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幕間:遅過ぎる八魔会議、そして……

雷裂夫人の項目を登場人物紹介に追加しました。

興味のある方は覗いてみてください。

本編には関係ありませんが。

 日本帝国本土、某所。


 一見して単なるオフィスビルでしかない建築物。

 しかして、その実態は魔術的にも科学的にも強化を施された、一種の要塞となっている。


 所有者は、八魔家の一つ、空閑(くが)家である。


 普段から警備はされているが、今日は特にその警備は厳重である。

 何故ならば、全八魔家の当主、あるいはその全権委任者が集う八魔会議が、今日、この場で行われる為だ。

 ビル内で最も防諜に優れた会議室に、八名の人間が揃う。


 最奥には、今回の議長役である空閑家当主、白色の髪を持つ初老の男性が座っている。

 赤の装飾を為された席には、炎城(えんじょう)家当主代理、赤の髪を持つ十代後半の若い女性が。

 青の装飾を為された席には、水鏡(みかがみ)家当主、青の髪を持つ老女が。

 緑の装飾を為された席には、風祭(かざまつり)家当主、緑の髪を持つ中年男性が。

 灰の装飾を為された席には、石凪(いしなぎ)家当主、灰の髪を持つ老人が。

 金の装飾を為された席には、雷裂(かんざき)家当主夫人、銀の髪を持つ童女が。

 銀の装飾を為された席には、心見(こころみ)家当主、銀の髪を持つ中年女性が。

 黒の装飾を為された席には、深命院(しんめいいん)家当主、黒の髪を持つ初老の男性が。


 それぞれに座っている。


「では、皆揃いましたので、これより八魔会議の開催を宣言します」


 空閑が会議の開始を宣言する。

 次いで、


「まずは、新顔の挨拶からお願いしましょうか」

「はい」


 炎城が、その言葉に立ち上がる。


「初めまして、八魔の皆様。

 炎城 久遠と申します。炎城 清の娘です。

 現当主である父が急病に倒れてしまいましたので、代理として参加させていただきます。

 若輩の身ですが、よろしくお願いします」


 頭を下げる。

 すぐに顔を上げれば、参加者の表情はそれぞれだ。


 実情を察して面白げにしている者、無表情に沈黙している者、興味がなく顔すら向けていない者。


 裏側を暴いてこないのであれば、別に構わない。

 尤も、権限の簒奪など、どの家でも大なり小なり行われてきた事だ。

 下手にツッコミを入れれば逆に自分にも飛び火する可能性がある為、どう思おうが沈黙せざるを得ないのだが。


 炎城が着席した所で、本題に入る。


「では、早速ですが第一の議題に入りましょうか」

「国会で審議されている新税法だな。

 魔力税など……ふざけた事を」


 風祭が吐き捨てる様に言う。


 魔力税。

 それは、現在、国会において集中的に議論されている全く新しい税法だ。


 簡潔に言えば、誰もが所有している魔力を税として納めよ、という事だ。

 その割合こそいまだ決定されていないが、国会では前向きに施行する方向で動いている。


 これまで、その様な税をかけようとは国の誰もが思っていなかった。


 何故ならば、魔力には魔力紋と呼ばれる指紋の様な物がある為だ。

 個々人によって違う魔力紋がある所為で、他者への魔力の受け渡しは、ごく稀に存在する相性の良い者を除いて、ほぼ不可能とされてきた。

 故に、魔力を集めようとそれを活用する術がない為、そこに税をかけるという無駄な発想はしてこなかったのだ、これまでは。


 それが変わったのは、三年前の事。


 出所は、他国への技術流出を防ぐ為、という名目で伏せられているものの、とある技術者が抽出された魔力から魔力紋を消し去り、純粋魔力とする手法を開発したのだ。

 これにより、最低限、魔力を扱う能力があれば、誰でも大魔力を扱える事が可能となってしまったのだ。


 それが示す所は、Sランク以外の分類が意味を失うという事。

 Sランクは、魔力量が隔絶しているだけでなく、魔力効果も優れていて初めて認定される。

 その為、魔力量という条件が消えたとしても、その希少性は保たれるだろう。多少は枠が広がるだろうが。


 そして、それは八魔にとっては、存続すら危ぶまれる事態であるという事。


 何故ならば、現状では、Sランクは偶然に生まれる事しかなく、八魔家の血でコンスタントに生まれるのは、Aランクまでしかいないのだ。

 それを証明するように、現在、日本帝国には七名のSランクが存在するが、その中で八魔に連なる者は僅か二名しかいないのだ。


 Sランクを生み出せないのであれば、魔力税が施行された後の世界において八魔の存在意義はないに等しい。


「阻止せねばなりませんが、名目はどうしますか?」

「そんな物、隣国とのパワーバランスが崩れるとでも言えば良い。実際、その通りだしな」


 全戦闘魔術師が、魔力量の上ではAランクを超えた物となるのだ。


 近隣の大国、中華連邦やロシア神聖国は警戒心を高めるだろう。

 現在、友好関係にあるアメリカ合衆国もおそらく危機感を覚えるだろう。

 その辺りを刺激すれば、事なかれ主義の議員は阻止、少なくとも時機を見合わせるべき、という方向に動かせると思われる。


 阻止する、という方向で反対意見がなかった為、会議は引き込むべき議員の選定へと移っていく。


 その様を、冷ややかに見ている視線がある。


(……無駄だと思いますけどね~)


 出席しているだけで、会議に参加する気のない、雷裂夫人だ。


 彼女は、この議題のそもそもの元凶、純粋魔力精製技術を開発したのが、自分の義理の息子だと知っている。

 しかも、《サンダーフェロウ》では、現在、それに伴って必要となる魔力貯蔵施設や分配用の小型魔力電池などの製造が急ピッチで進められているのだ。


 それが意味する所は、国会では既に施行する事が既定路線だという事だ。

 話し合われているのは、発表の時期と税率をどれくらいに設定するのか、という部分である。


 今更、阻止に動こうとしても遅過ぎる。


 もはや八魔に生き残る道はない。

 その看板は、地に落ちる事が決まっているのだ。

 気の早い者は、八魔への予算や権限の縮小の草案を作ってすらいる。


(……それに~、もう第二の矢は放たれていますし~)


