神造と人造
えーと、なんとなく筆が乗ったので?
というか、この章、正直、飽きてきたので、なるべく早く終わらせたい。
でも、長くなっちゃうんだよなぁ。
当初、天使の出現に、欧州勢は、ある種の安堵をしていた。
神は見ていたのだ、我らを救いに来たのだ、と、あれらを味方として見ていた。
しかし、その思考はすぐに覆される。
無差別攻撃。
戦場の勢力を一切考慮せず、目に付くあらゆる全てへと攻撃し始めたのだ。
第一撃における被害の差は、瑞米と欧州勢では、大きく差が出た。
意識の違いだ。
一瞬でも天使たちを味方と思って気を抜いていた欧州勢と、彼らの新兵器の一種としか見なかった瑞米とでは、彼らに対する心構えが違っていた。
「くそっ。畜生が! 何だってんだ!」
決して軽くない傷を負った欧州兵が、隣で身動きも出来ない程に傷付いた戦友をそれでも担ぎ上げながら、悪態を吐き出す。
神は、救いに来たのではないのか。
信じる者を救ってくれるのではないのか。
これでは、天の使いではなく、悪魔の使いではないか!
マクシミリアンから奏でられる旋律によって、僅かに揺さぶられていた信仰心は、他ならぬ神自身の行動によって、完全に折れる。
あるいは、完全な信仰心を持っていれば、これも試練と受け入れたかもしれないが、今の彼らにそうと思う事は出来なかった。
「神罰を」
天使の一体が、人が見える距離まで降下してきた。
魔力とは違う、何らかのエネルギーを掲げている。
「クソがっ!」
生き残りを、丁寧にぶち殺そうというのだろう。
もう一度、罵倒した彼は、悲鳴を上げる身体に鞭を打って、魔術弾を放つ。
牽制などではなく、本気で殺す気で撃ったおかげだろうか。
それは、天使が纏う防御力場を四発目にして貫いて、次弾にて有効打となった。
天使の肩に当たり、貫通する。
そこで、ようやく天使は、彼の方を向いた。
今までは有象無象としか見ていなかったが、明確に抹殺すべき対象として認識したのだ。
「主上様の慈悲を理解せぬ、愚かな猿め」
何処までも冷たい声と共に、不可視の力場が放たれた。
殺気、とも言うべき物が一直線に放射された事を感じ取った彼は、渾身の力で横っ飛びする。
直後、今まで彼がいた場所が大きく抉られた。
一瞬でも遅ければ、自分はミンチにでもなっていただろう。
その事に背筋が寒くなると同時に、回避できた幸運に感謝する。
だが、ここまでである。
無理に動いたせいで、ただでさえ満身創痍に近かった身体は、もうろくに動かせない。
天使が旋回して、腕を振るう。
それに合わせて、攻撃が迫ってくるのが、大地の抉れという形で見えた。
肩に担いだ戦友に、すまない、と謝る。
もしかしたら、先程、我慢していれば逃げ切れたかもしれなかった。
そんな可能性を、己の堪え性のなさがゼロにしてしまったのだ。
自分の自殺に巻き込んでしまった事を、心の中で謝りながら、彼は最期の瞬間を受け入れようとする。
だが。
「おおっとォ! 間一髪だッ!」
天使の傍らをすり抜けて、かっ飛んできた影がタックルするように彼らを弾き飛ばした。
「ッ!? アメリカの!?」
それは、飛翔翼を装備した、米国の兵士だった。
敵である筈の彼が何故と思う。
その疑問が顔に出ていたのだろう。やってきた飛び鷲の彼は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべて言った。
「人ならざる敵が出たんだぜ?
人間同士、手を組むのは当然だろ?
