亡霊の期待外れ
本日二話目……!
やれば出来るんじゃ!
いつもやれよ、って文句は受け付けないぞ!
そろそろ四章締めて、今回は閑話挟まずに五章入るつもりだから、巻きでお送りしとるとです!
……どれだけ巻けるかは分かりませんけど。
前話を未読の方は、そちらからどうぞ。
「よくもまぁ形が残っておるな」
とある廃棄領域。
その奥地に残された、かつての人間の都市の残骸。
ノエリアは、その中へと足を踏み入れていた。
場合によってはこれからいきなり戦闘に発展するかもしれない。
その為、人間に迷惑をかけない為に、このような廃墟へとやってきたのである。
蔓延した毒素に適応する為、異常進化した植物に飲み込まれた都市の中に、かつて隆盛を誇っていた宗教施設があった。
廃教会。
まさにそのような有様である。
壁は崩れ放題、屋根も崩落し、象徴であった十字の印は圧し折れて樹木の根の下に埋もれている。
内部にも、植物の侵食は進んでおり、教壇と僅かなステンドグラスの一部が残っているだけで、一見して教会のようには見えないだろう。
まるで、現在の衰退した宗教文化を象徴しているかのようである。
「二百年も放置され、自然に晒されるままだったのじゃから、これだけ形が残っておるだけ御の字じゃろうな」
根の隙間を潜り抜け、デブ猫は教壇の上に飛び乗る。
肉球のある前足で、荒れた表面を何度か叩いて具合を確かめる。
「うむ。用を為すには充分じゃの。
この様な地にまで力を巡らせるなど、随分とマメな事よの」
呆れたように笑い、彼女は霊格を解放する。
〝守護者〟にして〝救世主〟としての存在が拡大した。
鼓動のように脈打ち広がっていく影響力は、廃教会に残されていた聖域に触れる事で侵食を開始する。
「――見つけたわ」
聖域へと繋がったノエリアは、その主を見つけ出すと、己の意識を侵入させるのだった。
~~~~~~~~~~
濃淡のある白が、オーロラのように揺らめく。
その中を、美しい女性の姿をした異形が浮遊する。
もはや懐かしさすら覚える、ノエリアの星霊としての姿である。
光の八枚翼を背負い、頭上に天輪を掲げた彼女は、羽衣を妖しく揺らめかせながら、彼女は白い空間を進んでいく。
「なんとも演出的じゃの」
向かう先には、陸地が浮かんでいた。
二つに分かれた陸地が上下に並んでおり、それらを石造りの階段が繋いでいる。
階段の両脇には、白石で出来た柱が並んでおり、まるで何かの神殿のようである。
「まぁ、まるで、というか、そのものであるのじゃがな」
最初から上の陸地を目指しても良いのだが、せっかくの演出なのだから、風情を楽しもうと下の陸地に着地したノエリアは、自らの足で一歩一歩階段を登り始めた。
「ふむふむ。面白い仕掛じゃの。
ククッ、神の試練のつもりかの?」
彼女は、階段の仕掛けを見抜き、楽し気に笑う。
神の御座へと至る道行きは、試練に彩られているものだ。
それは、この階段も例外ではない。
御座へと吹き降ろす神の威圧は、まともな人間の精神であれば、何らかの感情が湧き上がる物である。
恐怖か、不安か、絶望か。
どうやら、それらの感情に反応して、足取りを重くさせる作用があるらしい。
尤も、同じ位階に存在しているノエリアには、関係のない事である。
何一つとして、彼女の行く手を阻む感情は生まれる筈もない。
ノエリアは、軽い足取りで悠々と登っていく。
妨害は特になかった。
歓迎されている訳でもないだろうが、対話を拒絶するほどに狭量ではないらしい。
遂に登り切った彼女は、正面を見据える。
荘厳さを称えた玉座。
神々しい後光を背負ったそこに、白と金の法衣を纏った少年が座っている。
おそらく、という言葉を付けざるを得ないが。
小柄な身体は線が細く、ゆったりとした服装故に詳細な体型は判然としない。
煌めく白銀の髪は、肩口までの長さをしており、男女どちらでも通用する。
なにより、正体を判別する重要な要素である顔立ちが、全く分からない。
無貌の神。
そうとしか言えない存在が、そこにいた。
「初めまして、と言っておこうかの。
メシア殿よ」
〝救世主〟と呼ばれた神は、手にしていた聖杖を、高く大地に打ち付けて鳴らしながら、音を発する。
『異界の亡霊が。
土足で我が領域に踏み込むとは。
礼儀を知らんらしい』
「亡霊とは、散々な言われようじゃの。
全く否定の余地もないが」
故郷を失い、使命を失い、無念と諦念ばかりを胸に彷徨うだけだったノエリアは、まさに亡霊そのものだろう。
民が僅かばかり戻ってきたが、それは彼らの尽力のおかげであり、ノエリアが何かをした訳でもない。
役立たずそのものである。
「さて、まぁ、我の事はどうでも良いのじゃが……汝はどうするつもりなのかのぅ」
『……何の話だ』
「分かっておるじゃろうに、のぅ?