 人工多重属性計画、と銘打たれた馬鹿馬鹿しい計画だ。


 魔力属性は、一人一種という常識だが、そこに疑問を持った義息子が研究し、つい先日、形になった。


 発想は単純な話だ。

 魔力には遺伝要素がある。

 なら、違う属性の両親から生まれれば、二属性の魔力を持っていなければ不自然ではないのか? と考えたのだ。

 実際に二属性保有者はいるのだから、おかしな発想ではない。


 そこに注目して魔力を精査してみれば、本当に微弱ながら主属性以外の魔力を持っている者がほとんどだったのだ。


 無論、そこまで辿り着いた研究者は、これまでにも存在する。


 しかし、彼らはそこで躓いた。

 その微弱な魔力を実用レベルまでブーストする技術を完成させられなかったのだ。


 刹那がそれを完成させられた理由は、ひとえに似て非なる力である超能力への造詣があったからだ。

 似ているのに、超能力は魂由来、魔力は肉体の魔力発生器官由来、という点が引っかかったのだ。


 そこに着目して研究してみれば、魔力も大本自体は魂由来だと判明する。

 魔力発生器官は、正確には属性決定の器官でしかないのだと。


 ならば、と、魔力発生器官と同じ構造を科学的に再現してみれば、これがヒットした。

 流石にまるで適性のない属性を発現させる事までは出来なかったが、微弱でも持っていればそれを増幅して人工的に多属性化させる事が出来たのだ。


 そして、ここからが八魔にとって面白くない話である。


 八魔家は、自らの属性を確固たるものとする為、ほとんどが同じ属性間でしか婚姻をしていない。

 つまり、他の魔力属性を持たない血筋なのだ。


 実際に、美影は雷属性しか持っていなかったし、美雲は母の血があったおかげでなんとか二種属性を持っていたが、それだけだった。

 ちなみに、《サンダーフェロウ》の八魔の血筋ではない一般社員の魔力を検査してみた結果、最低でも三属性は持っている事が分かっている。

 最高記録に至っては八属性全種というのだから驚きだ。

 流石にそれは一人しかいなかったが。


 これが示す所は、八魔家は今後魔力タンクとしての役目以外に期待できる部分がない、という事だ。


 複数局面に柔軟に対応できる兵士と、特定場面でしか対応できない兵士では、当然、前者の方が求められるのだから。


 今はまだ、試作段階だ。

 だが、デモンストレーションくらいはできる程度には完成してもいる。

 そして、その機会はすぐにやってくる。


(……八魔の二百年は~、無駄でしたね~)


 これも時代の流れと諦めるしかないのだ。

 鉄砲の伝来と共に、一騎当千の英雄が立場を失っていったように。

 魔力概念の革新と共に、八魔は過去の遺物となる。

 そこにしがみついても未来はなく、早々に別の場所に目を向けるべきなのだ。


 それを悟っており、また雷裂はとうに方向修正を終えているが故に、会議を冷めた目で見ていられるのだ。

 無駄な時間だ、と思いながら、真剣に話し合う者たちを横目に、書類で折り紙を折り始める雷裂夫人だった。


~~~~~~~~~~


 白熱した会議の熱を冷ます休憩時間。

 その中で、雷裂夫人に近づく者がいた。


 炎城 久遠である。


「少し、よろしいでしょうか?」


 躊躇いがちに話しかける彼女に、夫人はにこやかに返す。


「あら~? 炎城の久遠ちゃんですね~。

 いつもうちのミクちゃんがお世話になっています~」

「はい。いえ、御嬢様には私の方が助けられてばかりで。

 ……あー、いえ、その話ではなく」


