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祭りの足音

言うべきことが何も思いつかない……。

あっ、本編をどうぞ。

「ただいま、っと」


 言いながら、刹那は暗い部屋に明かりを灯す。

 陽が完全に落ち切った時間まで決闘をこなしていたのだ。


 正直、見所がありそうな挑戦者はほとんどいない。

 今日は登校前に一戦、昼休みに三戦、放課後に一二戦もこなしたが、その中で光る物があると感じられたのは、昼休みの一戦目に戦った四人組だけだ。


 他の者たちは、確かに学内ランキングで上位に食い込むだけの事はある力量は持っていた。

 だが、それは保有する魔力量による物で、創意工夫という点に欠けていた。


 実につまらない。


 しかし、四人組は卑怯者の誹りを恐れず徒党を組み、連携を考え、戦術を組み立てて、確殺の意思を込めて襲い掛かってきた。

 魔力量にあかせたゴリ押しばかりに飽き飽きしていた刹那も、一度は完全に油断を突かれ、策にはめられたものだ。

 決闘では念力を使わないと自分に枷を課していた為、雷撃を受けた時点で通常の人間なら致命傷となっていてもおかしくない負傷を負ったものだ。


 すぐに超能力式身体強化を自己治癒に特化させ、更には超能力式治癒を行った為、見た目にはノーダメージだった様になったと思われるが、実際にはあの一瞬はそこまで追い詰められていたのだ。

 あと一手、追撃があれば、手段を選ばなければ死にはしないし、継戦能力も残っていただろうが、素直に称賛して負けを認めていただろう。


 彼らには今後も頑張ってほしい物だ、と内心でエールを送る。


「さてと、それはそれとして……」


 決闘の事はついでの様なもので、刹那の本業とは関係ない。


 気持ちを切り替えた彼は、多面情報収集システム《サウザンドアイズ》を起動する。


 瞬間。


 脳内に宇宙が広がった。


 ……………………。


 数秒程、意識を飛ばしてしまう刹那。

 なんとか復帰した彼は、必要のない情報を切り捨てていき、なんとか扱えるレベルまで精度を落とす。

 それでも、頭が熱病に侵されたようにぼんやりとして感じるが、仕方ないのだ。


 魔力を感じる事の出来ない刹那では、何らかの機器を通してでしか、それを察知できない。

 その何らかの機器で最も精度が高い物が《サウザンドアイズ》なのだから、それを活用しない手はない。


(……隔離区画にバレずに入り込むには、最適だしな)


 隠密性に優れている為、こっそりと情報を盗み取るにはうってつけなのだ。


 刹那の意識は、《サウザンドアイズ》を通して、高天原の奥地、危険実験素材隔離区画へと入り込む。

 そこには、合法非合法を問わず、危険性の大きい様々な物品が格納されている。

 暫く意識がそこを彷徨う。

 中には、天帝辺りに報告した方が良いのだろうか、と悩ませる様な品もあり、見ていてとても楽しい。


 そのうち、目的物を発見する。


《嘆きの道化師》構成員三名である。


 剛毅がいた事から分かっていたが、ちゃんと届いていたようだ。

 魔術を用いた重犯罪者に対して施される処置をされており、実に哀れな姿をしている。

 プルプルと震えている事もその印象に拍車をかけていると思われる。


(……まっ、トラウマ直球だろうしな)


 天帝と、ついでに合衆国大統領に見せる為のパフォーマンスとして、最適な素材を探している内に、《嘆きの道化師》へと辿り着いた。

 殺す事になっても文句――人権団体とかは言うだろうが――を言われない犯罪者で、黒幕に繋がっている可能性が極めて高く、そしていつ使い潰されてもおかしくない存在、と条件を絞っていくと、彼らがヒットしたのだ。