お約束だぜ!」
そんな簡単な話ではない筈だが、飛び鷲はまるで気に留めていない様子だ。
勢いを緩める事なく、彼は二人を抱えて飛び上がる。
「逃げるか。逃がしはしない」
天使は、それに対して追撃の構えを見せる。
腕を掲げて狙いをすませる天使を背後に置きながら、飛び鷲は余裕の笑みを絶やさずに言葉を放つ。
「神がなんぼの物ってな。
そっちが〝神〟なら、こっちは〝魔王〟がバックにいるんだぜ」
その言葉を、天使も欧州兵も、すぐに理解する。
欧州兵は全身の感覚で。
そして、天使はその命を以て。
星が降る。
赤熱を纏いながら、巨岩が大気を爆ぜさせながら、無数に降り注ぐ。
天使は、その一つに巻き込まれ、羽虫のように挽き潰された。
「おっと、何か当たったかな?」
隕石の一つに乗っていた魔王が、わざとらしく呟く。
彼は、緑と灰の二色の髪をかき上げながら、天を見据える。
「さて、ようやく私も参戦だ。
……思っていた相手と、若干違うようだが」
《射手座》ジャック。魔王の登場だった。
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「全隊、撤退。
連中は旧教会を出現ポイントとしている。
人気のない場所こそが安全域だ。
下がって立て直しておきなさい」
ジャックは、通信機を通して、派遣部隊全員へと指示を出す。
『サー・イエッサー!』
『魔王大佐はどうされるので!?』
「む? 私か?」
返ってきた問いに、ジャックは魔力を練り上げつつ答える。
「私は殿軍を務めよう。
君たちが安全に撤退できるように、軽く敵勢を壊滅させておくとも」
殿軍の意味が壊れる台詞を吐く。
だが、魔王とはそういうものである。
なので、アメリカの派遣兵たちは、その言葉に何の疑問も抱かずに了解を返した。
『了解です、魔王大佐! 御武運を!』
「うむ」
通信を切り、彼は空を見上げる。
第一撃で大分数を減らしたと思うのだが、ゲートからは続々と新手が出現している。
「全く。困った事だな」
その様子に、眉をひそめて嘆息しながらも、すぐに意識を切り替える。
「……まぁいい。勲章を稼がせて貰おう」
ジャックの魔力が解放される。
彼の魔力に触れる端から、大地は断片となって重力の縛りを無視して浮き上がっていく。
広大な範囲で、大地の破片が浮き上がる光景は、とてもファンタジー的で、地球上の事のように思えないものであった。
「では、行くぞ」
ジャックが真っ直ぐに腕を掲げ、その頂点で指を音高く鳴らした。
途端、全ての破片が蠢動する。
縦横無尽に、音を超えた速度で、大質量がそれぞれに動き出したのだ。
《射手座》オリジナル術式・【スターダスト】。
無数であるにもかかわらず、一糸乱れぬ統率された弾幕は、純粋な重量と速度で、天使の軍勢を飲み込み、次々と挽き潰していく。
ジャックは、美雲のような多重処理能力を持っている訳ではない。
これ程の数の弾丸を十全に管理できはしない。
動かす事だけなら出来るが、どうしてもそれは平面的で単調な物にしかならなかった。
そうと、自らの限界を理解している彼は、早々に管理する事を諦めた。
弾道のプログラミング。
最初から決められた動きしかしない、シューティングゲームのようにしてしまおうと考えたのだ。
ゲームと違うのは、安全圏、回避できる隙間を作っていない事。
魔力でコーティングした流星を砕く以外に、その効果範囲にいる者が、無事で済む方法はない。
様々な知恵者を動員して作り上げられた弾道パターンは、前後左右、更には上下に至るまで、空間を大いに活用した動きを実現させてある。
そして、そのパターンは、一種ではない。
天使たちも、全くの知恵なき人形ではなかった。
攻撃にパターンがある事を見抜いた彼らは、力を合わせて巨岩の一つを砕いて血路を開く。
その先には、元凶であるジャックがいた。
彼を倒しさえすれば、この状況は改善する。
決死の特攻を行おうとする。
パターンは既に見切っており、この一瞬だけは彼我の間に邪魔が入らないと分かっていた。
成算は、低くないと思っての作戦だった。
しかし。
放った渾身の攻撃は、しかし間に入ってきた流星に邪魔される。
「「!?」」
予想外に、一瞬の停滞。
その隙に、背後から彼らを強かに隕石が襲い、挽き肉にしてしまう。
「パターンを見抜いた眼力は、見事。
しかし、一つしかパターンがないとは、誰も言っていないと思うのだがね」
興が乗った知恵者たちは、暴走を開始する。
各々が自分の考えた最強の攻撃パターンというものを実現させるべく、それぞれにあらゆる形を提案してきた。
その全てを、ジャックはプログラムしていた。
「パターン、その数は、つい先日、千を超えた。
躱せるものなら躱してみせるが良い」
後先考えない殲滅戦は、彼の十八番であった。
~~~~~~~~~~
天使の軍勢が出現したのは、欧州だけではない。
米国本土においても、かつての教会の遺構を中心としてゲートが開き、彼らは出現していた。
旧時代においては、国教として掲げていた為、それなりの数が残っており、文化保護から守っていた事が裏目に出た形となる。
空間を飛び越えて悠々と出現した彼らは、本土を直撃する事で意表を突ける、筈だった。
無慈悲なる防衛装置が再起動していなければ。
遥か遠くから、レーザーにも似た高出力砲撃が飛来する。
あまりにもピンポイントに、あまりにも馬鹿げた出力に、彼らは為す術なく蒸発してしまう。
「ふっふっふっ、ようやく改変終了なのだよぉー!
