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最近ね、涼しくなって寝易くなりましたよね?(遅刻の言い訳)

 ひとまず侵入には成功したので、早速、内部探索を開始しようとした。


「あん?」


 だが、それよりも早く、反応があった。

 俊哉たちのすぐ側に、赤いレーザーが照射される。殺傷性はない。単なる光の線だ。

 それが床を照らし、徐々に迫り上がってゆく。光の軌跡は残り、段々と積み重なったそれがやがて人の形となった。


 それは、少女の様な形をしていた。

 身長は一メートルと少しばかり。西洋人らしい顔立ちをしており、永久の好みそうなフリルをたくさんあしらった服装をしている。

 波打つ髪は足元まで届く程に長く、よく出来たお人形の様な印象を抱かせる。

 色合いが濃淡の異なる赤一色だけなので、いまいち惹かれないのだが。


『初めまして、お兄さんたち』

「お姉さんもいるぞ! です!」

「良い子だから引っ込んでな? な?」


 俊哉の背中から、ピョコリと顔を出して抗議する雫を、彼が頭を抑えつけて隠した。

 機械的に合成されたような声に、一瞬のアイコンタクトを交わした彼らは、取り敢えず俊哉が代表して進み出た。


「おう、初めまして。お嬢ちゃんは、ここの管理者かな?」

『ええ、そうよ。そうなのよ。

 私こそがここの主で、こここそが私そのものよ』

(……人では無し、と。

 まぁ、脳ミソだけ取り出して組み込んだってな可能性もあるが)


 少女の正体を考察する。

 おそらくは、運用、そして防衛の為に用意された人工知能の類だと、俊哉は当たりを付ける。


『それでね、それでね。

 帰ってくれないかしら? これ以上、進まれると、私、お兄さんたちを殺さないといけなくなるの。

 分かるかしら? 分かってくれるかしら?』

「おう。よく理解できるな」

『賢いのね。お兄さん、とても賢いわ。

 だから、帰ってくれる?

 今なら、まだ間に合うわ。間に合わせてあげるわ』

「分かった。

 ……おーい、お前らー。このまま進んで良いってよー」

『……愚かなのね。お兄さん、とっても愚かだわ』

「おっと、評価が180度逆転しちまったぜ」


 うはは、と快活に笑う俊哉に、隊員の一人が顔を寄せて言う。


「そりゃまぁ、当然の評価かと。

 どうして、今の様な判断になったんです?」

「前フリって奴だろ? 副音声にそう聞こえたぜ?

 芸人ならよくある事だ。慣れろよ」

「自分たち、軍人であって芸人ではないのですが……」

「瑞穂軍は芸人根性が染み付いてるってのが、世界の評価だぞ?

 主に高天原の卒業生の所為だが」

「大変に不本意な評価ですな」


 言い合っている内に、彼らの本気を感じ取ったのか、少女は顔を俯かせている。


『どうしても帰ってくれないの?』

「こっちもお仕事でねー。手ぶらで帰る訳にはいかんのよ」


 そんな仕事はないけども。

 少なくとも、彼らの仕事ではない。


 が、交渉事にはハッタリも重要だと、何処かで聞いた事がある気もするので、取り敢えず押してみる俊哉である。

 プッシュプッシュ。


『今なら、まだ生きて帰れるのよ? 帰してあげるわ?』

「出来ない相談だなぁ。

 それに、お嬢ちゃんみたいな貧弱になんざ、殺されようが無いなぁ」

『馬鹿にしてる。馬鹿にしてるわね? どうなっても知らないわよ?』

「おぉー、どうにかできるならしてみそ?」


 少女が勢いよく顔を上げる。


 そこには、それまでのあどけない顔はなかった。

 表情が抜け落ちた、見る者に怖気を感じさせる能面の如き顔があるだけだ。


『選択はなった。もう、帰しはしない』


 放たれる声もまた、少女のそれではない。腹に響くような、重低音の音だった。


 それを最後に、少女のホログラムが消える。

 そして、背後、彼らが入ってきた通路へと続く道に、分厚い隔壁が下ろされる。


 退路が断たれたのだ。

 見た目には。


「さて、喧嘩も売れたみたいだし。ようやく遺跡探索の本番だな」

「ワクワクだな! です!」

「……気軽ですなー」

「ったりめぇだろ。

 どんな罠があんのか知らねぇけど、魔王のお歴々からの扱きに比べりゃ、遊園地みたいなもんじゃね? ん?」

「……ノーコメントでお願します」


 それこそがまさに答えを言っているようなものである。

 そして、全員が同意見なのか。

 皆が微苦笑を浮かべていた。


 俊哉もまた、同じような顔をしている。


「まっ、俺が売っちゃったんだし、まずは俺が先に行くわ。

 責任持ってな」


 危険なカナリア役だというのに、彼は至極気楽な調子で足を踏み出したのだった。


~~~~~~~~~~


「と、その前に……」


 一歩だけ進んだ彼は、背後を振り向いて、おもむろに左腕を掲げる。

 直後、鋼色をしたそれが、展開した。


 突然の事に、射線上にいた隊員たちは、慌てて飛びのいた。


 閃光。


 ほぼ同時に、アマテラスが放たれ、退路を塞いでいた隔壁を蒸発させる。


「良し! これでいつでも帰れるな!」

「隊長! やるならやるって言ってください!」

「馬鹿野郎! 言ったら当てられないだろうが!」

「当てるつもりだったんですか!?」

「当ったり前よぉ。いつもいつも、俺を的にしてる私怨だぜ」


 悪びれた様子もなく、俊哉は断言した。

 これで、いざという時にはちゃんと連携が取れるのだから、彼らの関係は不思議である。


