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死病の魔王と、風炎の魔人

復活したのに影が薄い主人公の為に、後書きで今現在何をしているのか、ちょっとだけ書いてみました。


本編に載せるには、あまりにも空気が……。

 ヴラドレンの襲撃を皮切りに、南側、中華連邦からの干渉も本格化する。


「鉄心門ッ! 剛体法七番にて迎え撃つぞ!」

「「「応っ!!」」」


 ヴラドレンの龍咆によって半壊したマジノラインは、地上へと下降線を辿っている。


 一方で、速度は変わらず音速を突破していた。


 その勢いを削るべく、土属性の中でも身体を鉄の如く硬くする、防御特化の門派が向かう先で待ち構えていた。

 急速に落ちてくる巨大隕石の如き圧は、如何なる攻撃にも耐えて見せると普段から豪語している彼らであっても、思わず逃げ出してしまいそうな程であった。


 それでも、信じる神の為に、と、命を張って彼らはそれを受け止める。


 衝突する。


 如何に覚悟を決めていようとも、所詮は普通の人間でしかない。

 あまりの重量と速度の前に、彼らは容易く踏み潰されてしまった。


 しかし、全ての魔力と命を使う最後の足掻きだろうか。

 マジノライン三式の巨体を僅かに揺らす程度の障害物となる事は出来ていた。

 本当に僅かであり、影響としては数秒程度の時間を足止めしたに過ぎないが、凡人の意地とも言えた成果であった。


 そして、その僅かな速度の落下に、付け入る者がいた。


「よくやったネー」


《疫災》趙紅花が、マジノラインに取りついた。


 魔王たちの中では、然程、頑強ではない彼女では、トップスピードに乗ったマジノラインにはまともに近寄る事は出来ない。


 しかし、ヴラドレンへの対処に空へと上がった事、そして勇士たちの命がけの足止めのおかげで、彼女が接近するだけの速度にまで低下させる事が出来ていた。


 紅花が、魔術を発動させる。

 腐食効果のある細菌が伝わり、分厚く頑丈な装甲が急速に劣化していく。

 錆び付き、穴が穿たれ、ガタガタに分断され、崩れ落ち始めた。


「キヒヒ、このまま壊してあげるですネー」

「やらせる訳ねぇだろうがッ!」


 装甲の一枚が剥がれ落ちた所で、炎を纏った飛び蹴りが飛んできた。

 魔力を感じさせないそれは、彼女の反応を遅らせるに充分な奇襲であった。


 直前で気付いた紅花は、咄嗟に退いて回避するが、僅かに腕に掠り、皮膚が瞬時に沸騰した。


「……何者ですかネー」


 爛れた皮膚に手を当て、本来の命属性らしい回復魔術を発動させながら、彼女は襲撃者を見据える。


 風属性らしい緑の髪色をした少年。

 にもかかわらず、纏うは灼熱の炎熱。

 左腕には重厚さを感じさせる鋼の義手を装着している。


 見覚えは、あるような気がしないでもない。

 何かの軍議の中で、少しばかり語られていたような気もする、かもしれない。


「フッ、名乗るほどのもんじゃねぇぜ! 風雲俊哉だ!」

「どうやら馬鹿のようであるですネー」


 思い出すのも面倒なので、即座に死病を放つ。

 人間程度の免疫能力では、到底太刀打ちできない危険度だ。

 感染すれば、二秒とかからずに全身がグズグズに崩壊してしまう。


 そんな病原菌が、目に見える密度で幕となって振るわれる。


 だが、俊哉はそれに恐れずに突っ込む。


 炎の鎧を全身に纏い、それを風魔術で煽って火力を更に高めながらの突撃。

 無謀にも思える突進だったが、しかし彼は無事に突破した。


「超怖ェェ……! だけど、行けそうだな!」

「……面倒であるですネー」


 閃熱のムラクモを作った俊哉は、肉薄した紅花へと振り下ろす。

 それを慌ただしく回避した彼女は、相性の悪さに眉を顰めていた。


 熱。


 それは、生命体にとって絶望的なまでに効果のある無力化手段である。


 彼女の生み出す病原菌は、命属性で生み出された仮初の命とはいえ、生命体の一種だ。

 その為、その弱点は克服しきれる物ではない。


 幾ら、彼女が丹精込めて熱に強くあれと生み出しても、その耐性には限度という物があった。


 俊哉の纏う炎は、その限界点を超えた温度に達していた。


 通常であれば、だからと言って慌てるほどの事ではない。

 この程度の対策など、今までにされた事は何度もある。


 しかし、彼女が持つ対策への対策は、現状では効果を発揮しそうになかった。


 一つは、息切れを待つ事。

 魔力量には、当然、天井がある。

 仮にもSランクである自分と、一般魔術師では、その保有量は文字通りに桁が違う。

 それに、呼吸も問題だ。

 病原菌を吸い込まないようにするとなれば、呼吸一つにも苦労する。

 だから、その息継ぎの瞬間を狙ってしまえば、充分に倒し得た。


 もう一つは、普通に倒してしまう事。

 あまり得意分野ではないとはいえ、紅花は魔王と呼ばれる魔術師である。

 その強大な魔力で全力で身体強化してしまえば、大抵の輩は性能差によって圧倒できる。

 技量の不足は、性能の高さと、命属性特有の生命力の高さで補ってしまえる程度の差でしかないのだ。

 なんならば、接近して口などの穴に、直接ねじ込んでやっても良いのだし。


 だが、目の前の相手はそれらが通じそうにない。


 彼が纏う炎からは魔力を感じない。

 どういう訳だが分からないが、そうなると魔力的息切れは期待できない。

 では、身体的な息切れはどうかと言えば、こちらは微弱な風属性魔力によって補っていた。

 緑髪からも察せられるように、彼は風属性なのだろう。

 実に無駄のない緻密な操作であった。