 ゆったりとした喋りと童女にしか見えない外見、そして何より後ろめたい想いにより、どうにも調子が狂う炎城。

 しかし、だからと言って逃げる訳にもいかない。


「実は、私の愚妹の事なのですが……」

「あ~……」


 炎城が切り出した話、彼女の妹が周囲を巻き込む形で、刹那に爆発物を仕掛けた事件については知っている。

 丁度、会議の始まる直前に通達されてきたのだ。


「本当に申し訳ありません!

 我々の教育が行き届かないばかりに、御迷惑をおかけしてしまいました!」


 深く頭を下げる。


「この償いは、望むようにいたします。

 また、愚妹にはしっかりと再教育をしますので、何卒、穏便に済ませてはもらえないでしょうか?」


 幸いにも、被害は出ていない。

 だから、テロ以外の何物でもない事件であろうと、雷裂と炎城の権力を合わせれば完璧にもみ消せる。


 しかし、逆にどちらかが公表しようと動けば、それを止めきれるだけの力はなく、彼女の妹は前科者となり、明るい未来は閉ざされるだろう。


 久遠にとって、永久は可愛い妹だ。

 失いたくない、幸せになって欲しいと思う程度には、愛している。

 今の今まで気付かなかった彼女の歪みも、自分がそうであったように修正は出来るのだ。

 だから、今回の事は穏便に秘密裏に処理できれば、再教育さえすれば未来は守られる。


 そう思い、一方の当事者である雷裂に真摯に謝罪したのだ。


「ん~」


 しかし、当の夫人は、どうにも興味がない風である。


「どうか、お願いします」


 炎城は頭を下げるしかない。

 やがて、夫人は嘆息しつつ、告げる。


「謝罪はね~、せっちゃんに言った方が良いと思いますよ~?」

「……それは」

「だって~、被害を受けたのも~、被害を防いだのも~、せっちゃんですし~。

 私達で強引に言い聞かせれば~、言う事は聞いてくれますけど~」


 でも、と言う。


「私個人は~、あの子を制限したくないんですよね~。

 だって~、面白いですもん~」


 馬鹿な発想の基に馬鹿な事ばかりをしている大馬鹿。

 そんな愚息は、見ていて実に笑える。


 それが雷裂に被害をもたらしたり、娘たちを不幸にするような事なら、気楽に笑ってもいられなかったのだが、そのラインはきっちりと守っている賢しさもある。


 だから、基本的に放任している。

 法律を犯している訳でもないのだし、手綱を握りたい娘たちに彼の扱いは一任しているのだ。


 何かを躊躇う様な炎城に、笑みを向ける夫人。


「二人の関係は知っていますけど~、あまり遠慮する必要はないと思いますよ~?」

「……炎城の恥部を、知っているのですね」

「当然です~。

 その上で言いますけど~、せっちゃん、過去は過去と割り切っていますから~。

 変に家族面せずに接すれば~、普通に人に接するようにしてくれると思いますよ~?

 舌打ちくらいはされるかもしれませんけど~」


 少し思い悩んだ炎城だったが、すぐに顔を上げる。

 そこには、先ほどよりはすっきりとした表情があった。


「分かりました。御子息と話をさせて貰います」

「うん~。頑張ってね~。

 せっちゃんが納得したなら~、雷裂としてはそれで良いですから~」

「その言葉が貰えただけで、十分です」


 再度、頭を下げる炎城。

 自分の席へと戻っていく背中を見つめながら、夫人は呟く。


「……良い子ですね~。苦労性ですけど~。

 できれば幸せになって欲しいですね~」


 彼女の脳裏に、高笑いする息子の姿が過る。

 駄目かもしれないな、と内心で夫人は思った。


