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そして、何処までも落ちてゆく

日曜に更新はしないと言ったが、その前に更新しないとは言っておらぬ!

 元々は、エネルギー採取及び供給用のシステムであった。


 地球上のエネルギーは戦争の継続と共に目減りしていく一方であり、いつか訪れる枯渇の時は、誰の目にも明らかであった。

 故に、時の研究者たちは更なるエネルギー機関を求め、そして天上に浮かぶ尽きぬ燃料庫に目を付けたのだ。


 悠久を燃え盛るあの星からエネルギーを抽出し、運用する事が出来たのならば、それは戦況を引っくり返す戦略兵器足り得る。


 そうと考えた者たちがいたのだ。


 彼らは、太陽の中に、エネルギー抽出炉を投下し、無線方式で地球衛星上の装置に転送、そこから更に各地上基地へと分配する、という計画を立てた。

 これが最も簡便だったからだ。

 これならば、既存の技術の応用で簡単に実現できるからだった。


 開発は、順調すぎる程に順調に進んだ。

 驚く程の速度で実験機の建造が済んでしまい、太陽の中に投下するにまで至ったのだ。


 そして、想定通りにエネルギー供給を受け始めた段階で、彼らは重大な事実に気付いてしまった。


 エネルギーを逆流させ、ある特定の刺激を太陽に与えてやれば、太陽を超新星化させる事が可能だという事に。


 理論上は、可能だ。

 本当に出来るかは、やってみないと分からないが。


 だが、問題とするべきは、そこではない。

 一番の問題は、組織の理性である。


 超新星爆弾などというSF兵器を使えば、まず間違いなく地球は蒸発する。

 たとえ、形が残ったとしても生物が生きていける環境は、欠片も残らないだろう。

 更に言えば、それでも生き残ったとしても、太陽という恒星の恩恵が無くなってしまえば、地球は終わらぬ冬に落ちて、永遠に凍り付いてしまう。


 つまり、どんなに希望的な展開を予想したとしても、最後の結論は破滅と滅亡以外にないのだ。


 だが、当時は戦時中。

 しかも、最低最悪の理性無き全力戦争の最中であった。

 倫理観を失ったあらゆる国家・組織が、未来の事を一切考えずに武力を振るう時代において、これ程の兵器を手に入れた者が、果たしてそのボタンを押さないと言えるだろうか。


 開発者たちの理性は、否、と言った。

 絶対に使う。

 使ってしまうに決まっている。


 だから、彼らは反逆を起こした。

 エネルギーシステムの全てを組織から切り離し、自分たちが至った成果に誰も辿り着かない様に全ての研究を封印して、この空飛ぶ要塞に立て籠ったのだ。


 それから。

 彼らはいつ報復が来るかと怯えて過ごした。


 一年が経ち、二年が経ち、備蓄された物資が底を尽き、一人二人と餓死者や自殺者が増えていく。

 そして、最後の一人が死んで、施設の封印を任された管理AIだけが残り、要塞は永遠に空を漂流し続ける化石となった。


 皮肉にも、搭載されていた太陽エネルギー供給システムに守られる事によって。


~~~~~~~~~~


「……てーのが、ここの概要みたいだぞ、です」


 日誌を探り当てた雫が、大雑把に纏めた歴史を語り終えると、何とも言えない空気が場に流れた。


「ほぁ~、超新星爆弾かぁ~。

 せっちゃんセンパイは……造ってたっけかな?」

「造ってても不思議はねぇけどな、です」

「まぁ、そうだな。

 だけど、本当に造ってたら馬鹿だろ。

 そして、本当に造っちゃったここの連中は馬鹿だな。

 太陽系消滅するわ。

 ついでに、ガンマ線バーストで半径云光年の生物が死滅、と。

 アホの極みだな」

「…………」

「……何だよ、その目は」


 感想を漏らす俊哉に、雫は半目でジットリとした視線を向けていた。


「……別に、です」


 それに気付いた彼は、含んだ意図を訊ねるが、しかし彼女は正面に向き直って特に何も言わなかった。


「知らねぇって幸せなんだなって、そう思っただけだぞ、です」


