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プロローグ:宣戦布告

章分けしてますけど、四章からのタイムラグほぼ無しの続きですので。


初っ端から鉄火場スタートです。

 白亜の大聖堂。

 神々しい光のヴェールが降り注ぐそこは、隆盛を誇る宗教の総本山。

 かつてから今に至るまで、人々の信仰を一心に受け止めてきたそこは、欧州の中心部とも言える場所だ。


「お、おお……。おおおおおお。

 なんて事でしょう……」


 その中で、偉大なる神へと祈りを捧げていた老人――現在の教皇猊下は、神よりもたらされた神託に、その身を震わせる。


 彼の内心には、幾つもの感情が渦巻いていた。


 一つは、感謝。

 いつもいつも人々を見守って下さっておられる主への、せめてもの返礼としての感謝だ。


 一つは、歓喜。

 そんな偉大なる神が、わざわざ矮小なる己に言葉を送ってきてくれた事に、この上ない光栄と喜びを抱く。


 一つは、憤怒。

 そして、そんな心優しき偉大なる神へと、不遜にも弓を引く救い難き愚者が地上にいるという事に、堪え難き怒りを覚える。


「…………分かり申しました。

 必ずや、邪知暴虐の輩を、我らが手にて屠って見せましょうぞ」


 下された神託に、教皇猊下は深く首を垂れる。


 そこには、具体的な指示が含まれている訳ではなかった。

 ただ、その様な愚か者がいると伝えられただけだ。


 だが、それだけで充分である。

 敬虔なる神の僕として、やらねばならない事は明確である。


 彼は立ち上がると、聖杖を床に打ち付ける。

 シャンシャン、と、澄んだ音が高らかに鳴り響いた。


「……聖戦である」


 教皇の目には、狂ったような強烈な光が宿っていた。

 彼は、再度、大きく吠える。


「愚かなる神敵に、神の裁きを下さねばならぬ!

 我らが正しき信仰にて、信仰を知らぬ邪知暴虐なる者たちに、死の浄化を与えん!」


 杖を高々と掲げ、


「今ここに、教皇の名において、聖戦の発動を宣言する……!」


 戦の始まりを、宣言した。


~~~~~~~~~~


「……神に背いた叛逆者を誅殺する、正しき戦争を宣言する、だそうだぜ、おい」

「……いや、実に珍しい宣言を受けたものですね。

 ここ二百年は忘却されていた思想でしょう。

 ……良かったですね。

 歴史に名が刻まれましたよ。

 神の敵として」


「うるっせぇな、おい。

 この激動の時代、とっくにオレの名なんざ残ってんだよ」


 バチカンを筆頭として、合衆国と瑞穂を除くほぼ全ての国から宣戦布告が、両国の政府組織へと届いていた。

 ホワイトハウスの中で、それを読んだスティーヴン大統領は、そのあまりにもあんまりな内容に呆れを多分に含んだ冷たい視線を禁じ得なかった。


 というのも、今の時代、宗教というものは、ほぼ廃れているからだ。

 人の歩んできた文化としては残っているが、熱心に神に祈ろうという動きは、二百年前の三次大戦によって崩壊している。


 なにせ、人が滅びる寸前に至って猶、神は人を救わなかったのだ。


 救ってくれたのは、始祖魔術師。

 彼女が、神か、神の使いでも名乗っていれば違ったのだろう。

 しかし、当時の彼女は、あくまでも一人の人間だと言って、戦争を止め、人々の救済を行った。


 神は人を救わない。

 人を救えるのは、人だけである。


 それが、終末戦争を経験した人間の得た教訓であった。


 故に、世界中のあらゆる宗教が廃れていき、文化としての形が僅かに残るばかりであった。


 そんな状況の中での、聖戦である。

 もはや呆れるしかないだろう。


「まぁ、呆れてばかりもいられません。

〝今〟は、我々の方が異端なのですから」


 全世界規模の精神干渉によって、人々の心には無意識の神への依存が植え付けられていた。

 彼ら自身、つい先日まで、何かにつけては神に祈りを捧げていた。


 屈辱的な事である。

 自由意志を侵す許されざる大罪と言える。


 全てを事後報告に回したサラには苛立ちもあるが、同時に精神干渉を解除した功績に多大な感謝があった。


「困ったもんだよなぁ、おい。

 今からでもカミ様に祈れば、許してくれるかね?」


 冗談めかした大統領の言葉に、秘書は鼻で笑って応じる。


「そんな形だけの祈りで許してくれるほど、チョロい存在でしょうかね」

「大丈夫じゃねぇの?

 カミ様、別に人間の事なんざ大して見てねぇだろ?

 なぁ、おい」


 スティーヴン大統領は、馬鹿にするような笑みで言い放つ。


「オレたちが祈ったって、やっこさんは救っちゃくれねぇんだ。

 じゃあ、自分たちだけで頑張るしかねぇじゃねぇか、おい」

「……そうですね。その通りです。

 私も、絶望的な腹痛でトイレに籠っていた際に、不覚にも神に祈ってしまった事がありますが、救っては下さいませんでしたし。

 私を救ってくれたのは、人の技、整腸剤でした」

「……それを神の所為にするのはどうなんだよ、おい」


 そんな事で信仰心を失ってしまうカミの人望の無さに、スティーヴン大統領は涙を禁じ得ない。

 あまりにも可哀想だから、二度と人様に関わってこないように、きっちりと滅ぼしておこうと決意する。


 馬鹿な話はさておいて、スティーヴン大統領は宣戦布告の資料を放り出して、もっと現実的な方向に話題を移す。


「そんで? 軍の動きはどうなんだよ、おい?」

「既に展開を始めております。

 瑞穂と協力し、バチカンを挟撃で落とします。

 成功確率は……まぁ、4割という所でしょうか」

「……微妙な勝算だよなぁ、おい」

「賭けるには、充分かと」

「オレは百%勝てる勝負しか賭けない主義なんだがね」


 やれやれ、と肩を竦める。

 とはいえ、だからと言って作戦中止を言う気はない。


 これは、人間の尊厳を賭けた、まさに聖戦なのだ。


 神の家畜となるか。

 自らこそが運命を紡ぐ者と名乗り上げるか。


 それを決める戦である。

 負けそうだから止める、などという選択は許される物ではない。


「信じましょう。我らの魔王たちを。

 神さえも屠る力があると」

「まっ、そうだな。

 幸いにして、異界の神はこちら側だしなぁ、おい」


 神を名乗る何かに牙を届かせ得る人材は、叛逆者側にはたった二人しかいない。


 ノエリアと、美影である。


 作戦の第一段階は、彼女たちを神の御許まで無事に送り届ける事である。

 それが出来なくては、そもそも戦いにすらならない。


「もはや手は打ち終えた、か。

 待つしかない身ってのは、辛いねぇ」


 様々な利害を放り出して、合衆国と瑞穂の二国は絞り出せる限りの全ての戦力を抽出した。

 世界を相手に喧嘩をするのだ。

 それくらいしなければ、話にならない。


 もしも負ける事があれば、この二国はその歴史に終止符が打たれるだろう。

 それを彼らは覚悟する。


「……オレたちの国は、自由の国だ。

 人間が持つ自由意志の力、精々見せつけてやろうじゃねぇか。

 なぁ、おい」

「ですね」


 戦いのゴングが、世界中に鳴り響いた。


こういう宣言的な物って難しいですわ。

世の扇動家って、センスありますよね。

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