国土防衛魔方陣!
やっておしまいなさい! なのだよ!」
鈍色をした人造の守護天使が、開発者の命を受けて唸りを上げて稼働する。
地脈の中から際限なくエネルギーを汲み上げたそれは、自身を分裂させ、全方位へと砲門を開いた。
それは、ウニか栗のようにも見える姿で、僅かばかりの滑稽さを伴っている。
しかし、そこから放たれる力は、無慈悲以外の何物でもない。
張り巡らされた情報網からもたらされる敵の反応に向かって、惜しみ無き砲撃が連続して放たれていく。
国土全域にて、天使の殲滅報告が相次ぐ。
神造と人造の勝負は、一見して、人造の勝ちに見えた。
だが、神造天使も馬鹿ではない。
何度も砲撃される内に、威力や速度、方向からタイミングまでを見切り始めた。
ある者は紙一重で回避し、ある者たちは多重障壁を組み上げて耐えきる。
知恵なき異界の怪物とは、一味違う対処をし始めていた。
しかし、そんな物は、開発者――《蛇使い座》サラと、その協力者である刹那は、開発当初から予想していた事である。
それくらいの事が出来る者は、地球上にはザラにいると。
だから、対策だって、ちゃんと用意しているに決まっている。
「エンジェルフェザー(未完成)、起動なのだよー!」
非常に複雑な為に、いまだ構想上の最大稼働こそ出来ないが、ある程度ならば実用可能であるサブシステムを作動させた。
「スパコン、ありったけ繋ぐのだよぉ!
なんなら、民間のコンピュータも繋ぐのだよ!」
「そんな事できませんよ!」
「ウィルス感染させれば幾らでも出来るのだよ!」
「えぇ!? それ、邪道!?」
「良いからやるのだよ!」
頭の固い作業員を叱り付けて、演算機をこれでもかと接続させる。
北米大陸全土に、光の羽が舞い上がった。
それ自体には、何の破壊力も持たない、ただ綺麗なだけの代物。
しかし、アークエンジェルと組み合わせれば、凶悪な性能を発揮する。
天使に向かった砲撃がある。
彼らは、それを多重展開した障壁によって、今までと同じように弾こうとした。
しかし、砲撃は、彼らの手前にて、自ら弾ける。
間にあった、光の羽の影響だ。
無数に枝別れした砲撃は、光の羽を道標として辿り、天使たちの背後を取る。
撃ち落とす。
これまで直線的であった砲撃が、光の羽を経由する事で多角的で軌道を読みきれない物へと変化した。
これこそが、《エンジェルフェザー》の価値。
《アークエンジェル》によるレーザー砲撃を、反射・誘導させる装置である。
尤も、展開される状況は千差万別。
そして、利用できる羽も無数である為、その選択肢は膨大となる。
その為、運用においては、その膨大な計算を行う演算能力が必要とされ、計算アルゴリズムも未完成であるせいで、人力での取捨選択が現状では必要となるのだが。
「サラさん! 計算追い付きませんよ!」
「根性が足りてないのだよ! 頑張ってなんとかするのだよ!」
「この女、科学者の癖して脳筋か!」
結果、操作室は、怒号鳴り止まぬ、愉快な現場と化していた。
作業員の限界は近い。
EI-01戦「勇者、暁に死す」は、勇者王史上屈指の名回だと思います。