 いや、ボソリと付け足した。

 不吉な言葉を。


「え!? ちょっと待って!

 何それ!? 雫ちゃん!? 雫様!?

 何を知ってんの!? 教えてプリーズ!」

「うちが言う事じゃねぇぞ、です。

 セツの奴に訊きやがれ、です」

「何それ、超気になるんですけど! お願いだからぁー!」


 どんな仕掛けがあって、それに自分がどんな形で関わっているのか。

 雫の反応からして、碌でもない事であるのは確かだ。

 雷裂関連の時点で、碌でもないに決まっているが。


「うるせーぞ、です。今のところはダイジョーブだから安心しやがれ、です」

「ちっとも安心できないお言葉ですね、それ!」

「そんな事より、興味も失せたから撤収すんぞ、です」


 興味本位で始まった探索である。

 本来は、彼等には古代遺跡の探索する義務などないし、推奨される行動から言ってむしろ処罰される選択をしている。

 言い訳はあるけども。


 故に、それが尽きたならば撤退あるのみ、でえる。


 だが、その前に響く声があった。


『ダメよ。それはダメなの』


 管理AIの声と同時に、分厚い隔壁が部屋を包む様に降りてくる。


「チッ!」


 俊哉が即座に瞬発する。

 自身を支えにして隙間を抉じ開けようとしたのだ。


 しかし、間一髪の所で届かない。


 目の前で閉じられた隔壁を一発殴り付けた後で、彼は左腕を構える。


 俊哉の意思に従って、装甲が展開する。


『Cannon Mode』

「アマテラスッ!」


 閃熱を放つ。

 しかし。


「うおっ!? 耐えやがった!? マジかよ、これ!」


 隔壁は無事であった。

 表面に溶解した様な跡は出来ていたが、貫けてはいない。


『逃がさない。逃がしはしない。

 私の至上命令は、侵入者の排除あるのみ!』


 管理AIの言葉がトリガーとなって、疑似太陽に熱が入った。

 安定していたそれが不吉に蠢き始めている。


 嫌な予感しかしない。


 雫が端末に取り付いて調べれば、予想通りの結論を導き出す。


「いっちゃん破壊力のある自爆装置が起動してっぞ、です」

「どれくらい?」

「溜め込んだ太陽エネルギーを爆発させる奴だぞ。

 地表くらいは抉れるだろうな、です」

「マジかよ。クソがッ!」

「トシ、隔壁は破れねぇのか? です?」


 悪態を吐く俊哉に、今度は雫が訊ねる。

 この場で最も火力を持つのは彼なのだ。

 俊哉に出来なければ、諦める他にない。


 彼は溶解した跡を見て、答えた。


「全力で撃てば貫ける。

 が、この硬さだと相当に拡散する。

 お前ら、アマテラスの余波から雫を守りきれるか?」

「無茶を仰いますな、隊長殿。

 やれと言われれば、命は懸けますが」


 だからと言って可能になる訳ではない。

 世界には、根性でどうにか出来る事と出来ない事があるのだ。


 隔壁から反射して撒き散らされる余波は、親衛隊という肉盾を貫き、雫のエネルギー転移を越える勢いで彼女を焼き尽くしてしまうだろう。


 よって、それは出来ない選択肢であった。


「じゃあ、仕方ねぇな、です」


 雫は、俊哉の答えを聞いて後、再度、端末へと向き直る。

 凄まじい速度でキーを叩き始めた彼女に訊ねる。


「どうすんだ?」

「エネルギーを太陽に送り直すんだぞ、です。

 逆流させる事は可能な筈だぞ、です」

「……超新星化とか、しないよな?」

「しねぇぞ、です。

 盗んだ物を返すだけだからな、です。

 問題は……」

『間に合うかしら? 間に合わないわよね?』


 時間である。


 二百年間。

 少しずつではあるが、それだけの期間を溜め込まれたエネルギーは、膨大に過ぎる。

 装置を使い潰すつもりで全力で送り返しても、自爆までには間に合わないだろう。


「間に合わせんぞ、です」

『ッ! なに? 何をしたの!?』


 装置の能力以上の速度で、疑似太陽のエネルギーが減り始めた。


「答える必要はねぇな、です」


 雫のエネルギー転移である。

