえも不確かだ。

 しかも、それでいて無重力のように漂う訳でもなく、物理法則そのものが異なっているのだと直感させる。


 時間もよく分からない。

 大変な時間が過ぎ去っている様な気もするが、一方であまり過ぎていない様な気もする。


 やがて、自分という存在が曖昧に感じられる様になってきた頃に、ようやく、唐突に全てが戻ってきた。


「う、お……!?」


 床から、足が浮き上がる。

 無重力、ではない。

 擬似的にはそうだが。


 落ちているのだ。

 空飛ぶ化石だった建造物が、遂にその寿命を終えて大地に向かって落下している。


「雫ー」

「うい、です」


 俊哉が呼び掛ければ、空中遊泳を楽しんでいた雫が、その意図を察して近付いてきた。

 抱き止める。


 小さな彼女を腕の中へと納めながら、風属性魔力を発動させ、空気のクッションで自分たちを包み込んだ。


「隊長ー! 自分たちも助けてくださーい!」

「男の子だろー? 頑張れ」

「わ、私は女の子ですぅ~!」

「んー、好き好んで軍にいるようなのを、女の子って呼びたくないなぁ~」

「そ、そんなぁ~!」


 周囲から救助の要請が来るが、彼は迷う事無く見捨てた。

 特に複雑な理由など無い。

 単なる私怨である。

 普段から雫との関係に水を差し、隙あらば射撃訓練の的にしてきやがる者たちに、天誅を下してやろうというだけの事だ。

 どうせ、この程度では死なないし。

 伊達に衛星軌道上から突き落とされたりしていない。


 暫くして。

 巨大な鋼の塊は、流星となって大地に激突するのであった。


~~~~~~~~~~


 大地に突き刺さった歪な四角錐。落下の衝撃であちらこちらが破損しており、その姿は無惨なものとなっている。


 その外壁が、強い衝撃と共に外側へと吹き飛んだ。


「ふぃ~。やっと外だぜー」

「んー、あんま清々しい空気じゃねぇな、です」


 空は曇天。

 分厚い暗雲に覆われ、日の光は地上まで届いていない。

 一応、夜ではなく昼の様で、完全な闇ではないのだが、その一歩手前くらいの暗さをしている。


 人工的な光は見られない。

 落ちた施設のあちこちがショートし、断続的に放つ火花がほぼ唯一の灯りだ。


 気温は低く、大変に寒い。

 体感では氷点下だろう。

 魔力で身体を覆っていなければ、すぐに凍えてしまいそうだ。


 空気は淀んでいる。

 何が原因なのか分からないが、息がしにくくて、喉に引っかかる様な粘り気もある。


 そう思って雫が顔を顰めていると、風が吹いた。

 俊哉の風だ。

 途端に呼吸が楽になる。


「気を付けろ。微量だが、毒素が含まれてる。

 ついでに、酸素濃度もうっすい」

「マジか、です。地球じゃねぇのかな、です」

「いや……」


 厳しい視線を周囲に巡らせる俊哉は、雫の感想に言葉を濁らせる。

 彼には、この環境に覚えがあったのだ。

 何度も入っている。

 というか、入れられている。

 泣いても喚いても、容赦も慈悲もなく放り込まれてきた。


「隊長殿ー。置いて行かないでください」

「うるせー。いちいちテメェらを待ってられるか」


 文句を言いながら、親衛隊の面々が俊哉の開けた道を這い出してきた。

 くたびれた様子をしているが、欠けているメンバーはいないし、自立できない程にやられている者もいない。


 しぶとい、と俊哉は心から思った。

 これが仮にも仲間に対して思う言葉である。


「それよりも、ここは何処だと思う?」

「さて、分かりかねますな。

 空間の狭間に入り込む訓練は、生憎と積んでおりませんので」

「とりあえず、あれですね。

 宇宙空間とかに放り出されなくてラッキーだったー、って思いません?

 もしくは、地面の中にいる、とかじゃなくて」

「あー、それな。そうなってたら、マジ困ったわ。

 俺、まだ宇宙空間じゃ長く生きてられん」

「……ちょっとは生きてられるって、それでも普通の人間には無理ですよ?」

「そうか?」

「そうです」

「流石はウチの男だぞ、です。もっと強くなれ、です」


 俊哉は、自覚が薄い。

 周囲にいる人間の形をした人間擬きどもの所為で、自分の能力が大抵の人類からかけ離れている事に対して、あまり自覚していない。


