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本気になった天才の所業【書籍化作品】  作者: 方丈陽田
四章:《救世主》消失編
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魚類遊泳法秘奥義

ちょい短め。

真面目にやっている姉コンビに比べ、妹コンビのなんたる温度差よ。


真面目回が続いていたので、ちょっと息抜きしたくなったのです。

 時は若干遡り、美影たちがマジノライン三式の起動テストを完了して、僅かな時間が経過した頃の事。


 未だ拡散したエネルギー放射の残滓が消え切っていない中、秘密工場からほど近い岩場から一つの影が躍り出してきた。


 サメである。

 種別としては、おそらくホオジロザメだろう。

 同種よりもやや大きめのサイズではあるが、個体差の範疇に収められる程度のそれは、身をくねらせながら海中をゆっくりと進み始める。


 何処か弱っているのだろうか。


 外見に傷は見られないが、その動きはぎこちない様子で、遊泳速度もかなり遅い。

 もはや泳いでいるというより、海流に流されていると表現した方が良い有様である。


 だが、それも一時的な物だったのか、やがて動きに滑らかさが出始め、海流に逆らって泳ぎ始めた。


 サメは、きょろきょろと周囲を見回し、やがて行き先を定めたらしく、東の方角に進路を取った。

 その姿は、どうにも不自然なものであり、違和感を拭いきれないものだった。


~~~~~~~~~~


「おっそい! ものすっごい遅い!」


 美影が喚く。


「五月蠅いですね!

 これでも精一杯やっているのです!」

「頑張っても!

 駄目なものは駄目なんだよッ!」

「だったら! 貴女がやれば良いでしょう!?

 あっ、蹴りましたね!

 叩き出しますよ!?」

「ああ!? やってみろよ!

 誰が好き好んでこんな臭い場所にいると思ってんだ!」

「くく、くくく、臭くなんかありませんからね!

 なーんて風評被害をおっしゃるのでしょうか!」

「……騒がしい娘っ子共じゃのぅ」


 ストレスが溜まっているのだろう。

 美影と永久が不毛な言い争いを大声で行っている。


 彼女らの置かれている状況故に、周囲にその声は響かないが、そうでなければ静謐な深海はよほど騒がしくなっただろう。


 彼女らがいるのは、深海をゆっくりと遊泳しているサメの中だ。

 但し、全身をショゴスで形成した偽物のサメであるが。


 ショゴスは、全身が万能細胞で構築された不定形生物である。

 形も色も、骨も筋肉も、何だって自在に作れる。


 擬態。


 何かに成りすます事にかけては、刹那やノエリアに次いで、世界のトップクラスを爆走している超生物なのだ。

 その擬態能力は、本気を出せば遺伝子レベルにまで及び、今、遊泳しているサメは見た目のみならず、あらゆるセンサーにおいてホオジロザメだと認識されるほどの精巧さを誇っている。


 そんなショゴスで出来たサメの中に、三人……というか二人は包み込まれる形で秘密工場から脱出を果たしていた。

 動きに不自然さは見受けられるものの、それは何処からどう見ても一匹のサメでしかないので、監視している美雲の目を欺く事が出来たのだ。


 胃袋に当たる部位に丸呑みされている訳だが、あまりに不快な状況に美影のストレスはうなぎ登りである。

 膝を折り畳み、身を小さく丸めて、そのまま長時間もろくに動けないのだ。

 常人ならおかしくなりそうな程の精神的負荷となるだろう。

 更に言えば、消化器官らしい生臭さが充満しており、溶け落ちはしないものの、気持ち悪い粘液が全身を汚しているのだ。


 彼女が文句を言いたくなる気持ちも分からないでもない。

 当の本人が提案したという事を考えなければ、であるが。


「うぇ~。きもぃ~。

 お兄の液なら喜んで被るのに、何でこんなきもい生き物の物なんか……」

「きもいって言うな。

 貴女が提案したことでしょう、貴女が」

「しかも、泳ぐの、死ぬほど遅いし。

 油断すると海流に流されてるし」

「五月蝿いですね。

 魚の泳ぎ方って、慣れていないんです。

 それとも、バタフライでもしましょうか?

 サメですけど」

「そこは勘で何とかなるでしょ。

 筋肉と身体の形状を見れば、何処をどう動かせば泳げるのか、一目瞭然じゃん」

「誰がそんな事が出来ますか。

 人間の範疇で物を言ってください」

「この無才め。センスがねぇ」


 ボムン、と胃壁を蹴り付ける美影。

 体内から響く衝撃に、永久は眉を逆立てる。

 今は眉がないが。


「あっ、また蹴りましたね!?

 破けたらどうするんですか!」

「直せば良いだろ、別に」

「オ、オホホホ、この女め……!

 破けた身体を瞬間再生できるサメがこの世にいるとでも思ってんですかねぇ!?」

「廃棄領域には普通にいるけどね」

「ここは廃棄領域ではありませんが?」


 グダグダな様子ながら、ゆっくりとその奇妙なサメは太平洋を横断していくのだった。