 彼女の能力で、疑似太陽のエネルギーを固有空間の中へと吸い取っているのだ。


「ああ、成る程。その手が。

 じゃ、お手伝いしましょ。

 コード:ホワイト」


 それに気付いた俊哉も、空属性魔力に変換し、雫の手伝いをする。

 彼の拙い空属性では焼け石に水ではあるが、気休めにはなるだろう。

 一拍遅れて、空属性を持つ親衛隊員も参加し、協力してエネルギー除去を開始する。


『させない! そうはさせないわ!』


 どういう理屈かは分からないが、彼等が自爆を阻止しようとしており、それが現実味を帯びていると悟った管理AIは、自爆シークエンスを可能な限りスキップしていく。


 さて、ここで一つ、魔術行使における危険性を語ろう。


 魔術は、科学とはまるで異なる法則性の上に成り立っている代物である。

 故に、複数の魔術を重ね合わせた場合、常識に基づいた単純な結果とはならない事がある。


 例を挙げれば、熱を生む魔術と冷気を生む魔術を重ねたとしよう。

 常識で考えれば、これは両者が打ち消しあって、結果、何も起こらないという事になる筈だ。

 実際に、見た目の上ではそうなるのだが、あくまでもそれは効果を消し合った結果であり、その場にはまだ魔力そのものは残っているのである。

 故に、その場に何らかの魔術を新たに放り込むと、行き場を失っていた魔力が充填され、思わぬ威力を引き出してしまう事となる。

 微風を生む魔術が暴風となり、静電気を生む魔術が轟雷となってしまう。


 これは、既に原理を含めて解明されている法則の例であるが、基本的に初めて組み合わせる魔術は何が起こるか分からないと思え、というのが魔術師にとっての常識なのだ。


 現在、この場には、多数の空間魔術が展開され、それに加えて似て非なる超能力による空間操作が行われている。

 そして、更には限定的であり原始的ではあるが、科学による空間転移さえも行使されている。


 引き出す結果は同一であっても、根本となる原理がまるで異なる三つの力が重なりあった結果、この場の空間湾曲率は異常なまでに高まっていた。

 限界にまで捻じ曲がり、今にも弾けて、世界に穴が空いてしまいかねない程だ。


 そして、もう一つ、その最後の引き金を引けてしまうエネルギーが、この場には二種類あった。

 今にも爆発せんとする疑似太陽と、固有空間内に貯蓄していた雫の膨大な魔力である。


「テメェら! 気合い入れやがれ! です!」


 叫びながら、雫は手伝ってくれている親衛隊たちへと、魔王魔力を供給する。

 一時的に魔王級となった彼らは、更なる勢いで空間操作を行った。


 だが、その際、緊急事態という事もあり、雫の魔力制御が緩んでしまっていた。

 結果、溢れ出た、本来であれば何の意味も持たない無色透明な魔力が、この場に充満する事となる。


『私の勝ちよ。勝ちなのよ』


 そして、最後の引き金が引かれた。


 勝負に勝ったのは、管理AIの方であった。


 短縮させた自爆シークエンスは、雫らの無力化作業を上回り、疑似太陽が爆発する。

 俊哉たちは、雫の周囲へと集まり、せめて彼女だけでも守りきろうと防御を展開する。


 だが。


 様々な要因が重なっていた事で、事態は彼らの想像を遥かに飛び越えていった。


 疑似太陽の爆発は、場に充満していた雫の魔力と結び付くと、彼女を通して、同源である空間系超能力へと注がれる事となった。

 それにより、一時的に限界以上の力を発揮したそれは、極限まで捻じ曲がっていた空間を、遂に引き千切ってしまう。


『へあ?』

「おう……」

「まぁ、こんな事もある、です」


 彼らは、世界の穴に吸い込まれ、何者も知らない何処かへと落ちていくのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 太陽に放り込んで200年も正常稼働出来るような機械どうやって加工したんすか そんなやべえ技術があって勝てないとか怖い
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