 話が都合の悪い方向に行きそうだったので、彼は咳払いをして、元の軌道へと強引に引き戻す。


「そんな事はどうでもいいんだよ。

 それより、本当に現状確認だぜ」

「空気はありますが、人体に適してはいないようですな」

「酸素薄いです。あと、なんか毒がありませんか?」

「放射線も確認できます。長時間の滞在は危険ですね」

「んー、星でも見えれば、地球かどうかは判別が出来るのですが」

「天体観測か。

 天文学なんて何の役に立つのかって思ってたけど、サバイバルにはなんだかんだと役に立ちますよね」

「こんな部隊に所属して、何処とも知れない場所に唐突に放り出される訓練をしていなければ、使う事の無かった技能でしょうなぁ~」

「とはいえ、お空が見えませんので無理ですが」

『Cannon Mode』

「「「え?」」」


 それぞれに意見を出し合っていると、唐突に聞き慣れた機械音声が聞こえた。

 出所へと視線を向ければ、左腕を砲撃形態に切り替えた俊哉が、それに向けてその砲門を構えている姿を捉えた。

 左腕は、装甲の隙間から赤熱する光を発しており、尋常ならざる熱量を溜め込んでいる事を示している。


「安心しろ。空に穴を開けてやる」

「ちょっ! 隊長殿、お待ちをッ!」


 親衛隊が、ほぼ反射行動で防御姿勢へと移るのと、俊哉がアマテラスを撃ち放つのは、同時であった。


 天地を繋ぐ閃熱の柱が出現する。

 度重なる死線を潜り抜け、幾度とない死の淵が見える訓練を経る事で、その威力は大きく向上している。


 プラズマ化した閃熱は、まさに太陽の一撃と呼ぶに等しい代物と化しており、薄暗いを周辺を一気に真昼の如き明るさへと変化させ、周辺へと撒き散らされる余波は、凍えるようだった気温が真夏のそれを超えるほどにまで引き上げられる。

 衝撃が周辺を席巻し、粉塵を巻き上げ、更には発生した上昇気流によって空へと連れていかれた。


 そして、それらを含めて、空に穴が開く。


 分厚かった暗雲は吹き散らされ、青空が見えた。

 そこで収まる事は無い。

 更には、そこで炸裂させる事で、一時的に上空の大気を弾き飛ばして、本当に何もない穴が開いた。


 宇宙が覗ける。

 青空の中に、ぽっかりと星空が見えてしまった。


「観測、出来ました!」


 そんな奇跡の光景は、一瞬の事だ。

 空白となった空間を埋めるように、周囲から大気と暗雲が押し寄せ、すぐに空の穴は閉じてしまった。

 しかし、その一瞬だけで心得ている親衛隊の面々は、しっかりと星明りの配置を写し取っていた。


「ふぅ。やっぱ、本気撃ちは疲れるな」

「お疲れ、です。特製ドリンク、飲むか? です?」

「貰うわ」


 勿論、俊哉の無意識的好みを反映させたという意味での特製である。

 これでまた一つ、彼が雫の沼に堕ちていく。


 それはさておき、親衛隊たちは、観測できた星の配列から現在の座標が何処なのかを割り出していた。

 そして、導き出された結果に、眉間に皴を寄せて、頭を抱える事となった。


「おーぅい。どしたー?」

「あー、隊長殿。良い話と悪い話、それぞれあるのですが、どっちから聞きたいですか?」

「SFちっくな話の方から聞きたいぞ、です」

「かしこまりました、雫様」

「……俺の意見が反映されてねぇな」


 愚痴を無視して、悪い話の方を先に報告する。


「現在なのですが、どうやら二百年ほど過去の地球のようです」

「あー……やっぱり」

「マジ? です?」

「大マジです。

 どれだけ再計算しても、星の位置が二百年前の日本列島から見たそれと合致しています」

「「うわーお(です)」」


 告げられた事実に、流石の雫もどうしたものかと頭を抱えずにはいられなかった。

 俊哉もまた、廃棄領域に似ている環境と雰囲気に裏付けが為されて、絶望的な気分を味わう羽目となったのだった。

先日、なんとなく日光東照宮に行ってきました。

宝物殿に、ユニコーンの角が飾られてて心底ビックリしました。


奴は、実在したのか……。

想像以上に長くて二重にビックリです。

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