《嘆きの道化師》は、元はとある実験の被験体だった。


 その名も、人造魔術師計画。


 内容は、読んで字の如しであり、先天的資質によってほとんど決定される魔術的才能を、後天的に付与しようという物だ。

 程度の差こそあれ、何処の国でも大なり小なり研究されている分野である。

 とはいえ、その性質上、どうやっても人体実験が必須になる関係で、ある程度以上の法治国家では机上の理論止まりとなっている事が多い。

 そういう国家は躍起になって魔術師を増やさなくても十分な数が確保できている為、という理由もあるが。


 しかし、魔術後進国であり、人権や人命の価値がリーズナブルな国家や組織だと、平気で非人道的実験にも手を染める。


 彼らは、そうした実験の被害者だった訳だ。


 ありがちな話で、とても悲劇的である。

 成功の可能性がゼロという部分が、特に。


 刹那も一時は研究した事のあるテーマなのだ。

 だから、自信を以て言える。

 絶対に無理だ、と。


 そもそも、地球人類と魔力は相性が悪い。

 通常の進化を辿っていれば、魔力などというエネルギーが人類に宿る筈がなかった。


 それを実現させている者が、始祖だ。

 魔王クラスをも超える、魔力に対する絶対権限保有者、真の魔王である。


 その者以外では、相性という基本原則を越えて魔力を人類に付与する事は出来ない。

 である以上、人造魔術師計画は成功する可能性はないのだ。


 成功する筈のない実験で使い潰される筈だった彼らだが、突然、囚われていた研究施設を破壊して逃走している。

 魔力評価はF~Eランクであり、また無茶な改造実験の影響で全身がガタガタだった彼らが、自力でそれを出来る訳がない。

 手引きした誰かがいる筈だった。


 そして、再度、彼らが現れた時、その力が大幅に増していた。

 BランクからAランクの魔力を宿していたのだ。


 ほとんどの国家や組織は、恐怖すると同時に歓喜した。

 人造魔術師計画は成功するのだ、と。


 刹那を含めた、一部の者は気付いた。

 始祖がいる、と。


 とはいえ、それだけだ。

 正直な所、だからどうした、というのが気付いた者たちの総意だ。


 常軌を逸した刹那の超能力でも、始祖の姿は捉え切れないのだ。

 目的もはっきりとしない以上、先んじて手を打つ事も出来ない。

 ならば、放っておくしかない……なかった。


 刹那が、魔力で何が出来るのか、という事を突き止めるまでは。


 最悪、地球が滅びかねない、という事実に気付いてしまっては、捉えられないだとか目的が分からないだとか、そんな悠長な事を言っていられない。

 何をしようとも、対処はしなくてはならない。


 まずは、脅威の証明だ。


 天帝や合衆国大統領は、刹那と交流があり、彼の冗談と本気の境界線を感覚で判断できる。


 だが、世界はそうではない。

 である以上、脅威を目に見える形で証明してやらねばならない。

 その為に、壊れかけの玩具である《嘆きの道化師》を捕らえた。


 牢の中に放り込まれている彼らをスキャンする。

 何重にも隠蔽されて、そこらの装置で探った程度では分からないだろうが、あると決め打ちして本気で探れば見つけられる。


 彼らの奥底に隠された、魔力の種子を。


 それがちゃんと埋め込まれている事を確認出来て、刹那は満足げに頷く。


「準備は着々と。

 あとは餌の用意と……お祭りの時の避難計画かね」


 力の授与はされていても、そのまま、力を力としたまま使われては意味がない。

 ただのテロリストとして処理せざるを得ず、結局、また候補の選択から始めねばならなくなる。


 そうならない為には、餌が必要だ。

 思わず食い付きたくなるような、そんな魅力的な餌が。


《サウザンドアイズ》と切断した刹那は、通信端末を手に取る。

 手打ちで番号を入力し、コールする。

 ワンコールで繋がる回線。


「あっ、もしもしー?