~~~~~~~~~~


 太平洋も半ばに達した頃に、ふと永久が呟く。


「……思い付きました」

「下らない事だったらぶっ飛ばします」

「……こやつ、罰ゲーム決める速度が速過ぎではないか?」


 間髪入れずに即決した美影に、ノエリアは呆れずにはいられない。

 良案だと思っている永久は、とても自信に満ちた口調で語る。


「サメは口から海水を取り込み、エラから排出しています。

 サメに限らず魚類全般ですが」

「そうだね。で?」

「そして、世の中にはウォータージェットという推進システムが存在します」

「下らない事を言おうとしてるって事は分かったけど、一応、最後まで聞こうかな。で?」

「ジェットな勢いで海水を排出すれば、もっと速度が出るのではありませんか!?」

「ンな魚がいるか」

「という訳でやってみましょう!」

「人の話を聞けよ」


 美影の冷たいツッコミを無視して、永久は首(?)付近の筋肉に力を入れて踏ん張り始める。


 きっと代わり映えのない長い遊泳で疲れているのだろう、と少しだけ優しくしたくなった美影は、冷えきった視線で放置する。

 ぶっ飛ばすのは諦めてからでもできる、とも。

 それが間違いだったと気付くのは、直後の事である。


「ふぬぬぬぬっ……!」


 美影は失念していた。

 永久の全身は、如何なる物にも変化し得る万能細胞で出来ているのだという事を。


 永久の思いに呼応して、頑丈な鮫肌の下で肉が蠢く。

 筋肉の構造と質を変質させ、彼女が願う通りの機能を実現させていく。


 そして、


「とあっ!」


 急加速した。


 異常筋力に支えられたウォータージェットは、驚異の加速力を叩き出す。

 徐々に速度を上げていき、強力な水の抵抗さえも寄せ付けず、遂には亜音速という領域に突入したのだ。


「アハハハハッ!

 素晴らしい! とても素晴らしいスピードです!」


 よほど鬱憤が溜まっていたのだろう。

 永久は、狂ったように哄笑しながら、狂った戯言をほざき始める。


「これぞ魚類の最終奥義に違いありません!

 おお、私は魚である事を極めてしまいました……!

 魚類遊泳法秘奥義、ハイドロジェットと名付けましょう!」

「こんの、アホウがぁ……!」


 突然の加速に、文字通りひっくり返っていた美影は、体勢を戻すと大声で罵倒しながら思いっきり蹴り飛ばしていた。

 勢い余って思わず片足が突き抜けて海中に出てしまうが、もう構う事はない。

 亜音速で遊泳するサメなど、不自然の塊なのだから、人間の足が生えているくらい、大した事ではないのだ。


「ぎゃあーーーー!?

 つ、突き抜けましたよ!?

 このバカバカ! アホたれ! 脳足りん!

 特に痛くはありませんが、気分的にはとても痛いんですからね!?」

「うっさい!

 脳が足りてないのはお前の方だよ!

 こんな怪生物が地球上にいるか、アホめ!」

「……いやー、我が母星にもおらなんだと思うのじゃが」


 ノエリアの呟きを無視して、少女二人は姦しく言葉の応酬を続行する。


「いるかもしれないじゃないですか!

 ほら、廃棄領域辺りならきっといますよ!」

「いないよ、バーカ!

 あそこの連中なら、ナチュラルに亜音速で泳げるわ!」

「そっちの方が不自然じゃないですか!」


 美影の足が突き抜けたおかげで、筋肉のバランスが崩れたのか、はたまた抵抗が増した事で計算が狂ったのか、ジェット水流による超加速は途絶えていた。

 腹から生えていた生足も、すぐに引っ込められた為、一瞬の不自然を除けば、すぐにただのサメに戻ったと言える。


 だが、彼女たちは気付いていなかった。


 僅かな間とはいえ、亜音速を叩き出した事で、ギリギリで目的地であるアメリカの領海に入っていた事に。

 そして、何故だかは忘れてしまったが、かの国の領海は、大統領令によって常に監視されている事に。


 その失敗に気付くまで、もう少しだけの時間を必要とするのである。

モンハンのRTA動画を見ていたら、つい一狩り行きたくなってワールド及びアイスボーンを買ってしまった……。

ソロ狩りで何処まで行けるやら。


あっ、次回もまだ真面目分にはならないと思います。多分。

まぁ、妹コンビ回ですからね。

仕方ないですね。

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