 あれでは、並の魔力量でも長続きするだろう。


 そして、頼みの近接戦だが、これが意外なまでに苦戦を強いられている。

 紅花の魔王というブランドに惑わされる事なく、しっかりと未熟な体術に対応している。

 まるで、足りない力で格上へと挑みかかる事に、手慣れているかのようだ。


 それでも、それだけならば強引に組み伏せる事も出来ただろう。


 最後の問題が、俊哉の炎剣が持つ異常なまでの火力だ。

 魔王の身体能力と再生能力を易々と突破して、一撃で致命となり得るほどの熱量を持ったあれは、非常に危険だった。

 その所為で、まともに接近できずにいる。


 相性が悪いにも程がある。


 なので、拘りのない紅花は逃げる事にした。


「キヒヒッ、一発かましたし、充分であるですネー。

 これにて、おさらば♪」


 言って、再加速に入り始めたマジノライン三式から、彼女は軽快に飛び降りた。


 また隙を見せた所で適当に突けば良い。

 無理に勝ちにくい戦いに拘る必要はない。


 そんなあっさりとした思考が、彼女の足を容易に逃走に向けた。


「逃がすかッ!」


 俊哉は、それを追って、同じく飛び降りる。


 紅花は大量殺戮のプロだ。

 対抗手段を持たない者では、その強さに関わりなく、本当に簡単に殺されてしまう。


 事実として、今、マジノライン三式内にいる戦力で彼女と戦える者は、自分と美影の二人しかいない。

 久遠も戦える条件は揃っているが、彼女はヴラドレンの相手で手一杯であろう。

 呼び戻す事は出来ない。


 だから、ここで自分が抑えなければならないのだ。


 飛び降りれば、超速移動要塞という防御壁が失われる。

 その先にあるのは、中華連邦という敵陣の真っただ中だ。

 袋叩きに遭う以外に考えられない。


(……だから、どうした!)


 元より、いつでも死ぬ覚悟はしている。

 そういう家に生まれたから。

 だから、いつか何処かでゴミの様に死んでも良いように覚悟してきた。


 それが、今、来ただけの事だ。


 飛び降り、離れていく俊哉に、彼方から魔力の塊が飛来した。


 雫からの魔力供給である。

 通常魔力と、魔王魔力の混合。

 餞別だと受け取った彼は、その内、魔王魔力を義手に内蔵されている魔力貯蔵装置に放り込んでおく。

 いざという時の切り札にはなるだろう。

 普段使いするには、些か凶悪に過ぎる。


『マジで余裕がねぇんだ。それで我慢しやがれ、です。

 ……トシ、死んだら許さねぇぞ、です』


 マジノライン三式の動力の全てを賄っている雫である。

 この後の欧州戦も考えれば、幾ら彼女の魔力量といえど、無駄遣いする余裕はない。


 これは、彼女がどうにか絞り出したせめてもの援護であった。


 俊哉は、通信機越しに届いた声に、笑って応えた。


「おう。勿論だ。

 ちゃんと帰ってくるから安心してろ」


 死ぬ気だったが、死ねなくなったな、と内心で苦笑する。


 自分が死ねば、少なくとも一人の女の子が泣く。

 自分を好きだと言ってくれる女の子が、である。


 男としてそれはどうよ、と彼は自分の覚悟を捨てて思い直した。


「いっちょ、程々に頑張りますかぁー!」


 必ず生きて帰る。

 決意を新たにした俊哉は、死病の魔王を追って空を走り始めた。

ウルトラSS:「主人公、車内販売中」



 車内は慌ただしい様子であった。

 マジノライン三式に何とか取り付こうとする敵戦力を牽制する為である。

 そもそも、マジノライン三式はほとんど砲門を装備していない。突貫作業で造り上げられた急造品という事もあるのだが、何よりも高速を維持する為に、あまり重量を増やせなかったのだ。

 その為、乗車している者たちで対処する必要があった。


「ばら撒けばら撒け! 当たらなくても良い!」

「少し足止めできれば置いてけぼりだ! とにかく近寄らせるな!」

「おい! 右舷側に回り込まれてっぞ! 手を貸せ!」


 この後に欧州戦を控え、それまでに回復できる魔力量を考えながらの牽制射撃は、中々に神経を削る作業だった。

 おかげで、彼らは殺気立っており、あちこちで怒声が響いていた。

 そんな中に、半透明な浮遊霊が飛来した。


『こちら車内販売である。飲み物に軽食はいらんかねー?』


 場違い感が半端ないが、僅かな休息が得られるのならば、細かい事はとやかく言わない。

 彼の売り文句を聞いた者たちは、口々に注文を言い放った。


「お茶! あっついの頼むわ!」

『むっ。残念だが、それは売り切れだ』

「こっち、コーヒー頼むぜ! 眠気が覚めるような特濃のをな!」

『それも売り切れである』

「ちょっと何かつまめるもんくれねぇか!? おにぎりとかサンドイッチとか!」

『それもないな』

「何もないな、テメェ! じゃあ、何だったら売ってんだよ!?」


 うむ、と浮遊霊は頷き、堂々と答えた。


『油を売っている』

「「「舐めてんのかテメェ、働け!!」」」


 苛立っていた面々は、躊躇も容赦も浮遊霊に攻撃を叩き込んだ。

 しかし、効果はなかった。


『はっはっはっ、愉快愉快。では、さらばだ諸君。頑張ってくれたまえ』


 煽るだけ煽って、悪霊は何処かへと消えていった。

 残された面々は、怒りの矛先を敵勢に向けて、鬱憤を晴らすのだった。

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[一言] トッシーの安定な当て馬ぶりにほっこり。
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