 わたくし、雷裂 刹那ってもんですけどー。

 天帝陛下はいらっしゃいますかねー?」


 そういえば、俊哉少年を見かけない。


~~~~~~~~~~


 美雲が生徒会の仕事を終えて、寮室へと戻ると、室内に明かりは灯っておらず、暗闇に包まれていた。


 いつもなら同室の美影が既に帰宅している時間なのだが、学校が始まって以来、何故だか帰ってきていないのだ。

 普通に考えれば、非行にでも走ったか、グレて家出でもしたか、と考えるところだが、美影がそんな真っ当な感性をしているとは、欠片も思っていない美雲。


 きっと何処かで新しい玩具でも見つけたのだろう。

 飽きれば帰ってくる。


 そんな程度の認識だ。

 あれでも女の子で良い所の御嬢様でもある以上、誘拐などの危険性もあるが、彼女自身の破壊力が高く、また刹那が大切にしている人間でもある。

 彼の千里眼を突破して危害をもたらす化け物など、心当たりが無さ過ぎる。

 その為、美影の安全を疑ってなどいない。


 二四時間開いている大浴場で軽く汗を流して戻ってきた美雲は、明日の準備を始める。


 静かに、時計の針が刻む音と美雲が端末を操作する音だけが支配する。

 そんな空間に、異変が訪れる。


 空間が歪んだのだ。


 察知した美雲は、反射的に魔術デバイスを起動させ、片手に拳銃を顕現させる。

 だが、その警戒心もすぐに薄れる。

 出現した空間の歪みに、魔力が一切感じられなかったからだ。

 つまり、これは空属性による異変ではない。

 となれば、答えは一つ。


 刹那がやってきたのだ。


 その判断を証明するように、数瞬後にはスーツ姿の少年がそこに立っていた。


「こんばんは、賢姉様。

 本日も大変に美しく俺の心はドキドキバクバクが止まらない」

「あはは、こんばんは、弟君。

 君も派手に活躍しているみたいね。

 五十嵐先生、あまりの忙しさに泣いているみたいよ?」

「なぁに、大丈夫だとも。

 人間とは慣れる生き物だ。一か月もすれば当たり前の様にこなせるようになるとも。

 まぁ、一か月もこの熱狂が続くとは思えないがね」

「……まぁ、途中で弟君には勝てないと悟り始めるのが多いでしょうけどね」


 余程、追い詰められなければ、負けてあげる気はないのだ。

 たとえ、美雲が相手でも、理由がなければ刹那は勝ちを譲ってはくれないだろう。


 それが分かっているから、その内、熱狂は冷めて諦めていくだろう。


 才能が違う、格が違う、と適当な理由を付けて。


「まっ、それでも食い下がってくる奴がいれば、とことん遊んでやるのだがな!

 クククッ、どれだけ残るやら」

「趣味悪いわよ、弟君。

 ……それで、何の用なの? こんな時間に」


 美雲が問えば、刹那は不思議そうに首を傾げる。


「弟が愛しい姉に会いに来てはいけなかったか?」

「うーん、いけなくはないんだけど、弟君、貞操関連はかなり厳しいから。

 ちょっと違和感あるかなー、って」


 自分の理性という物が、存外に脆い事を知っている刹那。

 故に、大切な者たちを傷付けない為にも、理性を試される様な事は可能な限り避けている。


 この様な、夜も遅い時間に、風呂上がりで一人でいる美雲の許を訪ねる。

 そんな事を刹那はしないだろう、というのが美雲の感想だ。

「流石は賢姉様。俺の行動は逐一お見通しですね?

 うむ、実は用事があってね。と言っても、緊急の用件ではない。

 取り敢えず、まずはこれをどうぞ」


 言って、冊子を差し出す。

 手に取って、その表紙を見てみれば、女の子の丸文字の様な可愛らしいフォントで、


〝ドキドキ♡魔王釣り大作戦!! ポロリもあるよ!〟


 と冗談の様に書かれている。


「……これはツッコミ待ち?」

