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怪物 vs 化け物

「ヒャァーッ! ハァーッ!

 汚物はァ! 消毒でーすッ!」


 ろくに空も見えない程に化け物たちが覆い尽くした上空。

 そこに、インクをぶちまけた様に漆黒の色が無秩序に広がった。


 一切の制御を放棄した、混沌魔力の放出である。


 それを行った本人は、天空を高速で飛翔しながら鼻唄を歌っていた。


「んっんー♪

 ケッコー香ばしくなって来ましたねぇ~」


 永久である。

 彼女は、纏う黒マントを変化させ、小型ジェットエンジン付きの二枚翼によって、空を飛んでいた。

 衣服まで含めて、全てが自身の細胞で形造られているからこその芸当である。

 思い付いたのはついさっきだが。


 その速度は、化け物とはいえ一応は生物である敵勢の追随を許さず、ほぼ一人で制空権を争っている程である。


「そぅら、もう一丁ぉー!」


 混沌魔力を奔らせた大剣を振るえば、その軌道に沿って黒がぶちまけられる。


 不安定なエネルギーであるそれは、定形を求めて近くにいる化け物たちへと殺到していく。

 それは、天然の誘導性となり、近くに巻き込んで困る味方がいない場合、四面楚歌の状況においては、下手に制御するよりも余程多くの被害を叩き出す事が出来る。


 天空から見る下界は、主に三つの戦場に別れていた。

 大雑把に北と南、そして中央のルートで進撃する戦場である。


 その内、比較的真っ当と言えるのは、ここまで辿り着いた瑞穂軍と幾らかの米軍が主となって進軍している中央ルートだけだ。

 残りの二つは、初手からして真面から程遠い様相となっている。


「んー、私が解き放っておいて何ですが、怪物此処に在り、って感じですねぇ」


 北ルートを見やりながら、永久は感想を溢す。


 北方面では、半透明の巨大な粘液が無作為に暴れ回っている。

 その正体は、ショゴスである。

 ほんの少しだけ、永久の中で芽生えていたショゴスの意思に全権を任せて、好きにせよ、と解き放ったのだ。


 その威力は、まさに怪物のそれであった。


 不定形にして不滅の化け物。

 如何なる物をも補食し、無限増殖を繰り返していく怪物。

 大火力で焼き尽くす位しか対抗手段のないそれは、敵勢のみならず、途上にあるあらゆる物を食い尽くしながら、その勢力を拡大させていた。


「どっちが悪なんだか」


 あまりにも凶悪で冒涜的な様子は、正義と言うには些か躊躇してしまう有り様であった。

 尤も、そもそもこちら側は、別に正義を謳っているつもりもないのだが。


 少なくとも、主要人物である雷裂の姉妹、特に妹の方は、そんな事を微塵も考えていないだろう。

 というか、正義か悪か、という思考すらしていない可能性が多大にある。


 そして、永久もまた、正義のつもりはない。

 ちょっとした人間関係における点数稼ぎと、最近、良いように顎で使われ続けていた鬱憤の捌け口として、戦場に参加していた。


 だからこそ、こうして危険極まりないショゴスを解き放っていたりもする。


「……まぁ、こんな戦場を造っている時点で、ぜーったいに正義ではありませんけど」


 南側を視線を向ければ、派手な火柱が丁度爆裂した瞬間だった。

 炎城の血統でありながら、何の因果か、炎熱を苦手とする体質となってしまった自分では、絶対に近付きたくない領域であった。


 そこに攻め込んでいるのは、現浮遊霊と化したアホが創り出した怪物、第二弾である。


 その名も、餓鬼(自爆装置付き)。

 廃棄領域で発生した、ネズミから突然変異を起こした怪生命体だ。


 非常に危険な性質を持つ為、美雲によってストップをかけられていた生物なのだが、先日、アルテミスに赴いた際に、こっそりと繁殖させられているのを見付けてしまった。

 あの馬鹿は何て事をしているのだ、と、その具体的な性質を聞いた永久は、戦慄を禁じ得なかった。


 そして、色々な事を躊躇しない妹の方の手によって、この戦場に放り込まれているのである。


 程好く本能を壊された形で繁殖させられているおかげで、彼らは死に対する恐怖を持っていない。

 自らの命を捨てて突撃を繰り返しており、敵に組み付いたが最後、連鎖爆発を起こしていくという、本気で倫理を投げ捨てた生物兵器である。


「まさか、炎城の伝統をこんな形で見る事になるとは思いませんでした」


 彼らに組み込まれている自爆術式は、炎城がかつて使用していた《サクリファイス》に違いない。


 南側が文字通りに火の海となっている有様を見て、確かにこれだけの戦果を上げていたのならば、八魔として名が通ってもおかしくないな、と永久は感心した。