敵をどうするつもりなのか、と訊いておるのじゃ」
惑星ノエリアを飲み込んだ、星喰らいの魔物。
半端に芳醇な味を知ってしまったが故に、豊かに実った地球を虎視眈々と狙い続けている、明確な外敵である。
そこにある意思は、食欲であるが故に、交渉の余地も譲歩の可能性もない。
ただ、どちらが生き残るのかというだけの存在だ。
腹を空かせた魔物は、諦める事はないだろう。
数多ある星々の中で、例外的なまでに美味しそうな地球を、いつまでもいつまでも狙い続けるに決まっている。
『貴様が招き寄せた厄災だというのに。
随分と他人事だな』
「全くもってその通りじゃな。
反省しておるし、何ならば我が命を捧げても構わぬのじゃがな」
自身が存続する事に、ノエリアは拘りはない。
元々、彼女はそういう物だ。
星と民を守る為の、矛であり盾でしかない。
脅威の前に、自らの身命を賭して立ちはだかる事こそが存在意義なのだ。
そうあれと産み落とされた彼女には、究極的には自己保存の思考回路は存在していないのである。
そして、守るべき星が滅び去り、生き残った民は、新天地へと渡った。
程好く距離を保ちつつ、一応は好意的に受け入れられている彼らに、もはや旧き守護者は必要が無い、とノエリアは悟っている。
ならば、あとは後始末をするだけである。
贖罪代わりに、全身全霊を賭けて外敵の前に立ちはだかるだけだ。
それが偽らざる彼女の本心である。
そして、そうであるが故に、確かめなくてはならない。
目の前の存在が、本当に民の安寧に繋がるのかどうかを。
ノエリアにとっては、どちらでも良いのだ。
〝救世主〟が、刹那であろうと、神であろうと、それが果たされるのであれば、どちらであっても全く構わない。
『決まっている。
敵が来るならば排除する。
それこそが、我が使命である。
それこそが、我が民の願いである』
迷いなく、メシアは断言する。
あまりにも分かり切った、何一つとして思考する必要のない問いかけだった。
「……成程の。よく理解できた」
心から嘆息したノエリアは、謝罪した。
「汝は……我らは、そういうものだものな。
愚問じゃったの。
つまらない問いをした。
謝罪しようぞ」
『……用件はそれだけか。
ならば、疾く去れ。
貴様の贖罪の心に免じ、事が終わるまでは見逃してやろう』
「くくっ、そうしておこうかの。
我も滅ぼされとうないしな。
見届けるまでは、のぅ」
母星を失ったノエリアと、十全に力を振るえるメシアとでは、力に差があり過ぎる。
争い合えば、ノエリアが滅ぼされる事は目に見えている。
勝つにせよ負けるにせよ、最後まで見届けるつもりである彼女は、今はまだ終わってしまいたくない。
まぁ、地球人類が本気でそうと望むのならば、命を捧げる事も厭わないが。
よって、彼女は自らの拡大した霊格を縮小し、さっさと聖域から脱出するのだった。
~~~~~~~~~~
視界が現実へと戻ってくる。
猫の姿に戻ったノエリアは、もう一度、深く吐息した。
「残念じゃ。
汝は必要が無い」
愚かに過ぎる問いには、愚か過ぎる答えがもたらされた。
僅かばかりでも期待した己が阿呆だった、と、彼女は心からの反省を想う。
あまりにも、期待外れだった。
その時、頭上を赤く赤熱した流星群が、高速で通過していった。
少し前まで行動を共にしていたが故に、それが美影の起こした反撃の狼煙だと一目で分かる。
「……全く。
地球の人間は、本当に派手な連中じゃの」
感心半分、呆れ半分の気持ちで、ノエリアは呟く。
衛星を丸ごと改造してしまおうという発想も、実際にやってしまう行動力も、驚かされるばかりだ。
故郷にいた連中とは、似ても似つかぬ生態に、ノエリアとしては本当に同じ種族なのかと思わずにはいられなかった。
~~~~~~~~~~
『そうだとも。
私こそが、守らなければならないのだ。
力無き民を。弱き民を』
ノエリアのいなくなった聖域で、彼は一人呟く。
そうと願われて生まれた。
救いを求める人々の願いが、自らを形作った。
だから、救世主として、救いの神として、君臨するのだ。
救世主の紛い物などに、任せておく訳にはいかない。
彼の中に、使命感と全能感が湧き上がる。
人々の強い願いが満たされていく。
誰かに救いを求める声が、彼の力を高めていく。
『そうだ。それで良い。
信仰を捧げよ。
それが、私の力となる。
私は、その願いを聞き届ける』
力を無駄遣いするばかりの醜悪な紛い物とは違う、と決意を新たにしていたその時。
それは起こった。
聖域が罅割れる。
完全無欠だった聖域に、綻びが生まれた。
同時に、彼の身に引き裂かれるような鋭い痛みが走った。
力が抜けていく。
信仰に満たされていた彼の中から、決して少なくない量の人心がこの一瞬で失われてしまったのだ。
『な……に、が……』
起こったというのか。
突然の事に、混乱が思考をかき乱した。
ただ、分かる事は一つだけだ。
永劫の楽園を望まない、異端者がいるという事だけ。
許されざる赦されざる。
永遠の安寧を望まない人間など、我が楽園には必要が無い。
異物は排除されなければならない。
『理想を解さぬ愚物めが……』
憤怒を宿した声が漏れ出した。
彼は、聖杖を高く掲げ、宣言する。
『聖戦を望むのならば、そうしてやろう。
一人残らず、丁寧に滅ぼしてやろう』
神敵に、滅亡の鉄槌を振り下ろさん。
懐古厨発動して、久し振りに東方シリーズを起動しました。
十年ぶりくらいですかね?
調べてみたら、かなりナンバリングが進んでいて驚く、古い人間です。
風神録までしか知らない……。
ルナティック、ハードはともかく、ノーマルくらいなら当時は普通にクリアできたのに、今はイージーですら死にまくる体たらく。
あまりの腕の鈍り方に愕然としております。