~~~~~~~~~~


 音もなく、高速で細い影が迫る。

 直後、高い音が響いて、その影は真っ二つに砕けて落ちた。


「……ほっそい刃だな。人間くらいなら、一撃で殺せるぜ」


 迫った影の正体は、ギロチンの様に通路の継ぎ目から落ちてきた鋼板だった。

 その薄さは目に見えない程であり、あの勢いであれば、俊哉の言う通りに人間くらいならば軽く真っ二つだっただろう。

 尤も、彼の無駄頑丈な義手に阻まれて、逆に真っ二つにされたのだが。


「いやー、殺意が中々高いというのに、案外と気楽に進めますなぁー」

「まぁな。雷裂家地下王国とかいうダンジョンに比べれば、随分と温いしな」

「……噂には聞いておりますが、行きたくありませんなぁ」

「分かった。今度、美影さんに言っとくわ。

 是非とも経験したい、つってたって」

「冗談でも止めて戴けませんか?」

「冗談じゃないから止めない」


 雷裂家地下王国。

 それは、彼ら、人外である雷裂家の血統を鍛える為に、こっそりと造った彼ら用の運動施設である。

 雷裂の人間からすれば、ちょっとハードな運動施設という程度のものなのだが、一般人からすれば全力の身体強化をしていても一瞬の油断で死にかねないヤバい代物だ。


 と、そんな事はどうでもいいのだが、探索開始からそこそこ経っているのだが、殺害宣言に違わず、様々な罠が俊哉らを襲っていた。


 普通なら、余裕で死ねる罠なのだが、そこは仮にも準魔王クラスとして世界に名を売っている俊哉である。

 先頭に立って、無傷でその全てを無効化させている。


「おっと、今度は毒ガスだな。

 即効性の上に致死性。殺す気満々だぜ」


 無色無臭の毒ガスを、風属性の面目躍如な察知能力で探り出した彼は、適当に空気を操る。


 毒ガスのみを分離し、手の平の中に圧縮して収めた。

 火を点ける。


 高熱処理によって毒性を破壊し、完全な無力化を行う。


 この間、僅か4秒である。


 と思えば、壁の一部がスライドした。


 銃口が見える。

 脅しなどではないそれは、容赦なく殺意を吐き出す。


 その直前には、俊哉の左手が銃口に添えられており、また彼の右足が、魔力・超能力による全力の身体強化を施した状態で、床面の一部に載せられた。


 鳴り響く、二つの銃声。


 壁の銃口と、隠されて見えていなかった床の銃口の二つが、出口を抑えられた事で内部で威力を撒き散らし、引き裂けた銃身が花を咲かせる。


「……床の方、どうやって気付いたんです?」


 壁の方は、分かり易い囮であり、本命は隠された床の方だったのだろう。

 それを見抜いた俊哉に訊ねるが、彼は暫し中空を眺めた後、一言で答えた。


「勘」

「それはそれは……」

「いや、こう、殺意がな。

 床の方からも来てるなぁ、って事で取り敢えず塞いだだけなんだが……」

「ナチュラルに第六感を発動させられても、こちらは真似できませんぞ」

「大丈夫大丈夫。

 臨死体験を千回単位で経験すれば、誰でも身に付く」

「嫌な経験値ですな」

「俺もそう思うわ」


 隔壁が前後で降ろされる。


 それが音を立てて迫ってきた。

 押し潰してやろうという腹なのだろうが、俊哉が普通に蹴っ飛ばすと、頑丈な筈のそれがひしゃげて吹き飛ぶ。

 片側が開けば、もはや罠の体を為していない。


 しかし、すぐに気を取り直したのか、今度は格子状のレーザーが前方に生まれる。

 このままでは、背後から迫る壁に圧されて、サイコロ状に刻まれてしまうだろう。


「コード:シルバー」


 なので、幻属性魔力を発動させる。

 精神に作用する幻属性だが、唯一、物理干渉できる能力として、光への干渉があった。


 レーザーを鏡の様にした幻属性によって反射させる。

 打ち返されたレーザーによって、壁の中で小爆発が起きた。


「……厳重な警備だわなぁ。

 常人なら、もう百回くらいは死んでるわ」

「こうも簡単に突破されては、あの少女は歯ぎしりしている事でしょうな」

「笑ってやろうぜ! です!

 こういう時はせせら笑うのがマナーだって、ミクもミカもセツも言ってやがったぞ! です!」

「ねぇ、雫ちゃん?

 その人間? たち、どいつもこいつも真似しちゃいけん類だって理解してくんねぇ?

 俺、お前さんの将来が心配よ?」

「姫よ。隊長殿の言う通りですぞ。

 雷裂の人外を真似してはいけません。

 人間社会で生きていけなくなりますぞ」

「やっぱそうかな? です?」


 可愛く小首を傾げる雫。

 その愛らしさにほんわかしながら、俊哉は笑って次なる罠を叩き潰した。


 雷裂の者どもに似てきたな、と、隊員たちは揃って思うのだった。

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