 同時に、当時の時代に生まれていなくて良かったとも。

 もしもそうであれば、あの火炎の一部には、己の命が使われていた筈だから。


 そうならなかった幸運を噛み締めつつ、今の時代に生まれたからこその人外になった現実に挟まれて、ちょっと微妙な気持ちを抱く。


「っ!」


 そうして停滞していたのが災いした。

 危機を感じた永久は、反射的に身を翻す。


 だが、ほんの僅かに遅かった。

 化け物たちの天幕を斬り裂いて、純白の影が奔り抜ける。


 今の永久をして、目にも止まらぬほどの高速で駆け抜けたそれは、彼女の片翼を引き千切り、背後へと抜ける。


「チッ……! って、うわっ!?」


 そうして動きを止めた所に、大魔力が炸裂する。


 明らかに魔王級の魔術だ。

 火属性に染められた魔力の爆発に、永久は包み込まれてしまう。


「あちっ、あちっ、あちちっ!」


 引き千切られた翼を再生させた永久が、爆炎の中から泣きながら飛び出した。


 彼女が振り返れば、似た様な、しかし正逆に近い形をした一対の異形が悠々と飛んでいる姿があった。


「欧州の守護獣が揃ってとは……。

 随分と買い被られたものですね」


 永久は苦笑しつつ、剣を構え直す。


 手前にいるのは、白い獣。

 ねじ曲がった純白の鋭角を一対生やしており、背負うのは三対の皮膜型の白い羽。

 獣の下半身に、鳥の上半身を持ち、しかし頭部は人のそれの様だ。

 のっぺりとした白い仮面を被っている様に見える。


 奥にいるのは、黒い獣。

 頭上に輝く黒い光輪を浮かばせており、背負うのは三対の羽毛の黒い翼。

 逆に、鳥の下半身に、獣の上半身を持っており、頭部だけは共通である。

 但し、のっぺりとした仮面のような顔は、こちらは黒い。


《光を喰らう魔獣》と《闇を吞む聖獣》。

《母神》エメリーヌが最初に産み落とした始まりの双子獣であり、彼女の腹より幾度となく生み直されている、欧州の守護神獣だ。


 他の化け物たちとは明らかに違う点は、彼らが魔力を使える点だ。


 基本四属性――火、土、水、風に限るが、彼らは他の化け物たちと違い、自らの意思で使う事が出来る。

 しかも、それが魔王クラスの大魔力というのだから、厄介極まりない。


 近接戦を得意とする魔獣が、永久に向けて瞬発する。

 彼女もまた、それに合わせて剣を振り被りながら突撃する。


「うっ……!?」


 地力が違い過ぎた。

 魔力出力では互角だろうが、生物としての性能が勝敗を分ける。


 剣が腕の一振りで弾かれる。

 そうして無防備に空けられた胴体に向けて、追撃の爪が迫った。


 永久は打ち上げられた腕を強引に引き寄せるが、間に合わない。


 肉を裂く音が広がる。

 なんとか滑り込ませた彼女の両腕が、魔獣の爪で両断され、空の彼方に飛ばされる。


 そこに、聖獣から魔術が放たれる。

 見えざる風の刃が、四方八方から殺到した。


「ああ、もう……!」


 暴風に翻弄され、全身が切り刻まれてしまう。

 最後に止めと、折り返してきた魔獣が迫った。


「調子に……」


 爪を振り下ろしながら、最接近する瞬間を彼女は狙った。


「乗んなぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 永久の身体が、爆ぜた。

 変形した全身が、針山となって魔獣を貫く。


『グガッ!?』


 思わぬ反撃に、悲鳴と言うよりも困惑の叫びを上げる魔獣。


 聖獣がフォローに入ろうとするが、しかし上方から降ってきた雷が彼を貫き、それを阻む。


 見上げれば、漆黒の剣を握った両腕が浮遊していた。


「あーはっはっはっはっ!

 怪物が自分たちだけだと思うんじゃないですよぉー!」


 むにょり、と人型へと戻った永久は、落ちてきた両腕を装着しながら、勝ち誇ったように高笑いする。


 ショゴスと融合した怪物。

 永久は、彼らと比べても、全く遜色のない人外の怪物である。


 それを理解した双子獣は、慢心も油断も打ち消す。

 目の前のそいつは、全力で屠るべき敵なのだと、認識したのだ。


 三者が揃って魔力を高める。

 大空一帯が、彼女たちの威圧に飲まれて荒れ狂う。


 そして、緊張が臨界に達した瞬間、彼女たちは全力で激突した。


マッチングが多分終わったので、そろそろ個別の戦場を描いていこうかと思います。

メイビー。


まぁ、そんなに長くするつもりはないので。

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