~~~~~~~~~~


「純粋魔力とは、面白い事をしておるようじゃの」


 八魔会議を盗み聞きしていたそれは、心から楽しそうな笑みを浮かべる。


「新税など興味もなかったが故に調べてもおらんかったが、そんな事になっているとはのぅ。

 面白き事よ」


 さて、と思考を別に飛ばす。


「となると、やはりあれは誘い、と見て良いかのぅ?

 あまりに釣り針が大き過ぎて何の冗談かと思っていたのじゃが……」


 会議の様子を見れば、阻止は出来ずとも、遅延くらいはさせられるかもしれない。


 だが、きっと仕掛け人はそれを望んでいない。

 だから、必要性――戦力の早急な増強を訴えようとしているのかもしれない。

 それには、権限のある者に見せ付けてやるのが一番手っ取り早い。


「ふむ。乗せられるのは少々好かんが、我の目的とも一致していると言えなくもない。

 であれば、ここまでお膳立てしてもらったのじゃから、乗ってやらねば悪いかもしれんの」


 ククッ、と笑う。

 罠かもしれないと考え、時機を見合わせるべきかとも思っていたのだが、それよりは誘いに乗って踊った方が都合が良さそうだ。

 何より、そうすれば仕掛け人がどこまで勘付いているのか、どれだけの対抗手段を用意しているのか、推し量れるという物だ。

 確かめない手はない。


「それにしても、仕掛け人の狙いが予想通りならば、我の正体にも気付いておるという事か。

 ふははっ、存外に優秀ではないか、地球人は」


 この二百年、碌な進歩もなく、正直、地球人にがっかりしていたのだ。

 だが、どうやら見縊り過ぎていたらしい。


 自らの正体を看破し、何が出来るのかも見抜いている。

 その可能性が一気に高くなった。


「これだから面白い。

 そうじゃ、必死の抵抗をしてみせよ、決死の足掻きを見せてみよ。

 その先にこそ、掴める未来があるというものじゃ」


 愉快愉快とそれはいつまでも笑った。


戦とはえてして戦う前には結果が決まっているもの。情報の秘匿に成功した時点で、刹那の勝利は決まっていたのです。


AランクとSランクの魔力効果の差は、金色のガ〇シュにおける、覚醒前のザ〇ルと覚醒後のザ〇ルを想像してもらえば良いかと。

同じエネルギーと術でも、その威力が桁違いになる。

それがSランクが魔王と呼ばれる所以です。

あるいは、余のメラだ、みたいな?

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