「分かり易いと思ったのだが、お気に召さなかったかね?

 ちなみに、ポロリは生首の意味だ。性的な意味合いは含まれていない」

「うん、それは分かるんだけど……分かっちゃう自分がちょっと嫌」


 嫌そうにしながらも、美雲は冊子のページをめくり、中身を確認していく。

 すると、すぐに渋面を浮かべる。


「……キャストの中に、餌って欄があるんだけどね。

 ちょっと訊いて良い?」

「どうぞ」

「天帝って書かれてるの、何の冗談?

 あと、クソヤンキーとか書かれてるんだけど、もしかしなくてもアメリカ大統領?」


 確かにヤンキーみたいな見た目をしているが、その呼び名はどうかと思う、と内心でツッコミを入れる。


「ちゃんと天帝の爺様には確認したぞ?

 祭りに参加してくれるそうだ。

 ヤンキーは呼べば来るだろ、ヤンキーだし」

「……確認したなら、まぁ、良いのかしら?

 うん、良いって事にしておきましょう。

 それで、私の役目は……避難誘導?

 確かに、生徒会長の肩書ならそれくらいは出来るけど、もっと公的機関にでも任せた方が良いんじゃないかしら?」


 避難指示を出す正当性はあるが、口が足りない。

 何千人、何万人という人間を同時に誘導するのは無理である。


「安心するのだ、賢姉様。

《サウザンドアイズ》の使用許可は下りている」

「ちゃんと許可を取るって発想があったんだね」


 プライバシーや機密という概念をぶっちぎる代物である為、《サウザンドアイズ》の使用には許可を取らねばならないのだが、刹那は面倒臭いとばかりに無断で勝手に使っている。

 一応、そのシステムは監視されており、使用すれば分かる筈なのだが、そこは製作者特権としてきっちりと抜け道が用意してあるのだ。


「ふふふっ、俺は遵法精神旺盛だからな。

 それで、だ。

《サウザンドアイズ》によって全一般民の最適避難経路を割り出す事は簡単だろう?」

「できるけど、口が足りないわよ?」

「そちらの用意も万全だ」


 そう言って、小箱を取り出す。

 見栄えの良い箱だ。

 それを、気取った仕草で美雲に向けて開く。

 中にあるのは、一つの指輪。

 銀色の宝玉を装飾された、とても美しい指輪だ。


「なぁに、これ? 結婚指輪?」

「それは三年後に、収入三年分をつぎ込んだ一品を用意するとも」

「岩みたいな大きさのダイヤでも持ってくるの?」

「かもしれんな。ともあれ、これはそういう物ではないぞ」


 美雲の右手を取り、その中指にリングを通す。


 瞬間。


 彼女は自分の中身が変化した事を感じ取った。


「……ああ、そういう。

 これがそうなんだ。完成してたんだね」

「まだまだプロトタイプだがね。

 改良の余地は大いにある。

 が、取り敢えず今回の祭りには十分だろう」

「うん、そうね。これなら、十分に役割を果たせるわ」


 はにかむ美雲。

 思わず見惚れそうになる自分を律しながら、刹那は話を進める。


「では、具体的な避難計画と、戦闘員の配置を詰めていこう」

「分かったわ」


 端末を操作し、二人の間に大きく高天原の地図を表示する。

 と、そこで一つ、思い出した美雲は、忘れない内に訊ねる。


「そういえば、最近、美影ちゃんが帰ってきてないんだけど、弟君、何処で何してるか知ってる?」

「愚妹なら、新たな《ア・バオ・ア・クゥ》と楽しく遊んでいるぞ」

「……相手は御愁傷様ね。

 あの子、手加減が絶妙過ぎるから、絶対、死ぬ寸前まで追い込んでるわよ」

「むしろ、殺して生き返らせて、を繰り返しているのではないか?

 あれでやる事が多彩だしな」


 という訳で、俊哉少年を見かけない。


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